一ツ木慎也×森美雪
桜の森の満開のした。 「あ、」 オフィス街には、時々エアポケットのように開いた場所がある。 今日の面談先の企業にほど近い、川沿いの遊歩道もそんな場所のようだった。古い桜並木が、視界の果てまで続いいている。 面談を終えてリラックスしたのか、眼を細めて微笑んだ彼女の髪に、薄い桃色の花弁がこぼれる。 取り除けてあげようと瞬間思って、慌てて打ち消す。 彼女の髪に、桜の花びらが絡んでいる。 こちらの逡巡など気づかぬまま、彼女は嬉しそうに舞い散る花びらを眼で追う。 「こんなにすごいなんて思いませんでしたね」 落ちる花を、そっと掌ですくい上げた。 指の白さが、目に痛んだ。 四月 春 桜 降りしきる花は果てがなく息がつまる程に、白く甘い。 少しくらいならいいだろうか。 ほんの少し、したいようにさせてもらっても。 花を追っていたその白い指が、自分の肩に触れた。 「一ツ木さん、花びらついてます」 ほら、と指先に乗せてみせてくる。 その手をつかんで抱き寄せても、彼女はあらがわなかった。 髪に触れる。 こぼれた桜をとりのけた。 抱きしめた細い体は、ふんわりと甘い香りがした。 SS一覧に戻る メインページに戻る |