茂のたくらみ
村井茂×村井布美枝


(そろそろ、ええかなあ・・・。)

今、茂の腕の中にはフミエがいる。深い口づけに陶然となり、うっとりと
目を閉じている。
初めての夜から、何度フミエを抱いたろうか。何もかも初めてのフミエを、
茂はしんぼう強く開花させてきた。まっさらだったフミエが、だんだんと
自分の色に染められ、お互いにしっくりと馴染んでくるのはこのうえない喜び
だった。だが、茂の飽くなき探求心は、さらなる開発を求めていた。

茂は、向かい合って座っているフミエの帯を解くと、浴衣をするりと脱がし、
はじらっている妻の肩を押して、後ろを向かせた。茂の命令で、浴衣の下には
何もつけていない。長い髪をどかすと、雪のように白い背中にしばし見とれた。
後ろから抱きしめ、首、うなじと唇をはわす。そのまま、前に倒れるよう
うながすと、背中、そして尻へと口づけを移動させていった。

フミエが戸惑っているのがわかったが、かまわずヒザを割って尻を持ち上げ
させ、早くも泉をたたえている谷間にも口づけた。

「やっ・・・やめて下さいっ。そげな・・・とこ・・・!」

フミエは強く抵抗した。

「じっとしとれ!」

命令すると、茂は、十分にうるおったそこを指で慣らしはじめた。はじめての
恥ずかしい姿勢に、フミエは身を固くして耐えた。

次の瞬間、指ではない圧倒的な存在が、ゆっくりと押し入ってきた。

「い・・・やぁっ。いやですっ。こげなっ・・・!」

フミエは必死で前に逃れようとしたが、茂の足ががっちりとからまっていて
そうはさせなかった。

全部、入ったところで、茂はなだめる様に、また背中や首筋に口づけを始め、
右手は乳房をまさぐった。ひとしきり乳首をいじめた後、手はさらに下へ
おりてゆき、いちばん感じる部分をもてあそんだ。フミエはもう観念したと
見え、枕に顔をうずめて、次々に与えられる新しい試練に耐えていた。

本格的な責めを始めるため、茂が背中にのしかかると、フミエは顔の横に
つかれた茂の手に唇を寄せた。茂の手が、フミエの涙で濡れた。フミエが
無理な姿勢で振り返って茂を見あげる。涙でいっぱいの目。
茂は吸い寄せられるように口づけした。

「あぁぁぁっ・・・!」

そのとたん、なかの角度が変わったのか、フミエは悲鳴を上げて向きなおり、
唇は離れてしまった。

茂はフミエの大腿をつかむと、腰を打ちつけるようにして、浅く深く穿った。
フミエの嬌声は、今や嗚咽に変わっていたが、その声の末は甘く尾をひき、
どうしようもなく感じていることを茂に教えていた。
茂の手で女になってからまだ日も浅いフミエに、これほど強い刺激を与える
のはかわいそうだと思う心と、もっと苛めてやりたい、狂わせてやりたいという
嗜虐心が茂の中で葛藤した。

再び上体を密着させ、深く貫いたまま強く揺すぶる。
終わりに向かって激しく腰を波打たせる白い背中は、茂に何かを連想させた。

(こげすると、ますます一反もめんに似ちょるなあ・・・。)

茂はいとしさがこみあげて、白くなるほどきつくシーツを握りしめている
フミエの右手に、自分の手をからませて握ってやった。
フミエがその手に再び唇を押し当てた。
絶頂の悲鳴はくぐもった響きとなり、その収縮の中に、茂も自らを解き放った。

しばらくそのままで、荒い息をととのえた。フミエは絶頂の余韻にこきざみに
震えていたが、やがてそれがおさまっても、うつ伏せたまま身じろぎもしない。

「・・・怒っとるのか?こげな犬コロみたいな格好させられて。」

茂はフミエをあおむかせ、顔にまつわりついた髪をかきあげてやった。
フミエは黙ったまま両手を茂の首にまわし、下から口づけてきた。
唇をはなすと、また新たな涙が流れ出し、茂のほおをぬらした。

「あ・・・あなたが見えんけん。口づけもできん、すがりつくことも・・・。
誰か知らん人にされとるようで・・・。」

茂は、フミエがあんなにも自分の手と唇を求めていたことを思い出した。

「すまんだったな。そげにいやなら、もうせんよ。ただ・・・この格好なら、
あんたにさわったりするのに便利だと思うたけん。」

フミエはハッとした。

「すみません。私・・・気がつかんくて。何でもお手伝いしますなんて言うとった
のに。アノ、私、この・・・格好でも、かまわんです・・・けん。」

茂は、ニヤニヤしながらフミエを見ている。

「ふーん・・・。この格好が、そげによかったかー。まあ、あげに喜んどった
もんなあ。」
「なっ・・・?!」
「ほんなら、またしてやるけん、たのしみに待っちょけ。」

(もうっ・・・!人の気も知らんと・・・!)

真っ赤になって茂をにらみながら、フミエはなんとなく心が温かくなるのを感じた。
茂があまりにも自然体なので、周囲の人は彼のハンデをつい忘れてしまう。
気づいた時の気まずさを、大らかなユーモアで救ってくれるのも、また茂であった。

さっき出来なかった口づけを、たくさんしてもらっている内に、泣きつかれたのか
フミエは眠ってしまった。
その寝顔を見ながら、茂はひとりつぶやいた。

「『何でもお手伝いします。』・・・と言うとったっけな。」

ニヤリと笑うと、また新たなたくらみをめぐらせ始めるのだった。






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