同じ夢
道明寺司×牧野つくし


もうずっと周囲の景色が変わらない。
生まれ育った家で迷うはずがないと思いながら、司は廊下をぐるぐると歩き続ける。
堂々巡りを幾度か繰り返すうちに、やっと自分の部屋に辿りついた。
扉を開けると、部屋の中は昼のものとも、夜のものともつかない曖昧な光に包まれている。
ドアのそばに飾られた赤い薔薇に目をとめた。
朝露に濡れた花びらが小さな雫を滴らせ、蜂蜜のような甘酸っぱい芳香を放っている。
不思議な浮遊感を覚えながら、司はふらふらと部屋の中へと入ってゆく。

『牧野、どうしてここに…?』

いつの間に来たのだろうと思いながらも、目の前の官能的な光景に目が眩む。
ベッドの上に散らばった色鮮やかなトランプ。
カードを散らしたその真ん中に、白い背中をさらしたつくしが座っている。
カードを一枚一枚拾うたびに、しなやかに伸びる細い腕。
その腕の間からわずかに覗く丸みを帯びた乳房。
カードを拾い集めながら、時折、誰かを探すように周囲を見渡している。

『牧野…』

早く行って抱きしめてやろう。そして思いっきり−
はやる心を抑えきれず、つくしのもとへと駆け寄ろうとする。
が、躰が重く沈みこみ、思うように前へ進めない。

『な、何なんだ…?』

前へ進もうともがく司の目の前を、ガウン姿の男が悠然と横切ってゆく。

『類…なんでおまえがここに…?』

視点がぐるぐると回り始める。目の前で起こっている事がまるで理解できない。

類は腕を組みながら、つくしの裸身を後ろから眺めている。
気配を感じたつくしはゆっくりと向き直ると類を見上げ、えもいわれぬ笑みを浮かべる。
類はその笑みに誘われてゆっくりと歩み寄り、つくしの頬に手をあてる。
どちらからともなく唇が寄り添い重なった瞬間、つくしの手に握られたカードは、ベッド
の上へとふたたび散り落ちてゆく。
カードを離したその手で、つくしは類の躰に愛しそうに触れる。

『牧野っ!おい、類!』

名を呼ぶ声は二人の姿を前に無残に弾き返される。

『おい!ふたりともどうかしちまったんじゃねーか!?』

司の悲痛な叫びは届かない。
つくしは慣れた手つきで類のガウンのベルトを解き、類の躰からすべてを取り
去ると、胸板に手をあて、何度も何度もキスを繰り返す。

『牧野、何やってんだ…おい、やめろ!』

握りしめた拳を振り下ろしても、むなしく空を切る。
つくしはゆっくり顔を上げ、類を見つめながら、何かを告げる。

『抱いて』

その声ははっきりと聞きとれなくても、わずかに動く唇の形でわかる。
その言葉に類は目で頷き、つくしとベッドに倒れこんだ。
類の唇がつくしの躰をなぞりはじめる。

『ああっ…』

唇が胸元へと辿りつくと、その声はますます甘さを増し、司の耳まで届くようになる。

『あんっ…』

うっすらと上気した肌。とろけそうな視線。
声を漏らさないよう口元に手をあてる仕草。
躰を重ねるたびにその目に焼きつけてきた、つくしの女の姿。
そのすべてが類の前で惜しげもなく晒されている。

『あんっ…』

びくんとしなった躰が、類と繋がったことを嫌というほど教える。
あまりに衝撃的な光景に、視野が暗く狭くなってゆく。

『どうして…どうしてなんでこうなるんだ…?』

激しく突き上げる鼓動に、胸が張り裂けそうになる。
重く躰にまとわりつく息苦しさを振り払うこともできない。
誰よりも愛している女。幼い頃からの親友。そのふたりの痴情にまみれた姿。
目の前で繰り広げられる行為にただ愕然とする。
その間にも二人は高みへと昇りつめようとする。
不意に司の方を向いたつくしが、何か物言いたげに唇を開く。
そして静かに首を振り、顔をそむけてしまう。

『ちくしょう!こっちを向きやがれ!牧野っーー!』

司の必死の叫び声に、つくしはまた振りかえった。
そしてゆっくりと司の方へと手を差しのべようとする。
その手を握ろうと、なりふり構わず手を伸ばす。
重い躰を引きずって一歩前へ踏み出した瞬間、足を踏み外しまっさかさまに堕ちてゆく。

『わーーーーーっ!』

混り気のない朝の空気が、どこからともなく流れ込んでくる。
重く開いた瞼は、まだ目の前の景色さえも映し出せない。
耳元に届くのは幾度となく聞いた寝息。ゆっくりと肘をつき、肩を上げ躰を起こす。

やっと目の前に光が差し込んでくる。
夢だったのだと気づくのに少し時間がかかった。
山積みの仕事。否応なく肩に圧し掛かる道明寺家の後継者としての重責。
疲れのせいかもしれないと気を取り直し、つくしの寝顔を見つめる。
その指先は誰かを求めるようにわずかに伸ばされている。
瞼に焼きついた残像を振り払い、夢では触れることが叶わなかったその指先をそっと握り
しめる。

『んっ…』

つくしが軽く寝返りをうった。
起こしてしまったかもしれない。そう思いながらそっと頬を撫でてやると、つくしは思い
がけない言葉を発した。

『…類』

吐息のように漏れたその言葉に、司はかっと目を見開き、確信する。

つくしはあの夢の中にいる。
類の腕に抱かれながら、夢の続きの中でまだ快楽に溺れている−

いてもたってもいられず、つくしの肩を掴み、ぐらぐらと揺り起こす。

『おい、起きろ、牧野』

心地よい眠りを妨げられたつくしはぎゅっと目をつむり、シーツに深く躰を沈める。

『ちくしょう…起きやがれっ!牧野!牧野っ!』


起こさないで、もう少しだけ眠らせて−

つくしは遠くからかすかに聞こえてくる呼び声に、そっとつぶやく。
大きな胸の下。逞しい腕。汗ばむ躰。
肩に爪をたてて快感を伝えながら、絡み合う姿を見つめる、もうひとつの熱い視線を探す。

お願い、もう少しだけだから、もう少しで−

『おい!起きろっ!』

つくしが目覚めを拒めば拒むほど、司は激高する。
何が何でも起こそうと、つくしの頬を軽くぱちぱちと叩く。

『痛っ…何?』

まだ覚めやらない目をこすりながら、ぼさぼさの髪もそのままにむくっと起き上がる。

『おまえ、今、夢見てただろ?』

その言葉に、つくしは思わずびくっと躰を震わせる。
たった今まで見ていた淫夢。相手の顔を覚えていない行為。
そんな事を司に気づかれてはいけないと、必死でその場を取り繕う。

『ゆ、夢なんて。そんなの見る間もないくらい、グーグー寝てたし!』

何とか話題を逸らそうと、わざとらしく枕元にあった時計を掴みとる。

『あーもう、まだ朝の5時じゃない。あたし最近バイトを増やしたからすっごく忙しいの
っ。休みの日くらいゆっくり寝かせてよね!』

まったく視線を合わせようとしないつくしに、司の直感が働く。

『おまえ、何か隠してるだろ?』

鋭い眼差しでつくしを見つめ肩に手をかける。

『なっ…何?』

振り返ったつくしのガウンのベルトに手をかける。

『きゃっ…何なの!』

いきなりつくしの腕を掴み、強引にガウンのベルトを解く。

『ちょっと!朝っぱらから何すんのよっ!やだ、やだ、やだってば!』

はだけたガウンを合わせようとしても、司の手がそれを許さない。
ガウンはあえなくつくしの肌から取りあげられてしまう。
つくしは何とか肌を隠そうとシーツを躰に巻きつけ、ベッドの上を転げ回る。

『おまえ、夢、見てただろう!俺にはわかってんだぞ!』

その言葉に冷や汗が流れる。
シーツは力づくでずるずると引き寄せられてゆく。
敵わない力に翻弄されながらも、つくしは必死で抵抗を続ける。
あきらめてシーツを手放し、胸元を隠しながら司から逃れようとする。

『ごまかそうたってそうはいかねーぞ!正直に言えっ!』

逃げ回るつくしをベッドの隅に追い詰める。

『見てないもん!いやらしい夢なんか!』

思わず叫んだあと、慌てて口をふさぐ。

『俺はいやらしい*イだなんて一言も言ってないぜ。自分からバラしてりゃ世話ねえ
な。』

司はふっと笑みを浮かべ、観念したつくしを捕らえる。

『おまえ、類に抱かれる夢、見てただろ?俺も同じ夢を見てたんだぜ』

つくしの頬に手をあて、顔をぐいっと仰がせる。

『えっ?同じ夢って…まさか、そんな…』

同じ夢、という言葉につくしは驚きを隠せない。

『だからわかってんだよ!おまえ、類に抱かれていただろ?』

なぜここで類の名前が出てくるのか、つくしは訳がわからず混乱する。

『えっ?ちょっと、待ってよ!違うよ!確かに…してたような気がするけど。それに…』

そう言いかけて、また慌てて口をふさぐ。司はその仕草を見逃さない。

『それに、って何なんだよ。全部白状しやがれ!』

司の怒りが空気を激しく揺るがす。
つくしは身を縮めながら頭を垂れ、夢の続きを告白する。 

『その…しているところを、誰かに見られていたような気がして…』

司はその告白に目をぎらつかせる。

『見ていたのは俺だよ。類に抱かれながら俺の視線を感じて、ますます興奮してたって
か?』

慌てて首をふるつくしに、さらに追撃ちをかける。

『じゃあ、寝言で類≠チて言ってたのは何なんだ?』

夢の中にいたふたりの男。腕に抱かれた男。それを見つめていた男。

『あ…』

逞しい肩、腕。その手にまだ残る感触は目覚めた今でも鮮明に蘇る。
抱かれていたのは、絡み合う姿を見つめていたのは−
眠りの彼方へ迷い込んだ記憶。それを手繰り寄せる糸はふっつりと切れている。

『あ、じゃねーよ。んないやらしい夢見やがって!』

胸を隠す両手首を掴み、無理やり開かせる。

『何するの!やだっ!』

華奢な手首に指先がめり込み、脈打つ血筋を止める。
掴んだ両手を広げ、高く掲げる。
目の前に晒された乳房が小さく震える。

『あんな…あんな淫らな夢…』

力で磔にしたつくしを見下ろし、首筋に噛みつく。

『ああっっ…』

全身を瞬時に駆けた痛みに痺れ、躰が動かなくなる。

『んっ…ふっ…』

薄く繊細な肌をじわじわと噛みしめる。
バランスを失い崩れそうになる細い躰を、さらに力をこめた腕で支える。

『はあっ…あっ…』

苦しげに肩で息をするつくしを磔から開放し、胸に抱きとめる。
赤く染まった傷跡を舐めあげ、耳元でささやく。

『俺の目を見ろよ』

うっすらと滲んだ目が司を見上げる。

『こんな風に類と見つめあっていたんだぜ。ホントは覚えてんじゃねえのか?』

つくしは弱々しく首を振る。

『違う…違うよ…』

言葉とはうらはらに、いつものつくしとは違う、迷いのある表情に司は苛立ちを覚える。
夢の行為の代償。それはひとつしかない。

『俺のガウンを脱がせろ』

命令じられるままに、つくしはガウンのベルトを解く。
その手つきは夢の中で見たよりもぎこちなく、ベルトを解くのにももたつきながらガウン
を取り去ってゆく。

『胸にキスしろ』

戸惑いながらも、つくしはおずおずと胸に手をあて、そっと鼓動をうつ場所に唇を寄せる。
夢の中で見た、類に触れるなめらかな手つき。胸板をなぞる唇。
たかが夢だと思いながらもその全てに嫉妬を覚える。
つくしを躰から離し、その裸身を見つめる。
例え夢の中でもこの躰を他の男が抱いたのだと思うと、抑えきれない感情が湧き上がる。
再びつくしを組み敷き、十字に磔にする。

『罰だ…』

唇が白い肌を貪りはじめる。
耳朶を噛み、獣の熱い吐息を吹き込む。

『ああっ…』

無意識に逃れようとする手首をさらに強く抑えつける。
瞬きもせず、つくしが身悶えする姿を目つめ、夢で見たつくしの姿と重ね合わせる。
耳から首筋、そして舌先は、つくしの敏感な場所へとたどり着く。

淡い色の胸の蕾。その小さな蕾を舌先で何度も何度も執拗に弾く。

『あっ、あんっっ…』

綻んでいた蕾は舌先で濡れ硬く尖りはじめる。
つくしを磔から解放すると、その手で乳房を乱暴に揉みしだく。

『ああっ…やっ…』

乱暴な愛撫を拒みながら、その声はとろりとした甘さに満ちている。
上気した肌がうっすらと湿り気を帯びてくる。

司の指先はつくしのもうひとつの敏感な場所へと滑り込む。
小さな茂みをかきわけ、小さな芽を探りあてる。

『あっ…ああっ…』

司の指先に呼応するように喘ぎ声をあげる。
右手で司の髪に指を絡め、左手で自ら胸をそっと揉みしだく。
微細な指先の動きに弄ばれ、躰は何度も弾み、そして果てる。

『やだ…指だけじゃやだ…』

それでも司は決して自らをつくしに与えようとしない。

『夢で散々類に抱かれたくせに、まだ抱かれたいのかよ』

求めるつくしを冷たくあしらう。

『指だけじゃいや…お願い、道明寺…』

情欲に溺れ、その救いさえも司に求める。

『だったらもっと欲しがれよ…夢であんなに欲しがってたじゃねーか』

つくしは切なげに眉間を寄せ、熱くなっている司のものへと手を伸ばそうとする。
司はその手を先回りして捕らえ、求めるものに触れさせようとしない。
散々弄んだ場所は激しく火照り、指先では物足りないほどに溶けきっている。

『道明寺っ…道明寺…あっ…ああっ…』

気がつくと、つくしの目から小さな涙が零れ落ちそうになっている。
涙ぐみながら、それでも指先から絶え間なく与えられる刺激に耐え切れず躰をしならせる。
泣かせるつもりなどなかったのに−
苦い思いがつくしを弄んだ指先に小さな痛みを与える。

『牧野…牧野…』

名を呼ぶたびに胸が締めつけられる。その後の言葉が続かない。
司はつくしの願うまま、すべらかな内腿の間に熱くそそり立った自らのものを沈める。

『あんっっ…』

もう誰もふたりの間には入りこめない。
それを確かめるように、荒々しいほどの波を打たせる。
ぬかるんだ音。肌が触れ合う音。胸の下で悩ましげに喘ぐ声。
つくしと確かに繋がっている。
それでもまだ、あの夢の中での類との行為が目に浮かぶ。

『おまえを手に入れたはずなのに…夢は叶ったはずなのに…。こんなことで不安になるな
んてな…』

唇を噛み、つくしを見つめる。
目を閉じて見る夢の中でもつくしを求めてやまない。
その想いの深さにつくしの胸が熱くなる。
そして、司から注がれる愛に甘えて口にしなかった言葉で、その想いに応える。

『愛してるよ…夢の中でだって…』

つくしは目の前で荒ぶる獣の頬に手を差しのべる。

『牧野…』

その目から険しさが消え、ただ愛を乞い願う美しい獣へと変わる。
つくしの頬に手をあて、涙の筋を拭い去る。
そっと重なりあった唇から互いの想いが溢れ出す。

『道明寺…』

強く抱きしめる腕の筋線に指先を這わせる。

『牧野…』

朝の眩しい光が、ふたりを包み込む。

『ああっ…』

つくしの唇から歓喜のような短い喘ぎ声が漏れ出す。
その声を聞き届けた司はつくしの中で自らを熱く迸らせた。

時化の後の静かな波打ち際。
乱れたシーツもそのままに、ふたりは行為の余韻に浸る。

『あの夢…あたしを抱いていたのは道明寺だったよ』

司の胸の中でつくしはぽつりとつぶやく。

『でも、おまえ、相手の顔覚えてねーんだろ?』

そっと髪を撫ぜながら、つくしの顔を覗き込む。

『確かに顔は覚えていないけど…でもわかったんだ。あれは道明寺だった』

首を傾げる司の前に掌をかざす。

『この手が…覚えているんだ。あれは道明寺だったよ』

掌をじっと見つめるつくしの目に迷いも嘘の影も無い。

『じゃあ、寝言で類って言ってたのは何だったんだ…?』

そのつぶやきに、つくしは複雑そうな表情を浮かべる。
その表情に気づき、髪をそっと撫で額に唇を寄せる。

『いいんだ。もう怒ってねーよ』

つくしの手をとり、胸の前でぎゅっと強く握りしめた。

だいぶ日が高くなった頃、司は屋敷の片隅に一人佇んでいた。
広い邸内の中でも、ひときわ人目の届きにくい場所。
それゆえに幾重にも張り巡らされた防犯カメラを睨みつけ、用心深く背を向ける。
服のポケットから携帯電話を取り出した。メモリーを呼び出し、ためらいがちにボタンを押す。
コール10回。あきらめようとした寸前に、相手はようやく電話に出た。

『こんな朝早くから何…司?』

類の眠たげな声が聞こえてくる。
相手が寝起きかどうかなど、考える余裕はない。
遠回りはしないと、単刀直入に用件を切り出す。

『朝早くって、もう昼だぜ…。それよりおまえ今朝ヘンな夢見なかったか?その…牧野
が出てくる…』

類の吐息が一瞬止まり、沈黙へと変わる。

『なんで知ってるの?』

類に代わって今度は司の吐息が一瞬止まる。

『俺も見たんだよ…その…牧野と、おまえが出てくる夢を…』

夢の中で絡み合う類とつくしの姿がふたたび蘇る。
あたしを抱いていたのは道明寺だったよ−
あれはつくしの思いやりのある嘘だったのかもしれない。
そう思いながら、類にさらに詰め寄る。

『見たんだな、あの夢を…』

軽く寝返りをうったのか、ベッドが軋む音が電話の向こう側から聞こえてくる。

『あんな夢見たって言ったら、司、怒るだろうなと思って黙ってるつもりだったんだけ
ど』

類の声がゆっくりと起き上がる。

『ふーん…司、俺と同じ夢を見たんだ。そういうコトもあるんだね』

ひとり考えに耽る類の思考を罵声でさえぎる。

『んなこたどーでもいいんだよ!おまえ、見たのかよ!牧野のあんな…あんな姿を…』

興奮して捲くし立てる司の声に、類の声が覆い被さる。

『見たよ。しゃーないでしょ、あの場合』

その冷静な口ぶりが司の怒りをふつふつと沸きあがらせる。
目の前に再びちらつき始めた二人の悩ましげな姿が、怒りの沸点をさらに上げる

『しゃーない、じゃねえだーろが!夢の中とはいえ、よくも…よくも牧野を…』

怒り狂う司をよそに、携帯電話の向こう側から類の深い溜息が伝わってくる。

『ふたりが絡み合う姿を俺に見せつけておいて、それはないでしょ』
『あ?』

一瞬、類が何を言ったのか理解できず、ぽかんとする。

『俺、まだ眠いから。電話、切るよ』

類の声が再びゆっくりと横たわってゆく。

『あ、おい、待て!おいっ!』

追いすがる司の声を、ツーツーという無機質な音が突き放した。

『ちくしょう、類のやつ!』

力いっぱい押したリダイヤルに応答したのは事務的な女性の声だった。

お客様がおかけになった番号は電波が届かない場所にあるか電源が入っていない為かかりません…お客様がおかけになった番号は…

『んだよっ…電源切りやがって!』

司は携帯電話をブチっと切り、ポケットへと押し込んだ。

『俺は確かにあの夢を見たはずだよな?でも牧野は相手は俺だったって…。しかも
類まで…。ん…なんでそうなるんだ??』






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