中吊り広告
道明寺司×牧野つくし


その事件は突然起こった。
電車の中吊り広告に踊った文字。

「道明寺家子息・NYの企業家令嬢と熱愛!」

NYにいる司と日本にいるつくしを繋ぐのは、わずかな逢瀬と電話とメール。
それでも互いに不安を感じたことはなかった。

つくしは、慌ててコンビニに駆け込み、雑誌を手にとった。
雑誌に載っていた写真は、見知らぬ女性の手をとり、ダンスを踊る司の姿をとらえていた。
記事によれば、司は相手の女性とパーティで意気投合し、その後もデートを重ねている…ことになっている。
写真とともに羅列されている令嬢のプロフィールに、つくしは思わず溜息をつく。
NY屈指の大企業家の一人娘。名門大学に在学中の才媛。
趣味のピアノはプロ顔負けの腕前。
ゆるやかに波をうち金色に輝く髪。その美しさは写真を見れば一目瞭然。

そして、司の手を握り締める白い手に、胸の底から攻め上げるような嫉妬心を覚える。

何をとっても自分とは正反対の女性―

つくしは嫉妬心を振り払うように頭を振り、雑誌を棚に戻すと、重い足取りで学校へ向かった。

英徳学園の中でもこの噂でもちきりだった。

『見たー?道明寺さんの記事っ!』

浅井ら3人組が、聞こえよがしにつくしのそばでその話題を持ち出す。

『見た見たー。道明寺さん、誰かさんのことなんてもう忘れちゃったんじゃなーい?』

普段なら難なく跳ね返す浅井達の言葉が、胸に突き刺さる。

決して心ない言葉ばかりではない。
放課後、いつものカフェテリアで―

『なになに…ふたりは、ある財界人主催のパーティで知り合い、趣味のピアノの話題で意気投合し…≠チて、司の趣味、いつからピアノになったのよっ!
 いいかげんなことばっかり書いてっ!つくし、こんな記事気にすることないよっ!』

滋がつくしの肩を叩けば、

『そうですよー。道明寺さんが牧野先輩以外の女の人とつきあうなんて考えられないですよー。』

桜子が相槌をうつ。

『だな。ぜってーありえねー。』

美作と西門が腕組みをしながら、うんうんと頷く。

『牧野、心配するな。司を信じろよ。』

花沢類が確信に満ちた表情でつくしを見つめる。
みんなの言葉ひとつひとつが、つくしの心を救う。

絶対、大丈夫―
自分にそう言い聞かせながらも、心の奥底では鎮めようのない小波が立っている。
そして、何よりも、司の手に重ねられた美しい手が目に焼きついて離れなかった。

その夜、牧野家の電話が鳴った。

『道明寺からかも・・・?』

つくしは飛びつくように受話器を取り上げた。
電話は司からのものではなかった。
少ししわがれた声の主。それはタマからの電話だった。

『…センパイ!お久しぶりです。お元気ですか?』
『ああ、達者でやってるよ。ところであんた、週末は空いてるかい?』
『バイトがあるんですけど…。』
『バイトかい。じゃあバイトは休むこったね。明日、朝一番で道明寺家へおいで。寝坊するんじゃないよ。』
『え?でも・・・。』
『いいかい?!必ず、来るんだよ!!』

道明寺家使用人頭歴60年の迫力に、つくしは圧倒されてしまう。

『は、はい、行きますっっ!必ず行きます!』

つくしの返事を聞くと、タマは一方的に電話を切ってしまった。

『どーしたの?センパイ・・・。』

突然のタマからの連絡。そして、翌朝一番で向かった道明寺家。
そこには何故か道明寺家の自家用ジェット機が待機していた。

『センパイ・・・これ・・・?』

『あんたが乗るんだよ。』

タマは杖でつくしの背中をぐいぐい突つきながら、ジェット機のタラップへと促す。

『でもどこへ行くんですか?このジェット機…。』

『行けばわかるさ。もたもたしてないでさっさと乗るんだよ!』

訳もわからずジェット機に乗せられ、車を乗り継いで辿りついたのは、あたり一面、白銀が冴えわたるカナダの道明寺家の別荘―

『ここ・・・懐かしい・・・』

その前で立ちつくすつくしの背後から、さく、さく、と雪を踏みしめる音が聞こえる。
振りかえった先に見つけた人影。
名前を呼ぶ前に、つくしの躰は駆け出していた。
広い胸板に顔を埋め、それが夢ではないことを確かめる。

『道明寺…』

暖炉の前で躰をあたためながら、いつものやりとりが始まる。

『ばっかじゃないの?!いきなりジェット機に乗せてこんなとこまで呼びつけるなんて。信じらんない!』

うれしいはずなのに、相変わらず口をついて出るのは憎まれ口ばかり。

『うるせえ。ホントは俺に会えてうれしいくせに。』

素直になれない言葉の裏側に隠された想いさえも見透かすように余裕の笑みを浮かべる。

つくしの憎まれ口に笑いながら耳を傾けていた司が、ふっと真面目な表情で話を切り出した。

『おまえ・・・雑誌見たか?』

『うん・・・見た。』

『あれ、違うからな。つきあいで出席したパーティでダンスの相手を頼まれて、ちょっと踊っただけだ。相手とはほとんど口もきいちゃいねえ。まして会ってるなんて大嘘だかんな。』

『うん・・大丈夫。わかってる。』

膝を抱えながらこくりと頷く。

『ちゃんとおまえの目を見て言わなきゃいけねえと思った。信じてくれると思ったけど、ちゃんと会って話をしなきゃいけねえと思ったんだ。』
司の言葉に胸がいっぱいになる。
その気持ちに応えるように、司の唇に唇を重ねる。
熱い塊がつくしの口腔をなぞる。

『んっ…』

息も出来ないほどの深いくちづけとともに、司の指先が服のボタンにかかる。

『ベッドへ…』

つくしは慌てて司の手をさえぎる。

『ベッドまで待てねえ。』

司はさえぎる手を解きながら、つくしの胸元を開いていった。

『暖炉の火、あったかいね…。』

すべてを脱ぎ捨てた肌を寄せ合いながら赤く揺らめく炎を見つめる。
鎖骨のくぼみを唇でなぞりながら司がぽつりとつぶやく。

『あの時みてえだな。』

浅井達の罠にはまり雪道をさ迷い、司に救い出され、山小屋の暖炉で躰を温めあった夜―

『あの時の道明寺の躰、あったかくって・・・。』

司を意識し始めたあの頃を、懐かしく思い出す。

『今の俺は・・・?』

つくしを抱きかかえ、乳首を口に含み舌で愛撫する。

『ああっっ…』

司を胸に抱きながら、荒々しい愛撫に身を任せる。

『熱い…』

その躰にはうっすらと汗が滲みはじめていた。

『上になれよ…』

つくしを躰の上にのせ、やさしく腰を掴む。
促されて腰を沈めると、熱くそそり立ったものがつくしに軽く触れる。

『ああっ…』

ゆっくり、ゆっくりと、その熱さを確かめるように腰を沈めてゆく。

つくしの裸身が、暖炉の炎に赤く照らし出される。
腰を回し花芽をこすりつけながら喘ぐ姿は、妖艶ささえ感じさせる。
司はそんなつくしに心を奪われ、夢中で躰を突き上げる

『あん…ああっ…』

細い躰を突き上げるたびに、小さく揺れる乳房の美しさが、司を欲情を駈り立てる。
熱に浮かされたように、つくしの乳房を鷲掴みにする。

『ああっ…』

背を反らすつくしに追い打ちをかけるように、乳首を指先で弄ぶ。

『あたしの手…握って…』

肩で息をしながら、司の前に手をさしのべる。
願いに応え、その小さな手をとる。
指折り数えるように、司のしなやかな指先を手のひらに包み込む。
包み込んだ手に、そっとくちづけ、頬をよせる。
そしてその手を胸に抱き、神に祈るように天を仰ぐ。
火影に美しく浮かび上がるつくしを見上げながら、司は想いのたけを口にする。

『この手は…おまえのものだ。おまえだけの…。』

その言葉と握り返された手の力強さに涙が溢れる。胸の奥の不安が涙と一緒に押し流されてゆく。

『ああっ…はあっ…』

互いの手を握りあいながら、最後の高みへと一緒に昇りつめてゆく。

『ああっっ…』

つくしの喘ぎ声が一段と切なく高くなった瞬間、司はつくしの中で自らを熱く脈打たせた。

『不安にさせてごめんな。』

司の詫びの言葉につくしは首を振った。
つくしをやさしく抱きしめ、流れ落ちる涙を唇で受け止める。

『泣き止むまで、ずっとこうしててやる。』

司の言葉に、またつくしの目尻から小さな涙が零れ落ちた。

昼下がりの道明寺家―

道明寺家の使用人の女達は、つかの間の休息時間を過ごしていた。

『ねえ、見た?司様の記事。』

女達は、こっそりと隠し持ってきた雑誌を広げる。

『お相手はNY在住の企業家のご令嬢なんですって。でも牧野様は・・・?』
『そうよね、だって司様は牧野様のことを・・・。』

そこへタマがやってきた。

『ほらほら、あんた達!くだらない雑誌の記事に惑わされて、みっともないったらありゃしないよ!その雑誌、こっちへよこすんだよ!』

女達は、すみません…と縮こまりながら雑誌をタマに差し出した。

取り上げた雑誌を手に、タマは自分の部屋へと戻った。

『やれやれ…。』

ゆっくりと腰を下ろすと、おもむろに茶の準備をはじめる。
煎茶をさらさらと急須に入れ、少し冷ましたお湯を注ぐ。
湯呑みにこぽこぽと茶を注ぐと、豊かな緑の香りが部屋いっぱいに広がる。

お茶の香りをすっと吸いこむと、タマは取り上げてきた雑誌を広げた。
令嬢と踊る司の写真を穏やかな目で見つめる。

『なに、今回のことは大したことじゃないのさ。あたしにはわかる。司坊ちゃんの目を見ればね。』

お茶をすすりながら、若かりし日の夫の写真を見上げる。

『司坊ちゃんが幸せになるのを見届けるのが、あたしの使用人頭としての最後の仕事さ。
それまではあんたのところへは行けないよ。』

タマの笑顔に、写真のそばに供えられた菊の花が、頷くように静かに揺れた―






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