冬の夜の夢 2
東海林武×大前春子


「私としたことが・・・」

私は朝からこの言葉を何回つぶやいただろう。
そしてまた・・・

「私としたことが・・・」

今日は朝から頭痛が酷い・・・多分二日酔いだ。
間違えてウォッカを飲み干して意識不明だったということらしいが
記憶にない。

それに加えて衝撃的な目覚め・・・。

なにがあってどうやって・・・・東海林が隣に寝ていたのか!!
お互い裸で、腕枕までされていたし、東海林いわく「誘ったのは私」
らしい・・・。

しかも・・・とんでもないことを口走った?

頭痛が一層酷くなった。

そしてため息とともにまた言ってしまった。

「私としたことが・・・」


先に出社した東海林に遅れること20分・・・
いつも颯爽と風さえも味方につけて出社する春子の足取りは重かった。

身構えていたのに拍子抜けとはこのことを言うのだろうか・・・・・・
というくらい会社で東海林は春子に挨拶した以外話しかけてくることは
なかった。
就業時間を迎えても東海林が毎日のように吹きかけてくる挑発すらも
なかった。

さびしい・・・・というわけではない。
少し物足りないだけ。

「・・・仕事がしやすくていい」

一連の出来事で混乱した春子の頭の中が少しずつ整理されていく。

かすかに残る倦怠感は二日酔いのせい・・・セックスのせいではない。
自分に言い聞かながら、朝と変わらない重い足取りで家路についた。

疲れた体が自室のベットに吸い込まれるように倒れ込んだ。

バフン・・・・勢いよく倒れこんだせいで布団に孕んでいた空気が
押し出される。

いつもと違う香りがする・・・。
自分の嗅ぎなれた香りではない・・・・・・けして嫌いではない落ち
着く香り。
その香りをもっと深く感じたくて春子は胸いっぱいにその香りを吸い
込む。


「・・・!!」

ふと、その香りの原因に思い当たり、飛び起きるように布団から離れた。

・・・・・・東海林の香り。

春子の顔が真っ赤に染まる。

鮮明に忘れていたことが春子の脳裏に蘇った。


あわてて春子はシーツを剥いぐ。
この香りを消さなければ、明日からまともではいられない・・・、東海
林の前では。

シーツやカバー類を洗濯機に放り込み、東海林の手が・・・唇がたどった
自分の体を抱きしめ、その場にへたり込んだ。

少しでも頭を冷やさなければ・・・・・・。
這う様にして、バスルームへと入り、服を脱ぎ捨てる。

そして、春子は鏡に映った自分の姿に絶句した。

全身にちりばめられた赤い情交の後・・・、首筋や胸、そして足の付け根にまで
東海林が触れた痕跡。

全身の血が沸騰したように熱い。

ふらつく体でシャワーのコックを捻る。

冷たい雨のように冷水が春子の体に降り注いだ。

・・・・・・忘れなければ。

一心不乱に体に残る暫くは消えそうもない痕を、消せないと分かっていても擦る。
春子の体が死人のように冷え切る。
感覚がなくなり始めて、シャワーを止めた。


春子は冷え切った体のまま自室に戻る。

目の前にはベット・・・
東海林と寝た・・・、東海林の香りの残るベット。

「・・・・・・」

春子はそのベットをじっと見つめ、ソファに腰をおろした。
そしてそのまま毛布に包まり妙に冴える眼を無理やりに閉じ眠れない夜を
越えて、朝を迎えた。

それから一週間が経とうとしている。

なにか春子の中で変わったことといえば・・・・・・、
ベットで眠ることが出来なくなり
フラメンコの衣装が体に残る痕のために着ることができなくなり

そして・・・、会社での東海林との口げんかのような会話がなくなったことだけ。

もちろん、会社外で東海林と接触することもない。

だから、ついつい眼で追ってしまう。

無意識に・・・・・・。


さびしい?・・・・・・そんな分けない。
せいせいする?
目の前にいない東海林が・・・、眼を閉じるとちらつくクルクルの天パーがうっと
おしくてしかたがない。

あの天パは、体だけが目的だったんだ
一回できれば、飽きて切り捨てる正社員・・・・・・なんだ。
エラそうな事を言っといてアプローチをして、この結果だ。

春子は自分の中で無理やり結論づけた。
東海林を意識する自分がおかしくて滑稽で泣けてきた。

認めたくはない・・・、認めることはできないけれど・・・、
春子は東海林のことが好きになっていたことに気づいた。

―――――カンタンテ

玉ねぎを刻み、具財を炒め米を加えてさらに炒めサフラン入りの
スープを加え煮立たせオーブンに入れた。

パエリアがオーブンの中で香ばしく炊き上がる間に春子は、部屋へと
階段を上る。



最近の日課で春子は服を脱いで鏡に裸体を映す。
そこに映るのはベットに寝ていないため、疲れが消えていない少しやつれた体と
そして一週間だった今、体に色濃く残っていた赤い痕が消えた体。

それが・・・、消えてしまったことがどうしようもなく寂しい。

春子はこの一週間着ることが出来なかったフラメンコのドレスを身に
纏った。
食べて踊って、全てを忘れるために・・・・・・。

身支度を終えるとパエリアが出来上がる頃合をみて店へと降りていく。

オーブンを開け、香ばしく炊き上がったパエリアを取り出し、一人分を
皿に盛り、春子は店のカウンターの一角に腰を降ろした。

「良かったら、残り食べてね」

その言葉は後ろでギターをかき鳴らすリュートに向かって言ったはずだった。

「じゃあ、それっ俺が食ってもいいか?」

思ってもいない方向から、思っていない人物の声が春子に投げかけられた。

「なっ・・・!!」
「よおっ」

・・・東海林だった。
まだ客が入っていない開店したばかりのカンタンテの片隅で壁に寄りかかり
腕を組み春子を見ていた。

「俺、腹減ってんだよ、それ食わしてくんねぇか」

春子の座るカウンターへと近づいてきた東海林は春子の隣に座り、カウ
ンターに置いたパエリアを指差した。

「・・・・・・」

無言のままの春子をよそに東海林はパエリアを食べ始める。

「うめーなっこれ、あんた料理も得意なんだな」

ガツガツと頬張りながら、笑顔を見せる東海林に春子は胸の高鳴りを感じる。

「なぜ・・・ここに来たんですか東海林主任」

春子は動揺を隠して東海林に問いかける。

「一週間・・・たったな」

東海林はあらかた食べきったパエリアパンに目線を残したままつぶやいた。

「だから・・・、何なんですか・・・・・・」
「・・・・・・痕消えちまったみたいだな」

東海林の目線が春子に移った。
そして東海林の手が・・・指先が春子の痕が付いていたであろう首筋に
触れる。

――――切なくて・・・嬉しくて胸が痛い

再び東海林に触れられたところが熱を持ったように熱く感じる。
それを春子は認めるわけにも、悟られるわけにもいかなかった。
だから・・・・・・

「触らないでっ!!」

東海林の手を振りはらった。
切なそうな東海林の顔を見ていたくなくて、春子は突然立ち上がり、その場から
逃げるように飛び出した。
東海林の制止の言葉も聞こえないフリで階段を駆け上がり自室へと逃げ込んだ。

自分の中のなにかが壊されそうで・・・、怖くて・・・、東海林が愛しい。

扉の向こうから、ゆっくりと階段を上る音が聞こえる・・・。
そして、優しく叩かれたノック・・・

「とっくり、ここ開けろ」
「お帰りください・・・」

一言をいうのが精一杯で春子は床にへたりと座り込んだ。
次の瞬間ガチャリとドアノブが回る。

「いやっ・・・」

春子は何かが壊れる覚悟をした。

ゆっくりと扉が開かれ東海林が部屋へ入ってくる。
そして座り込んだ春子に目線を合わせた。

二人の視線が絡み合う。

「一週間・・・あんたは俺のことだけ考えていた筈だ」
「・・・・・・」
「痕が消えるまで少なくとも俺を感じてた筈だ」
「・・・・・・」

東海林は春子の肩をつかみ揺さぶる。

図星だ・・・、春子は一週間、東海林のことが頭から離れず、痕をみると
東海林の唇を思い出していた。

「・・・・・・一回やれば気が済んだでしょ」

震える唇で春子は心にもないことを東海林に問いかける。

「ふざけるなっ!!」

東海林はカッとして拳で壁を殴りつけた。

「俺がどれだけあんたを好きか・・・あんた解かんないのかよっ!!」
「・・・・・・わからない」

春子の瞳から涙が零れ落ちる。

「わかってくれよ・・・」

東海林が春子をきつく抱きしめる
ふわりと東海林の香りが・・・春子を包んだ。

「・・・・・・好き」

そして、春子は肩越しにコクリと頷き聞こえるか聞こえないかの声で
つぶやいた。



そのまま抱き合ったままベットへと二人倒れこむ。



東海林はゆっくりと春子のドレスのファスナーを下げ白い肌をあっさりと
さらけ出させた。
消えてしまった後の痕跡を探すように春子の体に指先を滑らせる。

そして春子は東海林のシャツを肌蹴させると、今度はズボンのジッパーに手を掛ける。

「と・・・とっくりっ!」

春子は長い髪をかき上げ、耳へとかけた。それから下着の中に隠れていた
東海林のモノに手を添えて、 いきなり美しい唇で咥えた。

「待て、おい」

東海林が逃げないようにと後ろ向きになった春子は、丸い腰で仰向けになった男の
胸を押さえつけ、 東海林自身をしゃぶり出した。
少しざらついた舌の感触が、東海林を刺激する。

「やめろって、オイ」

「・・・今度は私があなたのことをどれだけ好きか、思い知らせる」

くすくすと笑いながら、春子は東海林自身を音を立てて吸い上げ、顔を動かして
上下に扱く。
懸命に愛でようとしているかのように・・・。

(……くっ! 俺は何をされるがままになっているんだ!)

春子の身体を押しのけようとするが、春子がそれを許さなかった。
そして東海林の甘い反撃が始まった。

「はぁ・・・・っ」
「仕返しだ」

東海林が、春子の下着のの中へと手を差し入れていたのだ。

「ん……いぁっ」

湿った下着を指先で撫で上げていた。触るか触らないかのぎりぎりのラインで秘処に触れていたかと思うと、
春子のショーツをずり下ろして、指を少しずつ入れた。

「ん・・・・ぁぁあっん」

春子の動きが完全に止まった。

「どうしたんだよ、思い知らせるんだろ?」

力が抜けたのをいいことに、東海林は春子の腰を持ち上げ、彼女の花芯に唇を寄せた。

「思い知らせてくれよ」
「はぁっ・・・・・・や、やだっ、ずるいっ」
「腰を突き出して、とっくりが誘ったりするからだろう?」

舌を差し入れ、れろれろと掻き混ぜる。柔らかい微細な感触に、春子は首を竦めた。

「いぁっ、はぁっ、んぅ」
「・・・なぁ、早く思い知らせてくれ」

東海林の挑発に、春子のスイッチが入った。
覚悟しなさいとばかりに手のしごきを加え、深くくわえ込み舌先で一番感じる部分
をちろちろとくすぐり東海林を陥落させようと 丁寧に丁寧に愛しい男を絶頂へ
導こうとする。
東海林の震える吐息を聞いて、春子はうっとりとした表情を浮かべた。

顔を赤くし涙目で、快楽を追い求める春子。
東海林も本能で動いているのか、春子の花芯に喰らいつく。

「こんなに、物欲しそうに涎を垂らして・・・・・・」 
「あぁんっ、やっ・・・、 そんなに舐めな、いでぇ、なに、ぁっ、ん」

東海林は、春子の腰を自分の顔の前に抱え込んだ。

「ひぃぁっ……な、に?」

春子の赤く腫れ上がった肉芽を指で揉み出し、ゆっくりと秘唇へと指を差し入れる。
舌よりも強い刺激に、春子は首を大きく振った。

「だ、だめ、そんなの・・・おかし・・・くなっちゃ・・・・」

春子は、突き出した腰をゆらゆらと動かす。
東海林を振り返り、上気した顔で唇を噛んで耐えている。


「正面向いて、俺の上に座って」

あくまでも、東海林は春子上位で攻めたいようだ。
春子の思いを思い知るために・・・・・・。
春子の身体を引き寄せた。

「跨って」
「・・・・・・」
「俺に思い知らせるんだろ」
「でも、こんなの」

春子はぎゅっと目を瞑り、天井を向いた東海林のモノへと自ら腰を下ろしていった。
先端が入った時点で、春子の動きが止まる。

「俺は何もしないぞ」

春子は東海林の手を握り締めながらさらに身体を沈めこみ、半ば辺りのとこ
ろで腰を回した。

そしてゆっくりと春子は東海林の上で腰を打ち下ろした。

「はぁっん?! あっ、ぁあっ」

快感に息を呑む。そして東海林に思い知らせるように腰を動かした。

「いっあぁっ、あっ、・・・・・・んぅっ、あっ、あっ」

だんだんと我を忘れて腰を振る。
東海林はたぷたぷと上下左右と揺れる豊かな春子の胸から形が変わるくらい揉んだ。
そして時折優しげに腰から背中へかけて撫で上げる。

「ひぃあっ……」

春子の腰の動きに合わせて、背中に何度も手を這わせてみる。
春子は背中が弱いのか背中に手が行くたびに今までとは違う声をあげた。
春子の弱点を見抜いて、東海林はにやりとした。
そして東海林はベッド脇に生けてあった一輪の花を抜き取り、その花で春子の背中
をくすぐる。

「や・・・ぁぁ、くすぐった・・・んっ」

春子は東海林の胸に倒れこんであまい吐息を漏らした。

「・・・今度は俺の番だな」

東海林ははベッドの端に座り、春子を正面に抱えたままピストンを繰り返す。
春子も角度を変え、東海林のリズムに合わせてお互い高みへと上ろうとしていた。。

「はぁっん……うぅんっ……あぁっ、ああっ……」

東海林は愛しげに春子の胸の谷間にキスをし、また新たな赤い痕を散らす。。

「えっ? あっ」

一瞬強く抱えられていた東海林の腕がはなされ春子は東海林にしがみ付いた。

「ココも触られるの好きみたいだな」

東海林は動きを止め、花を背中にさわさわと添わせると同時に、硬く震える乳首に
舌を這わせる。
唾液を染み込ませるように、胸の果実に舌を巻きつける舐る。

それだけで春子の中が東海林を締めつける。

「あんまり締め付けるなよ・・・すぐいっちゃうだろ」

「ぁっ、ぁあっ・・・無理ぃっ」

東海林のふわふわな頭を抱え込むようにだきしめ、春子は根をあげる。

「無理じゃないだろ・・・」

東海林は、春子の腰を引き寄せ、ベッドのスプリングを利用してさらに大きく突き上げた。

「なっ・・・、はぁ・・・・ん」

さらに東海林に打ち付けられる快感に春子はどうにかなってしまいそうだった。

カーテンを閉めずにいた窓ガラスに激しく睦み合う姿が映し出される。

「好きだ・・・好きだ」

東海林が突き上げる度に囁く言葉に春子は何度も何度も頷く。

「は・・・・わた・・・し・・・もっ」
「んっ」
「やぁっ」

突然、春子は東海林の上でがくがくと震えだし、絶頂を迎えた。。
同時に東海林も、ぶるりと身を震わせ果てる。

放心したように二人はベットに横になった。
東海林は汗で張り付いた春子の長い髪を優しく梳いてやる。

夜明け前。

「何故・・・?」
「なに・・・?」

春子は気だるそうな顔をしながらも強い瞳の色で東海林に問いかけた・・・。

「どうして・・・一週間、私を避けてたの」

「べつに・・・避けてたわけじゃねぇよ」

頭をかきながら東海林はため息をついた。

「じゃぁ・・・何?」

更なる春子の問いかけにバツが悪そうに東海林は布団に突っ伏した。

「・・・・・・お・・・だ・な」
「・・・聞こえない」

春子がイラついたようにピシリと言う。

「・・・怒るなよ」

意を決したように東海林は切り出した。

「・・・押して駄目なら引いてみようと思ったんだ」

今度は春子が気の抜けた表情で、布団に突っ伏した。

「・・・このバカ天パ」

この一週間の気鬱はなんだったのか・・・腹いせに東海林の髪の毛を引っ張る。

「いでてっ・・・怒るなっていっただろ・・・、俺も辛かったんだから」

口を尖らせてボヤく東海林
不機嫌そうな春子

二人は顔を見合わせて笑い出す。



もうすぐ春・・・、肌寒い季節を越えても二人には別れはこない。
会社を去っても東海林の腕の中に落ち着きたいから・・・・・・。






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