完全なる防御(非エロ)
東海林武×大前春子


別に意識なんかしない。

今日もいつもと同じように接していればいい。
あの単純馬鹿はきっと気づきはしない。



朝からぶつぶつと言いながら歩く春子を
すぐに見つけた美雪が走りながら声をかけた。

「おはようございます〜春子先輩」
「おはようございますっ!!!」

春子のあまりにも大きな声でびくっとする美雪は
驚いて立ち止まってしまった。

「先輩、何か怒ってる・・・?」

春子は出勤後いつも通りパソコンを起動してファイルを開いたが、
パソコン画面の下で点滅しているメーラーに気づき、
昨日春子が帰った後に送信されたメールを開いた。

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■To:大前春子
■From:東海林武
■CC:里中賢介
■件名:明日の会議資料について
■本文:

 大前春子様
 
 明日の営業課会議は10階の「第一会議室で9時15分から」行います。 
 提出してもらった食品栄養の資料準備を50部願います。
 
 以上。
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春子が素早く時計を見る。
現在、8時55分。

主任である里中は昨日から出張に行っており、
メールを見た雰囲気は皆無だった。

春子はムカムカしながら
昨日判をもらった資料を棚から探し出し、
急いでコピー機に向かうとメールの差出人が
機嫌よく部屋に入ってきた。

「おはよう〜!」

きつく鋭くそちらに向ける眼光。
それに素早く気づく東海林。

「・・・朝から・・・何だよ・・・」
「なんでもありませんっ!!」

雰囲気に負けて少しだけ後ろに引く東海林だが、
昨日のメールのことを思い出すとすまなそうに言った。

「もしかして、今日の会議のメールのことか?」
「・・・・・」
「昨日、忙しくて言うの忘れてて、アンタ帰っちゃったからさ。
ケンちゃんもいなかったし森さんや別の人に言っても資料の場所が・・・」
「50部コピー終わりっ!」

春子が東海林が話すそばからさっさとコピーを終わらせ、
自分の席に戻ってホッチキスを取り出している。
コピー機のステープル機能は今日も壊れていた。

会議室に向かうエレベーターの中。
沢山のお茶道具を運ぶワゴンに手を置く春子と、
大量に資料を持たされてる東海林。

エレベーターの奥にいる東海林には、
入り口付近にいる春子の顔は全く見えなかった。

「ホッチキスから手伝ったんだから、もう怒るなよ」
「・・・・・」

東海林が少しだけ春子の顔を見ようと入り口付近に寄る。
春子がびくっと肩を震わせた。

「えっ?!」

予想外のことに思わず声が出た東海林だが、
それを確認するために再び春子の顔を見る。
春子はようやく口を開いた。

「それ以上、絶対に!近づかないでください」
「・・・なんでだよ」

東海林はそんな言葉が出るほど嫌われているのかと
少し落胆しながらさっきまでいたエレベーターの奥に渋々戻る。
しかしその強いトゲのある言葉と更に強固になった態度が
以前にあった雰囲気に良く似ていた。

東海林が静かに声を出す。

「トックリ・・・なんかあったのか?」
「何にもありません」
「何か変だぞ、いつもなら文句があっても当然のように仕事こなして、
俺を無視するくせに・・・今日はずっと怒ってる。何でだ?」
「・・・うるさいっ!!」
「言えよっ、俺だって言わなきゃわかんないだろっ!」

その言葉に思わず後ろを振り向く春子が、
むんずと東海林のネクタイを掴み自分の方へと引っ張った。

「・・・うわっ!!暴力はんた・・・・!!」



なんだ?この空間。

異空間か?ブラックホールの中か?
なんでこうなってるんだ?
ぼんやりと空間を見つめる東海林。

自分の唇に柔らかくて温かなモノが触れていた。
しかも自分の時より深く。

−− チン。

急に聞こえた音で現実に戻される。
東海林はエレベーターの壁に背中をぶつけながら、
普通にエレベーターから降りてゆく春子の背中を
ぼんやりと見ていた。

「・・・おまえ、エレベーターにカメラあるぞ・・・」



別に意識なんかしない。
今日もいつもと同じように接していればいい。

気づかれまいと思っていた春子が
単純馬鹿にだけ気づかれてしまった事を悟った瞬間、
東海林がそれ以上突っ込まないための完全なる防御。

昨日みた夢が、
東海林とのラブシーンだったという事実。


ただそれが完全防御だったかどうかは、
今後の東海林しだい・・・。






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