番外編
――F&S 「おはよ〜、諸君!いや〜、今日もいい天気だねぇ〜!」 今日も東海林 武がマーケティング課にやってきて顔を出す。 入り口に対して反対側を向いていても、その声は、すぐにあの男のものだと分かった。 朝から異様にテンションが高い。いつも以上に。 「お、とっくり〜!今日もまた変な体操やってんのか?よし!俺もやろっかな〜」 9時の就業時間前に、日課である体操をしていると、彼が隣で私の真似を始めた。 「…鬱陶しいので隣でやらないで下さい」 「いいじゃね〜かよ!なぁ、賢ちゃん?」 「…東海林主任、なんだか今日、機嫌いいみたいですね」 「…うん、そうみたいだね」 後方では、森 美雪と浅野が、小声で東海林のいつもと違う上機嫌な態度をいぶかしんでいた。 「あれ?!君たち、分かる〜?」 すかさず東海林が小声で話す二人の会話を聞きつけて、話に割り込む。 「東海林さん、今日誕生日なんだ」 里中主任が東海林の行動の理由を補って付け加えた。 「…誕生日で浮かれるなんて、あなたは小学生以下ですね」 「いいじゃねーか!年に一度しか来ねーんだぞ?誕生日は!」 「それが何か?犬は年に何度も誕生日が来ますが」 「俺は犬じゃねーよ!」 「そうでしたね、犬の方が優秀でしたね」 「お前ッ…!!」 「まぁまぁ。東海林さん、落ち着いて」 里中主任が怒り出した東海林を制止した。 東海林は怒りを覚まし、落ち着くと、瞬間、真剣な眼差しで再びこちらへ向かってきた。 「…今日、店 行くから」 小声で告げると、東海林は営業二課の自分のデスクへ戻って行った。 それと同時に就業時刻を告げるチャイムが鳴り響いた。 私はデスクに付き、パソコン画面に向かって書類作成に取り組む。だが、頭の中は、先ほどの言葉でいっぱいだった。 相変わらずあの男は分からない―― ふざけていたかと思うと、とたんに真剣な表情になったりする。 それにしても――… 今夜、あの男は確実に店にやって来る。いっそ今日は顔を出さないでおこうか、などと考える春子であった。 SS一覧に戻る メインページに戻る |