東海林武×大前春子
![]() 「おい!待てよっ!!」 東海林はトラックのドアに飛び掛る。 里中が慌てて何か言ったようだが、無視した。 トラックのドアには鍵が掛かっていなかった。 スピードを上げようとするトラックの助手席によじ登るように乗り込む。 春子はチラリと東海林を一瞥したが、すぐに正面を向き、運転に専念していた。 後方では里中が両手を思いっきり振っている。 「待て」と言ってるのか、それとも「仲良くいってらっしゃい」と言ってるのか… ――数時間後―― サービスエリア。 名古屋を発って何時間経ったろう。 二人は熱い珈琲を暖を取るように味わっていた。 ふいに東海林が口を開く。 「…とっくり」 春子は真正面を向いたまま、何も応えない。 「とっくり」 「……」 「いや。春子」 「…何ですか」 その後の反応がないので思わず春子は隣の東海林を見遣った。 東海林が無言で春子を見ていた。 「…何ですか?気持ち悪い」 その一言に東海林は吹き出す。 「いや、本当に戻って来てくれたんだなぁって思っただけだ」 「……」 春子は再び正面を見据え、珈琲を飲み干す。 「…名古屋はそれほど寂しかったようですね。そんな風に言われると改めて気持ち悪いです」 「…っ」 この女は…! 「寂しいとか何なんだよ!!ンな訳ねえだろうが!!!あーあー!やっぱ俺帰るかな!!」 春子はそれには応えず、空になった紙カップを折り畳んで脇のくず入れに突っ込む。 「…メール」 「は?」 「里中主任宛のメール…見ちゃいましたぁ…」 一瞬東海林は硬直する。 「森さん…元気でしょうか」 その一言で全てを理解した。 森の口調を真似ていたのだ、と。 「あ…あ、ああ!!!」 あの電話!! お前か…!お前なんだな!大前!! 今度こそもうクルクルパーマに来た!いやもう頭に来た!! 何か怒鳴ってやろうかと思ったが、いきなり振り向いた春子の顔を見て言葉に詰まる。 何故ならその顔は初めて見る、極上の笑顔だったから、だ――。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |