番外編
「でも、あいつ・・・意外と器のデカい奴だな。俺んとこ行くってわかってて、 手伝ってくれたわけか。」 「うん・・・。」 唇が離れた後も、ふたりは身体を寄せ合い、お互いの体温を感じあっていた。 「不本意だけど、あいつには感謝しなくちゃな。・・・綾子より背がちっちゃい奴でも、 綾子をさらって行く危険性はあるって、気づかせてくれたんだからな。」 「・・・また背のこと言う・・・。私は自分より背が低いひとだって全然いいよ・・・ 内面が大きい人なら。」 祐一が照れ隠しにひねくれた言い方をしているとわかっていても、綾子は背のことを 言われたのが少し気にさわった。 「全然よくない!・・・他の奴のことなんか考えるなよ!」 「た、たとえばの話だよ・・・。」 祐一の意外な気色ばみ方に圧倒されながら、綾子はまんざらでもない気分だった。 「あ・・・でかい声出してごめん。」 祐一は、ちょっと肩を落として声を荒げたことを謝った。 (なんか、今日のゆうちゃん、可愛いな・・・。) いつも冷静で綾子より大人だと思っていた祐一の揺らぎ方が新鮮で、綾子は 胸の中に新しい感情が芽生えるのを感じた。 「綾子・・・さ。結婚しようって約束・・・イヤになってない?」 「え・・・イ、イヤになんかなってないよ。」 「俺、ヘタレだからさ・・・綾子がそばにいてくれなきゃ、ここで店やってなんか いけそうにないよ。アウェー感とか言ってたけど、俺、精一杯綾子のこと 守るからさ・・・だから、いつか・・・嫁に来てくれる?」 綾子が、目に涙をいっぱいためてうなずいた。ふたりはもう一度、ゆっくりと 口づけあった。 「あ・・・つ、疲れただろ?風呂、入れよ。俺、コンビニで歯ブラシとか買って 来るからさ。」 そう言って、綾子が風呂に入っている間に、祐一は近所のコンビニで一泊用の 化粧品セットなどを買ってきた。帰ってきてキッチンで待っていると、祐一の ダンガリーシャツを羽織った綾子が戸口から羞ずかしそうに顔をのぞかせた。 「ゆうちゃん・・・これ、借りちゃった。」 「あ、ごめ・・・何も用意してやらなか・・・った・・・な。」 立ち上がりかけて祐一は、シャツのすそからスラリと伸びた脚に目を奪われた。 「さ・・・寒いから、ベッド入ってろよ。」 綾子がここに泊まることを承諾してくれた時から、ずっと意識してきた瞬間が 着実に近づいてきていた。もう数え切れないくらい身体を重ねてきている二人なのに、 まるで初めての時のように心臓が高鳴る。動揺しているのを知られたくなくて、 すごい勢いで綾子を自分の部屋に押し込むと、祐一も浴室に向った。 大急ぎでシャワーを浴びて戻ってくると、綾子はベッドに入って待っていた。 自分で言ったことなのに、祐一はドギマギして視線をそらし、さっき買ってきた 化粧品のセットが使ってあるのをみつけた。 「あ・・・こ、これでよかった?」 「あ、うん。ありがと・・・。」 いつもの自分の部屋、自分のベッドなのに、そこに綾子がいるだけで身体中の 血管がざわめくほど刺激的だった。近づいてゆっくりとキスを交わす・・・もう一度。 石けんの香りのする温かい身体を遠慮がちに抱きしめる。 「・・・いいの?綾子・・・。」 「いいの?・・・って。なんで、そんなこと聞くの?」 「だっ・・・て。この間俺、綾子がいやがることしちゃったし・・・。」 「・・・・・・もうちょっと優しくしてくれてたら、いやじゃなかった・・・かな?」 「ごめん・・・俺、焦ってたんだ。綾子がなんだか気乗りしてない気がして。 ・・・あいつに会ったせいかなって思ったら・・・。」 「そんなこと、なかったのに・・・。」 佐古とバッタリ会ったことで生じた気恥ずかしさも、密室での甘い時間の始まりに 霧消しつつあった。今夜だって「泊まってほしい。」という申し出を受けた時から、 綾子はとうに溶けはじめていた。 「今度のことで、綾子より大切なものなんてないって、改めて思い知らされたんだ。 あんなことして・・・本当に・・・ごめん。」 祐一は、あらたまって頭を下げた。 「・・・そんなに何度も謝らなくても・・・もういいって。」 祐一が本当にすまないと思ってくれていることが伝わってきて、胸が熱くなる。 けれど、祐一がさっきからなんとなく遠慮がちで、綾子に触れるのさえおっかな びっくりなのが気になった。 (ゆうちゃん、ただ「もういいよ。」って言われても、自分を許せないのかな・・・。 ) 「それじゃあ・・・と。」 うなだれている祐一を見る綾子の目が、いたずらっぽい光をたたえた。 「今夜は、なんでも私の言うこと聞いてくれる?」 「え・・・?う、うん・・・聞くよ。何でもする!」 綾子が祐一の手を自分の方に引っぱった。されるがままに近づいた祐一の肩に 手を置いて、ゆっくりと押し倒す。 「そのまま、じっとしててね。」 綾子はベッドから降りると、椅子の上に畳んで置いてあった自分のパンツから、 共布のサッシュベルトをするりと引き抜いて戻ってきた。 「・・・?」 怪訝そうな表情の祐一の両手をとって、頭の上に掲げさせる。すぐに両手首に 冷たく滑らかな布の感触を覚えた。 「ちょ・・・綾子?」 「じっとして。『何されてもいい。』って言ったでしょ?」 「な・・・『何でもする。』って言ったんだよ!」 「じゃあ言う通りにして。・・・今夜は、私がいじめてあ・げ・る。」 綾子のしなやかな指が、巧みに手首のまわりにベルトを回して祐一の腕を縛りあげ、 ベッドの支柱にくくりつけた。手と手の間も回してある戒めは意外と強固で、 祐一の上半身は自由を奪われていた。 予想外の成り行きに固まっている祐一に、綾子がこのうえなく優しく口づけた。 「ふ・・・わっ!」 綾子に耳たぶをカリッと齧られ、ぞくっとした感覚が背筋を走りぬける。 本能的に身体をかばおうとして、両腕の自由を奪われていることを思い知らされた。 「ふふ・・・ゆうちゃんの匂いがする。」 二の腕の裏側の肌を舌でなぞり下ろしながら、綾子の指はTシャツの上から 祐一の乳首のまわりを円を描くようにさすった。 「や・・・めろ・・・。」 くすぐったさにうごめく身体に馬乗りになり、綾子がTシャツをまくりあげた。 「ふうん・・・男の人でも、ここ、快いんだ・・・。」 綾子は新しいオモチャを手に入れた子供のように目を輝かせ、ぴんと勃った 男の胸の尖りをくりくりといじり、唇で吸いながら舐めた。 「ふぁっ・・・や、めろって・・・っ!」 小さな突起から発信されるむずがゆいような感覚は、やがて甘だるく全身に拡がり、 一点に集約していった。出口を与えられない麻薬のような快楽は溜まる一方で、 祐一は白くなるほど強くこぶしを握りしめた。腕をいましめられていても、男の 脚の力は強い。悶絶の内に綾子を蹴ってしまわないようにこらえるのに必死だった。 「ねぇ・・・ゆうちゃん。私のこと・・・好き?」 綾子がふと愛撫をやめ、真剣な顔でそう問いかけた。 「な・・・なんでそんなこと、聞くんだよ?」 「だって・・・ちゃんと言ってくれたこと、ないんだもん・・・。」 『好き』・・・愛し合っているさ中にそれに類した言葉を囁いてくれることはあっても、 平常時、祐一に真顔でそう言ってもらったことはない気がする。 「ばっ・・こ、こんな格好で言えるか!」 「もぉ・・・答えてくれないんなら、知らないからね!」 綾子が焦れて、両の尖りをきゅっとつねった。祐一が陸に上がった魚のように跳ねる。 「っひゃっ・・・めろっ!!ご・・・拷問して無理やり言わせたって、嬉しくないだろっ?」 「うーーーん。そっか・・・じゃあ、ゴーモンはやめて、イジメるだけにするね。」 「何それ?・・・いいよもぉ・・・綾子の好きなようにしてくれ。」 まな板の上の鯉のような心境で、祐一は天井を見上げてため息をついた。 (綾子って・・・Sッ気もあったのか・・・。) 反応を先回りしては巧みにはぐらかしたり、羞じらいや戸惑いを無視して激しく 責めたり・・・やさしく容赦なく綾子をさいなみ奪いつくすのは、いつも祐一の役回り だった。だが、今夜の祐一は綾子の意外な一面に驚き、翻弄されるばかりだった。 「あー、濡れちゃったね・・・。」 綾子が、明らかに前の部分が突っ張っているスウェットパンツを脱がせた。下着の 前の先ばしりが染みをつくっている部分を、嬉しそうにぴん、と指ではじき、下の方の やわらかい嚢を手で包んで撫でさすりながら、またしても執拗に乳首をなぶった。 今日は責める側にまわった綾子は、素肌に祐一のシャツを着ただけで、下着は つけていない。大腿にひたりと押しつけられた秘部の滴りは、祐一の肌を濡らすほどに 潤沢だった。 綾子だって、欲している・・・そう思うと、情欲はますますつのり、屹立は痛いほど 漲りきった。だが、綾子は意地悪をやめようとしない。一刻も早く熱い肉の中へ 埋没したくて気が狂いそうだ。 「ずっとここ・・・くりくりしてたら、達っちゃうかな?」 「よ、せ・・・っ!」 こみあげる射精感に、祐一は歯をくいしばって耐えた。このまま洩らしたりしたら、 立ち直れそうにない・・・ぎゅっと閉じた目尻に涙がにじみ始めた頃、ようやく綾子が 胸への愛撫をやめ、下へ下がる気配があった。 綾子が下着のウェストを拡げて一気に下げる。自らの熱気に蒸されて湯気が 立ちそうな剛直がふるん、と頭をもたげた。 「うふふ・・・あったかい。」 雄芯を両手で持ってほおをこすりつける。さらさらの髪が触れるだけで爆発 しそうなくらい過敏になっているそれの裏側の筋を、爪の背でつぅっとなぞられる。 「くぅ・・・っ!!」 食いしばった歯の間からこらえきれない呻きが洩れ、祐一は全身の筋肉を引きつらせて この責め苦に耐えた。 (ゆうちゃん、かわいそう・・・でも、可愛い!!) 祐一に甘い苦しみを与えているのは自分なのだけれど、それに耐えている祐一が かわいそうで愛しくて、綾子はきゅんきゅんしてしまう。 (ゆうちゃんも、いつもこんな気持ちなのかな・・・?) 自身も痛いほど疼いているけれど、それを堪えながら祐一を責めることで、さらに 欲望は高まっていく・・・。 もっと感じさせてあげたくて、綾子はなすすべもなく天を仰いでいる男根を、 はくっ、と温かい口腔で包み込んだ。 びくっっと慄くそれを、唇をすぼめてしごきあげ、ぬるぬると上下させる。 「ぃや・・・だっ!・・・射精(だ)したくないっ!!」 口ではいやだと言いながら、祐一は無意識に腰を突き出していた。 「ゃめてくれっ・・・あやこにっ・・・挿入れたぃ・・・んだっ!」 祐一の直截な訴えが、綾子の心臓を直撃する。本当は綾子だって、一刻もはやく 祐一とひとつになりたい・・・強い欲求が身の内で燃えさかっていた。 (でも、もうちょっとお仕置きしてあげないと・・・どうしようかな?) 「あ・・・そうだ。」 綾子は祐一の身体から下りると、レジ袋をがさがさ言わせて何かを取り出した。 祐一がさっき買ってきた化粧品セットの中の乳液のパック・・・封を切ると、綾子は 祐一の片脚を持ち上げて折り曲げた。 「・・・?・・・ひゃっ・・・!」 脚を持ち上げられてさらされた嚢の後ろあたりに、冷たい液体が垂らされるのを 感じて、祐一は身をすくませた。 (ま、さか・・・?) 周縁をくるりとなぞって乳液をなじませた指が、つぷりと後孔にすべり込んだ。 「ぅわっ・・・なにす・・・!」 綾子はネイルを伸ばしていないので痛みはないが、何かを挿入れられたことなど ないその場所は、驚いて綾子の指をキュッと締めつけた。 「うふ。これで、お・あ・い・こ、だね♪」 綾子の長くてしなやかな指がゆっくりと深められ、祐一は身体の力が抜けていく のをどうしようもなかった。 屈辱感と、それとは裏腹な、どうにでもしてくれと言いたくなるような 気だるい快感を否応なくきざみ込まれながら、祐一はあることに思いいたった。 (俺が、本当にゆるしてもらえたって実感できるように・・・ってことか?) もちろん、今日来てくれたこと、ここに泊まることを承諾してくれたことから、 綾子が自分を許してくれていることはわかっていた。それでも、なかなか いつものように綾子を抱くことができない祐一に、より深い恥辱を与えることで 後ろめたさを払拭してくれようとしている・・・。 綾子の思いやりに気づき、祐一は力のかぎり綾子を抱きしめたくなった。 「これ、解いて・・・くれっ。あや・・・ぅあっ!?」 綾子がふと角度を変えた指がある箇所に当たり、祐一は思わず腰を浮かせた。 「え・・・ここ?・・・ゆうちゃん、ここが快いの?」 「ちっ・・・ちがっ・・・!」 綾子が知る由もない男の急所が其処にあった。綾子は嬉しそうにそこを擦った。 意思とは正反対に腰が揺れて綾子の指を求める。瞬間、頭の中を白い閃光が貫いた。 「ゃっ・・・だっ・・・!!」 ビュクッ・・・勢いよく飛び出した白い凝りは、祐一の喉元まで届いた。解き放たれた 欲望が、断続的に飛び散るさまを、綾子は珍しげに眺めた。 「・・・ごめんね。そんなに快いなんて、知らなかったの。」 綾子は指を抜き取り、申し訳なさそうにティッシュで祐一の射精(だ)したものを ぬぐった。 祐一はまだ時おり小さく痙攣しながら、言葉もなく目を閉じてそっぽを向いている。 綾子はなだめるように口づけると、耳元でささやいた。 「ゆうちゃん・・・怒っちゃ、やだ・・・。」 「ぁやこに・・・挿入れたいって・・・言っただろ・・・。」 「・・・じゃ・・・ぁ・・・ぃ・・・れて・・・?」 綾子がシャツを脱ぎ捨てて素肌をぴったりと合わせてくる。綾子の欲に染まった 双眸が、まつげが触れ合うほどの近さで祐一の瞳を見つめた。思わず目を閉じた祐一の 唇を舌でなぶり、男をかきたてるようなキス。乾ききった唇に一杯の水を恵まれた 囚われびとのように、祐一は綾子の唇をむさぼった。 あてがわれた乳首を吸ってやると、綾子が夢中でぎゅっと頭を抱きしめてくる。 「ん・・・んんーーっ・・・!」 思い切り押しつけられ、息が出来なくて祐一は脚をバタバタさせた。綾子があわてて 頭を離す。ふたりは少し笑みをかわしてから、また深いキス・・・。 吐息を独占しあい、身をからませあう。綾子の胸の尖りが祐一の胸肌をこすり、 からんだ足のつま先がお互いの足をくすぐりあった。太腿に硬度を取り戻しつつある 雄芯が当たり、下を見やった綾子はためらわず唇を寄せた。 「っ・・・!」 さっきの露をまだ残す鈴口や、先端のくびれに舌を這わされ、一度熱を吐き出した 雄根は、みるみる再び隆々とし始めた。 「・・・っあやっ・・・はやくっ・・・アレ・・・。」 「え・・・あ、どこ?」 祐一に教えられ、綾子はスウェットのポケットからそれを取り出した。 「ゆうちゃん・・・やっぱり今日、するつもりだったんだ・・・。」 封を切りかけて止まり、綾子が意地悪く聞いた。 「あ・・・たりまえだっ・・・!」 あまりにも正直な返答に、綾子はおかしくなって笑いながら、それでも注意深く 屹立に薄い膜をかぶせた。 「は・・・ずかしいから、見ない・・・で・・・。」 綾子が、片手で祐一の眼を覆いながら、もう片方の手で隆起したものを秘所に みちびいた。 「んっ・・・はぁ・・・。ぁあ・・・ん・・・。」 自らの蜜に屹立をなじませ、綾子はあえぎながらそれを少しずつ呑みこみ始めた。 目を覆っている綾子の手肌の色と灯に透ける血の色が、今の祐一に見える全てだった。 羞じらい、身悶えながら祐一を導き挿入れる綾子の、官能に染まった顔を想像しながら、 綾子の生命の色に覆われてつながっていく瞬間を、祐一は深く味わっていた。 目の覆いが取り払われ、まぶしさに顔をしかめる。綾子のせつなげな微笑みが 近づいてきた。 「ゆうちゃ・・・ぁっ・・・んんっ・・・。」 口づけようと上体を前に倒しかけて、綾子はこみあげる快感に身悶えた。 祐一の身体の横に手をついて必死で身体を支え、啼きながら腰を上下させる。 祐一も、両足を立てて腰を浮かせ、綾子の動きに合わせて下から力づよく突き上げた。 「ぁ・・・だ、めっ・・・達っ・・・ちゃ・・・。」 綾子が祐一の胸にすがりついてふるふると身体を震わせた。 「解いて・・・くれぇっ!抱きしめたいっ・・・んだよっ!」 胸の上できれぎれな声を洩らしながら震えている綾子を抱きしめてやりたくて、 祐一は縛られた腕を揺すって大声で懇願した。綾子が震える手を伸ばし、もどかしく 緊縛を解いた。 ガシッッと音がしたかと思うほど強く、祐一は綾子を抱きしめた。縛られた腕を 強く動かしたせいで紐が手首にくいこみ、しびれた両腕で、それでも祐一は綾子を 抱きしめたまま体を入れ替えた。 「ぁあんっ・・・ぁっ・・・ゃぁあっ・・・。」 綾子の上になり、手首から先がしびれたまま肘で上体を起こしながら、祐一は激しく 腰を上下させた。綾子も祐一の背にしがみつき、夢中で彼の動きに合わせて揺れる。 「・・・あや・・・っ・・・!」 「ゃ・・・ぁあ・・・ぁああ―――――!」 もはやどちらが責めるかなどどうでもよい、ただひとつに溶け合って脈打ち続ける だけの瞬間が訪れた。つよく抱きしめあい、深く口づけあうこの真っ白なとき、 ふたりはそれぞれに違う個体であることを忘れた。 「ごめんね・・・痛い?」 忘我のときが過ぎ、抱きあったまま胸に顔をうずめていた綾子が、ふと祐一の手を 持ち上げて、赤く残るいましめの痕を痛々しそうに見つめた。 「ん・・・大丈夫。・・・案外、快かったかも・・・な。」 「ホント?・・・じゃあ、また縛ってあげようか?」 「勘弁・・・してくれ・・・。」 「ふふ。ウ・ソ。・・・本当はね、なんだか疲れちゃった。」 「SはサービスのSって言うくらいだからな。相手を悦ばすサービスを考えなくちゃ なんないから大変なんだ。」 「でも、ゆうちゃんって本当はMなんじゃない?・・・すっごく、イイ顔してたもん。」 「はっ・・・恥ずかしいこと、言うなっ!!」 口を押さえた手を、綾子がペロリと舐め、指を取ってからみあわせた。少し内出血さえ している縛り痕を、癒すように何度も口づけする。 「・・・よ、せっ・・・。それ、なんか・・・クルだろっ!」 「キちゃっても・・・いいよ・・・。」 「バッ・・・これ以上、キたりしたら・・・死ぬ!」 祐一は、あわててむすんだ手をグッと枕上に押しつけると、のしかかるようにして 綾子の唇を封じた。 「俺もさ・・・器の大きい人間でありたいと、日夜努力してるつもりだけど・・・。 綾子のこととなると・・・ちっちゃい奴になっちゃうんだな。」 唇がほんの少し離れただけの距離で目をのぞきこみ、祐一が真剣な表情で言った。 「・・・そんだけ、好きっ・・・てこと。」 ギュッと抱きしめながら、そう耳にささやいた。 目を見ながら言ってほしいなあ・・・と思いながらも、綾子は何も言わず、つないだ 手をギュッと握った。 (明日・・・服、どうしようかなあ?) 安心したように眠ってしまった祐一の隣りで、綾子は明日会社に着て行く服のことを 考えていた。今日いちにち間が開いているのだから、昨日の服でもいいのだけれど・・・ 綾子の視線が、壁のハンガーにかかったモカブラウンのニットに気づいた。 (ゆうちゃん、とっといてくれたんだ・・・。) このカーディガンを忘れていった日のことを思い出し、綾子の心に感慨があふれた。 (明日、これ着ていこ。下のパンツは同じで・・・ビジューがちょっとデコラ過ぎるから ・・・そうだ、ゆうちゃんの黒いジレ借りちゃお!) 明日のコーディネートを考えながら、 (彼氏の服が借りられるって、けっこう便利じゃない?) 綾子はなんだか楽しくなってきた。時計はとっくに明日になっている。一昨日徹夜 したうえに昨日は一日立ちっぱなしで・・・夜は女王様?に変身・・・。この二日間は ものすごくハードだった。同じように疲れきって、深い眠りに落ちた祐一に寄り添い、 綾子もしあわせそうに目を閉じた。 SS一覧に戻る メインページに戻る |