香水
道明寺司×牧野つくし


数ヶ月ぶりにNYの道明寺邸を訪れたつくしを待っていたのは、思いがけないプレゼントだった。

『今度おまえが来た時に渡そうと思ってたんだ。』

司はリボンがかけられた小さな箱を取り出した。

『シャンネルで特注して作らせた。おまえをイメージした香りだぜ。』
『ええっ!…シャンネルで特注?!』

驚きのあまり目を丸くするつくしにお構いなく、箱をぽんと手渡す。

『開けてみろよ。』

司に促されすべらかなシルクのリボンを恐る恐る解く。
包みをそっと開き小さな箱を開けると、中から出てきたのは重厚感のある小さな瓶。
TSUKUSHI≠フ文字がさりげなくほどこされている。

『今度はスペル間違えなかったんだね…っていうことは、この瓶もハンドメイドなわけ…?』
『ああ。それにこれ作るために南フランスでジャスミンの花畑借りたんだぜ。』

想像を遥かに超えた次元の話をさらりと言い放つ司にめまいを覚える。

『あんたそんな事までしてたの!?そんな高級すぎるのあたしに合わないって!』
『んなことねえよ。おまえにぴったりな香りだぜ。』

司に勧められ、軽く指先にスプレーしてみる。

女性的な甘さの中に秘められた男性的な強さ。
つくしが芽吹く早春を思わせるようなやさしさ。
荒れた大地にも根を張り、踏まれてもまっすぐに伸びる力強さ。
風にしなやかに揺れながら新たな命を育む豊かささえも感じさせる香り―

専属の調香師から香りを作るときの参考にするとか言われて、おまえの性格とかいろいろ伝えたんだぜ。』
司のニヤニヤとした顔に、つくしの勘がぴんと働く。

『まさか、がさつで可愛げのない女≠セなんて言ってないでしょうねっ?!』

軽く睨みつけたつくしに、司は思わず吹き出す。

『ああ、可愛くねえ女≠セって言っといたぜ。』
『あっ、ひどいんだから!もう!』

つくしから繰り出されたパンチを余裕でかわすと、部屋のすみにある古時計に目をやった。

『おっと…そろそろ夕食の時間だぜ。おまえ、久々の2人きりのディナーにジーンズは色気ねえだろ?ちょっとめかして来いよ。』
『えっ?もうそんな時間…?じゃあ、ちょっと着替えてくる。』

司はゲストルームへ向かおうとするつくしの肩を抱き寄せそっと耳打ちした。

『今夜、キスして欲しいとこにそれつけて俺んとこに来いよ。』

『え…?』

思わず赤面するつくしの額を軽くぴんと弾く。

『おまえ、その赤面するクセやめろ。こっちまで伝染りそうだぜ…。じゃ俺、先にダイニングルーム行ってっからよ。』

司は、照れ隠しのようにくるりと背中を向け、足早にダイニングルームに向かった。

『キスして欲しいところ…?』

久々の2人きりの夕食は和やかなひとときとなった。

『家じゃいつもひとりで飯食ってるからな。誰かと一緒なんてすっげーひさびさ。』

微笑ましい二人の姿に、道明寺家の使用人達からも自然と笑みがこぼれる。

夕食の後、ゲストルームに戻ろうとしたつくしに、念を押すように司が囁いた。

『さっき言ったこと、忘れるなよ。』

―キスして欲しいとこにつけて来い―

つくしは、バスタブの中で、司の言葉を何度も反芻する。
湯に浸かり過ぎたせいか、躰が熱い。
少しのぼせてしまったかもしれない。
そう思いながらバスタブから上がり、躰を拭きながら、ドレッシングルームの鏡の前に立つ。
濡れた髪を整えながら、カウンターにあらかじめ置いておいた香水の瓶に視線を落とす。
思いがけない突然のプレゼントに、まだお礼さえも言っていなかった事に今更のように気づく。

香水の瓶を手にとり、胸にあてる。
熱くなった肌に硝子のひんやりとした冷たさが染みる。

―キスして欲しいところ―

司の唇が躰を這う様を想像し胸が疼く。
うなじ、耳、胸元、手首。香りをつける場所に思いを巡らせる。

―キスして欲しいところ―

小さな瓶を握りしめ、鏡に映る自分の裸身をぼんやりと見つめる。
淫らで欲深な想いがつくしの心を突き動かす。

つくしは意を決したように、香水の瓶を頭上に捧げるように掲げた。
司の柔らな唇を想いながら、空に向かってしゅっと一吹き香りを振りまく。
爽やかに広がる柑橘の香りを胸いっぱいに吸い込み、静かに瞼を閉じる。
空に舞い上がった香水は、霧雨のようにつくしの躰に降り注ぎ、裸身に香りを纏わせる。
やがてつくしは何かに目覚めたようにゆっくりと瞳を開くと、素肌にガウンを羽織り司の部屋へと向かった。

司の部屋の扉をノックしたのは約束の時間より少し遅れてのことだった。

『あの香り、つけて来たな。』

司は満面の笑みを浮かべながら、つくしを招き入れる。
ガウンの上半身をはだけた司の姿に、つくしの胸に秘めた欲望がさらに疼きを増す。
ベッドへ誘われ、抱きしめられると、司が纏っているいつもの香りがつくしをふわりと包み込む。

『すっげえいい匂いがする…。』

つくしの髪に顔を埋め、耳元をくすぐる。

『ここからも…。』

ガウンの合わせ目を開くと、さらに香りが広がる。

『首筋からも胸元からも…』

司はつくしの躰から匂い立つ香りの源を探りあてようとする。

『なあ、どこにつけたんだよ?』

うっすらと頬を染めて黙り込むつくしの姿に、つい意地悪な心が芽生える。

『どこにつけたのかわかんねーんじゃ、キスしようがねえな。』

わざと意地悪な口調でつぶやきながら、つくしの乳首を軽く捻る。

『あっっ…。』

つくしの乳首は捻られた形のまま硬く尖ってゆく。

『言えよ…。』

胸に抱かれ背中を撫でられる。
司の匂いに包まれ、抗いがたい衝動に駆られる。

『躰中に香りを浴びたの…。』

司の匂いと交わりたい。その一心で口にした言葉。
それでも司はまだ満足しようとしない。

『なんで、んなことした?』

さらにつくしの想いを確かめようとする。
そんなことを言わせないでと訴えるように見上げても、司のまっすぐな瞳はそれを許さない。

『あたしの躰全部にキスして欲しかったの。だから…その…。』

淫らな欲望を口にしてしまった事に後から恥かしさを覚える。

『何言ってるの…あたし…。』

脱がされたガウンを引き寄せよせ、司に背中を向ける。
司は小さく背中を丸めたつくしを背後から抱きしめ、髪に唇を寄せる。
そっとガウンを取り上げ、乳房をやさしく揉みしだきながら唇を奪う。

『んっ…』

ゆっくりとつくしをベッドに横たわらせ、愛しそうに見つめる。

『おまえの躰全部にキスしてやる。』

司の言葉に、つくしはこれ以上ない幸福な笑みを浮かべた。

髪、耳元、唇。そこから先は数え切れないほどのキス。
雄が雌を誘うように、雌が雄を求めるように、互いの香りに引き込まれてゆく。
つくしは赤ん坊のように手を握り締め、司の唇に身を任せる。
意地悪く捻り上げられた乳首に、やさしい愛撫とキスが繰り返される。
乳房から、わき腹へとゆっくりと唇を這わせながら、指先はつくしの敏感な部分をやさしく探る。
つくしの脚をやさしく開き、膝を折る。
敏感な芽を口に含み、そっと舌を這わせる。

『はあっ…』

充血した小さな芽を愛でながら、腕を伸ばし、つくしの乳房をやわらかく揉みしだく。

『はあっ…ああっ…』

二重の悦びに、つくしは鼻にかかった甘い声をあげる。

『ああっ…』

雫をすすり、舌を秘部へと忍ばせる。
そしてふたたび雫をすすった舌で小さな芽をやさしく舐め上げる。

『あんっ…』

痺れるように達してしまったつくしは、潤んだ瞳で司を見つめる。
その視線を察し、つくしに腰に纏っていたガウンのベルトを解かせる。

『行くぞ…。』

久しぶりに交わるつくしの感触を確かめるように自らを埋めてゆく。

『はあっっ…』

繋がりあって熱を持った肌が、互いの香りを揮発させてゆく。

『いい匂い…。』

躰の熱気と入り混じった白檀の香りがつくしの鼻腔をくすぐる。

『俺とおまえの匂いだ…。』

そう囁きながら、つくしの躰をさらに奥深く貫く。

『ああんっ…』

つくしの中の心地良さに、腰を擦り上げる。

『ああっ…あっ…』

その腰遣いに、つくしは切ない喘ぎ声を漏らす。
つくしを高みへ導くように、司は自らを打ちつけ、揺すり上げる。

『ああっ…もう…』

つくしの呼吸が深くなってゆく。

『待ってろ…俺も一緒に…』

つくしの頭に手を添え、腰をさらに振るい続ける。

『ああっっん…』

つくしが弓なりに背をそらした瞬間、司は息を弾ませながら自らを大きく脈打たせる。

『んっっ…』

つくしは、司の腰に手を添え、最後の脈を深く受け入れる。

『愛してる…。』

照れ屋のつくしの方から囁かれたその言葉に、司の胸が熱くなる。
つくしの乱れた髪を手櫛で整えながら、熱を帯びたその躰をやさしく抱きしめる。
2人の交わりあった香りが、濃密な空気を醸し出す。

『もうずっと…このままでいてえな…。』

数日後に待っているつくしの帰国。つくしを抱く手に、自然と力がこもる。

『ありがとう。こんなに素敵な香り…。』

同じ想いを伝えるように、つくしは司の背中に腕をまわした―






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