確かなもの
道明寺司×牧野つくし


「ちょっとまて、お前、熱あんぞ」

道明寺があたしのおでこと自分のおでこに当てて言う。
さっき外のプールに落ちたからだ。
あたしはそう思った。
道明寺のため息が聞こえる。あたしは申し訳なさすぎて、強がりを言った。

「だだだいじょうぶだって
こんなチャンスに度とないよ」

「あのなあ」

道明寺があたしを抱きしめる。

「お前とこーしてるだけでいい」

そんなこと言われたら、明日から1人になることを思い出してしまう。

「だめ。やっぱり涙出ちゃうよ」
「うん」

道明寺があたしをさらに強く抱きしめた。
お互いの体温が溶けて気持ちいい。
もう、明日から道明寺はいないんだ。
道明寺のぬくもりを感じるほど、あたしは明日の孤独を感じてしまう。

「・・・・・・」

声にならない。
そんなあたしに道明寺が気付いた。

「なあ」
「なによ」

鼻水まじりの声であたしは答える。

「俺には、どんなに離れててもお前が必要だからよ。」
「道明寺・・・」

頭の上から聞こえる道明寺の声。あたしは目を閉じる。

「牧野、お前以外いらね-から。
だから、心配しないで待ってろ。」
「道明寺・・・」

心地いい道明寺の声。うれしくてふと顔をあげると、道明寺が優しく微笑んでいた。

「ひでー顔」

くしゃっと笑う。

「うっさいな」

涙でぼろぼろのあたしに道明寺は優しく唇を落とした。
そしてまたぎゅっと抱きしめて言った。

「お前にも俺が必要なんだよ」

かなわない。
この真っ直ぐな心に、あたしは心底負けたと思った。

「だから泣くな。」

あたしは道明寺の背中に力を込める。

「道明寺」
「待ってるね」

あたしは作り笑顔で言った。
きっと、ほんとにひどい顔をしていたと思う。
道明寺はうれしそうに

「おう」

と微笑んだ。
あたしを全部受け止めてくれるこのバカでガキで頼りになる男との間になにかを残したい。
この道明寺の心臓の音を近くに感じながら、強く思う。
証がほしい。
確かなものがほしい、と。

例えばそれは。

あたしは決心を固めて道明寺の整った唇に自分の唇を触れ合わせた。
やわらかい、あったかい唇。
愛しいと思う。道明寺の手が、あたしの首筋に触れた。
キスをもっとせがむかのように力を込めて、唇を離さない。
あたしも道明寺の頬に手のひらを置いた。

「お前、熱は?」

「あんたにうつしたら治るかもしんないもん」

「ひでー女」

また、このセリフ。道明寺の首に両手を回しながら、あたしは道明寺の目を見つめ返す。
道明寺があたしの首もとに唇を寄せてきた。
ビクン、と体が反応するのがわかったけど、それでもなんとか自分を押さえ込んだ。
今にも逃げたくなるあたしの心。
道明寺があたしの頭に手を置き、そっと言った。

「こわいか?」

「・・・・・・」
「全然。こわくなんかない」

震えた声で強がるあたしを、道明寺はさらに抱きしめた。

「心配すんな」

こんな時いつもはバカやってる彼の「男」がちらつく。
こうやっていつもと違うトコロを見せられると、
アタシは照れ臭くなってかわいくない言葉を言ってしまうんだ。

「あ、当たり前じゃない。
ヘンなことしたらぶっとばすからね」

そう言いつつ、自分でも声の震えを感じて急にはずかしくなった。
ふっと道明寺が笑う。

「すげーかわいい」

あたしの目は点になって、体がピクリとも動かなかった。
こいつがそんな甘いことばばかり並べ立てるなんて、どうかしてる。

「ぶはっ」
「すげっタコみてー」

こいつにムードなんて存在しないんだ。
でも道明寺の笑った顔がうれしくて、あたしも照れ笑いした。

ふと、道明寺が穏やかな表情になり、あたしの首元に唇を寄せる。

あ・・・

初めてなのに、声が漏れてしまう。
本能が、アタシにもあるんだ。。。
ゾクゾクとした快感に身をまかせていると、道明寺の手があたしの胸を捉えた。
道明寺がなにかつぶやいた。

「え、何?」
「なんでも」
「なに?ちっちゃいって言いたいの?」
「あ?お前はホントに・・・」
「なによ」
「かわいー」

あたしは心臓をわしづかみにされた気分だった。
自分の鼓動があまりにも早すぎてこのまま死んじゃうんじゃないかなんて思う。
道明寺の唇が肩に、鎖骨に、顎に、胸に、降り注ぐ。
その長い指と整った唇が、あたしの体を確めるように這う。
そして、胸の突起を掠めた。

「ふっ」

行き場をなくした吐息があたしの口から漏れる。
道明寺はあたしの反応を見てから指をそこから動かさなかった。
やがて、道明寺が唇を落としていく。
突起に唇が触れたとき、痺れるような感覚があたしを襲う。
必死で昇ってくる快感の声を抑えようとあたしが手で口を塞いでいると、
道明寺がその手を押さえつけた。

「聞かせろよ」

ぼそっとつぶやいた道明寺の声。
あたしの心臓は爆発寸前だった。

「やだ・・・」

体からじわじわくる未知の感覚から逃げようと道明寺の頭を胸から遠ざけようと試みて、道明寺の髪の毛に触れた。
いつもなら触られるのを嫌がるのに、今日はそのままおとなしく触らせている。
ふと見上げる道明寺の目。
あたしは赤ん坊みたいな道明寺を可愛いと思った。
母性って怖い。
男をこんなにかわいく思ったのは初めてだ。
そんなことを考えていたら、道明寺の手がそろそろとあたしの下腹部に伸びてきた。

「やっ・・・」

あたしはその侵入を拒もうとしたけど間に合わなかった。
道明寺の指があたしに触れて気付いた。
濡れてる。

「痛かったらすぐ言え」

こいつ、なんでこんなに扱いがうまいんだろう。
ぜったい初めてじゃない。

でも、そんなこと冷静には考えられなくなっていた。

「ん、ん・・・」

あたしの突起を捉える。
なんだかもどかしく感じてあたしは道明寺の腕をつかもうとした。

「黙ってろ」

その手を逆の手で遮られる。
こんなことが恥ずかしくて、嬉しいなんて言えない。
なおも道明寺の指は、あたしの突起を攻め立てる。体に電流が走ったみたいだ。ビリビリと体が動く。
うっすらと目を開けると、目の前に道明寺の顔があった。

「まきの・・・」

愛しそうに見つめる道明寺の潤んだ瞳が眩しくて目をそらす。

「・・・やっ・・・道明寺、お願い・・・
もう・・・ダメ・・・」

道明寺の唇があたしの声を塞ぐ。
唇を割って入ってくる舌先に、自分の舌が触れたとき、ぞくっと快感が押し寄せた。

「ん、んっ・・んん・・・」

唇を塞がれているためくぐもったあたしの叫び。
突起に触れていた指が、あたし自身に侵入してきた。
あたたかい道明寺の指が、あたし自身に入っている。そう考えただけであたしは不思議な感覚に襲われた。

「ちょ、道明寺、待って」
「まてねー・・・」

入口を弄り、そろそろと内部に侵入を許す。

「あ、あっ」

熱っぽい目で道明寺があたしを見つめている。

「そんなに見ないで・・・」

精一杯の抵抗も、
道明寺には勝てなかった。
水に触れたような音が響く。

「まじで痛かったら言えよ」

首筋をなぞる道明寺の舌。
くすぐったいような、痺れるようなこんな感覚は初めてで、どうしたらいいのかわからなくて、あたしは道明寺に操られたおもちゃみたいだ。

「い・・・・・・」

不意に訪れた痛みに、あたしは思わず声を漏らす。

「痛いか?」
「う、ううん、平気・・・」

涙目になっているあたしに、優しく道明寺は唇を落とす。

「んっ・・・」

こいつとのキスがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。
唇から、道明寺の思いが伝わってくる気がして、思わずため息ともつかないような吐息が零れる。
訪れる破瓜の痛みと快感。あたしの頭の中は真っ白だったけど、その中には愛しいあたしの恋人の残像が見える。

「牧野、俺も限界」

道明寺がそう囁くと、あたしの中に入っていた指をすっと抜き、
体勢を変えた。

なんだかあたしの体じゃないみたいだ。
あたしと意志とは無関係に熱くなり、反応し、受け入れる準備をしてる。

普段じゃ考えられないくらい恥ずかしい格好なのに、
不思議と嫌じゃない。
道明寺はそそり立つ自分をあたしの太ももに当てた。

あったかい

そう感じただけのつもりだったのに、声に出てたみたいだ。
道明寺と目が合い、急に照れ臭くなった。

「牧野、まじどーなんのか俺にもわかんねぇ。」

「・・・・・・」

「我慢できなかったら言えよ」

念を押すように道明寺が呟く。
あたしはその一言にほっとする。
いつもの道明寺だ、って。

「大丈夫。あんたと一緒だから、恐くない」

あたしはそう言って、
道明寺の頬に手を伸ばす。
入口を割って、道明寺が進んできた。

「・・・ふ」

痛い。
必死にそれを隠そうと顔を逸らす。

「まきの・・・」

「だい、じょうぶ・・・」

頭の中が熱い。

「牧野、もうちょいだから」

無言で頷く。

道明寺が見せる初めての表情。
下半身も、頭もとろとろに溶けそうだ。

全てを受け入れたのを確めて、道明寺が言った。

「動くぞ」
「あ、あ・・・」

規則正しいリズムに合わせてあたしの口から漏れる声。
恥ずかしいなんて考えてる余裕もないくらい、道明寺でいっぱいだった。
ここに、あたしと道明寺しかいない。
世界がふたりだけなのかと錯覚するくらい、道明寺で溢れている。

「・・・・・・っ」

道明寺の眉がゆがむ。
あたしの目尻から涙がこぼれていく。
動きに合わせて息がはずむ。
口付けしてるときも、そのイキ遣いがあたしに伝わって、心が締め付けられた。

道明寺の愛しい表情をぼんやり見ながら、
あたしたちは大丈夫、そう、決意できた。

この先も、一緒に。
どんなに離れていても。






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