漁村
道明寺司×牧野つくし


つくしは道明寺から話があると言われ、2人は砂浜を海岸線沿いにゆっくりと歩き始めた。
遠くの所々に電柱の明かりはあるが、暗い砂浜を歩くには月明かりだけが頼りだ。
打ち寄せる波音と砂にきしむ2人の足音、
少し離れた所で、類と話している吉松くんの声が途切れ途切れ聞こえてくる。
さっきまで、4人で座っていた場所だ。と言ってもほとんど吉松くんが1人でしゃべっていた。
その時から道明寺とは、まともに口を利いてない。

・・なんか気まずい・・

そんな気持もあって、道明寺より1歩後を歩くつくし。
・・なんか言わなきゃ・・

「あの、道明寺・・さっきはありがとう・・お金はちゃんと返すから・・」
「いらねえよ。あれはおまえの給料分だから」

前を向いたまま、不機嫌な声で道明寺は言った。

・・つい昨日のことのように蘇るあの雨の夜。
漁村にいる間、思い出す道明寺の顔はいつもあの夜の辛そうな顔だった。
それが今、手を伸ばせば届く距離に道明寺がいる。すぐ、目の前に。
でも、あたし達の間には消すことの出来ないあの雨の夜があるんだ・・

さらに、沈黙が続く。。もう類たちの声も聞こえないし、姿も見えない。
突然、道明寺が立ち止まった。
ぶつかりそうになって慌ててつくしも立ち止まる。
振り向いた道明寺の顔がすぐ目の前にある。つくしが後ずさりしようとすると、
それを許さないかのように、道明寺はつくしの腕をつかみ引き寄せた。

「何やってんだよ、お前は!俺はずっとすげえ腹が立ってた。何も言わず姿くらましやがって!
心配するだろうが、このバカ!」

せきを切ったように怒鳴りたてる。

殴られる!そう思った次の瞬間、つくしは道明寺の腕に中にいた。

「すげえ、会いたかった・・」 『私も』と言いそうになったが、つくしは言葉を飲み込んだ。

・・ああ、こんなにも私を心配してくれてたなんて。
大きくて広い胸・・包み込んでくれるたくましい腕・・なんて居心地がいいんだろう。。
いつもの高そうなコロンの香りが懐かしい。。道明寺がここにいる・・

つくしは涙をこらえるのが精一杯だった。

身体を少し離した道明寺は右手でつくしの頬をやさしく包んだ。
そしてもう片方の手でつくしの腰を力強く引き寄せ、唇を重ねる。
今までだって何度かキスはしている。でもこれまでのとは何か違う。。
我慢していた涙がつくしの頬を伝わる。

「お前はどう思っているかわからないけど、もう関係ねえ。
俺はお前をあきらめねえからな」

さっきとは打って変わって、やさしく諭すように話す道明寺。

「だめだよ。だって・・」道明寺楓の顔が脳裏をかすめる。

「だめじゃねえよ。俺はまだお前の彼氏だろ?2ヶ月たってねえしな。」

つくしの気持ちを見透かしたように、さらに言葉を続ける。

「ババアのことは心配するな。お前もお前の家族もダチも俺が守ってやる。
俺たちF4がついてるんだから、怖い物なんてねえよ」

・・何を根拠にこの人は・・

再び、道明寺の顔が近づく。

「ちょっと、類たちがいるんだよ」

すでに類たちの場所から見えないのは分かっている。

「いいじゃん、見せつけてやりゃあ」いたずらっぽく笑う道明寺。

それでもためらっているつくしの腕をつかんで、道明寺は歩き始める。


砂浜に置かれている古びた小型船の陰・・・いつのまに見つけたのか・・

「とにかく、なんでもいいから戻って来い。お前がいない生活なんてもう耐えらんねえ。
俺はお前がいないとだめなんだよ」

まっすぐつくしを見つめる道明寺。潤んでいるように見えるその瞳は真剣だった。

・・あたしに心配かけまいと、こんなに一生懸命な道明寺にこれ以上何が言えるだろう。
あたしだって、あの夜の悲しげな道明寺のあんな顔を2度と見たくない・・

初めて2人の気持ちが1つになったような気がした。

・・前途多難なのは分かっている。でも、今は道明寺を信じよう・・

道明寺は潮風に揺れるつくしの髪をやさしく掻き分けながら、そっとつくしの耳にキスをした。
・・きゃっ・・思わず肩をすくめるつくしだが、そんなことにお構いなく首筋へ唇を移動させる。
高鳴る鼓動。・・全然嫌じゃない、むしろ愛おしい・・
再び唇が重なり合ったとき、つくしは完全に道明寺に身を任せていた。
一瞬、つくしの唇が少し緩む。すかさず道明寺の舌が入ってくる。
確信を得たように激しく求める道明寺。何度も続くキス。。。


・・気が遠くなっていく・・

「好きだ」という道明寺の声を何度か聞いたような気がする。
「牧野・・おい牧野」道明寺の声でハットするつくし。

・・やだ、あたし腰くだけになってるじゃない、恥ずかしい・・

力無くしゃがみ込んでいるつくしを抱きかかえながら道明寺が言う。

「チェッ、類たちが探しているみたいだから行こうぜ。あの野郎、いいところで邪魔しやがって。」

「つかさ〜」類の声が近づいてくる。

花沢類の声を聞いた途端、つくしは急に顔が熱くなった。

・・良かった、まだ薄暗くて、赤い顔を類に見られたくない・・

「おまえ、類が呼びに来てほっとしてんだろ、続きは帰ってからな」

ニヤっと笑いながら、耳元でささやく道明寺。

「つづきって・・又、そういうこと言う」
「恋人同士なんだから、色々したいに決まってんじゃん」

さらに嬉しそうに言う道明寺。

・・あたしは、この人の笑顔が好きだ。道明寺が好きだ・・

半ば強引に手を繋ぎながら、類たちの下へ歩き出す道明寺とつくし。

「ああ、いてえ。お前チビだから首がいてえよ。背伸びするとか気を使え、バアカ」
「な、何よ。無駄にでかいんでしょ、あんたが!」
「うるせえ、もっと早く歩け・・」
「痛い!手が抜けるよ〜離して〜」

そんな2人を見守るように微笑んでいる類。

━水平線の輝きが4人を照らし始め、夜が明けようとしていた━






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