りせっと3
ニケ×ククリ


「盗賊は手先が器用だからかな?」

ちょっと嬉しかったよ、といって頭の後ろをがりがり掻きながらえへへとニケが笑った。指でいくなんて知らなかったからちょっとビックリしたけど。
ククリの弾けそうなくらいにぷるぷるした肌に自分の肌が触れていることが嬉しいのか、背中から抱きしめるようにククリの首筋に下を這わす。

「女の子って気持ちいい……特にククリむにむにしててサイコー」
「あ、ん……それって、太ってるってこと?」
「違うよ。なんつーのかな、幸せな柔らかさっての?触ってると和むよなー。二の腕とか、太ももとかおれ大好き」

手がそこここを擦りながら旋回しているのがククリはくすぐったくて仕方なかったが、そのセリフを聞いて何故か誇らしくなった。

「耳たぶも好きだよ」

舌が這う。ニケの、大好きな男の子の熱い舌が耳たぶを這う。背筋がゾクゾク心地いい。

「それだけ?二の腕と、太ももと、耳たぶだけが好きなの?」
「おっぱいもあそこも髪もおなかもすきだよ」
「……それだけ?」
「――――――ククリはなんて言って欲しいの?」
「…べ、別に……」
「嘘。ゆってごらん?なんて言って欲しいのかな?」

にやっと笑ってニケがククリの顔を振り向けさせる。上半身だけ捻ったような体勢でククリがのぼせた顔をさらに赤らめて言う。

「あたしのこと、すき?」
「だいすき」

頬が染まる。気が遠くなる。キスの感覚も失われる。
クラクラ、ふらふら、いいきもち。まるで魔方陣を描いてるときみたい。
ぐるぐる目を回してふにゃあと倒れ込んできたククリを慌てて支えてニケが叫んだ。

「わー!このくらいで気を失うなよー!!」

涼しい風が頬に当たるのにようやく気付いたククリは目を空けてぼんやりする風景を見ていた。
チョコレート色の天井、ランプ、カーテン。……あ、あたしの部屋か……寝ちゃったんだ……て、ことは今までの……夢?

「そんなのやだ!」

がばっと起き上がって自分の足元を見ると、ニケが汗を一筋たらしながらククリの足の間でやあ、といった。

「起きたんだ」
「キャー!ゆー、ゆー、ゆーしゃさま!!何やってんの!?」
「……起きないから、いーかなーと思って」

服を何も着ていない自分の太ももの付け根に今まさに触れんとするニケの指が少しだけ当たった。

「きゃぁん!」
「おっ、感じてますねー。

つーか人間の身体ってすごいな、寝ててもちゃんと濡れるんだぜ。」
よく見ると粘液でキラキラ光っているニケの中指が、くるくる秘唇の周りを巡回しながら中心に向ってじりじり間合いを詰めている。

「あっあっあーっ!だ、だめ、ゆるしてゆうしゃさまぁ……こんなの、ダメぇ」
「いやだね。ここまで連れてくるのに苦労したんだからこれくらいの役得あってもいいじゃん。それに風呂場で倒れたから結構ビビったんだぞ」

ニケがべろりと舌を出す。

「あ、やだ、ヤな予か……あぁぁあぁん!」

舌の先に当たる粘膜の柔らかさにクラクラした。

「ゆっゆっゆっゆーしゃさまぁああぁぁあ!そんなとこ舐めちゃだめぇーー!」

暴れるククリの太ももが頭を締め付けるもんだから、ニケは離れようにも放してくんないじゃんなんて思ったが離れるつもりは毛頭無かった。
舌が、ちょっとざらざらした舌が、あたしの、あそこ、舐めてる。勇者さまの、舌が、あたしの、あそこ舐めてるよぅ!
腰がグラインドしてしまう。しかも勝手に、強く、激しく、動く。
ククリは今まで感じた事も無いような快感に翻弄されて、意図せずにぼろぼろこぼれる涙が変な感じだなぁと頭の隅で感じていた。

「痛かったら、背中叩け。……引っかくのはカンベンな」
「努力する」
「……んじゃ、いきまーす」

くにゅう。差し込まれるニケの身体が、まるで自分を押し広げながら切り裂くようだとククリは思った。

「いたたたたたたたたた!」

途端に声を上げるククリが顔をしかめる。

「いたい?……これ以上ないくらいにゆっくりやってるけど……」

おろおろしているニケが声に驚いたように上体を少しだけ浮かせて身体を離す。

「ちが!ちがうの!ゆーしゃさまのがおっきくて痛い!」

泣き顔に欲情するなんて俺はヘンタイなのかなぁ、とニケは自己嫌悪に囚われたが、ククリのセリフにじったりとした笑い顔を隠せなかった。

「……う、うれしーこと、ゆってくれんじゃねーか」
「あたしはうれしくなぁい!おっきい!おっきいよー!入らないこんなの!」
「入るよ、そーゆーふーに出来てるんだから」
「無理無理無理無理!絶対無理!死ぬ!死んじゃう!」
「…………じゃあ、やめとく?」

ニケがにやーっと笑いながらさらに身体を離すと、慌てたみたいにククリがニケの両手を掴んで引き戻した。

「やだぁ、してぇ……でも痛いぃー」
「おれだってククリの泣き顔見ながらしたくないもん」
「……うぅー…がまん、する」

してください。こればっかりは仕方ありません。諭すように言うニケの言葉を恨めしそうにかみ締めながらくくりは小さく頷く。

「でもでも、ストップってゆったら止めてね?絶対だよ、止めてね!」
「わかったわかった、努力するよ」

眉間にしわを寄せながら彼が呆れ声で言うので、彼女はたいそう心配になったが結局諦めたように体から力を抜いた。

「あはぁ……くぅ…ん」
「大丈夫?痛くない?一応、全部入ったんだけど」
「いたぁい……けど……ん、がまん、できる、かな」
「まだ動かないからさ、えと、大丈夫になったらゆってね」

動きたいの?と彼女が聞くので彼はちょっと唸って困り声のまま、うん、と言った。

「なんで?」
「そっちは痛いばっかかも知んないけど、こっちは気持ちいいばっかなんだよね」

ずるい!そんなのずるい!今でも壊れるかもしれないってくらいお腹とか痛いのに!彼女が猛烈に抗議したところで感覚を取り替えることなど出来ないのだ。

「あのなー、そうはゆうけど……慣れたらそっちの方が徳なんだぞ――――――て、聞いたけど。
どうなのかな。慣れた時にもっかい聞いてみることにしよう」

『慣れたら』

そうだ、慣れるくらい、いっぱいするんだ。こんなこと、いっぱい、いっぱいするんだ。
ククリははっと気付く。これから長い時間たくさんニケに自分は愛してもらえるのだ。大好きなニケに、自分のあんまり好きじゃないこの身体をたくさんたくさん愛してもらえるのだ。

「……ニケくん……あたし、平気。きみと二人ならきっとなんでも平気。
あたしの勇者さま、あたしだけの勇者さま……だいすき」

ククリがそっとニケの腰に手をやって、動くことを許す。彼はそれに少し居心地の悪いものを感じたが従うことにした。

「あっ…いっ…たあぁい……あっあっあ…ッ」
「……………………くっ」

せめぎ合う日と影の境界線みたいに曖昧になった二人の身体が融けてひとつになる。鋭敏な感覚とはまた別の場所で、たゆたう水のように彼と彼女は揺れていた。
声はかすれていて耳に届かないことの方が多くて、それが経験の無い少年にはまるで自分が無理強いしているかのようで心苦しかったが、止めようとは思わなかった。
彼女が勇気を見せたのだ。勇者である自分が逃げてどうする。
ククリが泣いてもずっと一緒に居るんだ、おれが決めたんだ、誰にも譲るもんか、ちくしょう。

はぁ、はぁっ…はぁ、はぁ、はぁ……
ひぃん……あはっ……あっ……ん、ああ……

じっとりかいている汗が二人の身体に流れている。ニケの金色の髪の先から雫が何度もククリの肌に降り落ちている。彼はそれが涙のようだと思った。
ククリの前ではずっと強がってなきゃなんない自分の、本当は弱くてダメな自分の、涙。
くそ、おれが泣いてどうすんだよ、みっともねぇな。

「…………いいの“勇者さま”、ククリが抱いててあげる。だからもう、そんな悲しい顔しないで……泣いて」

――――――こいつ――――――

そう思ったときにはボロっと雫が垂れていた。止めようなんて思う暇も無かった。一気に来た衝動が感情に従って暴走する。

「……やだ、見るなよ、こんなの……やだよ」
「どうして?あたし嬉しい。ニケくんが泣いてくれて嬉しい。
お疲れ様、もう勇者さまをやめていいんだよ。今までありがとう。また一緒にレベル1から始められるの。これからよろしく」
リセットだね。
ぼろぼろ零れている涙を指で一滴掬って、ククリは自分の口に入れてそのまま彼にキスをする。

「涙の止まるおまじない。ほんとはキスはしないけど、これなら涙二人で分けられるね」

彼はぐっと腹に力を込めて涙を食いしばり、腰を動かした。
あっやぁん!あっあっど、どうしたの?あっあっあぁっ!
これからどこへ行くんだろう。
そんなことは分からない。
これからどんなことがあるんだろう。
そんなことはどうでもいい。
ただ、この少女と一緒に乗り越えていくだけだ。ただそれだけのことだ。
何も怖いことなんか無い。ただ彼女を守っていくだけだ。
それが、彼女の勇者の使命なんだから。

くふふふ、と彼女が笑う声で彼は目を覚ます。

「……んだよ、趣味悪いなぁ……起こしてくれたらいいのに」
「だぁってニケくんの顔カワイイんだもーん」

ニコニコ笑ってるククリの顔を見て、すこし視線を天井に逸らして考える仕草をしてから彼が言う。

「……あのさ、すぐ撤回して悪いんだけど……その……まだもう少しククリの“勇者さま”でいたいんだ。……そう、呼んでくれるかな」

頬を掻きながらニケが照れた調子で言った言葉をククリが笑って返す。

「あははは。ニケくんはね、ずーっとずーっとククリの“勇者さま”だよ!」

だいすきなあたしのゆうしゃさまなの!そう声も高らかに微笑む彼女を彼が急に抱きしめる。

「きゃ!?」
「ククリだって!ずっとおれのお姫様だよ!ずっと、ずっと、そうだよ!」

ぎゅっとされた身体がふわっと温かくなるような気がした。二人が抱き合ってぽろっと涙を零したけれど、お互い涙には気付かなかった。
窓の外には大きな夕日が二人から目線を逸らすようにゆっくり稜線の向こう側に沈んでゆく。
そしてその夕日から隠れるような日陰にいる緑色のポンチョを着た妖精が凄い顔をしながら何度も言っているのだ。

『ずっとおれのお姫様だよ!ずっと、ずっと、そうだよ!』……と。

ククリ、ククリはおれのどこまで許してくれる?
悪魔にしちゃったり、泣かしたり守れなかったり、気持ちに気付かなかったり上手く伝えられなかったりしてデリカシーのないおれだけど、それでも好きでいてくれる?
ときどき不安になるんだ、どこが好かれてるのかわかんないから、いつか愛想尽きられるんじゃないかって。
なぁククリ、こんなおれでも許してくれる?
頑張ってククリの為に強くなるから……ダメなおれでもどうか許して、好きでいて。

「りせっと」おわり。






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