一ツ木慎也×森美雪
![]() 「大丈夫ですよ。すぐに次の仕事、紹介しますからね」 いつもの一ツ木さんの優しい笑顔に、心の奥がポカポカするのを感じた。 何故だろう、いつも以上に、なんだか身に染みた。 「森さんは、笑顔が素敵ですから、接客業なんか向いてるかもしれないですね」 確か、デパ地下の試食係の仕事が空いてたような気がするんですが…。 常に持ち歩いているグレーの手提げ鞄の中から分厚いクリアファイルを取り出して、 書類をガサゴソしている彼の姿が、だんだんとぼやけてくる。 視界がジワジワと滲んできた。 あれ、なんでこんなに悲しいんだろう。 「……森さん!?ど、どうしました!?大丈夫ですよ〜、落ち着いてくださいね〜!」 一ツ木さんが慌ててスーツのポケットから淡いチェックのハンカチを差し出してくれた。 濡れた頬をゴシゴシ拭いて、止まらない嗚咽を落ち着かせようと呼吸を整える。 「ご、ごめんなさい…!なんだか…やっぱり寂しく、て…っ!」 ひっく、ひっくと泣き続ける私の背中を、一ツ木さんが優しくさすってくれた。 うぅ、えっ…と涙が止まらない。 「気がすむまで、泣いてくださいね…僕、ずっと側に居ますから」 一ツ木さんの暖かい言葉が胸にじわじわと染みてくる。 そのうち、一ツ木さんの広い胸に顔をうずめて、彼の両手が私の背中にまわって、ぎゅっと抱き締めた。 「…森さん、僕―――」 森さんのこと、好きですよ。 耳元で、一ツ木さんの甘い声が囁く。 …聞き間違い、かな? いま、なんか…。 「ひ、一ツ木さ――」 「すすすみませんッ今のは忘れてください!」 バッと一ツ木さんの体が離れていく。 なんだかその体温が名残惜しいと感じた。 「じゃ、じゃじゃあ僕はこれで…失礼します!」 仕事が見つかったらご連絡しますね! と、コーヒーを一気飲みしてバタバタと去っていった。 …あ、ハンカチ。 今度会った時に返さなきゃ。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |