フォーチュンクッキー
-2-
道明寺司×牧野つくし


「やめてっ!」あたしは思わず子供の前に立ちはだかった。

あの娘、なんていうことを!私は驚いて声も出なかった。
衆人が見守る中、メンフィス王が掟を破るような事をできるわけがない。
メンフィスさまに逆らえば、切り捨てられると、分かっていないのか!

「ミヌーエ、牧野を宮殿に連れて帰れ!」

メンフィスさまが私に命令する。

「嫌っ、この子を傷つけないで!」

牧野はしっかりと子供を抱きしめる。元は裕福な家の出ではない私は、驚きと共に、その優
しさに心打たれる。

「このっ・・」

メンフィスさまが、牧野と子供を引き離そうとする。牧野はしっかりと抱いて子供を離さな
い。

「お願い・・メンフィス、お願い・・」

牧野の目に、涙が溢れる。メンフィスさまは、ますます猛り狂った表情をなさっている。

「二人とも、宮殿にひったてろ!」

二人は兵士たちにひきずられるように、宮殿に連れて行かれた。

宮殿に入ると、無理やりあたしと子供は引き離された。子供が不安そうに、あたしを見つめる。
あたしはそのまま、メンフィスの寝室に閉じ込められた。
メンフィスが恐ろしい表情で、私の腕を掴む。

「痛いっ、やめてっ!」
「いつもいつも、逆らいやがって!」

ベッドに押し倒されて、激しく口付けされる。狂おしく、あたしをかき抱く。

「どうすれば、従うんだよ!オレの思い通りにどうしたらなるんだ!・・ちくしょう!」
「やっ・・やめてっ・・。」

メンフィスが怒っている。
メンフィス、あたしのこと、大事にしたいって言ってくれたよね。でも気に入らなければ、
あたしのことも、殺すの?

オレがガキの腕なんか、切りたいと思うのか!
国を統べるなんて、非情じゃなきゃ、できねえ。自分の気持ちを殺してでも、掟を守り、守
らせる。王自ら規律を破ったら、民からの信頼を失っちまうじゃねえか。
婚儀のこともそうだ。国益を考えるなら、ミタムン王女を娶った方が良いのは、分かりきっ
てる。牧野のことは側室におけばいい。そんなことは分かってる。
だけど、やなんだ。どうしても、このことだけは譲れねえ。
側室なんて、いらねえ。たった一人、牧野がいればいい。
オレに殺されるかもしれない恐怖に震えながら、子供をかばった牧野の顔が浮かぶ。
女なんて、抱いて子を産ませるだけのモンだと思ってたのに。
牧野。お前を正妃にしてえ。誰かの下になんか、置きたくねえ。

メンフィスが腕の力を緩めて、あたしをじっと見つめる。
あたしは、殴られるのかと思って、身構える。

「お前を傷つけたりするかよ・・。」

真剣な眼差しで、乱れたあたしの髪を直す。

「お前を・・・オレの妃にする。・・・オレの妻になれ。」

あたしは、驚いてメンフィスから離れる。

「だ、だめ、絶対だめ。だってあんたがミタムン王女と結婚しないと戦になるってミヌーエ
が・・。」
「戦になったって負けねえよ。そんなことは心配すんな。」
あたしは、これを言ったら、どんな恐ろしいことになるか怖くて言えなかったことを口にする。
「あたしには・・あっちに恋人がいるの。あっちで、あたしのこと心配して待ってるはずな
 ・・・。」

全てを言い終わる前に口を塞がれる。

「他の男の話なんて、聞きたくねえ。そいつがどんな男だろうと、お前は返さねえ。」
「だめよ、あたしは外国人よっ。」

あたしはメンフィスから身体を離して言う。

「かまわねえ。」

メンフィスは真顔で答える。

「あたしは、未来から来たのよ!」
「かまわねえ。」
「あたし・・あなたを愛してないわ。」

あたしはほんの少し胸に痛みを感じながら言う。

「かまわねえっつってるだろ!」

メンフィスはぐっと目をつぶって、一瞬何かを考えていた。そして、再び目を開けたときに
は、もう決めたという表情で、きっぱりと言った。

「明日、大臣と神官の集まる場でお前との婚儀を発表する。嫌とは言わせねえぞ。」

あたしは、メンフィスの想いの激しさに、とまどいと恐れを感じずにはいられなかった。

私はメンフィスさまが幼い頃から、お側に仕えさせていただいた。貴族の子弟が多い中、
メンフィスさまは貧しい出の私を将軍にまでとりたててくださった。
他の者は、メンフィスさまを優秀だが、わがままな暴君と考えているようだが、それは違う。
メンフィスさまは本当は自分に一番お厳しい。
国益を損なうことを一番自分に禁じられている方なのに・・・。
今日の会議で、あの異国の娘を正妃にと言われた時は、神官も居並ぶ大臣たちも耳を疑った。
なんとしても、なんとしてもそんなことは阻止しなくては。
ミタムン王女のみならず、大臣たちからも私は娘を殺すようにと暗に迫られている。
しかし。・・・子供をかばって泣いた娘の顔が脳裏から離れない。
なんとか命は助けてやりたい。私は、意を決して娘の部屋へ行った。

「困ります。いくらミヌーエ将軍とはいえ、男の方を夜部屋に入れたりしたことがメンフィスさまに知れたら、どんなおとがめを受けるか・・。」

ナフテラが眉をひそめる。

「そなたに迷惑はかけない。長居はしないから、安心しろ。」

私の思いつめた表情に気おされたのか、ナフテラはしぶしぶ扉を開ける。

「あと一時もすれは、メンフィスさまがいらっしゃるかも・・。」
「分かった。」私は部屋に入る。娘は湯浴みを終えて、髪を梳いていた。
「ミヌーエ将軍・・?」

娘の腕には、先日メンフィスさまが送られたブレスレットが光っていた。
細い鎖にきらめく宝石がちりばめられている。異国からの貢物の中からメンフィスさまが目
をお留めになり、自ら娘にお渡しに行った。
その様子を見たときから、随分ご執心だ・・と案じてはいたのだが・・。
私は包み隠さず、状況を娘に話した。彼女は賢い娘なのだろう。
ひとつひとう肯きながら、しっかりと話を聞いていた。

「この間、子供を助けましたね?あなたのそのお心に打たれて、私はこうして来ているので
す。普通の女性にとっては正妃の座は何があっても、譲れるものではないでしょう。
しかしあなたなら分かってくださるかもと思い、参りました。
戦争が起きれば、何千、何万という民が犠牲になります。そして、その家族はどうなるで
しょうか?あの子供のように、盗みを働くか物乞いをするしか、生きるすべはありませ
ん。メンフィスさまもできれば戦はさけたいとお考えです。
でもどうしてもあなたを妃に、とお考えでいらっしゃる。あなたがメンフィスさまのそば
にいる限り、多分お考えを変えないでしょう。」

娘はうつむいてしばらく考えこんでいた。が、顔を上げるとこう言った。

「私も私が妃になるべきではないと思っています。でも・・私はどこに帰ればいいのか、分
からないんです。」

そういうと、悲しげに目を伏せる。

「あなたが、身を隠してくださるなら、私の故郷にご案内します。田舎ですが良いところで
すよ。そして、必ずあなたを元の国へ送り届けます。」

娘はこくりと肯いた。そして、こう言った。

「明日まで、待ってもらえますか?」

私はもちろん、承諾した。メンフィスさまはやっきになって娘を探すだろう。
メンフィスさまを騙すようなことはしたくない。しかし、国のためなのだ。
メンフィスさまもいずれ分かってくださるだろう。

ミヌーエ将軍が帰ったあと、あたしはメンフィスに手紙を書いた。封をして、寝ようとした
ところに、メンフィスが来た。

「どうしたの?なんか疲れてるね。」
「おお。・・・あいつらうるさくてよ。今夜ここで寝ていいか。」

えっ!?あたしはとまどったけれど、今夜がメンフィスと過ごす最後の夜だということを思い、肯いた。
メンフィスは本当に疲れているらしく、ベッドに横になるとすぐ、健やかな寝息をたてはじめた。
メンフィスの寝顔を見つめる。最初は道明寺と全く同じ顔だ、と思っていた。でも・・・道明寺より、濃い肌の色。いつ負った傷なんだろう、刃物で切られた跡もこめかみにある。
道明寺と似ているところもいっぱいある。長いまつげ、きりっとした目元、品のある口元・・・。
もう、会えない。そう思うと涙があふれてきた。どうして?あたしが好きなのは、道明寺な
のに。メンフィスから離れれば、もとの世界に戻る道を探すこともできるのに。

メンフィスの手にそっと触れる。王者のしるしを彫った指輪。大きな手・・この手に何度も
抱きしめられた。あたしがいなくなれば、ミタムン王女を抱きしめるのかしら。
あたしって勝手だ。自分から離れていくのに。やきもち焼く資格なんて、ないのに。
そう思うのに、涙が止まらない。あたし、こっちに来てから、泣いてばかりだ。
こんな弱虫じゃなかったのに・・。
あたしはそっとメンフィスの額にキスをした。さよなら、メンフィス。



額にキスを感じて目を覚ました。牧野が驚いたように目を見開く。

「お、起きてたの?」

あっという間に、耳まで赤くなる。牧野がオレにキス?
オレは思わず牧野を抱き寄せる。

「すっげえ、嬉しい・・」

牧野の唇を求める。・・?牧野も応えている・・?
そっと舌を差し入れる。はじめは迷うような・・でも途中からは牧野もオレの舌を求め出す。
オレの全身に喜びがみなぎる。今まで、どんな女を抱いてもここまで心が昂ぶったことはな
かった。・・これが、愛する女を抱く、ということか。

そっと夜着を脱がして、胸元に口付ける。

「この先、何が起ころうが、オレの妃は、お前だけだからな。」

牧野の目にみるみるうちに涙が溢れる。

「なんで泣くんだよ・・。」

オレはどうしていいか分からなくて、とまどう。怖いものなんて、ない。戦だろうが、刺客だろうが、絶対負けねえ。・・だけど、牧野に泣かれるのは苦手だ。どうしていいか、分からねえ。
「もう泣くな・・。お前が不安に思うこと全部から、守ってやるからよ・・。」
牧野が目を閉じる。何か小さな声でつぶやく。ごめんね、というように唇が動いた気がした。

牧野の鎖骨をそっと舌でなぞる。双丘のふくらみをそっと手で包む。柔らかなその先端を
口の中で、転がす。少しずつ、硬くなってくる・・。

「んっ・・」

牧野が甘い声をもらす。初めて聞く、切なげな吐息。
オレはたまらなくなって、激しく唇を求める。
愛してる、愛してる、愛してる・・・何度言っても、足りない・・。
身体中に、キスを落とす。ここも、オレのだ、ここも、ここも・・。
やっとたどりついた泉は、はちみつを垂らされたように、しっとりと濡れていた。
オレは全てを味わいたくて、指でそこを広げると、赤く膨れている芽を舐め上げる。

「あっ、いやっ、あたしそんなこと、されたことな・・」

牧野が恥かしそうに言う。

「誰かお前にこんなことしてたら、そいつのこと、ぶっ殺してやるとこだぜ・・。」

芽の周りを人差し指でゆっくりと刺激する。

「あんっ・・んっ・・」

牧野が声をころしながら、身体をくねらせる。無意識なのか、快感を求めて腰が動いている。
オレは導かれるように、指を二本挿入する。暖かい・・これが牧野の中か・・。
リズムを刻むように、指を出し入れする。

「んんっ、あっ、あんっ、あ、ああっ!」

牧野の顔が色づく。小さな唇から漏れる嬌声が、オレの分身を高める。

「牧野・・行くぞ・・。」

オレは深く腰を落とした。

「・・・ああんっ・・!」牧野が少し鼻にかかったような声をあげる。

オレは牧野の両膝をぐっと倒すと、激しく打ちつけ始めた。

オレは味わったことのない快感に驚く。まるでオレのためにある体のように、牧野の中は
オレにからみつく。オレのもつカーブと、牧野の中のカーブが、ぴったりと重なる。
オレはもっと深くつながりたくて、牧野の奥をめざして、突く。
乱れる牧野の顔が愛しくて、唇を求める。
唇を離すとき、牧野が哀しそうな顔をしたような、気がした。
牧野の膝を閉じさせて、背中を持ち上げる。

「やだ・・はずかし・・」

牧野の抵抗を無視して、オレは後ろから牧野とつながる。
左手を胸に回し、右手は赤い芽をいじる。そうしながら牧野に出し入れすると、牧野の声がひときわ高くなった。

「あ、あ、やあっ、もうだめっ、だめっ、いっちゃうっ・・」

オレにも限界が近づいてきた。今まで味わったどんな歓喜より、深く激しい快感がオレを貫く。
オレと牧野は、裸のまま、朝まで寄り添って眠った。

朝日が部屋に差し込む。
窓から庭を眺める。こんな悲しい日なのに、光を受ける宮殿の風景はとても美しい。
眠っているメンフィスを見る。強いくせ毛をそっと指でとかす。
あたしは手早く服を身に付けると、ナフテラの部屋に行った。

「そんな・・お一人でどうやってそこで暮らすのです?知り合いもいないのに・・」

ナフテラが心底心配してくれているのを感じてあたしは嬉しくなる。

「ナフテラ・・あたしがここに来てから、なんにも分からないあたしに優しくしてくれて
 本当にありがとう。・・あなたが居なかったら、ここで暮らせなかった・・ありがとう。」

ナフテラがあたしを抱きしめてくれる。

「ミヌーエさまにお願いして、牧野さまについて参りますわ。ミタムン王女に仕えるなんて、
 嫌ですわ。あの方、侍女の間でも評判悪いんですわよ。・・・みんな牧野さまを慕ってま
すわ。子供を助けたこと・・皆、感心しております。誰もメンフィスさまには逆らえなか
ったのに・・。それにメンフィスさま、以前よりずっとお優しくなりました。牧野さまの
おかげだと、宮殿に仕えるものは、皆言っております。」

その言葉を聞いて、あたしは嬉しくなる。あたしがどうしてここに来たのか分からないけど、
メンフィスが変わったのならここに来た意味が少しでもあるのかな・・。

「ありがとう。気持ちは、とっても嬉しい。・・・でも、ナフテラはここでの責任を果たし
て。ミタムン王女、本当はそんなに悪い人じゃないと思う・・。」

桜子に性格も似てれば、本当は優しい心の持ち主だと思う。妃になれば、きっとメンフィス
のことを大切にしてくれる。

「この手紙を、メンフィスに渡してくれる?」

ナフテラに手紙を託す。そして、ふと目に留まった指輪を外す。

「この指輪・・何か書いてあるんだけど、どういう意味なの?」

受け取ったナフテラが指輪に目を落とす。

「ええと・・いつも、どこにいても・・・」

ナフテラの説明を聞いてあたしはメンフィスに指輪も渡してほしいと頼んだ。
メンフィスが起きてくる。「牧野!」

「なあに。」

牧野が続きの間から、顔を出す。・・目を覚ましたら隣にいねえから・・消えちまったかと思ったぜ。
オレは牧野の腕をとって、ベッドに引き込む。

「ちょっと、ナフテラが見てるよ!」

牧野が慌てて身を離す。

「ナフテラ、しばらく庭でも散歩してこいよ!」

オレは牧野に唇を落とす。牧野はなぜか、哀しそうな光を瞳に宿している。

「どした、なんかあったか。」

牧野は首を振る。

「ううん・・。メンフィス、・・・立派な王になってね。」
「あったり前だ。近隣の国、全部平定して、平和にするぞ。国中の民が笑って暮らせる国に
するんだ。・・お前がいれば、なんでもやれる気がする。」

牧野は安心したように、にっこりと笑った。

「メンフィスさま、ヌビアに不審な動きありとの早馬が参りました。すぐご出立を!」

ミヌーエ将軍が、緊迫した声でメンフィスを呼ぶ。

「すぐ行く」

メンフィスは手早く服を着ると、剣を身に着ける。

「2,3日帰れねえかもしんねえ。浮気すんなよ。」

笑いながらそう言うと、あたしを抱き寄せて、額にキスを落とした。
あたしは両腕をメンフィスの首に回し、背伸びして、唇を求める。
メンフィス、メンフィス、メンフィス・・・。
閉じた瞼の奥に、涙が溢れる。お願い、もう少しだけ、流れないで・・!
メンフィスがあたしの手を握る。そして、そっとブレスレットをなぞりながら、手を離した・・。

「メンフィスさま!」ミヌーエが急かす。

オレは牧野から身体を離すと、手を握った。オレの贈ったブレスレットをつけている。贈ってしばらくは、決してつけなかったのに。
牧野の手をそっと離す。後ろの扉が開いた。振り向くと、ミヌーエが何かに驚く。
視線の先を探すと・・・・牧野は消えていた。



気が付くと、あたしは指輪を買った店の前にいた。あれ・・?あたし、何してたんだっけ・・。
道明寺は、どこにいったんだろう。

「牧野っ!!」

大きな道を挟んで道明寺が叫ぶ。クラクションを鳴らされながら、道明寺がこっちに走ってくる。

「あ、危ないじゃん、何してんの!?」あたしは驚いて言う。

道明寺があたしを胸の中にさらう。

「何してんのじゃねーよ、てめー。急に消えやがって!どこ行ってたんだよ!」

店の主人が、何か言う。

「指輪とブレスレットを交換しに来た・・?てめーなんで一言言ってかねえんだ。小一時間、
オレがどんだけ心配したと・・まーいーわ。無事だったんだから・・。あんま、心配させ
んなよ。」

道明寺が、ほっとしたようにつぶやく。

ブレスレット・・交換・・?
自分の手を見ると、買ったはずの指輪が消えて、瀟洒なブレスをしている。
えっと・・あたし・・?
帽子を深くかぶっていた店主が、つばをあげる。にこっと笑って、あたしに、ウインクした。
あれ?なんか、美作さんに、似てる・・。

「あなたの国に連れて行くと、約束したでしょう?」

彼は二人の背中を見届けながら、そうつぶやいた。



「牧野!?」オレは、部屋中を探す。

出口には、ミヌーエがいた。誰かがさらうような、時間もなかった。いったいどこ行ったんだ!?
ナフテラと、ミヌーエが哀しげに首を振る。

「牧野さまは・・元の世界に戻られました。」

ミヌーエがやっとのことで、声をあげる。

元の世界!?帰った!?

オレは何も考えられずに、ベッドに座り込む。そこには、さっきまで牧野が来ていた夜着が
畳んである。夕べ、いくつもキスを落とした、白い身体。
まだ、そこここに、あいつの香りが残ってるのに。
ナフテラが、迷いながらオレに封筒を渡す。

「牧野さまは、エジプトのことを考えて、身を隠すおつもりでした。・・・元の世界に戻る
方法はご存知ないとおっしゃっていましたが・・。これは、メンフィスさまへと・・」

オレはひったくって、中を読む。



メンフィス

あなたがこの手紙を読む頃、あたしはテーベにはいないはずです。
ずっとここで暮らせと言ってくれたのに、
あたしを正妃にすると言ってくれたのに・・応えられなくて、ごめんなさい。
どこか、離れたところであなたを見守っています。
それが、エジプトのどこかなのか、あたしの世界なのかは、あたしにも分からないけれど。
盗みを働いた子供を助けてくれたと、聞きました。
子供の罪に対する法律の見直し始めてくれたことも。
ありがとう、メンフィス。
初めて会った夜、絶対あなたのものになんてならない、心は渡さない、と言ったこと、覚えてますか?
でも今、あたしの心は揺れています。
あなたの治めるエジプトの為、あなたから離れるのが誰にとっても良いこと。
そう分かっているのに・・・・・あなたのそばにいたい、そう思っている自分もいるのです。

あたしが、未来から来たと話したこと、覚えてますか?
あなたには話していませんでしたが、未来であたしのそばにいた人は、あなたによく似ています。
だから・・あなたに惹かれはじめた時、あなたに惹かれているのか、彼に似ているから惹か
れているのか、分からないほどでした。
でも今は、こう考えています。
彼はあなたの、新しい姿・・あなたがここであたしを見つけ、彼は未来であたしを見つけてくれたと。
あたしとあなたはこの世界で、一緒に生きることは、できない。
でも、きっと未来でもあたしを見つけて。あたしも、あなたを見つけるから。
メンフィス・・・。一度も言えなかったけど・・愛してます。

牧野つくし



中には、いつもあいつが着けていた指輪が入っていた。
「心はいつもそばに」そう彫ってあった。
オレは手のひらに指輪を握り締める。
牧野、こんなのありかよ。こんな終わり方、納得できねえよ。
何からだって、守るっていったじゃねえか。
お前さえいれば他には何もいらねえと、思ってたのに。

「立派な王になってね。」

牧野の、最後の言葉を思い出す。オレはミヌーエに言う。

「ヌビアに異変あり、だろ。行くぞ。」



メトロポリタン美術館・ミイラ展示室

5歳くらいの少年が、ミイラの脇にあるプレートを指差して、母親に訊く。

「ねえママ。ここなんて書いてあるの?」

母親が顔を近づけて読む。

「えーと・・メンフィスU世・・エジプト王朝最盛期の王の一人・・。隣国ヒッタイト、ヌ
ビアを平定する・・。多婚の時代にあって、生涯妃を持たず、姉の嫡男が王位を継いだ・・
ですって。」

あたしはなんだか釈然としないまま、道明寺と手をつないで歩き出す。
ハドソン河に、夕日が落ちる。河に沈む夕陽・・あたしどこかで、こんな夕陽を見た気がする・・。

「きれい・・。」

つぶやくあたしの手に、道明寺がキスをする。

「もうオレの手・・離すなよ。」
「・・うん・・」

目をつぶって、道明寺のキスを待つ。指輪、どこ行っちゃったのかな。
そう言えば、昨日見たミイラ、似たような指輪してた・・・ような・・。
道明寺のキスに熱がこもりだす。

「もう、こんなとこで!」
「じゃ、ホテル帰ろうぜ。」
「またあんたはそういうことすぐに言う!」

道明寺が、笑う。その笑顔がふいに誰かの顔に見える。

・・あたし、変なの・・。なんで涙がでるのかな・・?

あたしはしっかりと道明寺の手を握る。
NYが闇に包まれはじめた。


<エピローグ>

「てめーはどうしてすっきりハッピーエンドにできねえんだ?。」
「えーこれでも手加減したんだよ〜?本当はつくし、類演じるイズミル王子にさらわせるつ
もりだったんだから・・。長くなりすぎてやめたけど・・」
不満そうに言う、8cg。
「・・類好きなてめえにしちゃ、類がいねえから、変だと思ってたぜ・・」あきれる道明寺。
「他にもキャスティングは決まってたんだけど・・ラガシュに亜門、アルゴンが西門・・」
「ふざけんなっ、何年続けるつもりだっ!」






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