村井茂×村井布美枝
![]() 「今日は、100円で蜜柑がこんなに♪本当この所100円づいちょるわ♪早く帰って果汁絞って藍子に飲ませんと♪…そういえば…おとうちゃんと安来からの汽車の中で蜜柑一緒に食べたなぁ…フフッ」 ドンッ!! 「きゃっ!!」 「わっ!!」 ドサッ!ゴロゴロゴロゴロ… 「「すんませんっ!!」」 「あっ…とっ…失礼しました!ぼんやりしていて…お怪我はありませんか?あぁぁぁ蜜柑がぁ〜!!」 「ええっ!こちらこそすんません。大丈夫ですけん。私も、ちょっこしぼんやりしちょったんです…………蜜柑〜〜〜〜!!」 道端に転がった蜜柑をしゃがんで拾い集めながら男は布美枝の言葉が気になった 「えっ…ちょっこし…しちょった…あっ。最後の1個… ………………………………あの失礼ですが、郷はどちらでしょうか?」 「はぁ〜良かったぁ…ありがとうございます はい?島根の安来の方です。ご存じですか?」 蜜柑の入った袋を大事に抱えながら立ち上がる 「あぁ!やっぱり!自分も安来なんです………って…で…!!(デカい!この人…んっ…大きい→電信柱…) …まさか…布美枝ちゃん?」 「えっ…えっと…そげですが…えっと…あのー…」 「俺だ!俺!覚えちょらんかなぁ〜山田!山田太郎!」 「えええぇぇぇタロちゃん!東京に住んどったの?」 「仕事で5年前に…しかし…びっくりした!安来の時より更に背ぇ伸びちょらんか?…………あぁ…でも、綺麗になったなぁ」 「もぅ…最初に私のこと『電信柱』って言ったのタロちゃんだけんね…えっ…綺麗…?」 「うん。ほんに綺麗になったなぁ。…あー…電信柱はすまんかった。あの頃、ふみちゃん俺より背ぇ高かったけん。好きな子より小さいんは悔しくてなぁ…つい…」 「えっ…えええぇぇぇーーーーーー!しし知らんかったよ… えっと…そのぉ… すっかり東京の人みたい。最初全然なまっちょらんかったよ」 「おっ…うん…営業で外回るけん。頑張って直した。けんどふみちゃんに会ったらすっかり戻ったなぁ。あははっ。 今は?結婚しちょるの?」 「うっ、うん。子供もおるよ」 「そげか。会えて嬉しかった」 「うん。…あっ。じゃ、私こっち」 「おぅ!元気でな」 「タロちゃんも」 帰り道、太郎の言葉を反芻する 「知らんかったわータロちゃんが私を…あの頃は、ただ意地悪な子としかおもっちょらんかったなー背も伸びて、きっちりスーツ着て、かっこよくなっちょったなぁ」 「ただいま帰りましたー!藍子ただいま!ええ子にしちょった?」 「ええ子にしちょったなぁーおっ。藍子、土産があるようだ おぅ。よだれ垂らして。ははっ!わかっちょるな」 夕食後 藍子に果汁を飲ませると満足したのか、機嫌良く眠ったので2階に運んでベビーベッドに寝かせ布美枝は、1階に降りた 「あれっ?おとうちゃん、蜜柑食べんのですか?」 「食うけん。剥いてくれ」 普段はなんでも自分でこなす茂だが時折、布美枝に甘えたがるときがある。 この時も布美枝が2階に行ってる間に器用に蜜柑の皮を剥いてひとつペロリと平らげたのだが… 「はいはい♪いま剥きますね」 蜜柑の皮を剥きながら、ふと先程の太郎の事を思い出して笑ってしまった 「んっ。どげした?思い出し笑いか」 「いえ…さっき帰り道、男の人とぶつかったら…その人、小学校の時の同級生だったんです 私は全然気付かんかったんたんですが…向こうはすぐ私だと気付いてくれて 少しおしゃべりしちょったんです」 「ふーんそげか。」 蜜柑を剥いていて茂が少し不機嫌な顔になった事に気付かない布美枝 さらに話を続け 「あの頃は、丸坊主だったのに…髪も背も伸びて、かっこよくなって… それに…ふふふっ♪ …はい。おとうちゃん、お蜜柑むけましたよ………………んっ。おとうちゃん??」 布美枝が顔をあげた頃には茂は、すっかり臍を曲げてしまい布美枝に背を向けていた 「いらん」 「え!おとうちゃんが食べ物いらんなんて…… あれっ? えとっ…まさか、おとうちゃん妬いて?」 「だらっ!誰が妬くか!!いらん!いらんったらいらん!」 「もぅ」 布美枝は、そっと茂に近付き広い背中にもたれ頬を寄せ抱きつく 「もぅ…おとうちゃんたら」 「ふんっ」 「私には、おとうちゃんよりかっこいい人なんてどこ探したって絶対おらんですけん」 「…………」 そっと顔をあげ茂の耳元に唇を近付けた 「機嫌なおしてください…あ・な・た♪」 ドキッと茂の心臓が跳ねるのがわかったが、ここで吹き出しては元も子もないと、ぐっと笑いを堪えて 蜜柑をひと房口にくわえる 茂はその様子を目の端で捉えながら振り返り 「わかっちょるならええ」 そっと唇を近付け 口移しに蜜柑を頬張ると満足そうに笑った ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |