砂糖菓子(非エロ)
村井茂×村井布美枝


「ぅん…だけん、うち(境港)の方には黙っとれ!ええなっ」
「けど…贈り物までせんでもええじゃないですか」
「…んっ?」
「キャンディーなんて…よっぽど儲かっとるみたいに…」
「たかがキャンディーでなにいっちょる」
「たかがですか!?あげな高級品うちでは買ったことないですよ!!」
「うるさいっ!!みみっちい事言うな!!」

互いにそっぽ向き背中合わせになる二人
気まずい空気が流れる中、布美枝は…

(あぁ…こげなハズじゃなかったのに…たぶん今夜は…
ほんにチヨちゃんに見栄を張った罰かもしれん…)

茂も…

(なしてこげな事になった…新刊見せたら喜ぶ顔が見れると思ったんじゃがなぁ…そのまま久々に…と…
じゃがこっちから折れん!………だがなぁ…)

(はぁ…どげしょぅ…喧嘩したまま夜過ごすなんて耐えられんわ…
言い過ぎたのは自分でもわかっちょる…でも、このまま謝るんは…ちょっこし癪…でも…)

相変わらず互いに背をむけたまま
何か意を決した布美枝が

「わ…わかりました…」
「………」
「境港には心配かけたらいけんのですね?」
「ん…だな…」
「本当の事言ったらいけんのですよね?」
「だらっ!何が言いたい?」
「そ、そ、そげでしたら口止め料ください!」

突拍子もない布美枝の物言いに茂は思わず振り返る

「……なんじゃそりゃ!金などなぁぞ」

内心動揺していた布美枝だが茂に悟られまいと、しれっとした顔でくるりと振り返り真っ直ぐに茂を見やる

「それは、よぉーく知っちょります…お金の事じゃありません!私が口を滑らさんよう、口止めしてください」ニッコリ

「なに言っちょる?」
「目には目を。歯には歯を。口には…と言うではなかですか」


「…?…………………!
だ!だ!だらすがっ!!!なに阿呆なことゆーちょる!!!」

「じゃぁええです。調布の拡声器になるだけですけん」
「……………ふがっ」
「お義母さん境港から飛んでいらっしゃるかもしれませんねぇ」

布美枝は最後の仕上げとばかりに目を閉じて顔を少し上げてみる

「ぐっ…」『しげーさん!!どげなっとるか!きぃーちり聞かせんしゃい!!』

ドアップで詰め寄るイカルを思い浮かべあまりの恐怖に思わず身震いする茂

ブルブルブルッ

(うぅー…イカルが飛んで来るくらいなら…まー減るもんでもなし
よしっ!ここはビシッと)


(これ以上はまた喧嘩になるけん…ここらで…)

そっと目を開けた瞬間
布美枝のふっくらとした唇に
優しく温かい茂のそれが押し当てられ

「!!」驚き目を見開く布美枝

体を放しながら目を開けると
目を見開いたまま固まっている布美枝と目が合い心臓が飛び出しそうになる茂

「なななにしちょる!あんた目ぇ開けてたんか!!こ、こげな時は目ぇ瞑るんがえちけっとじゃろが!!」

「すすすすみません!!まさか…あの…本当に…あの…その」
「だらっ!あんたがしろ言うたじゃ!」
「そそそげですね」


「………………………」
「……………………」

互いに顔が赤いのがわかり
言葉が続かず先程とは違う気まずい空気が流れる


「…っん…だっ…ふ風呂…!風呂沸かして来い!」
「えっ…!…あっ!はっはい…ただいま」

急いで立ち上がり部屋を出た布美枝だったが
何を思い立ったのか襖からちょっこし顔だけのぞかせながら

「あの…ちょっこしええですか?」
「なんじゃ?」

布美枝は人差し指で唇をさすりながら

「……うちにはキャンディーはありませんけど…」
「………」
「その…もっと甘ぁい砂糖菓子があるんだなぁとそげに思ったんです」
「☆@!〜※〆♀〒≡!!!」
「つ、つまらんこと言いました!
お、お風呂沸かしてきますね」

急ぎ足で逃げる布美枝


しばらく呆然としたまま固まる茂だったが

(うちの嫁なに言っちょ……ぶっ…)
ぶはははははっ…くっくくっ
(金のかからん砂糖菓子か…こりゃええ!なかなかおもしろい事言う)

あはははっ

「今夜はたんまり腹いっぱい砂糖菓子食わせてやる!覚悟しとけ」


―――数ヶ月後―――

「これ♪飲んでいただきたくて」
「コーヒーか!珍しいな!いつもは節約節約言っとるくせに」
「一生懸命働いてくださっとるんですけん。これぐらいいいかな〜と思って。
淹れましょうか。
あー…風邪の時にコーヒーはいけんかな」
「ええぞ!俺が淹れる」


「あっ私はええです!」
「なんでだ?」
「コーヒー豆ちょっこししかないですけん、あなたが飲んでください」
「ええけん、飲め。
砂糖はいくつだ?」

「本当にええです。あなたのコーヒーですけん」
「遠慮するな。あんたも嫌な思いして原稿料もらってきたんだろ」
「えっ…」
「もひとつ入れるか?」

布美枝は涙が溢れるのを堪えきれず、そっと茂に背を向け涙を隠そうとする
茂は、そんな布美枝の背中を見て

「こりゃ相当言われたな?」
「………………………………あの…わがまま言ってもええですか?」
「ん?なんじゃ?」
「コーヒーに入れるお砂糖よりも…もっと甘い…砂糖菓子が……ええです」

「………!¥℃∞≡♪∇★*……………あ…アレか?」
「…………はい…駄目でしょうか?」

「…………………………………………………………ええぞ」

その言葉にくるっと振り返る布美枝
涙目だったはずが、パッと花がほころぶような笑顔に変わる
茂は、この笑顔にこの上なく弱い

布美枝の肩に優しく茂の手が置かれ、そっと目を閉じながら

「こうゆう時は、目ぇ瞑るんが『えちけっと』でしたよね。クスクス」
「だらっっ!」

そっと顔が近付く2人…
唇が触れ合うまで、あと少し……


――ガタンッ!






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