車内
道明寺司×牧野つくし


『つくづく綺麗な顔してる』

喫茶店の窓際を陣取り、何気なく通りを見ている司の横顔を、つくしは見つめる。
もともと端正な顔なのだが、最近はそれに環がかかったようだ。
出会ってから年を2つ重ねようとしているのだから、大人の男へと変わっていくのは当たり前なのだが、
あまり変化のない自分と比べると、やや羨ましくなってしまうのは仕方がないのだろうか。

「何見惚れてんだよ」

ニヤリと笑いながら言われ、我を忘れて司に見入っていたことに、初めて気が付く。

「み、見惚れてなんかっ!」
「別に照れるなよ」
「照れてなんかっ……ちょっと!そのニヤけた笑いやめてよっ」
「いいじゃねぇか、素直になれよ」
「……ちょっとトイレ!!」

ニヤニヤ笑いをやめようとしない司に、頭に来たつくしは話を終わらせるつもりで席を立った。

『まったく、あの自信過剰はどこからくるのかしら』

本当に見惚れていたことを自分でも認めるのが嫌なのか、つくしは独りごちる。
つくしが席に戻ると、司は既に会計を済ませて出口付近にいた。

「どこに行くのよ?」

まだ不機嫌な様子のつくしに対し、いつになく上機嫌な司。今にも口笛なんぞ吹きそうだ。

「あぁ。ちょっとな」

嬉しそうな司の様子を横目で盗み、つくしは訝しむ。

『なんでコイツ、こんなに上機嫌なんだ?』

司が浮かれている理由など、つくしには知る由も無い。

「もうそろそろ着いてるはずだ」

気がつけば、景色は人通りの比較的少ない場所へと変わっていた。

「坊ちゃま」

声をかけられた方を見やると、道明寺家のドライバーがこちらに走り寄って来るところだった。

「お時間どおり参りました」

恭しく礼をすると、車の方へと促す。

『もう帰るの?』

つくしが手洗いに立っている間に電話をしたのか、司が車を呼んだということは、このまま自宅へ送ってもらってデートは終わり、ということなのだろう。
つくしは残念そうな表情を隠せなかった。

「じゃ、お前はここから電車で帰れ」

車まで辿り着くと、司はドライバーにそっけなく告げた。

「え?!そんな!お車はどうなさるおつもりで?」

思ってもいない司の言葉に、ドライバーは焦りを隠さずに聞く。

「うっせぇな。オレが運転すんだよ。文句あっか」
「冗談では御座いません!坊ちゃまは免許を持っていらっしゃらないではないですか。それに、事故にでも遭われたら、私の首が…」
運転手の言葉はそこで途切れる。司の鋭い目線を、真っ向から受けてしまったためだ。
「うるせぇな」

低い声と同時に、ドライバーのポケットから車のキーを奪う。

「牧野。乗れ」

素早くロックを外して運転席に乗り込むと、中から助手席のドアを開けてつくしを呼ぶ。
運転手を気にかけながらも助手席に乗り込むと、低いエンジン音を響かせて、高級車は走り去る。
気の毒な運転手は、途方に暮れたまま立ち尽くすしかなかった。

無免許カーは、そうとは思えない正確さで街を抜けていく。
ドライブを決め込んだのか、暫くは東京の雑踏を当てもなく走っていった。
時刻は夕方。太陽は早々に沈み、初冬の街は闇に包まれていく。
と、車は帰宅を急ぐ人たちで溢れ返る、都心の駅近くに止められた。
会話も途切れ、車内には沈黙が訪れた。

「ど、どうしたのよ…?」

沈黙に耐えられず言ったつくしを一瞥すると、勝ち誇った表情でつくしを見つめる。

「お前さ、最近、おかしいよな」
「え?」
「気がつくとボーッとオレの方見てよ。何いつも見惚れてんだよ」
「だから!見惚れてなんかなっ…」

異議を唱えようとしたつくしの唇が、司の唇と重なり合う。

「んっ!…んんんっ…!」

驚きに反射的に閉ざされた唇は司の進入を阻むが、柔らかく吸い込まれるキスに自ずと開かれていく。
司の舌は何か別の生き物を想像させる動きでつくしの口内へと攻め入り、
縦横無尽につくしの口内を愛撫して、抵抗する気力さえ奪っていく。
そして司はつくしのブラウスのボタンへと手を掛け、いとも容易く脱がしにかかる。

「ちょっ!…やっ…」

ある程度自由になった唇から零れる、拒否の言葉。
それは、車内とはいえ、人通りの多い路上で落とされる司の愛撫に、つくしの理性が言わせた言葉。
お構いなしに司は助手席のシートを倒し、つくしの下着に手を掛けてたくし上げる。形の良い胸は、下着の呪縛から解かれて柔らかく揺れる。
司が本気でここでつくしと愛し合おうとしていることを、やっとつくしは理解した。

「道明…寺…やめて…こんな場所で…」
「見られてると思うと、興奮するだろ…?」
「じょ、冗談でしょっ!?」

抵抗はした。が、司が次々に与えてくれる快感は、つくしの理性さえ奪い取ってしまった。
首筋に落ちるキスは、いつだって震えが来るほど感じてしまう。
耳を噛む力は、意地悪いほど優しく、鳥肌が立つほど気持ちがいい。
乳首を摘む指は、強弱をつけながら焦らしを含ませる。

「あっ…ん……っ…」

いつしかつくしの声に艶が混じり始めた頃、車内には二人の熱気が充満し、ガラス窓が水滴によって曇り始めた。
もともと窓には外からは車内が見えにくくなるようにフィルターが施されていたのだが、その水滴が更に二人の姿を見えにくくしていく。
つくしはそれに気づき、より大胆に声を荒げた。

「んっ…道明寺っ…あぁん…」

その声に背を押される形で、司の愛撫は激しさを増す。
上半身は司の舌によって隈なく舐めあげられ、所々には桃色の花びらが散らされている。
乳房をもみしだき、乳首を吸う。いやらしく音を立てて、つくしの羞恥を掻き立てる。

「あぁ…そんな…いや…」

拒否の言葉に隠されたつくしの本心を、司が見つけられないはずがなかった。

「いいんだろ?正直になれよ…もっともっと、よくしてやるから…」

そう言うと、すかさずスカートの下に手を入れ、下着の上から溝をなぞる。
既に湿り気を帯びたその場所を、指を何度も何度も上下させていくと、堪らずつくしの腰が、その指と連動して上下に動く。

「なぁ…?腰、動いてねぇ?」

舌で乳首を転がしながら、司が含み笑いをしながら言う。

「んっ…はぁん…そんなこと…ない…」

声を荒げながら否定するが、自分でも押さえが利かないのは分かりきっていた。

「さっきも言ったろ?…素直になれよ…」

司は更に焦らしながら指を上下させる。次第に薄い布地を通り越して、つくしの泉は司の指までも湿らせていく。

「気持ちいいんだろ?…正直に言えよ」
「やぁっ…そんなこと…言えない…」
「じゃぁ…言わせてやるよ…」

司の指は、秘部を覆う布地の脇からするりと滑り込むと、小さな蕾を探り当てる。
中指はその蕾の周りを円を描くように廻り、徐々にその円周を小さくしていく。

「…ああんんっ…」

一番敏感な場所に触れられ、つくしの身体が一瞬跳ねる。
構わず指は溝と蕾を行き来し、時には泉の源へと侵入しては出て行くという動きを繰り返していた。
湿った音が車内を満たし始め、堪らずつくしは司にねだるような視線をなげかける。
その視線を受け止めると、司は声を殺して意地悪く笑う。

「どうした?…こんな場所で欲しがるのか?」

言われて思い出す。ここは人の往来激しい街の中だった。
こんな場所で欲しがるなんてどうかしいてる、と思う自分がいるはずだった。
しかし、既に欲望に支配されているつくしの理性は働かない。

「ここでして……早く…欲しいの…」

今、自分がとても淫らになっているのがつくしには分かっていた。
前を肌蹴たままにしているブラウス、ブラジャーだってまだ腕から抜けていないような言わば半裸の状態。
そして、誰かに見られるかもしれないというスリル。
そんな全ての状況が、つくしをより淫らに変身させていた。

「そうか…我慢できないんだな?…じゃあ、」

そういうと、司は運転席のシートを足元が広くなるように後ろへ下げ、更に後ろへと倒した。

「オレの準備がまだだ」

つくしは、自分がするべきことを悟り、司のベルトに手をかけた。

金属音を立ててベルトを外し、司が腰を浮かすと同時にパンツと下着を膝まで下ろす。
勃立した欲望は、司の言うように準備が整っていないようには見えなかったが、構わずつくしは司の下腹部へと唇を寄せる。
初めての経験に、ぎこちなく這う舌。唾液で絡め取るように唇で吸い上げる。
頬張るとたちまち口の中は飽和状態になり、居場所を失った舌は、口内で司自身を舐め上げる。

「ううぅ…牧野っ…」

堪らず声を漏らす司はつくしに求める。

「オレを見ろ…しゃぶってる表情が見てぇ…」

羞恥心はあった。しかし、つくしは司の要求に答え、上目遣いで視線を投げる。

「お前っ……すげぇヤらしい顔してる…」

つくしの愛撫と表情に興奮した声音で息を荒げる司は、階段を昇り切ってしまいそうな自分を押さえるのに必死だった。

「ねぇ…もう、いい?…」

司が危うく上り詰める一歩手前で、つくしは舌の動きを止めて、そのそそり立つ欲望を欲しがった。

「あぁ、いいぜ……お前が乗って、自由に動け」

つくしは下着を両足から抜き、スカートを身に着けたまま、司自身に手を添え、自分の中に導きながら跨った。

「んっ!…あぁんんっ!……」

飲み込まれるように、司はつくしの中へと侵入していく。

「んんんっ…奥…当たるっ…」

天井に頭をぶつけないように、つくしは少し前かがみの体勢だが、それでもいつもより密着度が高いのか、動かなくても思ったより奥に当たっているのが分かる。

司が腰を下から突き上げるように動かすと、つくしの腰が持ち上がり、中への刺激が深くなる。
つくしも、自分の意志とは無関係に前後する腰を止めることができなかった。

「んんっ…道明寺っ…気持ちいいっ…」
「あぁ…お前もいつもよりヤらしくて…最高だ…」

司はつくしの胸を揉みながら腰を突き上げ、つくしは司の顔にキスの雨を降らせていく。
二人が重なる場所は、つくしの泉と唾液によって淫らな音を生み出し、車の中で反響する。
いつもと違うこの狭い空間で行われる乱れた行為に、二人はより興奮の坩堝へと流されていく。

「凄いっ…あああんんっ…道明寺っ…」
「…お前…今日、最高にイイ女だぜ…」

徐々に限界へと近づいた司は、腰の動きを早めて、つくしの快感を高めていく。

「道明寺っ…ダメっ…っ!!…」
「イキそうか?…イっていいぞ…俺も、すぐだ…っ…」
「道明…っ……ああああんんんっ!!」

より早まった刺激に耐えられなくなったつくしは、一瞬、身体に緊張を走らせて昇り詰めた。
そして、つくしの躍動する締め付けは、司をも最高潮へと導く。

「くぅっっ…」

瞬間、司は躊躇いも無く、つくしの中へ全てを注ぎ込んだ―――。






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