恋人の部屋(非エロ)
一ツ木慎也×森美雪


漆黒の闇に包まれた静寂な部屋の中で、ベランダのカーテンの隙間から、ビカビカと短い光が差し込んでくる。
ふと目を覚ました瞬間、目の前に彼の無防備な寝顔があって、ちょっとビックリしてしまった。


「………―――あ、そっか………」


窓の隙間から差し込むのは雷が落ちている光らしく、何度も一瞬だけ部屋の中が明るくなる。

よく見回してみれば、そこは住み慣れた自分のアパートの部屋ではなくて。


昨日、はじめて訪れた、恋人の部屋。


どくん、と静かに心臓が跳ねた音がした。


「……かみなり……?」


そうだ、確か今日の天気予報は大雨だった。

もうすぐ春がやってくるというのに、まるで最後の降り収めみたいだと、テレビの中のアナウンサーが言っていた。


枕元に置いたままの彼の携帯で現在の時刻をチェックすると、「AM/3:40」とある。

……ヘンな時間に目覚めちゃったな……。


寝返りを打って、再び彼の整った顔が視界に入る。


いつもは八の字眉だけど、やっぱり寝てる時は違うんだなーとか、

閉じられた両瞼から伸びているのは、普段は気付かない、驚くほど長い睫毛とか、

スーっと真っ直ぐ伸びた鼻筋と、整った唇は異様に色っぽさが感じられる。


―――わ、なんかドキドキしてきた…。

そして、はたと、今の自分の格好を思い出す。


も、もしかして………



裸―――!?



途端に、顔面にかぁーっと血が集まるのを感じて、たまらなくて毛布を引っ張って顔を隠す。



やだ、どうしようどうしよう…!

ととととととりあえず……、


シャワー、入りたい…!


床に落ちている自分のカットソーを素早く引っ掴んで、胸元を隠してベットから出た。

すると、ベットの中ではまったく感じなかった肌寒さを感じて、軽く身震いしながら風呂場を目指す。

暗闇の中で、少々不安になりつつも、やっと洗面所の灯りのスイッチを見つけた。
あまり音を立てないように、そっと押して中に入り、引き戸を閉める。

必然的に視界に入ってきた洗面台の大きな鏡に、自分の身体が映っているのに気付き、たまらず浴室に駆け込んだ。


「は、恥ずかしい……」


暖かいシャワーの湯を浴びながら、まだ治まらない顔の赤らみが気になる。

とりあえず、身体を暖めるだけにして、さっさとベットに戻ることにした。開き直り、である。


……―――もう、どーにでもなれッ!


洗面台の横の背の高い棚の中から、淡い色のバスタオルを取り出して身体を拭くと、そのままグルグルとまとった。

そして、たったいま、引き戸を開けようと―――。

ガラッ、と大きな音を立てて、目の前の引き戸が開いた。

驚いて顔を上げると、ジーパンを穿いただけの姿で、なにやら不安そうな顔をした彼が、そこに居る。


声を掛ける間も無く、片腕を勢い良く引っ張られ、気付けば彼の腕の中にいた。


………―――なく、…ったかと、…おもった……っ


震えた小さな声が、耳の中で響いた。



「……いなくなった、かと、おもった………」



今度は、ハッキリ聞こえた。

思わず、彼の背中に両腕をまわして、ぎゅっと抱きしめる。



―――彼のことが、ひどく、愛しく感じた。



「……びっくり、した……」


ベッドの中で、はぁ、と大きなため息を吐いて、彼は私の髪を優しく撫でてくれる。


ふわふわとした柔らかなまどろみの中で、私達は二度寝体制に入る。


「―――ごめんね、」



………わたしは、どこにもいかないよ。


聞こえたかどうかは、わからない。

心の底から安心したように、彼は再びゆっくり目を閉じた。



もう二度と離さない、と言っているみたいに、私をしっかり抱きしめながら。






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