動揺(非エロ)
東海林武×大前春子


東海林と春子は、とある大手新聞社の本社にいた。
今度行うイベントの広告を新聞にのせるため、本社まで頼みにきたのだ。
約束の会議室まで行く途中のエレベーターの中で、東海林は
怪訝そうな顔をしていた。

―ああ、まったく。どうしてこいつと一緒なんだよ。

東海林の横には、まったく喋らず無表情で前を見つめている春子がいる。
桐島が、東海林だけでは不安だから、と春子も連れて行くよう命じたのだ。

―何か喋れよ。

東海林は、自分から話をふったらいつも通りガン無視されて自分が腹が立つ
だけだと考えて、一つも話をしなかった。
もちろん春子から話を切り出すわけもなく、エレベーターの中の空気はとてつもなく
重かった。

―くっそぉ、何でコイツ表情変えねーんだよ。
―ああそっかインベーダーだっけこいつ。
―ていうかインベーダーってまばたきしなくても平気なのな。

そんなことを考えていると突然チン、という音と共に目の前のドアが開き、
ああ、オレはなにを考えているんだと東海林は我に帰って歩き出した。

指定された小さな会議室のようなところについた東海林はドアをノックして、

「失礼します」

と言ってドアを開ける。そして、

「ユカ…?」

と次の瞬間、間の抜けた声をだした。

「え…東海林くん?」

白い机とホワイトボードが置いてある小さな部屋。
机の向こう側には、小柄な女性が座っていて、
その女性もまた、驚いたような声をあげた。

「ユカ…!お前、ここで働いてたのか?」
「うん。今は広告部長やってるんだ」
「そっか…元気そうだな」
「そっちも。久しぶりに会ったら、何かかっこよくなった気がするよ。
でもまさか、こんな所で会えるなんてなぁ」

話しながら東海林は焦っていた。まさかこんな所で元カノに会うとは。
しかも、春子の前で会う事になるとは。

―会話から察するに元カノか何かだろう。
―でも、何でだろう。何か落ち着かない。

やがて三人だけの会議が始まった。そんな中、春子は気が気でなかった。

―別に、蝿の元カノくらいどうってことないじゃないか。
―なのに。気にしてなんかないはずなのに。
―どうしてこんなにイライラするのだろう。

会議は数時間で終わった。
会議室には、先刻のエレベーターの中より
もっと重い空気の東海林と春子が取り残されていた。

「………………」
「………………」

重たい沈黙が続く。

「あの、その」

東海林が切り出す。

「別に恋人とかそういうのじゃなくてな!!
元カノっちゃあ元カノだけど、今はそんな関係じゃないんだよ!
アイツ昔からなんとも思ってないやつにカッコイイとかなんとか言うから
なんかそういう関係に見えちゃったかもしれないけど、
別にもうアイツは――」

そのとき、バンッという音が部屋に響いた。
春子が持っていた書類を机に叩きつけたのだ。

「何を言い訳しているのですか?」

キッと、春子のまっすぐな瞳が東海林を貫く。

「何であなたがそんな言い訳を私にするのですか?」
「いや、別に言い訳じゃなくて」
「あなたのプライベートなど私には関わりないことです。
私はあなたを責めようとはしないし、あなたのプライベートなど知りたくもありません。
なのに、なんでそんな慌てて言い訳しているのか、私には理解できません。
―そろそろ会社に戻る時間です。私には仕事が残っているので。」

スッと春子は立ち上がり、部屋を後にしようとする。

「おい!トックリ…!!」

東海林が立ち上がり呼んだときには、春子はもうドアを閉めてしまっていた。

「っ…何なんだよ…」

―なんでオレ、あんな言い訳っぽく喋ったんだろう。格好悪い。
ドサッともう一回椅子に座りなおし、春子がたたきつけた書類をそろえようとする。と、

「あれ…?これって…」

東海林はあることに気付いた。
春子がたたきつけた書類は2枚あった。
1枚は春子に書き留めておくよう指示した今回の会議の決定事項などが書いてある紙。
そしてもう1枚は…

「これ、トックリの書類じゃないか」

新聞社側から渡された、要求事項などが書かれた書類。
東海林と春子にそれぞれ1枚ずつ配られたものだ。
その書類が、先ほど春子がたたきつけた書類と
自分に配られたものとあわせて2枚ある。つまり―

「…あいつ、自分の書類もオレに渡してやんの。…ぷっ」

―なんだ、あんなこと言ってたわりに、気にしてんだな、ユカのこと。

オールマイティ春子が、自分の分の書類を間違えて相手に渡してしまうとは、
相当動揺している証拠だ。

―多分今頃、「私とした事が」とかいってあせってんだろうな。
―帰ったらからかってやろう。また無視されるだろうけど。

少しニヤケながら、東海林は書類をもって部屋を出る。
どうからかってやろうか考えながら東海林は歩き出すのだった。






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