託す
-3-
道明寺司×牧野つくし


オルゴールの中はビロードの小物入れになっていた。蓋のある部分を開くと、・・・中に
はエンゲージリングが入っていた。

翌朝、私はプリシラ様の部屋に呼ばれた。
朝日の中で見るプリシラ様は、いつにも増して、お綺麗で・・なんだか儚い表情をなさっていた。

「あなたにお願いが、あるの」

私はとまどった。このような話し方をなさるのは・・・子供のとき以来だ。

「お父様に、離婚すると話して。そして道明寺家にはなんの制裁も加えないでと頼んで。
全て私の我がままのせいだから、と」
「プリシラ様・・・よろしいのですか?司様にお気持ちを伝えなくて・・・。」

プリシラ様は寂しそうに笑った。

「これ以上、みじめになりたくないわ。・・いいの、もう」

唇を噛みしめて、涙をこらえるプリシラ様はぽつりとそうつぶやいた。

「よく私、何もかも持っている女性なんて言われるけど・・・。
お金も、名声も、容姿も・・そんなの何になるの?
なんにも持ってないのに。愛せる家族も、友達も、・・・恋人も。
牧野さんが、うらやましい・・。
司に愛されるなら、私の持っているもの、全て捨ててもかまわないのに・・・・もう仕
方ないわね、こんなこと言っても」

私は自分の執務室に戻りながら、ほっとしていた。
やっぱりプリシラ様は分かってくださった。早く大統領にお伝えして、二人を開放しなくては。
執務室に電話のベルが鳴り響く。
聞きなれたその音に、私はなぜか不吉なものを感じていた。

電話の向こうの補佐官は、道明寺家の裏切りを伝えてきた。
慌てて私は、テレビをつける。どのチャンネルをつけても大統領の不正・スキャンダル
一色だ。そしてその内容は、内部の者でなければ知り得ないものばかりだった。
西田、とかいう男の狡猾な顔が浮かぶ。そして司様。
どうしていいか、分からず、机にもたれて考え込む。
プリシラ様に、なんとお伝えしてよいものか・・・。
ドンッ!腹の底に響くような銃声が鳴り響く。
私はプリシラ様の部屋に向かって駆け出した。

部屋の中は、血の海だった。テレビがついている。
・・・司様の裏切りを知ってか!
胸の中心を撃ったプリシラ様が倒れている。

「プリシラさまっ!!!!」

プリシラ様は苦しげにつぶやいた。

「や・・ぱり頭撃たなきゃ・・駄目ね・・。」
「だ、誰か、救急車を・・・!」

扉の入り口に集まってきた使用人に私は叫ぶ。

「スタンレー・・・ごめんなさ・・。」
「しゃべらないで下さい!」

私は吹き出る血を自分の手で押さえながら叫ぶ。

なぜだ、なぜこんなことに!何もかも、解決するはずだったのに!

「スタンレー・・ありがと・・あなただけ、私の味方だった・・。
もう・・駄目・・痛い・・とどめ、さして・・・」

プリシラ様の美しい顔が苦痛にゆがむ。

「何をしてるんだ!医者はまだか!!」

振り向いて、私は叫ぶ。

「お願い・・痛い・・」

哀願するプリシラ様を震える手で抱きしめる。
もう、駄目だ・・・たくさんの死を見てきた私は悟る。
プリシラ様を、楽にしてさしあげなければ・・。
私は泣きながら、落ちていた銃声を拾ってひきがねを引いた。

邸内が騒がしい。何かあったのかな。
道明寺の携帯が鳴る。道明寺は一言二言話して慌てて切った。

「・・・始まったな。・・逃げるぞ、牧野。ウチのSPが邸内に侵入してる」

慌てて靴をはく。部屋から出ようとして、気が付く。
あ、花沢類のオルゴール!
かばんの中を探る。んもう!こんな時に限ってみつかんない!

「何してんだ!早く行くぞ!」

叫んだ道明寺の後ろに誰かが立つ。

パンッ!乾いた音が響く。なんの音?・・・もしかして・・銃声?
道明寺が前のめりに倒れる。

「道明寺っ!?」

道明寺が胸を押さえてうめく。
部屋の入り口には、血まみれになったスタンレーが立っていた。
その顔は何かにとりつかれたような、鬼気せまる表情をしていた。

「プリシラ様が今・・逝かれました。司様にも早く追っていただかないと。」

!?何を言ってるの?

「誰か、助けて!」あたしは叫んだ。

SPたちが駆け込んできた。銃をもったまま、扉に持たれて立っているスタンレーを
拘束する。

「司さまっ!」

服を脱がせて止血しはじめる。撃たれたのは、左胸だった。

「道明寺、やだ、死なないで!道明寺!!」
「牧野様、離れてくださいっ!応急処置が先です!」

SPが叫ぶ。
道明寺があたしの方に、手を伸ばす。

「おめーは・・けがしてねえか・・?」

道明寺!あたしは手を握る。
次から次へと血がとめどなく溢れる。

「牧野・・もう駄目かもしんねえ。」
「やだっ!そんなこと、言わないで!」
「いいから、聞け・・ずっと守るっつったのに・・約束破ってすまねえ。」

道明寺が小さな声で何か言う。
口元に、耳を寄せる。

「・・・笑ってくれ・・最期に見るのは、・・笑顔がいい・・」

あたしは無理に笑おうとする。でも、うまく笑えない・・。

「へんな、・・かお・・」

そう言うと道明寺は少し微笑んで、目を閉じた。



船が大河原家の島に着く。
3年前まで無人島だったというこの島に、牧野は今両親と静かに暮らしている。
大統領の側近による道明寺家子息殺害という大事件は、その場に居合わせた牧野を
悲しむ暇もないほどに踏み荒らした。
静かに考えたいという牧野に大河原がこの屋敷を提供した。
俺は船を降りると、大河原の用意してくれた車に乗る。
中には、優紀とかいう牧野の友達と、大河原が乗っていた。

「類くんも、会うの、一年ぶり?つくし、元気かな・・。」

大河原が心配そうに言う。

「本当は花沢さんにはまだ会えない、ってつくしは言ってたんですけど・・・。
でも、・・・」

優紀は目を伏せる。

「ありがとう。俺だけじゃ、絶対会ってくれないから、助かるよ」

俺はこの一年、牧野にありとあらゆる方法で、コンタクトをとろうとしてきた。
牧野からはただ一言、ごめんなさいと書いたカードとともに、オルゴールが返されてきた。

邸内に入ると、牧野の母親が歓迎してくれた。とくに、大河原には何度も礼を言っている。
俺のほうをちらりと見て、困ったような顔をする。

「花沢さん、あの・・つくしはまだ・・」
「知ってます。長居はしませんから」

俺はきっぱりと言う。牧野の母親は、何かを言いよどむ。

「あの・・驚かないで下さいね」

そう言うと、牧野のいる部屋へと案内された。

何かの、泣き声がする。・・・?
扉を開けると、牧野が赤ん坊を抱いていた。

「つくしっ?その子・・・どうしたの?」

大河原がすっとんきょうな声を出す。

「ちょっと待って!ちょうどおっぱいなの。」

牧野はロッキングチェアに座って、ブラウスの前をはだける。
俺に気がついて、目を見開く。

「すけべっ!あっち向いてて!」

前をかきあわせて言う。
打ちひしがれて泣く牧野を想像していた俺は、呆然と立ち尽くした。

腹が膨れて満足したのか、赤ん坊はすやすやと眠っている。
俺はその小さな手をこわごわと触る。
なんの説明もいらなかった。くるくると強いくせ毛、長いまつげ、生意気そうな眉毛。

・・司の子だ・・。

「もう、すっごい手がかかるの。一日中泣いてるか、おっぱい吸ってるかなの。
 まるであいつの縮小版!しんみりしてる暇なんて全然ないの。」

そう言って、にっこりと笑う。

「でも、救われてるんだけど、この子に。」
「名前は、なんていうの?」

優紀が訊く。牧野は、「開ける」という字を紙に書いて

「カイっていうの。自分の道を、拓いていってほしいから。」と言った。

大河原がベビーベッドの柵に手をかけて、座り込む。

「司に、そっくりだあ・・・開くん、滋だよ、よろしくね。」

大河原は牧野に、抱きついた。

「一人で産むの、不安だったでしょう?つくし、ありがとう!あたし、あたし・・・」

泣いて声にならない。
俺は気になっていることを訊く。

「道明寺家は、知ってるの?」

牧野は悲しそうに首を振る。

「ううん・・。いずれは、と思ってるんだけど・・。
この子を見れば少しは椿さんや魔女・・じゃなくてあいつのお母さんも癒されるかな、
とは思うんだけど・・」

そう言って口をつぐむ。

「開の人生が変わるから?」

俺が言うと、牧野はこっくりと肯く。
確かに、開の存在を知ったら、道明寺家は牧野と開を家にほっておくはずがない。
今はもういない、亡き長男の息子なのだから。

夜になって、みんなは邸内のそれぞれの部屋に引き返して行った。
俺は二人で話したくて、牧野の部屋に向かう。

・・・聞きなれたメロディが、聞こえる。・・エチュードだ。

牧野は開を抱いてあやしながら、あのメロディをハミングしていた。

「牧野・・。」

話し掛ける俺に、牧野はしーっと指を口にあてる。
そのまま、静かな時間が流れる。
ようやく深く眠った開を牧野はそっと、ベッドに下ろす。

「連絡しなくて、ごめんね・・?」

あたしは花沢類の顔を見ずに言った。

「妊娠中に誰かに会うのが、怖かったの。未婚で、父親が死んでる子を産んでどうするの、
って心配されたくなかった。」
「そんなこと、言う訳ないだろ・・」

あっという間に、花沢類の腕の中にいた。

「俺がこの一年、どんなに悔やんでたか、わかる・・?司と牧野が危ないと感じてたのに、
あの事件を止められなかった・・。親友を亡くして、恋人を苦しませて・・。たまらなか
ったよ。
あんたは会ってもくれないから、支えることもできなくて・・。俺に何か償えることはな
いのか、そればっかり考えてたよ。
さっき、大河原も言ってたけど・・ありがとう、司の子を産んでくれて。」

そう言って花沢類はあたしの頭をなでる。

「俺に、あんたと開を、守らせてくれる?」

あたしは驚いて、花沢類を見上げる。

「そ・・んなこと、してもらえないっ。あたしは花沢類を裏切っ・・・」

花沢類はあたしの額に、そっとキスを落とした。

「あの日、司に頼まれたんだ・・。」

「類。お前から牧野を奪っておいて頼める筋合いじゃねえけど、・・・お前にしか頼めね
えんだ。」

成田を経つ直前、司はふいにそう言った。

「相手は、大統領だ。裏切った道明寺家に何をしかけてくるか、わかんねえ。もちろん、全
力であいつを守る。でも、もし俺に何かあったら、あいつを守ってやってくれ。」
そこまで言うと司は、ふっと何かを思い出して、笑った。
「あいつは、あたしは誰かに守ってもらわなきゃなんないような女じゃないっ!とか言いそ
うだけどな。」

あたしは、昔ゲーセンの前でキスした時のことを思い出していた。

道明寺、道明寺、道明寺・・・。

あたしはあの事件のあと、泣けなかった。道明寺がもういないなんて、信じたくなかった。
おう、今帰ったぞ、ってあたしを抱きしめにきてくれそうで・・・。
あたしは今、初めて声を上げて泣いた。



「パパ、どうだ?俺、かっこいいだろ?」

開がスーツ姿を見せに、控え室にやってきた。
泣いてばっかりいた開ももうすぐ5歳。

「開、本当に大きくなるにつれて、司に似てくるなあ。」

総ニ郎が感心したように、言う。横で優紀がわき腹をつつく。・・・いまは西門夫人だ。

「うん。俺も嬉しいんだ。でも、やきもち焼きなとこまで似てて困るけど。
牧野にべたべたすると、怒るんだ」
「そりゃあ、似てるわ」

と、総ニ郎とあきらが笑う。

「花嫁さまの、用意が整いました。」

付添い人が知らせに来る。
俺は少し緊張しながら、チャペルに向かう。司、鐘の音、聞こえるか?
牧野と開と、歩いていくよ。
いつかそっちでお前と会った時に殴られないように、頑張んなきゃな。

「おう、泣かしたら、容赦しねえからな」

司の声が聞こえた気がした。
チャペルの扉が開く。父親と腕を組んだ牧野が歩いてくる。

開が持つ、ヴェールがステンドグラスの光を受けてきらきらと輝く。
俺には、司からの祝福のメッセージに見えた。


<プロローグ>

「お前か、8cgとかいう三流エロ書きは・・」
「ど、道明寺!・・・あはは、元気ィ?」
「どてっ腹に穴開けられて元気なわけあるか!ああ?なんで俺が死んで牧野と類が結婚
してんだ?しかもお初も類にやりやがって・・・」
「えへへー、だってどうしても類とくっつけたかったんだも〜ん。原作の終わり方もさー、
まだ類とくっつく可能性あり、って感じだよねー。エッチしてないし、つくしとあんた
離れてお終いだしさー。」
「してねーのは少女漫画だからだっ!お前、パソの壁紙F4のジェリーのくせに!」
「あ、流星学園の道明寺、好きなんだ。Uの方はぐずぐずしてて嫌いだけど。
でもやっぱりヴィックの方が好きなんだ〜。でも好きすぎて、壁紙にしちゃうと見とれて
ネットにつなげないからさー。」
「お前・・・そんな事言ってっから、週末にエロ書いてる人生なんだな・・」あわれむ道明寺。
「!!・・・ゆうてはならんことを・・・!」メラメラと怒る8cg・・。

「だいたいさー、作者様も絶対つくしと類をくっつけるつもりだったはずだよ〜?あんたの
髪型の理由もいじわるそうだから、だしさ。強姦未遂した男と、集団レイプから助けてく
れた男。どっちに行くかなんて火を見るより明らかよね〜。」開き直る8cg。
「てめえ・・。おい、斎藤。」SPを呼ぶ道明寺。
「ひえっ、何を・・・」おびえる8cg。
「俺と牧野、くっつけろ。もちろん初めては俺だ。さもなくば・・」

8cgの宝物、「王家の紋章 既刊 49巻」を火にくべようとするSP。

「そ、それだけはやめて!・・・要するに、あんたとつくしがくっつけばいいのね・・?」
挑むように道明寺を見る8cg。言われなくても、今度は道明寺幸せバージョンを書こうと
思ってたのに・・・。見ておれ、道明寺め!

「おう、じゃあ、よろしくな。」

道明寺はSPを連れて、ごきげんに去っていった・・・。






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