快楽
道明寺司×牧野つくし


つくしと道明寺が初めて身体を重ねたのは、彼が記憶を取り戻して数日経ってからだ。
記憶を失っていた時間を埋めるかのように、道明寺は大切な宝物を扱うようにつくしを愛し、抱きしめた。
その優しさは記憶を無くす前と寸分も変わらず、初めての経験だと言うのに、つくしは女の悦びを知ってしまった。
以来、逢う度に二人は体を一つにして、決して離れないという気持ちを以前よりも更に深いものにしていった。
そして今日も、心地よい疲れを伴う快楽へと、身を投じる―――。

抱きしめられて、つくしは思う。この人は本当に“男”へと変身を遂げた。
醸し出されるその色気は、殆どの女性を捕らえて離さないに違いない。
今となっては、自分もその一人になっていることが、悔しいような、嬉しいような、複雑な気分だ。
そういえば、自分はその色気に恐怖を感じたことがあった。

「前に、未遂に終わった時があったでしょ」

司の胸に顔を埋めて目を閉じていたつくしが、不意に聞いた。

「あぁ、寸止めくらった時な。あんときゃ辛かったぜ」

つくしの艶のある黒髪を、手櫛しながら撫でていた司は、あの時の“男の切なさ”を呼び起こされたのか、少し不機嫌そうな声で応える。
「すんっ…何て恥ずかしい言い方すんのよ」

あの時のことを詫びるつもりが、司の露骨な言い回しに、つくしは思わず赤面してしまう。

「ばーか。なにヤラしい想像してんだ。寸止めってのは、空手とか武術の言葉だぜ」

喉に笑いを押し込めて、憎まれ口を叩く司。

「もうっ!人が真面目にっ…」
『言おうとしてるのに』と続けるはずだった唇は、司によって封じ込まれる。
ひとしきりお互いの唇を味わった後、司がつくしの瞳を覗き込んでこう言った。

「本当はもっと早くにこうなりたかったって思ってんだろ?」

図星を指されたことに驚くつくしだったが、それを悟られまいと、もう一つ伝えるべき言葉を少し早口で言う。

「…それからね…、思ったことがあったんだけど」
「ん?何だ?」
「滋さんに拉致られて、無人島に連れてかれた時…。司の身体とあたしの身体、まるでパズルのようにピタリと沿ったの」
「ぅん??」

つくしの言いたいことがよく理解できなかったのか、司が再度聞いた。

「どうしてこんなに身体のラインが沿い合うのかって。きっと恋の力なのかなって…」

少し照れ気味に言うつくしを見つめ、ふっと微笑みながら司は口を開く。

「じゃ、本当に沿うのか、オレも今、確かめる」

そう言って、つくしの唇を自分の唇で塞ぎ、ゆっくりと味わい始めた。

躊躇いながら開かれる唇の隙間に、司はするりと舌を忍び込ませ、つくしのそれを捉える。
と、絡め取るように激しく動いたかと思えば、舌先だけを合わせあうように柔らかく動く。まるで弄ぶように蠢く司の舌。
唇が合わさる場所は、小鳥がついばむような音と、つくしが漏らす吐息が2重奏を奏でている。

『本当にコイツ、キスが上手…』

溶けるようなキスは、つくしを痺れるような快感へと誘う。
以前、司がキス上手なのを不思議に思い、理由を聞いたことがあった。
その答えが余りにも腹立たしくて、見えない相手に嫉妬してしまい、自分にこんな一面があったのかと、驚いてしまった。

「オレのキスを頂戴できるのはお前だけだ。光栄に思え」

そんなつくしの想いを感じ取ったのか、司は与えられるだけの優しさと激しさを交えたキスをつくしに浴びせ、瞳に微笑を宿して悪態をつく。
「うん…嬉しい…」

いつになく素直なつくしを抱きしめる司の胸は、高鳴りを押さえる術を持っていない――。

ベッドにつくしを横たえると、司の指は、魔法のようにつくしの服を彼女の肌から引き離していく。指の後を追いかけるように、唇はつくしの柔肌を余すところなく触れていく。
滑らかに舌を這わし、弱点を仕留める度、柔らかいつくしの身体は少し硬くなる。もう何度も身体を合わせているのに、新鮮さを忘れない、つくしの肢体。
そして舌は胸の頂上へと達する。その硬くなった頂点を口に含み、舌で転がす。

「んっ……あぁ…」

思わず声が漏れる。司の唇は、移動することを忘れたようにその頂を攻め続ける。
震わせる舌で味わい、唇で優しく包み、時に軽く歯を立てる。そんなリズムにつくしの声は止め処なく漏れつづける。

「ぅんっ……っ…やっ…あっ…ん…」

衣を離し終わると、その指はつくしの一番敏感な場所を標的にする。
つくしは膝に力を込め、その進入を阻んでいた。が、しかし、司が内腿を撫でるたびに力が抜け、まもなく司は獲物を捕らえる。

つくしの泉は、すでに溢れていた。
恥ずかしがるつくしと反比例するように、泉は司の指を湿られていく。
すこし膨らんでいる蕾を、円を描くようになぞると、つくしの身体が一瞬跳ねる。

「ああぁっ!…だめ…そこはっ、つかさっ…」

両手で顔を覆い、この羞恥から何とか逃げようとするつくしに、司が言う。

「顔、見せろよ」
「ダメ、恥ずかしい…」
「見せなきゃ、止めるぞ…」

つくしの身体は正直だった。司の指を欲しがっている自分を、止められない。
つくしは、両目を強く瞑り、両手を顔から離した。しかし、なおも司は要求する。

「ダメだ、オレを見てろ」
「そんなっ…」
「止めるぞ、いいのか?」
「っ…」

顔を赤くしながら、つくしの瞳は司を映す。司は優しく微笑むと、こう付け加えた。

「お前の感じる顔が見たいんだ…」

そして、泉に誘われ、司は指を徐々に奥へと忍ばせた―――。

指は焦らしながら、入り口付近を彷徨う。
つくしの腰は、つくしの意思とは関係なく、もっと奥へと誘い始める。
ゆっくり、しかしながら着実に奥へと進む指は、つくしに更に快感を与えるように少しの震えを伴っている。

「んぁっ…ああ…つ、かさっ…」

司がつくしの壁をリズミカルに叩くと、響くような余韻を残してつくしの喘ぎと共鳴する。
指を曲げるようにして内壁を擦る度につくしの呼吸は激しくなり、指を出し入れすると、つくしの腰が呼応する。

「あっ、あっ、あっ…っ…」

秘部からはつくしの泉が奏でる湿った音が絶えず聴こえ、司はそれをわざとつくしに聴かせるように一段と指の動きを激しくする。
司の愛撫が激しさを増せば増すほど、つくしは快楽への階段を登る。

「やめてっ…つかさっ…指で、いっちゃうっ…」

つくしは、指の愛撫だけで昇り詰めてしまうことを恥じらったが、司はそれを聞き入れない。

「指でいくお前を見たい…」

司は留めを刺すかのように、内部への刺激を与えながら、親指で蕾に軽く触れた。

「あぁっっっ!」

つくしはこれまでで一番の大きな声で鳴き、同時に身体全体を震わせ、一気に快楽の海へと沈んでいった。

「可愛いかったよ、つくし…」

つくしは夢うつつの中で、司がこう囁くのを聞いた―――。

つくしはそのまま、眠りについた。
つくしがどんな状況でも眠ることができるのは、既に周知の事実。そして、なかなか目を覚まさないことも。
指で昇り詰めるつくしを見たかったのは事実だが、イかせてしまった後のことまでは考えが及ばなかった。
ここまで興奮してしまった自分自身を、何もせずに冷めさせることは無理な話だ、と司は思う。
かと言って、1人で処理する気にもなれなかった。裸で眠るつくしを隣に置いて、1人で処理するにはあまりにも空しい。
悶々と、自身の興奮と戦う司であった。
ベッドに体を横たえ、心地よさそうな寝息を立てているつくしを眺め、司は苦笑する。

『また気持ちよさそうに寝やがって…。こっちはどうしたらいいんだよ』

自分で撒いた種にも関わらず、気持ちよく眠るつくしを恨めしく思い、司は意地の悪い企みを思いついた。

「んん〜〜」

つくしはシーツの中で小さく伸びをして、うっすらと目を開けた。
と、そこは、自分が先ほどまで愛されていた場所とは様子が異なっていた。
煌々と照らされる照明、スチールで固められた頑強な器具。
何よりも違ったのは、体操などで使用するようなマットの上にシーツを掛けて造られた、即席ベッドの上で目覚めたことだ。
確か、司の部屋の柔らかいベッドの上で眠りについたはずだった。
不審に思いながら辺りを見渡すと、鏡に映る上半身裸の自分と目が合った。

『もしかして…』

つくしは、この場所が道明寺家のマシンジム室だと気が付いた。

『どうしてこんな場所に…?』

出て行きたくても、自分は一糸纏わぬ姿。この場所から動けない。不安な表情を隠せないでいた。

「よう、目ぇ覚めたか」

遠くから声が聞こえ、つくしは慌ててシーツを胸まで引き上げる。
司はつくしのもとまで歩み寄ると、不敵な笑いを浮かべた。

「な、なんであたしこんなとこで寝てるのよ?」

先ほどの疑問を司にぶつけてみる。

「お前が俺を放って寝ちまうからよ、ちょっとな」
「放ってって…イかせたのはあんたでしょうが!」

思わず声を大きくして言うが、自分が恥ずかしいことを口走ったことに気づき、顔を赤らめて俯いた。
しかし、まさか使用人に裸の自分を運ばせたのではなかろうか、と不安になったつくしは思わず聞いた。

「ど、どうやってココに…?」
「ったりまえだろ、勿論自分で運んだぜ。使用人に見つからねぇようにって自分ちでコソコソすんの恥ずかしかったけどよ、お前の裸を他の奴に見せるわけにはいかねえからな」

つくしには司がそこまでして自分をここに連れてきた意図が見えてこない。

『何を考えているんだか…』

半ば呆れて司をみつめていると、当の司はつくしの横に腰を下ろし、つくしの肩を抱いた。

「…気持ち、良かったか?」

先ほどの不敵な顔とは正反対な、優しい表情で問い掛ける。
つくしはときめきを覚えながら、小さく頷く。

「恥ずかしかったけど…なんか、いつもと違って…」
「そうか…オレも、気持ちよくなりてぇ…」

司の唇はつくしの唇へと近づく。重なり合う唇は、離れられない呪文を唱えられたかのように深く交わる。
口内ではお互いの唾液が混ざり合い、淫靡な音を醸し出す。
つくしは、まるで強いアルコールを飲んでしまったように、キスに酔ってしまっていた。
それでなくても既に一度上り詰めていたことも手伝ってか、二度目への準備が整い始める。
唇が離れると、名残惜しそうに唾液が糸を引いた。
司はつくしの身体を支えながら、マットに横たえると、暫く見つめ合い、またキスを繰り返す。
いつしかつくしは、腕を司の首の後ろへと回し、その指を司のくせのある髪へ潜らせていた。
一方の司の手は、つくしの乳房を手のひら全体で大きく揉む。固くなった乳首を指で挟んで捏ねまわす。

「ん…っ…」

塞がれたつくしの口から零れる、熱い吐息。
司の舌がゆっくりと、耳から首、そして鎖骨から乳房へと降りて行く。
唇で乳首の先に優しくキスをすると、口に含み、舌で転がし、時に強く吸い付き、軽く歯を立てる。

「ぁあんっ…ん…っ…はぁっ…」

つくしの感じるポイントを着実に舌で押さえながら、司の指はつくしの秘部をまさぐる。
そこは、つくしが言わなくても分かる程、彼女が感じていることを語っていた。

「すげぇヤらしい音が聞こえてるぞ…」

湿った卑猥な音を立てて、司の指が蠢く。

「んっ…やぁ…道明…寺っ…」

つくしは司にしがみ付くようにして、再度指でイかされそうになっている自分と戦っていた。

「イかせねぇよ…今度は」

司は指の動きを止め、つくしの上体を起し、目の前の鏡と対峙させた。
そしてつくしの後ろに回ると、つくしの胸を揉み出した。

「いや…道明…」

視線を鏡から外そうとしたつくしを、司は低い声で封じ込める。

「鏡から目を逸らすなよ…」

つくしの目に、今自分がされている愛撫の様子が映る。
後ろから胸を揉まれ、首筋に舌を這わされている自分の姿。

「ああぁんっ…道明寺っ…恥ずかしい…」
「目を逸らすな…自分がどんな顔しているか、よく見てろ…」

目の前の女性は、頬を上気させて、恍惚の表情を浮かべている。
信じられなかった。自分がこんなに淫らな表情をしているとは。
構わず司は愛撫を続け、こともあろうか、鏡の前で脚を開くように命じた。

「いやっ…それだけはいや…」
「ダメだ…言うことを聞かないと、止めるぞ…」
「だ、だって…恥ずかしい…」
「そうか…?恥らってる時の方が、感じてるみたいだけどな…」

言われて驚く。つくしの興奮を高める方法を、司はとうに勘付いていた。
羞恥を捨てられないまま、つくしは言われた通りに脚を開いた。
目を背けたいほどの恥ずかしさに襲われるが、それを司は許さない。
司の視線は鏡の中のつくしの目を見つめたまま、指が再度つくしの秘部へと移動する。
指は蕾をゆっくりと焦らしながら攻めていく。既に固くなったそこは、より敏感になっているのか、触れられる度につくしの腰が揺れる。
泉の出所となる洞窟に中指が入り込んで内壁を擦ると、湿った音とともにつくしの声が漏れる。

「んんんんっ…ああぁんんっ…」

自分がされている様子を見つめながら、最も敏感な部分をねっとりと弄られて、つくしは身をよじる。

「だめ…あぁんっ…恥ずかしい…」

息も荒く抵抗を試みるが、司は聞き入れようとしない。

「そんなこと言っても無駄だ…こんなになってるじゃねぇか…」

司は、滴り落ちそうな雫をまとった指を自分の口元へ持っていき、つくしに見せつけるように舐め上げた。

「いやっ…やめて…っ」
「こんな間接的なことは、イヤか?」

含み笑いを漏らすと、司はつくしの前に回り込み、脚の付け根へと顔を埋めると、その蕾へと舌を伸ばした。

「っっあぁんっっ!!」

身体に電流が走る。今までとは違う快感に腰が震える。
司の唇はイヤらしく音を立てて蕾全体吸い、舌先は蕾の中心を突付くように蠢く。

「あっ…あっん…んっ……」

されればされるほど、つくしの腰が無意識に前後し、その様子を楽しむように、司の攻めは執拗なくらい続く。
つくしの呼吸が激しさを増した頃、司はようやく頭を上げて、愛撫を止めた。

「さて…そろそろ欲しい頃だろ?…」

意地悪く口角を上げて言うと、司は自分の服を脱いで裸になった。
上体を起して脚を少し開くようにして投げ出すと、またもつくしに命じる。

「自分から上に乗れ。オレに跨るようにするんだ」

反り立つ司自身から目線を外せない。つくしは熱病に冒されたように頷くと、言われたまま司の腰に跨っていく。

「あぁぁっ…!…うぅんっ…」

司を奥深くに飲み込んだだけで、つくしは興奮にのめり込む。
お互い、向かい合うようにして深く繋がると、司の腰がつくしを跳ね上げるように動く。
同時に、司はつくしの腰を抱きかかえるようにして、上下に動かしていく。

「あぁぁっ…んんんんっ…いいっ…凄い…」

司に強く抱きつきながら、仰け反りそうになる自分を押さえ、つくしは腰を動かしてしまう。

「…鏡、見てみろよ…」

言われて、鏡に背を向ける格好になっていたつくしは、顔だけ鏡の方へと振り返った。
そこには、司を根元まで飲み込んで乱れる自分の姿があった。
二人が繋がっている場所はしっとりと濡れ、淫靡な音を立てている。
恥ずかしい。でも、目が離せない。
つくしは自分の姿を目に焼き付けたまま、更に腰を激しく動かした。

「あああっ…道明っ…寺っ…気持ち、いいっ…」

つくしは淫らに腰を擦り付け、徐々に興奮を高めていった。

「あぁ…俺も…お前、すげぇよ…」
「あぁぁんんんっ…いっちゃ、う…」
「いいぞ…俺も…すぐっ…」
「ど、道明…寺……ぁああっんんんっっっ!!…」

司が限界を感じる直前、つくしは大きく呼吸をすると、司にしがみ付いて昇り詰めた。
つくしの中が脈打ち、今まで以上の締め付けが司を襲う。

「うっ…くっ…」

司は、つくしの中から自分を抜くことも忘れて快感に浸り、激しい突き上げとともに全てをつくしの中へ放った。






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