不似合いな手「2ヶ月後+1」(非エロ)
東海林武×大前春子


――まぶしい。
うーん、もうちょっと。
もうちょっと寝させてくれ。昨夜は遅かったし。
・・・ふふふ。
隣には、猫みたいに丸くなっている・・・、
丸くなって・・・いる、
・・・。

――え?
いねえよ。

がばっ、と飛び起きる。

「とっく・・・はるこ?」

――いねえよ。

慌ててパンツを探す。
いて。何か踏んだ。
どこだどこだ。あ、あった。
時計の針は・・・、6時6分。
・・・縁起わりー。ダミアンかよ。
まさか、まさか。
まさかまさかまさか。
やめてくれ。

居間。洗面所。バスルーム。
トイレ。玄関。
外廊下・・・、さむっ。
いねえよ!

お、置手紙は・・・?
・・・。

ねえや。そんなもん。
電話・・・!
――番号、まだ聞いてなかった・・・。

そうだ、カンタンテだ。カンタンテ行け。
シャツシャツ。服着ろ、服。
服、服・・・あれ?
・・・。

何でだよ。

何でだよ・・・大前春子。

昨夜はあんなに・・・愛し合ったのに。
お前の細い肩がいじらしくて、いとおしくて。
壊れ物みたいにして抱きしめたのに。

お前の甘い声が耳をくすぐるのを、
お前の小さな手が俺をいとおしむのを、
お前の唇が柔らかく俺を包むのを、
こんなにはっきり覚えてるのに。

お前の涙が俺の頬を濡らしたのを、
お前の傷口がどこにあるのかわからなくて
めくら滅法手当たり次第に口付けたのを、
お前の全てが俺にすがりついて離すまいとするのを。

俺はきっと一生、忘れられないっていうのに。

お前には聞きたいことがいっぱいあったのに・・・、
――俺じゃ、だめだったのか?

シャツがない、シャツが。
クローゼットを開けろ。
やっとの思いで羽織ったシャツの、ボタンを留めようとして
・・・ベッドに力なく腰掛ける。

しっかりしろ、東海林武。
思い出せ。相手はインベーダーだ、鉄の女だ。
この程度で泣かされ・・・いや、負けてたまるか。
カンタンテへ行け。まずはそれからだ。
ボタンを留めろ。
1つ。2つ。3つ・・・。

――さわ、と風が吹いた。

そよ風が俺の耳を撫でた。
いや違う、女の声だ。

「起きたの?」

ベランダから大前春子が入ってきた。
俺のミューズ。俺の魔女。
俺の・・・とっくり。

「どうしたの?」

たぶん俺は今、ものすごいアホ面をしているに違いない。
大前春子は俺のワイシャツを着て、
朝の光とさわやかな風を受けて立っていた。

「泥棒。服返せ」

俺はあいつを抱きしめた。

服は返せよ。
――身も心も、いくらでもくれてやるから。






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