バッド・トリップ(ねこ福 続編)
村井茂×村井布美枝


「フミエちゃん、お茶飲んでかない?蒸しパンふかしたのよ。」
「え・・・でも、いつもいつもご馳走になってばっかりで。」

とある昼下がり。すずらん商店街を、自転車を押して歩いていたフミエは、
こみち書房の前でみち子に呼び止められた。店番をしていたキヨも出てきてフミエの
腕をとり、引っ張り込まんばかりにして店の中へ連れ込んだ。

「なんだいあんた、冷え切っちまってさ。吹きっさらしの田んぼ道、はるばる自転車に
乗って来たんだろ?遠慮してないで早くはいりな。」
「すんません。じゃ、ちょっこしだけ・・・。」

こみち書房の茶の間は暖かく、みち子の運んでくれた蒸しパンからはほかほか湯気が
あがっていた。フミエは温かいお茶を飲んでほっとひと息ついた。

「春だ言うても、まだ風は冷たいですねえ。」
「冷えは女の大敵だよ。あんた二人目ほしいんだろ?だったら冷やしちゃダメだ。」
「そうだわ、おばあちゃん。フミエちゃんにあれ飲んでもらったら・・・。」

みち子が台所の戸棚から出してきた空きビンには、何やら黄金色のとろりとした液体が
入っていた。

「これね・・・果実酒なの。寝しなに飲めば、身体があったまってよく眠れるわよ。
何の果実かって?そうねえ、いろいろ入ってるのよ・・・クコとか・・・。」

とにかく身体にいいからと二人にすすめられ、フミエはそれをもらって帰った。

その晩。藍子を風呂に入れて寝かしつけた後、フミエはそのビンを戸棚から取り出した。

「きれいな色・・・それにええ匂い。」

とろりとしたその液体を、おちょこに一杯だけ注ぐと、少し口に含んでみる。

「おいしい・・・でも、一杯だけ。」

茂はしめ切りが済んだばかりというのに、もう次回の構想を練るため仕事部屋にこもって
いる。雄玄社漫画賞を受賞して以来、茂には仕事の注文が殺到するようになっていたが、
それはゴールではなくてスタートだった。茂はここからが勝負だ、と気を引き締めて
いつも題材集めに余念がなかった。夫がそれほど仕事に没頭しているというのに、女房の
自分が酔っぱらっているわけにはいかない。

(ほんと、身体がぽかぽかしてきたわ。・・・でも、なんだかふわふわした感じも・・・。)

たった一杯で、なんだかおかしくなってきた。まったくの下戸の茂と違って、酒屋の娘の
フミエは、飲み慣れていないだけで、それほど弱いというわけではないはずだった。

このまま寝てしまおう、とフミエはおぼつかない足取りで二階へあがって行った。

窓から見える夜空には、銀色の爪のような三日月が輝いていた。フミエはなんとなく
くるおしい気持ちになって、いつまでも月のおもてに見入っていた。

「・・・おい、冷え込んできたけん、毛布だしてくれ。」

茂が寝室のフスマを開けた。

「なんだ、この寒いのに窓を開けっぱなしで・・・風邪ひくぞ。」
「すんません・・・でも、なんだか身体が火照って・・・。」

そう言って振り返ったフミエの瞳は、廊下からの灯りを映して、琥珀色に輝いて見えた。
茂がその瞳に幻惑されて立ちすくんだ次の瞬間、フミエはもう茂の腕のなかにいた。

(な、なんだ・・・えらい早業だな。)

「ねえ・・・お父ちゃん・・・。」

両のかいなを茂の首に巻きつけ、フミエから唇を重ね合わせてきた。腕に力をこめ、
口づけを深めると、甘えるように鼻を鳴らし、身体をこすりつけてくる。

「ねえ・・・お願い・・・。」

首に巻きつけた腕に体重をかけ、しなだれかかられる。誘っているのは明らかだ。

「めずらしいな・・・お前がこげな・・・。」

悪くない気持ちで、茂は布団の上にフミエを抱き下ろし、自分も腰をおろして抱き合った。

「んむ・・・ん・・・。」

フミエの口の中は燃えるように熱く、甘かった。激しくむさぼられ、茂の官能にも火が
ついた。もどかしげに着衣を脱ぎあうと、もろともに抱き倒れて素肌を重ね合わせる。

「お前・・・熱いぞ。熱があるのと違うか?」

フミエは何も答えず、長い腕を茂に巻きつけながらまた唇を奪った。乳首をいじりながら
舌をつよく吸うと、こらえきれないあえぎをもらしてフミエが訴えた。

「熱い・・・あついの・・・なかが・・・きて・・・来て、もう・・・。」
「も・・・もう、か?」

何度も口づけしあい、愛撫を施しあいながら高まっていく、というのがいつもの流れ
なのだが、今夜のフミエはなぜか性急だった。

「来て・・・って、どこに行ったらええんだ?」
「いじわる・・・。」

フミエが大きく脚を開いて、茂の腰をはさみこんだ。自らの秘裂を茂の雄芯に近づけて
触れ合わせてくる。屹立に濡れた感触があたり、しびれるような情欲がつきあげた。

だが、急に後ろから思いきり奪いたい衝動にかられ、腰にからみつく脚をはずした。

「ぃやっ・・・はや、く・・・。」

茂を欲してふるえている身体を裏返し、腰を持ち上げると、後ろからひと息につらぬく。

「ぁ・・・ぁあ・・・ん・・・。」

待ちのぞんでいたものを与えられた内部が、きゅうっとしめつけてくる。

「ほんとに、熱いな・・・酒でも飲んだみたいだ・・・。」

心地よさに、茂は目を閉じて身体の一点から全身にひろがる快感に身を浸した。

「パサッ・・・。」

ふいに、顔を刷毛で撫でられたような感触を覚えて目を開けると・・・。

「な、なんだ・・・これは。」

茂の顔を撫でたものは、銀色に光る長いしっぽだった。

(・・・また、猫になっとるのか?)

だが、フミエは完全に猫になってしまったわけではなかった。襲い来る快感に、我知らず
振ってしまうしっぽと、長い髪の間にぴこんと立っている大きな耳・・・後ろから確認できる
のはそれくらいで、白い背中や長い手足、そして何より茂につらぬかれている臀部は
人間のままだった。

「ぃゃ・・・ぃやぁっ・・・じらさ、ないでぇっ・・・。」

しっぽにはたかれて呆然としているとは知らないフミエは、動こうとしない茂に焦れて、
自らのいい所をこすりつけるように身をくねらせた。

「ぁあっ・・・ぁっ・・・ぁああ―――――!」

せつなげな悲鳴に、茂がふと我に返ると、フミエは前に突っ伏し、荒い息を吐きながら
身体を細かくふるわせていた。

(なんだ・・・こいつ。ひとりでイってしまいよって。)

茂は少し腹が立って、ぐったりしているフミエの手を引っ張って起こした。フミエは
驚くべき柔軟さで後ろを振り返ると、いとおしそうに茂に口づけした。

「んむ・・・む・・・。」

普通なら離れてしまいそうな後ろからの口づけを離さぬまま、茂はフミエの腰をつかんで
座りなおし、膝の上に乗せた。

「ぁあ・・・ん。」

まだそそり立ったままの屹立に下からつらぬかれる形になり、フミエはあえいで茂の首に
後ろ手で腕を巻きつけた。茂はその腕を意地悪くはずして後ろへ寝そべると、命じた。

「まわれ右だ。挿入れたままだぞ。」

フミエはしかたなく、身体を横に向けてみたが、動かすたび打ち込まれたくさびが内部を
こすり、快感に悲鳴をあげた。

「何をしとる。早ことこっちを向け。」

そんなことを言われても、くるりと回転するというわけにもいかず、フミエはしかたなく
抜け落ちるぎりぎりまで抜いて、また自らをつらぬきながら少しずつ前を向いた。
自らの動きに責められ、啼きながらその行為を繰り返すフミエは、たまらなく淫らで
いとおしく、押し倒してめちゃめちゃに突きまわしたくなる。

ようやく茂と向き合うところまで回転し、長い脚をまわしてまたがると、フミエは
ほうっと安堵のため息をついた。

「こら、休んどるヒマはないぞ。動け。」

フミエはしかたなく茂の両脇に手をついて腰を動かし始めた。

「ぁ・・・ぁっ・・・ぁん・・・しげぇ・・・さ・・・ぁ・・・。」

のけぞりながらあえぐフミエの口からのぞく犬歯が、心なしかとがって見える。茂の肩に
すがる指の爪も、ふだんより鋭くなっているようだ。

(また、傷だらけにされたらかなわん・・・。)

フミエの肩をつかんで前に倒すと、くるりと身体を反転させて正常位になり、上体を
起こして激しく腰を使った。噛みつかれないよう上体を離しているのに、フミエは夢中で
身体を起こし、茂の肩にしがみついてくる。

「ゃあっ・・・あっ・・・ちゃ・・・う・・・ぁあっ―――――!」

絶頂の瞬間、噛みつかれるだけのは免れたが、肩に立てた爪は鋭く皮膚に食い込んでいた。
その痛みに耐えながら、茂も奥深くに解き放った。

「ねぇ・・・ねぇ・・・お父ちゃん・・・。」
「んー、なんだ?・・・もうこれ以上は身体がもたんぞ・・・。」

茂が眠い目を開けると、そこにはフミエではなく、藍子の顔があった。

「わっ?!・・・藍子か。びっくりさせるな。」
「ねぇ・・・お父ちゃん。お腹すいたー。」
「・・・お母ちゃんはどげした?・・・今、何時だ?」

日は高く上っているが、藍子はパジャマを着たままだ。時計を見ると11時である。
布団も敷きっぱなしで、乱れたまま昨夜の淫らな気配を残している。几帳面なフミエに
してはおかしなことだった。階下にも見当たらない。

「おかしいな・・・お母ちゃんはどげしたんだ?」

玄関には全員分の履物が残されている。外出したわけでもないようだ。

「ニャー・・・。」

猫の声に振り返ると、茂の仕事部屋のフスマの前に、しなやかな銀灰色の猫がいた。

「フミエ・・・お前・・・。」

フミエ猫は茂の足に擦り寄ると、ニャーニャー鳴いた。だが、猫になっていない今日の
茂には、何を言っているのかさっぱりわからない。

「なして完全に猫になってしもうたんだ?・・・この間みたいに、自分の意思で猫になったり
人間に戻ったりできんのか?」

フミエ猫は鳴きやむと、悲しそうな目で首を横にふった。そして、目顔で茂を台所まで
誘導すると、戸棚に鼻をこすりつけた。茂が開けてやると、そこには見たことのない
黄金色の液体が入ったガラス瓶があった。

「なんだ・・・これは?」

茂は注意深く、とろりとしたその液体を振ってみた。ふたを開けて匂いをかぐと、どうやら
酒のようである。立ち上る酒気に、茂はたちまち顔をしかめた。

「みだりに正体のしれん物を飲むから、そげなことになるんだ。・・・もしかしてこれ、
こみちの連中にもらったんじゃなかろうな?」

フミエ猫はハッとして、首をタテに激しく振った。

「またあの婆ぁ猫の連中のしわざか・・・!」

茂はぷんぷん怒りながら、それでも藍子に残り飯でなんとか昼ごはんを食べさせると、
隣の家に連れて行って「女房が風邪なもんで。」と言ってあずかってもらって来た。

「おい、行くぞ。あの婆ぁ猫をしめあげて、お前を元に戻させてやる。」

フミエ猫をカゴに入れ、自転車ですずらん商店街を目指す。猫になってもフミエはかなり
大きく、ハンドルを取られてふらふらする。

(だが、フミエをひとりで歩かせるわけにはいかん!)

いつ何時、他のオス猫に襲われるかわからない。フミエは猫になると妙にもてるらしい。
やっとの思いで商店街のはずれの御堂の近くまで来ると、フミエをカゴから降ろして
前を歩かせ、自転車を押して歩いた。大の男が、カゴの中に大きすぎる猫を入れて歩く
のは、怪しすぎる光景だと判断したのだ。

「あっ。おい、どこへ行く?」

フミエ猫が走り寄った先には、細い小路の突き当りで、ひもの先に結びつけた棒切れを
振ったり、地面の上をはねさせたりしている男たちがいた。猫の本能が、たまらなく
魅惑的なその動きにさからえず、飛び出してしまったものらしい。

「よしよし、来たな。・・・いい色の毛皮だ。」

男たちは巧みにフミエ猫を箱に誘いこみ、フタをした。フミエ猫が叫ぶ声が聞こえる。

「人さらい!!人さらいだーっ!たすけてくれ!!」

茂は近隣に響き渡るような大声をあげた。通りを歩いている人々が何事かと集まってきた。

「ちっ。おい、引き上げるぞ。」

男たちが一瞬気を取られたすきに、茂は箱に体当たりしてフタを開け、フミエ猫を逃がした。

「こいつ、何しやがる。」
「うるさい、この人でなし!この町の猫に手を出すな!」

猫とりは三味線の材料として売るために猫をつかまえて皮を剥ぐ。別に違法なことでは
ないが、猫とりとて自分たちのやっていることが誉められたことではないことはわかって
いるらしく、野次馬が集まってくるとしかたなく引き上げた。

「・・・あれ?・・・フミエはどこ行った?」

遠くでフミエ猫の悲鳴を聞いた気がして、茂はあの御堂の裏の原っぱへ駆けつけた。
フミエ猫の前には、この間茂が変身したのとそっくりの黒猫がいた。茂猫と違っている
のは、前脚が両方あることだけだった。

「だら。・・・俺と間違えて、着いていってしもうたのか。」

黒猫はハート型の目をしてフミエ猫にせまろうとしていた。フミエは精一杯毛を逆立てて
相手を威嚇していた。

「こらっ。」

茂が黒猫に怒鳴ると、この間と違ってライバルはしっぽを巻いて逃げていった。

「ニャー・・・。」

フミエ猫はすまなさそうにしっぽを垂れ、茂の足に擦り寄ってきた。抱き上げてやると
茂の顔をぺろぺろ舐め、ぎゅっとしがみついてきた。

「よしよし、こわかったな・・・。」

(早こと元に戻してやらんと、心まで猫になってしまいそうだ・・・。)

どうしようもなく猫の本能にあやつられるフミエを見ていると、不安になってくる。
どうしても元に戻らなかったら、自分も猫になってやってもいいが・・・。

(いや・・・俺の漫画を、30万読者が待っとる。猫になぞなっとる場合ではない!)

弱気になりかける心を奮い立たせ、こみち書房を目指した。

「あら先生。・・・フミエちゃんも。いいわねえ、先生に抱っこしてもらって。」
「あんたらどういうつもりだ?またフミエをたぶらかして・・・。」

いつもどおりこみち書房の店先にいるみち子とキヨに、茂が食って掛かった。

「ちょいと、聞き捨てならないね。いくら先生でも言っていい事と悪い事があるよ。」
「まあまあおばあちゃん。・・・先生、なんのことですか?」
「・・・あの酒はなんなんだ?フミエは元に戻れんようになってしもうたんだぞ。」
「あらやだ。私そんなつもりじゃ・・・。身体があったまってよく眠れるようにって、
アレは私たちにとっちゃ万能薬なんですよ。・・・またたび。」
「またたび?・・・ははあ、だけん、あげに・・・あ、いや、なんでもない。とにかく!
フミエはあんたらと違って変幻自在の化け物じゃないんだ。どげしてくれる?!」
「ひひひ・・・ゆうべはお楽しみだったようだねえ。猫女房も悪いもんじゃござんせん
でしょうが。まあいい。これを煎じて飲ませれば悪酔いも醒めるだろうよ。」

キヨは不気味に笑いながら、紙に包んだものを投げてよこした。

「飲ませるのは家に帰ってからだよ。街中で変身した時の姿に戻ったら困るだろ?」

変身したのは、愛し合った後眠りに落ちたとき・・・茂は顔が熱くなるのを見られまいと
顔をそむけた。

「フミエちゃん、ごめんね・・・。あなたがそんなにまたたびに弱いなんて知らなかったの。
・・・赤ちゃん、できるといいわね。」

茂は紙包みをひっつかむと、後をも見ずに店を出た。帰り道、フミエ猫はカゴには入らず、
茂に抱きついたまま自転車に揺られていった。大きな猫に貼り付かれてヨロヨロ自転車を
走らせる茂の姿に、道行く人々が笑ったり指をさしたりしたが、茂は気にしなかった。

家に着くと、さっそくやかんにお湯をわかして、キヨからもらった漢方薬のような
ものを煎じた。匂いも無く、変哲も無い色のものだが、茂は用心して少しなめてみた。

「・・・にがっ!・・・こりゃセンブリだな。あの婆さんは信用ならんが、まあ大丈夫だろう。」

フミエ猫の前に茶碗をとん、と置く。フミエ猫は困ったような顔で茂を見上げた。

「なんだ・・・早こと飲め。・・・おお、すまんすまん、猫舌だったな。」

茂はセンブリ茶を皿に移すと、フーフー吹いて冷ましてやった。ペチャ、ペチャ・・・
舌を出して飲み始めたフミエ猫は、あまりの苦さに咳き込み、脱兎のごとく隣の部屋へ
逃げて物陰に隠れた。

「こら、ちゃんと飲め!飲まんと人間には戻れんぞ。」

茂は皿を持って追いかけ、フミエ猫をつかまえて無理やり飲まそうとしてひっかかれた。

「いてっ!!・・・お前のために苦労しとるのに、ひっかくとは何事だ!」

茂は皿をひっつかむとセンブリ茶を口にふくみ、フミエ猫の口を開けさせて口うつしで
飲ませ、口を閉じさせて押さえつけた。ごくりと飲み込む音が聞こえ、苦さにもがく
フミエ猫を、茂は力いっぱい抱きしめていてやった。

・・・ふと気づくと、腕の中の感触が、つややかな毛皮からやわらかい人間の肌に変わり、
身体にかかる重みも、馴染みのあるフミエのものに変わっていた。

「・・・戻ったな。まったく、世話のやける奴だ。」

猫になっていたのはせいぜい半日くらいなのに、もう何年も見なかった気がするその顔を、
しげしげと見つめて口づけした。

「きゃっ・・・。」

唇が離れ、うっとりとみつめ返したフミエは、茂の視線の先を追って、自分が素裸である
ことに気づいて、あわてて両腕で胸を隠した。

「あ・・・あの、服を着てきますけん・・・。」

二階に行きたそうにするが、茂が離してくれないので、フミエは困りながら抱かれていた。

「・・・心配させた罰だ。夜までその格好でおれ。」
「ええっ!」
「俺は昼飯も食ってないんだ。めしを作ってもらおう。・・・やけどするといかんから、
これだけはつけてもええぞ。」

立ち上がり、流し台の釘にひっかけてあったエプロンをとると、フミエに投げてよこした。

「お父ちゃん、悪い冗談はやめて・・・。藍子を迎えに行かんといけんし。」
「藍子は夕方まで預かってもらっとる。それから、これは冗談とちがうぞ。これに懲りて
あげな怪しい連中とつきあうのはやめることだな。」

フミエは信じられない思いで、おずおずとエプロンを身につけた。腰だけを覆うエプロン
では、胸が丸見えになってしまう。フミエは髪をおろして胸をできるだけ隠し、座ったまま
身をちぢこませながら鍋や米などを取り出した。だが、水道を使うには立ち上がらなければ
ならない。

「どげした。早ことめしを炊け!」

茂がまじめくさった顔で命令する。しかたなく背を向けて米をといだが、茂から見えるのが
エプロンの腰ひも以外は全裸だと思うと、羞ずかしくて泣きたいくらいだった。

間違っても秘所が見えたりしないように、フミエは臀にきゅっと力を入れて引き締め、
脚をぴったりと閉じていた。その状態で移動するため、たいそう動きがぎこちない。
台所に立つ妻という光景が日常的であるだけに、全裸であるという異常性が倒錯した劣情を
かきたてる。茂は、普通以上に引き締められた臀の筋肉に歯をたてたい衝動を抑えられ
なくなり、後ろから腰を抱いて双丘に顔をうずめた。

「ひゃっ・・・!」

フミエは飛び上がりそうになり、といでいた米をこぼしてしまった。臀の肉を噛まれ、
驚いてゆるんでしまった脚の間に肩が割り込んできて、下から秘所へと舌が伸びてくる。

「ぃや・・・ゃ・・・ひぁ・・・ゃぁ・・・ん・・・。」

フミエは流し台のふちをつかみ、茂の顔の上に座ってしまわないように身体を支えた。
侵入してきた舌に、執拗に花芯を弄ばれ、フミエはぶるぶると身体を震わせて蜜をこぼした。

やがて茂が顔をあげて両脚の間に割り込ませていた肩を抜くと、フミエはがくりと膝を
落としそうになる。茂は立ち上がってその腰を支えてやると、すっかりほころんだ秘裂に
雄根を突き立てた。

「ゃぁああっっ―――――!」

流し台のふちをつかむ指が白くなるほど力をこめ、フミエは全身をつらぬく快感に耐えた。

「だめ・・・お願・・・い・・・っちゃ・・・ぁ・・・。」

持ち上げられてゆさゆさと揺さぶられ、敏感な部分エプロンごしにが流し台のふちにあたる。
フミエは悲鳴をあげながら真っ白な世界へと堕ちていった。」

・・・ふと気づくと、茶の間の畳の上に寝かされている。上からのぞきこんでいる茂の顔には
フミエ猫にひっかかれた傷がいくつも残っていた。

「・・・ごめんなさ・・・い・・・。」

フミエは手を伸ばして茂の頬を包んだ。

「この傷の分も償ってもらわんとな。・・・今すぐお仕置きされるのと、夜までその格好で
おるのと、どっちがええ?」

(・・・夜まで裸でいたって、おんなじことするくせに・・・。)

フミエはおかしくなって、茂の顔を引き寄せて囁いた。

「今すぐ、して・・・。」

囁いた瞬間、再びつらぬかれ、フミエはうめいた。たくましいものを容赦なく抜き挿し
されるたび、とめどなくあふれる蜜が茂の下腹を濡らす。淫らな滑りを意識しながら、
フミエも腰を上げて夢中で茂の動きに合わせた。

「ぃや・・・ぃや・・・ぁ・・・しげ・・・さ・・・い、やぁっ・・・。」

いや、いやと繰り返すわりに、フミエの腰は貪欲に自分から快感を追っていた。そんな様子
さえいとおしく、茂はさらに激しく責め立てた。

「・・・ゃ・・・ぁっ・・・くぅ・・・んんっ―――――!」

自分の指を噛んで、くぐもった悲鳴をあげながら、フミエがきゅうきゅうと締め付けてきた。
奥へ奥へと茂をからめとる動きの中へ放縦に撒き散らし、フミエの上にがっくりとおおい
かぶさった・・・。

「赤ちゃんがどうのこうの・・・と言うとったな。こみち書房が。」
「ああ・・・みち子さんが。あの、私・・・二人目が欲しいって言ったら、身体をあっためた
方がいいって言われて・・・あのお酒をくれたんです。」
「ふうむ・・・またたび酒は身体にもええし、あながち間違ってはおらんだったのか。
・・・お前が悪酔いさえしてしまわんだったらな。」
「はい・・・悪い人たちじゃないんですよ。」
「だが、もうこげな騒ぎはごめんだ。これからはちゃんと気を引きしめて、みだりに変身
してしまわんように気をつけろよ。」
「はい・・・。本当に、すんませんでした。」

フミエがあまりにも申し訳なさそうにしょげているので、茂はかわいそうになってギュッと
抱きしめて甘く口づけしてやった。唇を離すと、幸せそうに茂を見返した瞳が、急に
大きく見開かれた。

「たいへん!もうこげな時間・・・。藍子を迎えに行かんと!」

がばっと起き上がったものの、素裸の自分に気づいてドギマギしているフミエに、茂が
セーターを脱いでかぶせてやった。茂にも少し大きすぎるセーターにすっぽりとくるまって、
フミエは羞ずかしそうに二階へ上っていった。

「ほんなら、お隣へ行ってきます。」

二階で服を着てきたフミエが声をかけ、セーターを返してきた。茂は仕事机の前に座って
昨日の続きにとりかかろうとしていたが、今日いちにちの活躍の後、さらにフミエに激しい
お仕置きをしたものだから、疲れが出てきた。ごろりと横になり、頭の下に腕をかうと、
急激な眠気が襲ってきた。

(二人目がほしい・・・か。あいつ、そげなこと考えとったんだな・・・。)

子供は生まれてみればかわいいが、もう一人ほしいなどと、正直考えたことがなかった。
あれだけ濃密な愛を交わしているのだから、また出来ても不思議は無いのだが、天然自然に
生きている茂のこと、あまりその結果を深く考えることはなかった。二人目が出来ないのは
自分のせいかと、すすめられた果実酒を飲んでしまったのかと思うといじらしかった。

(今度の子は、俺に似とるな・・・。)

・・・夢の中で、茂は子猫と遊んでいた。その子猫は、この間藍子が変身した銀灰色ではなく、
茂が変身したのと同じ全身真っ黒で、足の先だけが白い、のんきそうな顔をした猫だった。

(お前、いつうちに来るんだ?・・・早こと来いよ・・・。)

自分も猫になっている茂は、子猫とじゃれあって遊んだ。いつの間にか藍子猫も加わって
遊びまわる二匹を、フミエ猫と寄り添いながら見ていると、幸福感が胸を充たした・・・。

それから数週間後。買い物に行っていたフミエが、帰ってくるなり青い顔をして茂の
ところにやって来た。

「お父ちゃん。みち子さんたちがおらんの。・・・どこかへ行ってしもうたみたい。」
「こみち書房はどげなっとる?」
「閉まっとったの・・・。商店街の人たちに聞いても、ある日突然誰もいなくなっとったって。」
「不良図書から子供を守る会とやらに、えらくやられとったけんな・・・。」
「私・・・お別れも言えんで。」

フミエは声をつまらせて、瞳から大粒の涙をこぼした。

「・・・初めてここに来たころ、誰も知り合いがおらんかった時に、いろいろ親切にして
もらって・・・藍子を産む時も、励ましてくれた。みち子さんがおらんだったら、どげに
心ぼそかったことか・・・。」
「そげか・・・。」

フミエが嫁いできたばかりの頃、茂はあまりかまってやれなかった。その頃のフミエに
とって、みち子の存在はいかばかり大きかっただろうと思うと、この間のまたたび騒動の
時、みち子たちに食って掛かったことを少し後悔した。

「泣くな・・・。生きとれば、またいつか会えるさ。」

(俺が、おるじゃないか・・・。)とは言えず、茂は震える肩を抱いてやっていた。
フミエの中に、新しい命がやどっていることに、二人はまだ気づいていなかった。






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