名古屋から帰ってきたその日にカンタンテにて(非エロ)
東海林武×大前春子


ギイ、と開いたカンタンテの扉。リュートと眉子が覗いたそこから顔を出したのは、スペインに行っていた、というか帰っていた、というか、まあそんな感じの大前春子だった。

「お帰り、春子」
「お帰りなさい、春ちゃん」

ステージの椅子に座ったまま声をかけるリュートと、カウンターから出てきて微笑む眉子は変わらずにあり、春子はほう、とため息を吐いた。

「ただいま」
「三ヶ月経っても戻ってこないから、どうしたかと思ってたよ。ずっとスペインにいたの?」
「んー?……ちょっと向こうにいて、あとは、名古屋」
「ナゴヤ?珍しいね、東京じゃないなんて」
「名古屋といえば、クルクルパーマちゃんは、一緒に来てないのね」
「うん。東京には戻ってるけど、身辺整理が終わってないから」
「あら、東京には戻ってるの?」
「……あ、そっか!ナゴヤって、クルクルパーマが飛ばされたところか。わざわざ行ったんだ」
「……ママ、私、自分に自信なくなってきちゃった」
「何、春ちゃんどうしたの?」
「自分は面食いだと思ってたのに……」
「あら、あらあら、なあに、もしかして、春子」
「春子が指輪付着けてる」
「あー……あ゛ー……」
「……ねえ、春子、クルクルパーマと僕、どっちがカッコいい?」
「リュート」
「大丈夫だよ春子、春子の美的感覚は正常だ」
「バカねえ、恋愛に美的感覚は関係ないのよ。あ、恋愛と言えばね、春子」
「うん?」
「リュート、好きな人が出来たのよ、ね?」
「うん」
「へえー!どんな人?」
「クロイワさん」
「……クロイワ?」
「春子が前にハケンで行ってた会社の」
「……へえ……またアンタ物好……いや私が言えたことじゃないけど」
「ちょっと頑張ろうと思って」
「応援するわ……」
「アリガト。ん、帰って来たばっかで疲れてるカモだけど、どう?春子、一曲」
「ん……、じゃあ一曲」

「あれ、……え、東海林くん?」
「お、おぉ、黒岩匡子!」
「戻ってたの!?」
「おー、めでたく本社復帰ってな」
「うっそ、やったじゃない!え、里中君は知ってるの?」
「おー。ケンちゃんとは割とマメに連絡とってんのよー」
「私にも連絡しなさいよ!全く……え、それで、アンタこれからどこ行くの?マンション?」
「ん?いや……知り合いの店」
「じゃ、方向変わるまで一緒しましょ」
「おう」

カンタンテ。

「アンタの知り合いの店って、此処だったの?あ、知り合いって、大前さん?」
「なんだ、知ってたのか」
「いつだったか森さんに連れてきてもらってねー」
「で、結局お前はどこ行くのよ?」
「私もここに、ちょっと用があって」
「なんだお前なの。お……なんか音がする。まだ店開いてねえのに」
「……リュートくんが弾いてるのかしら」
「……もしかして……」

「こんちわー……」
「今日は」
「あら、まあまあまあクルクルパーマちゃんお久しぶりねえ!それに、匡子さんも、いらっしゃい!」
「お久しぶりです。て、やっぱり、踊ってる。返ってきて早々……元気だな。衣装は着てねえのか」
「あの、開店前にすみません」
「いいのよ、リュートも喜ぶわ。あ、クルクルパーマちゃん。ね、良かったら夜までいらしたら?春子の部屋ならこの上だから」
「あ、はいありがとうございます……でもまだマンションの片付け終わってなくて……お、終わった」
「東海林くん、ね、ちょっと、あれ、大前さん……?」
「ああ、お前は知らなかったっけ?あれ、フラメンコ、アイツの唯一の趣味なんだ。……春子」
「東海林くん……マンションは?」
「いやそれが全然片付かねえの!手伝ってくんない?」
「私は貴方のハウスキーパーではありません!大体まだ整理し始めたばかりでしょう。全く……カンタンテ来てる暇があるなら整理しなさい」
「とかいいながら来てくれる春ちゃんが好きだなあ」
「……言ってろ、馬鹿」
「大前さん……随分印象が……」
「……!?」
「春子も会うの久しぶりだろ?黒岩匡子、覚えてるか?やー、そこで会ってさあ、コイツも此処に用があったみたいなんだよなー」
「……お久しぶりです、黒岩さん」
「黒岩さん、今日は早くからアリガト」
「べっ、別に、貴方に会いに来た訳じゃ、なくて、」

「ハールちゃん、なあ、手伝って?」
「知りません!大体来るなら来るって連絡の一つも寄越したら?」
「したよ、電話!大前春子です。出ません!て言われたよ!」
「……」
「それにさ、一緒に片付ける方が、お互いに一緒に住むって実感沸くと思うわけよ」
「言ってることが変わりすぎ!俺が片付け終わったら呼ぶから、何日かカンタンテでゆっくりしてなって言ったのは誰ですか?」
「そ、そう思ってたのよ?……でも、その、いざマンション行ったらさ、寂しいんだよね……」
「子供か」
「だってお前、お……お前は平気なのかよ」
「平気じゃない。だから手伝うって、あれ程言ったの。でも、どうしても自分でやるって東海林くん聞かなかったじゃない」
「……ごめんなさい、でした……一緒に、片付けて下さい」
「……ママ、しばらくお世話になるつもりだったけど」
「あら、あらあらもしかして、春ちゃん、クルクルパーマちゃんと?」
「うん。あ、でも、部屋は……うん、部屋は、誰か使う人が居るなら、」
「馬鹿ねえ、あそこはずっと、春子の部屋よ」
「ショウジさんとケンカしたときとか、戻ってくれば?」
「そうよ、それに、また踊りに来てくれるでしょう?」
「うん」
「え、ちょっと、東海林くんと大前さん、一緒に暮らすの!?」
「まあ、名古屋の時も俺ンところにいたからあんま変わんねえっちゃあ変わんねえんだけどさ」






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