雨のせいで
村井茂×村井布美枝


6月の雨はもう1週間も降ったり止んだりを繰り返し
じめじめした湿気は、おんぼろの村井家をじっとりと包み込んでいた。
柱から壁から箪笥まで、家の隅々が水を含んでどす黒く見える。

原稿を届けた先でまた雨に足止めをくっていた茂が、
ようやく止んだその合間をぬって急いで家に辿りつくと、
見事なまでに家の中は、洗濯物の展覧会場と化していた。
吊るされた服と服の隙間から、ちらりと覗く布美枝の下着を斜め下方向から確認していると

「…おかえりなさい…」

控えめな声で、仕事部屋の襖の向こうから布美枝が顔だけを覗かせた。

慌てて背筋を伸ばして「おう」と胸をはってみたが、
布美枝は顔を赤くして飾られた洗濯物の数々に目を泳がせているだけで、
一向にこちらに出てこようとしないでいる。
いつもなら頼まなくてもお茶を淹れてくれたり、出先であったことなどをあれこれ問いかけてくるのに、
今日に限って何事だろうかと、茂は訝しがった。

「どげした?」
「…ちょっこし…向こうに行っとってもらってええですか?」
「は?」

仮にも一仕事終えて原稿料ももらってきた夫に、向こうへ行けとは随分な言い草である。
茂はむっとして布美枝に向き直ると、じりじりと近づいていった。

「何かあるのか?」
「や…あの…」

おどおどして布美枝は襖の向こうに隠れようとする。
不審と不満を抱いた茂は、思い切り音を立ててその襖を開いた。

「……え?」

そこに立っていた布美枝の姿に、呆然とする。
それもそのはず、いつもならブラウスにスカートといういでたちの布美枝が、
今はグレーのシャツ1枚でもじもじと佇んでいたのだ。
しかもどこかで見たことがあると思えば自分のシャツではないか。

男性でも大柄な部類の茂のシャツは、
電信柱の妙名に違わぬ布美枝の身体を、すっぽりと包んでくれてなお余ってはいるものの、
それでも下はせいぜい股下くらいまでしか隠すことができずにおり、
布美枝が手で隠さなければ、裾からちらちらと白い下着が見え隠れしてしまう。

「な…え?ど…」

動揺して言葉が出てこない。慌てて布美枝に背を向けた。
その背中から、申し訳なさそうな声がする。

「す、すんません…部屋の掃除をしとったら、服に墨をこぼしてしまって…。
 あ!原稿は汚しとりません。床も机も拭きましたけん。…けど」

はあっとひとつため息をついて。

「乾いとる服がなくて…貴方のをちょっこし借りてしまいました…」
「そ、そげか…」
「ちょっこしだけです!アイロンかけて乾かしたら、すぐに脱ぎますけん」
「別に、怒っとるわけでは…」

怒っているわけではない、墨をこぼしたことも。自分の服を着ていることも。
けれど、その格好はいただけない。
特にこれまで締め切りに追われていて、しばらく我慢を強いられてきた下半身にとっては。
蒸し暑い部屋で、さらに布美枝の格好に蒸された茂の顔から、玉のように汗が噴きだした。

身体に悪い。

茂はそう直感して、布美枝を居間へ追いやると
「早よアイロンあてろ」言うなり後ろ手に襖を閉めて仕事部屋へ逃げ込んだ。
ぱたぱたと団扇で扇いでみても、だらだらと汗が流れてくる。

背は高くとも華奢な布美枝の身体には、茂のシャツはミスマッチで滑稽だった。
が、いつもは硬い自分の身体にまとわれている服が、
今日は柔らかな布美枝の肌を包んでいると思うと
その柔肌の感触が思い起こされて、じわじわ股の間が落ち着かなくなる。

今夜あたり、吐き出させてもらわねばもたん…。
ひとつため息をついてから、机に向かって次回作の構想を練りだした。
しかしその構想がやがて妄想へと変わっていき、布美枝の淫らな姿ばかりが頭を充満していく。

(いけん…)

ぶんぶんと頭を振り、茂が自分の助平ぶりにがっくりと肩を落とした、次の瞬間。

布美枝が断りもせずに勢いよく襖を開けて仕事部屋に飛び込んできた。
ぎょっとして振り返ると、一生懸命口だけをぱくぱくさせて何かを訴えてくる。
立ち上がって襖の向こうを見やると、ちょうど中森が二階から降りてきたところだった。
なるほど確かに布美枝にしてみれば、
このあられもない姿を中森に見られるのだけは絶対に避けたかったことだろう。

中森は茂に気づいて「どうも」と、頭を下げた。
襖の向こうで、身を縮めている布美枝には気づかない。

「出版社まわりをしてきます」
「そげですか。雨が降るかも知れん。そこのボロ傘でもよければ持っていって下さい」
「これはどうも」

茂の親切に、中森はもう一度頭を下げると、傘を持って出ていった。
はあーっと深くため息をついて、布美枝はずるずるとしゃがみこんだ。
その裾から、白いショーツと丸い尻が覗く。

「…アイロンは?」
「あっ!すんません、すぐにっ!」

頭上からの茂の声に、布美枝ははっとして慌てて居間に戻ろうとした。
しかしその手を、無意識のうちに茂の右手が捕まえていた。

「待てん」
「え?」

このまま机に向かっていても、構想など一向にまとまる気配がない。
まして描きかけの原稿にペンを入れるにも集中できそうにない。
本を読もうにも、昼寝をしようにも、全ては布美枝に支配される。

それならいっそ…。

掴んだ手首をぐいと引き寄せ、半ば強引に唇を奪った。

「…んっ…」

驚いた布美枝が茂の胸を押して引き離そうとするが、
茂の唇は布美枝のそれに吸い付いたままかたくなに離れようとはせず、
さらに右手を布美枝の細い背中に回して、ぎゅっと自分の胸へ押し付けた。

(…ん?)

いつもと違う感覚に、唇を合わせたまま茂は考えた。
布美枝の背中をわさわさと探ってみて、その違和感に確信を得る。
いつもその胸を支えているモノがない。
やっと唇を離すと、まじまじと布美枝の胸元を見下ろした。

「着けてない…のか」

布美枝が素肌でシャツを羽織っていたことに、今さらながら気づいた。

ようやく離れてくれた隙に、布美枝はぐいぐいと茂の身体を自分から引き離そうとする。

「い、いけんです、…こげに明るいのに…」

その初心な様子が、愛しくもあったが、歯がゆくも感じた。
もう結婚して半年近く経ち、互いの距離もずいぶん縮まってきていたし、
何度か熱い夜を過ごしてきたりもしていた。
けれど、昼食も食べていないうちからコトに及ぶのは、
貞淑な性格の布美枝にはいささか抵抗があったのだろう。

「いけん、いけん」と念仏でも唱えるように茂を押し戻す。

「…昼とか夜とかに拘らんでもええだろ」
「拘ります…」
「何で」
「…何でって…」
「…どっちにしても、あんたにその格好でウロウロされたら落ち着かん」
「す、すぐにアイロンあてます…けんっ…あっ…」

必死に抵抗する布美枝を、茂は無理矢理押し倒した。
再び口づけようとすると、「やっ…」顔を背ける。

「あーもうっ!」

茂が声を荒げたので、布美枝はびくっとして肩をすくめた。
まるで子羊のように、おびえた目で茂を見上げる。

布美枝に怒ったのではない。
自身の欲深さと節操のなさにいらだったのだ。
血気さかんな十代や二十代の青二才ならまだしも、
四十路に突入した男が、女房の色気だった姿に興奮して迫るなど。
つくづく痛感させられたのだ。信じられないくらいに、布美枝に堕ちている。

…そんな自分に、焦れる。

それでも止まらないこの欲情は、その身体で受け止めてもらうよりほかなかった。

「今すぐあんたが欲しい。要するに…それだけだ」
「っ…」

茂の一大告白とでも言うべき、強烈な圧し言葉に、
布美枝の顔はみるみる真っ赤になって、一気にしゅんとなった。
抵抗しなくなった布美枝の様子をしばらく伺ってから、
今度は強引にではなく、優しく口づける。
布美枝もそれをゆっくりと受け止めてくれた。
唇をずらして舌を絡めても、それに応じて鼻を鳴らす。

脱がせるのが自分の服とくれば、ボタンをはずすのも慣れたもので、
するすると解くと、はだけたシャツの胸元から柔らかな乳房がダイレクトに現れる。
欲に駆り立てられるままに、それに吸い付いた。
シャツの上から胸の先端をいじると、形が浮き上がるほどに硬く尖る。

「っ…、はあ…」

反応する布美枝の喉から、甘い喘ぎが洩れ始めた。
自分の服に包まれて、自分の腕に翻弄される布美枝を見下ろすと、ぞくぞくするほど淫らで美しい。
舌で甘い実を吸いながら、右手を秘所へと伸ばすと、驚くほどぐっしょりと濡れていた。

布美枝もさほど自分と考えていることは違わないのだろうか…。
しばらく間が空いていた営みに、身体は素直に反応してくれているようだ。
それでもこんな真昼間から「致す」のは予想だにしなかったかも知れないが。

節ばった中指を布美枝の中へ潜りこませ、ちょうど指の関節が曲がるあたりで中をまさぐる。
反応した内側から、とろとろと蕩けた液が溢れ出して茂の手を濡らした。

「ああっ……やっ…」

湿度の上がった室内に、布美枝の甘い声が響く。

はっと我れにかえった布美枝が、慌てて手の甲で口を塞いだ。

「…今日は気にせんでええ」
「だ…って…」

ちらりと視線が天井へ向いた。

「…さっき出ていったでないか」
「あ…」

にやりと笑って、茂はまた指で布美枝の中を刺激した。

「あっ…もぅっ…やっ…んんっ…」

縋り付いてきた布美枝が、図らずも茂の耳元で喘ぐ。
その声と息遣いに思わず奮い立たされ、茂は布美枝のショーツを脱がせると
自分のズボンにも手をかけ、昂ぶる分身を勢いそのまま布美枝の中へ挿入した。

「っ…あ!」

いまこの部屋とまるで同じように、布美枝の内側は湿った熱が充満していた。
熱い侵入者に、肉襞が大いに反応してぎゅうぎゅうと押し返してくる。

「あぁっ、あっ、んっ、あんっ、あ…っ」

茂の腰が突き上げる律動に、布美枝の淫らな声が同調する。
右肩に白い左足を抱えて突けば、最奥まで分身が到達する。

「っ…は…あっ…!」

長い髪と、茂のシャツが、汗ばんだ布美枝の身体にまとわりついていて
自分の腕の中で悶える何とも言えない淫靡な布美枝を、渾身の力で貫いた。

「あっ…なた…あ…っ」

苦しそうな顔と声に、自分の欲に布美枝を付き合わせた罪悪感が沸き起こってきたが、
一方でもう、どうすることもできない奮えが茂を突き動かしてしまう。
潤んだ瞳が何かを懇願するように訴えかけるが、それに答えることもままならない。
やがて艶やかな布美枝の声が、ふと途絶えたのに気づいてそちらを見ると
荒い息遣いでぐったりと、ただもう茂の動きに身を任せているだけだった。
何度目かの激しい打ち込みののち、ぐっと布美枝の中の襞に刺激されて、
茂は蜜の溢れる坩の中へ、白濁の欲を全て吐き出した。

息を整えている間、閉じた瞳から零れた布美枝の涙に、茂はがっくりと肩を落とした。
まるで強姦のようだったかもしれない。脅して、犯したような…。
果てた分身を布美枝の中から引きずり出して、いたたまれない思いでその涙に手を伸ばす。

ようやく色を取り戻した瞳が、茂の方を見ると

「もぅ…」

ゆっくり起き上がりながら、すっかり汗で身体に張り付いた互いのシャツを見やって、
唇を尖らせて抗議した。

「洗濯物が…また増えたじゃないですか…」

その口調に、いささかも茂を責める風が見えず、いくぶんほっとする。
しかし…。

「お昼ごはんは…ちょっこしおあずけです…」

助平な夫に、ささやかな罰がくだされた。






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