六花のひとりごと(非エロ)
里中賢介×森美雪


S&F 営業二課

12月3日
今日も寒い。

正社員になってから9ヶ月目。
ようやく落ちついてきた…かな?

私の憧れは、春子先輩。
相変わらず先輩はすごい。
でも、最近あんまり東海林チーフと話してないみたいだけど、どうしてだろう…?

そんなことを考えていると、東海林チーフが急いでフロアに入ってきた。

「賢ちゃん!ちょっ賢ちゃん!」
「どうしたの、東海林さん?」
「部長が、前話してたお見合いの件で話がある、って」
「え?あの話は断ったはずだけど――」

―――主任がお見合い!?
私は気が気でなかった。仕事も手に着かず、会話に耳を傾ける。

「部長、もうそこまで来てるぞ」
「どうしよう…」

「里中、この間の見合いの話だが――」

桐島部長が現れ、里中に声をかけた。

「部長、その話ならお断りしたはずです」
「まぁそう言うな。な?里中。会うだけでも会ってみたらどうだ?」
「はぁ…でも」

見かねた東海林が助け舟を出す。

「あのー部長、里中にはもう恋人がおりまして――」
「恋人?本当か、里中?」
「え、あぁ…はい」

東海林が頷け、というサインを送っているのを見て、里中は話を合わせる。

―――主任に恋人?!


「そうか――それじゃあしょうがないか…。ちなみに相手は誰なんだ?うちの社員か?」
「え、えっと…」

答えに窮する里中。

「彼女です!」

代わりに答えたのは東海林だった。


「へ…?」

指されたのは私だった。

「…君が?」

桐島部長の追求の目が私に向けられる。
その後ろでは、東海林チーフが頷け、とサインを送っている。

「あ、は、ハイ!私、里中主任とお付き合いしてます!」

思いのほか大きな声で答えてしまった。
その声で、私たちの方にみんなの注目が集まった。

「そうかー…。いや、悪かったねぇ。うん。じゃあ、お幸せにね」

部長は主任の肩をポンと叩くと、フロアを後にした。


「いやー…なんとか乗り切ったな、賢ちゃん」
「うん。あ、森君。ありがとうございました。本当に助かりました」
「あ、いえ。お役に立ててよかったです」
「あの、何かお礼をしたいんですけど…」
「え?いえ、そんな…!お礼だなんて」
「そうだ、じゃあ今晩ご飯でもどうですか?」
「え…?」

――え、うそ?!本当に?主任とご飯?
どうしよう

「…あ、予定とかありましたか?」
「いいえ!ないです、予定なんて」
「そうですか。じゃあ今晩」
「はい!」

信じられない。主任と二人でご飯なんて―― 神様、ありがとうございます!

――――

午後8時

いい雰囲気のバー
里中主任の笑顔。

「美味しいですね、コレ 森君――…?」
「へ?あぁ、ハイ。そうですね」

その時間が楽しくて、うれしくて
食べたものの味なんて覚えていない。

―――

午後9時

小さな雑居ビルが建ち並ぶ小路。
街灯に照らされて、二人の影が伸びる。

「今日はごちそうさまでした。」
「いえ。美味しかったですね」
「そうですね」

答えたところで、彼と目が合った。
思わず目線を逸らす。
そして、違う言葉を見つける。

「――あ、月!綺麗ですね」
「ホントだ。今日は満月ですね」

主任の瞳に月が映る。
綺麗…
そんなことを考えながら、隣で見上げる里中主任を盗み見る。

そんな美雪の視線に気づくと、彼は彼女に向き直った。

「――今日のアレ、迷惑でしたよね?すいません」
「へ…?」
「森君の様子がいつもと違うのは、今日の事のせいですよね」
「え?違います!そんな、迷惑どころかむしろうれしかったです! …あ。って何言ってるんでしょうね、私…」

笑って誤魔化すも、その笑顔は哀しい。

「森君… 目を閉じて下さい」
「…え?主任――…」

主任の顔が近づいてくる。
何て綺麗な澄んだ瞳。

私は目を閉じた―――

―――

「森 美雪!」

頭上から降ってきたのは、聞き覚えのある声だった。
目を開けると、そこはS&F営業二課のデスクだった。

―――あれ?何で?さっきまで主任と…

「起きなさい、森 美雪!」
「…ふえ?春子先輩…」
「就業時間中に寝るとはいい度胸ね」
「就業時間…えっ、あ…!すいません…!私――寝て…?」
「行くわよ!」
「え?あ、は、ハイ!」

「行ってらっしゃい」
「行ってきます」

主任の見送りに、先ほどの光景が脳裏をかすめ、はにかみながら言葉を返す。

そして私は、今日も前へ進む。
主任の隣で歩く「いつか」を夢見て―――


―――

【大前 春子 編】

「先輩!春子先輩!!」

――S&F玄関口
振り返ると、森 美雪が息を弾ませながらこちらへ向かってやって来た。

「おはようございます!春子先輩」
「……」

彼女を一瞥すると、私は足早にエレベーターへ向かう。

「あ、ちょっと…先輩。待って下さい」
「…朝から大声で名前を呼ばれる覚えはありませんが」
「…すいません。あの… 私、先輩に相談があって―…」
「…里中主任のことですか?」
「えっ?――…はい。邪念は捨てて仕事をがんばろう、って思ってたんですけど――主任は仕事でもプライベートでも尊敬できて――
この間も、遅くまで仕事を手伝ってもらっちゃったんです。…それで、また気になって―…春子先輩、私、どうしたらいいんでしょうか?」

「自分で決めなさい」

―――チ―ン

ちょうど森 美雪の目の前で、エレベーターのドアが閉まった。彼女は何か言いたげだったが、その声はかき消された。

仕事上でもプライベートでも尊敬できる―― 彼女はそう言っていた。
以前の彼女は、ただ優しい、という理由で里中主任を好きだった。
だが今の彼女は違う。1人の人間として、里中主任の本質を好きになったのだ。

敢えて彼女を突き放す。
彼女は会わないうちに随分と成長した。きっと自分で決められる。






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