冬の夜の夢
東海林武×大前春子


バスが次第にスピードを落とし、いつものバス停に滑り込んだ。


今日はいろんなことが有り過ぎた・・・。
イベントの失敗から始まって、取引先への謝罪。

イベントの失敗の一端であるあの女との口論。

まさか、責任を感じて、あの残業をしないとっくりが来なくてもいい
と言っているのに謝罪へついてくるとは思わなかった。

そしてあのお産事件・・・。

正直、なんでもできるとは思っていたが、まさか助産婦の資格まで
持っているとは・・・さすがにタマゲタ。

感動もしたし、取引も感謝されこそすれ取り消しにならなかった事
で助かった。

でもって・・・赤ん坊を見るアイツの笑顔に思わず見惚れてしまった。

「キレイだったな・・・」

あの優しい笑顔を思い出し思わずつぶやく。

今日はとっくりの誕生日

直帰を許されなかったとっくりは自分と別れ、一足先に社に戻っていった。
今頃はケンちゃんの企画したサプライズバースディパーティに出席して
るんだろう・・・さすがのとっくりも自分を祝ってくれるんだから
ケンちゃんたちに付き合うんだろう。

だから、俺も似合わない花を買って社に急いでいた。

俺から花を貰って面食らったとっくりの顔を想像すると自然と口の端が
緩む。

「さびぃな・・・」

すっかり暗くなった空を見上げささやかな花束を持って俺はそのバスの
タラップを降りる。



そして、今いる筈のない人物・・・大前春子が涙を流して、バス停のベンチ
座っていた。
とっくりが乗る筈だったのバスはまたゆっくりとバス停から離れていった。

「・・・なに泣いてんだ、とっくり」

俺は意を決してとっくりに近づいていく。

とっくりの肩がびくりと震えた。

声も出さずに、こんな寒空の下、一人で泣くなんて・・・何があった?

「パーティーに出なかったのか?」
「・・・・・・」

とっくりは無言のまま握り締めていた、見覚えのある赤いカードを
カバンにしまい、涙を拭うことなく立ち上がった。

俺は抱きしめて慰めてやりたい衝動を堪えて、とっくりの肩に手をかける。

「なにかあったのか・・・なぁ?」
「・・・東海林主任には関係ありません」

とっくりはバスを待たずに俺を拒絶するように歩き出した。

だが気になって仕方のない俺はとっくりの後をついていこうとする。

「・・・ついてこないでっ!!」

先を歩くとっくりが俺を振り返りもせずに言う。

「・・・ついてくるなって言っても、泣いてるお前をほっとけるかよ」

走ってとっくりの前に立ちふさがった。


「・・・・・・」

涙が滲む瞳で俺を睨む。
俺はため息を一つついて、とっくりにやるつもりだった花束を無理やり
押し付けた。
案の定面食らったように、とっくりはその花束を思わず受け取ってしまったようだ。

「それやるから、泣き止め・・・、じゃあなっ!」

俺は赤くなった顔を隠すためにその場から走り去った。

とっくりは、俺のことが嫌い・・・なんだろうな、落ち込む現実だけど。
でも、俺はなんだかんだ言っても、とっくりが気になってしょうがない・・・、
というか好きだ。
照れからとはいえ、泣いている好きな女を一人残して消えてしまったというのは
自分的にあまりにも情けない気分だ。

とりあえず、パーティーでなにかあったのか聞くためにケンちゃんに電話
をいれる。

ケンちゃんから聞いた事の顛末は、あの涙とは結びつかない・・・。


「いったいなんなんだよ・・・・気になるじゃないか」

俺はイライラしながら、夜の道を全速力で走った。




カンタンテへ向かって・・・。



息を切らして、カンタンテの前までたどり着いた・・・、とっくりが帰っているか
どうかも分からないのに来てしまった。
乱れた息を整えるために立ち止まって深呼吸を何回かくりかえして、
意を決して扉を開ける。

独特の小気味のよいリズムを刻むギターの音・・・

「あら、いらっしゃい」

人生経験豊富そうな女主人がにっこりと笑って俺を出迎えた。

「東海林さんでしたわよね・・・こんばんわ」

女主人に導かれて、春子が座っているカウンター席へと案内され、一つ席を
空けて腰掛けた。

「いつも春子がお世話になってるみたいで」

といいながらサービスだといってグラスワインが出された。

女主人への礼もそこそこに気になって仕方がないとっくりの方に眼を向ける。

とっくりは俺が来たことに気づいていないのか無視をしているのかわからない
が、カウンターにつっぷしてままで顔をあげようともしない。

「おいっ!とっくりっ!!!・・・・」

とっくりの態度にムッときた俺は声を荒げてとっくりの意識を自分に向けさせ
ようとした。

「・・・今日は春子に用事だったのね、うふふ、でも春子ったら帰った早々
水と間違えてウォッカのストレート一気飲みしてつぶれちゃったのよ」
「はぁ・・・」

とっくりらしくない失敗に気の抜けた返事をしてしまった。

「ドジでしょ?・・・ホントはこの子、不器用で寂しがりやなの」

とっくりに対する形容詞とは思えない言葉・・・。
そして女主人が母親のような優しい顔でとっくりの頭を撫でた。

「お願いがあるんだけど・・・よろしいかしら?」

何か思いついたように女主人は俺の顔をみた。

「春子の部屋までこの子連れてってあげてくれないかしら、ウチの息子
今、出払っちゃってて」

そうお願いされて、今俺はとっくりを抱きかかえて、階段を上っている。

「・・・軽いな」

エレベーターで支えたときは憎まれ口で「重い」といってやったが
実際とっくりの体は細くて、フラメンコをやっているせいか程よく筋肉が
つきしなやかだ。
さわり心地がいい体。

「・・・・・・なに考えてるんだ俺はっ!」

一瞬浮かんだ不埒な考えを振り払うように頭を振る。
そして女主人に言われた部屋に入りとっくりをベットに寝かせてやった。

アンティークのような古ぼけた家具とこ難しい本・・・。

その中に愛らしい趣味の良い小さいランプが一つ
横に置いてあるマッチで蝋燭に火を灯してやると、ほの暖かいオレンジ色
が薄暗い部屋に浮かんだ。


部屋の中をじっくりと見回すと、机の上にあるものに眼が止まった。

簡素な机の上に花瓶に丁寧に生けられた花・・・、そして自分も書いた
とっくりへのバースディカード。

てっきり捨てられてるんじゃないかと思っていた・・・。

パーティも花も、カードも迷惑なだけじゃなかったと錯覚してしまう。
なにげなくカードを手にとって広げたら水でもこぼした様に、真ん中が
ところどころ滲んでいる。

「あっ・・・・」

瞬間、悟った。これを見て泣いていたんだと。
俺の心に温かいものが満たされていく。


「・・・素直じゃねぇなぁ」

すやすやと眠るとっくりの頬を撫でる。

「・・・ん・・ぅん」

その感触がくすぐったいのか、とっくりは甘い吐息を漏らし身をよじる。



やべぇ・・・変な気分になってきた。
さっき振り切ったはずの不埒な考えがムクムクと・・・・・・

「あぁーーーっ!俺は何を考えてんだっ!!」


俺は赤面しながら、クルクルな髪の毛を掻き毟る。

この赤いじゅうたんがいけないっ!!
赤は人を興奮させるって言うからな、だからだっ・・・うんうん。

変な言い訳ばかりが頭に浮かんでは消え・・・、そして俺は無防備な唇へと
吸い寄せられていった。



酔っ払って寝ている女の寝込みを襲うなんて・・・最低だ、そんなことは
しちゃいかん。蝿以下の生き物に・・・いや、生き物か?
とっくりにばれたらゴミくらいに言われるんじゃ・・・・・・。

とっくりが起きなかった事を神様に感謝してゆっくりと後ろに下がろうとしたら
手が伸びてきた?!

「うぉっ!!」

俺はとっくりにネクタイを掴まれて、引き戻された。

・・・・・・蝿以下、ゴミ決定か?

万事休すとばかりに俺はとっくりの罵りを待った。

「「・・・・・・」」

でも覚悟していた罵りはなく、ネクタイをつかまれたまま互いが無言だった。
視線が絡み合う。

澄んだとっくりの瞳から涙が一滴。

「・・・・・・いか・・ないで」

ネクタイがさらに強い力で引き寄せられ、バランスを崩してとっくりのベットに
倒れた。



俺の聞き間違いか?
「行かないで」って言ったか・・・?、
それとも「烏賊ないで」か?・・・関西弁も達者だなとっくり・・・
軽くパニックを起こしてくだらないギャグが頭の中を駆け巡る。


とっくりはそんな俺の乾いてすこしかさついた唇を指でゆっくりとなぞった。
スローモションの映像のように・・・。

そしてもう一度・・・

「行かないで・・・」

ゆっくりととっくりが自分の上にのしかかり、対照的なしっとりとした
唇を重ねてきた。

互いの蠢く舌が絡み合う。


酔っ払っていてるからだ・・・・・・、
じゃなければとっくりが自分からこんなことをするはずはない。


自分の中の冷静な自分がいる。

だから・・・、このまま進んではいけないと忠告する。

固まっている俺の背中にとっくりの細く白い腕がまわされた。
とっくりの甘い吐息が・・・・・・、

俺の理性を壊した。

背中を撫ぜ、髪を撫でているとふわりと漂う
とっくりの肌の甘い香りにくらくらする・・・
頬や額にキスを降らしてした後、
少し顎を上げさせ深く口付けた。
少しキツいくらいに、舌をからめて追い回す。


白い足が無造作に投げ出された。

やばい。恥ずかしさで顔が熱い・・・


潤む瞳をゆるくあけたとっくりを見てると、自分が抑えらるはずがない。


落ち着け自分と深呼吸をして、 口付けながら服を脱がそうと手をかけた。
彼女の手が俺の手に掛かり動きを止めたそうにしている。

・・・今更止まるわけないだろう?

耳たぶから首筋にかけてを軽く舌でなぞったら、
下着だけのとっくりの体がぴくり、と震えた。
胸元にもたくさんのキスを落としながら
ブラジャーの上からそっと小ぶりな胸を掬い上げると
とっくりが耐え切れずに口を手で覆う。

「我慢すんな・・・・・・」

ブラジャーを外して、自分の両手でとっくりの両手首を掴み
顔の横に止めつけた。
あまり体重をかけないようにのしかかり、
唇へのキスと首筋、胸元へのキスを交互に繰り返す。

「・・・んぁん!」

時折キスマークをつけながら、意外と豊かだった胸の小さな果実を口に含むと
とっくりが我慢できずに声を上げた。

「可愛いな・・・おまえ」

耳元で囁く・・・・・・、くすぐったいのか、体をよじるようにくねらした。

その姿にますます煽られる。

身体も頭の芯が溶けていくようだ 。



しつこく舌でなぶるように乳首を吸い上げ甘噛みしてやる。
俺の唇が・・・舌が体をなぞる度に甘い声をあげ、素直な反応を返す
とっくりが愛しくてたまらない。

これが一夜の夜の夢だとしても・・・。
俺は現実にしてみせる。

漏れ溢れる声に段々と熱が帯びてくる。

とっくりは気持ちがいいのか
快楽に正直に先端の尖った胸を突き出し俺の愛撫を強請る。



「あっ・・・しょ・・・うじしゅに・・・・・」

酔っ払って俺のことを認識しているのかどうか不安だったがどうやら
認識しているようだ。
でも役職で呼ばれることがもどかしい

「・・・武だ、武って呼んでくれ」

「・・・た・・・けし」

とっくりが俺の名前を何度も呼ぶ声と、微かな喘ぎ声が愛しくて、
本当に頭がおかしくなりそうだった。

余裕なく俺は力任せに自分のネクタイを緩め、シャツを脱ぎ捨てた。

今、とっくりのすべてを自分のモノにできる



それがどんな卑怯な手であれ、酔っていてもこの狂おしい時間をとっくりが
忘れられないように、しばらく消えない痕を・・・、見るたびに俺に抱かれたことを
思い出すように、きつく白い肌を思う様吸い上げて赤い痕を散らそう・・・。

かまうものか。

とっくりに触れられない方がどれだけ苦しいか。

もうすぐ目の前から消えてしまうのだから・・・それまでに消えない絆を作りたい。

失いたくないんだ・・・。






「…あ…ん…」

潤んだ目のとっくりが俺を見上げる



「…っ……ひ…んんっ…ふっ…はっ…あ・はんっ…」

ベッドの上でとっくりを抱きかかえ後ろから抱き締める形で座らせ
傷一つない白い背中をゆっくり味わう
首筋から背中から胸元から…
赤い花びらがちりばめられたように無数のしるしをつけ
後ろから回した手で乳房を包み込みながら休む事なく頂上を責め立てた。



荒い息とともに下半身が少しずつうごめき出した
もどかしげにせつなげに・・・俺を欲しがっている。


下肢に手を伸ばすと熱く蕩けた蜜が俺の指先を濡らした。

ゆっくりしなやかな両足を持って広げる・・・、 赤くぷっくりと充血した
突起が物欲しげに主張し、蜜を溢れさせている秘所は物欲しげだ・・・。
そして俺はなまめかしい場所にくちづけ、 舌を差し込んでゆっくり抽送する

蜜を啜り…なめ回す

「あああっ…ひぁっ…やっだっめ……ぇぇっ…」



やがて小さな真珠のような突起を探り当て
じらすようにそのものを刺激せずそのすぐ回りをゆっくりねぶりあげてやる。

「んーっ・・・・ぁぁっ」

指を噛み頭を振って啼くとっくり・・・・・・

一番感じたい所に触れてもらえないのが
苦しいようなせつないような・・・、じらされて眉間にしわを寄せ顔を振り
腰は俺の舌先を追いかけてせつなげによじれる。

いじわるはこれくらいにしてやろう・・・と、とっくりが欲しがっていた場所に
ちゅっ…っとそれを吸い上げ刺激を与えてやる。

「ひゃっんっっっ」

思わずとっくりが俺の頭を両手で押さえ込んだ。

「いっちゃ・・・・ぁぁ、は・・なして」

俺を離さないのはとっくりだ・・・。  


いってしまえとばかりに俺は舌で敏感な突起を思い切り嬲ってやる。

そしてかん高い声をあげてとっくりがしなやかに背をそらせて達した。

息が荒く上がってしまってるとっくりを見下ろして
自分がこんなにも惹き付けられ、こんなにも狂わされるのかと不思議になる。

でももう焼けるように胸が苦しい
とっくりをこうやって啼かせる事ができて…からだが震えるくらい嬉しくてたまらない

くちづけを一つ・・・落とした

「春子・・・・・・」




まだもうろうとしてる彼女のなかに 俺は自分のすべてを突き立てた



「ひっあ・・・・んんっ!!」

身体全部を密着させて
どの一部ももう絶対はずれないようにして激しく突き上げる。


「・・・は・・・るこ」

とっくりの顔が切なげに歪む。


つながったままとっくりの両足を抱え上げてじわりともっと奥までじぶんのそれを突き
刺さした

「ひぃぁっ・・・・・・ぁぁぁあっ!」



そしてそのまま力をこめて揺さぶりあげるととっくりが悲鳴のようなあえぎ声を
絶えず漏らす。

声をあげるその口を無理矢理くちづけて塞ぐ
とっくりが俺の首にしがみついて自分からむさぼるようにくちづけてくる

その間も打ち付ける腰に反応して
もう俺の髪をぐしゃぐしゃにしてかき抱きいた。


もうどこも全てとっくりと溶け合っている

搾り取られるような錯覚
堪え切れないくらいの……絶頂感……

唇を離す

「ふはぁっ…はっ…あぁあっ…ひぁっ」


うわ言のようにとめどなく声が洩れる……
しがみつく手は強く…また弱く

ふわりと目があった
潤んだ…目
ぼんやり焦点のあわなくなったような目が瞬間優しく笑った

「・・・た・・・けし」


「・・・・は・・・っっる!!!」

その瞬間
込み上げる愛しさをすべてを放った・・・。

シーツの上
ついさっきまで美しい獣のようなっくりが寝息を立てている。

帰ろうかと思ったけど・・・やめた。
このまま朝までとっくりと一緒に過ごしたかった。

自分も布団に潜り込み、とっくりを抱きかかえるようにして横になった。
でも寝るのがもったいないような・・・このまま寝顔を見ていたいような。

つややかなとっくりの髪を何度も・・・何度も撫でる。

「気持ちいいな・・・」

髪の感触が気持ちよすぎて手が離せない。



空が白みはじめる・・・。
もう二時間もしたら一日の幕開け



朝になってとっくりはどんな反応をするんだろう。

拒絶はさせない・・・絶対に。

「大前春子・・・覚悟しろよ」

くちづけを一つ、とっくりの頬に落として俺は眠りについた。


・・・おまけ・・・

翌朝。
アラームがなりとっくりは布団の中で大きく伸びをして目を覚ました。
一足早く起きていた俺はその様子をじっと見つめる。

まだおれの存在には気づいていない。

「おはよう」

気づかれる前に、俺はとっくりに話しかけた。

その瞬間、とっくりの体がビクリと跳ね、俺の存在をようやく認識した。

「・・・・・・」

とっくりは無言で俺を凝視する。
やはり、昨日のことは覚えていないようだ・・・・・・。
覚悟はしていたが、落胆する。

「覚えてないみたいだな・・・・・・昨日のこと」
「・・・・・・」

あまりの衝撃でとっくり言葉を忘れちまったようだ。

「思い出せよ・・・おまえが誘ったんだからな」

さらにとっくりにとって衝撃の事実を伝えてやる。

「やっぱり、お前も俺のこと好きだったんだな?」

これは未確認だが、とっくりを手に入れるため、カマをかけた。
営業でもよく使われれる「嘘も方便」ってやつだ。

これで引っかかってくれれば楽なんだが、そう簡単にはいかないだろう。
肯定も否定もしない無言のままのとっくりを尻目に俺は、身支度を整えた。

「じゃあ、あとで会社でな」

答えを待たずに手をひらひらとさせとっくりの部屋をでた。

ばたん・・・、扉を閉める。

そして、せこいと分かっていたけれど、その扉に聞き耳を立てた。

聞こえてきたのは・・・・・・、

「・・・私としたことがっ」

思わず笑いそうになるのを堪えて、足音を立てないように階段を下りた。

俺はカンタンテを後にして、早朝の冬の街を急ぐ。
会社で俺に会ってとっくりがどんな顔を向けるのか想像しながら・・・・・・。

タイムリミットは後1ヵ月半・・・・・・

「絶対に大前春子を手に入れてやる」と俺は心に誓った。






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