道明寺司×牧野つくし
![]() F4の卒業した高等部は、不気味なほど平和だ。 いかに奴らが騒動の元だったのか、解るというもの。 「あーら、牧野さん」 嫌みなクラスメイトの声を聞いてうんざり。 「もう進路は決定なさったの?」 大変ねぇとさも見下したような態度で、あたしを睨みつけた。 あたしの家が貧乏だって知ってるから あたしが大学部に進学できないって知ってるから 握りしめた拳を、クラスメイトの顔ギリギリの所に打ち付ける。 バンと派手な音を立てて、彼女の後ろにあった観葉植物がざわざわと揺れた。 「おかげさまで」 もちろんにっこり笑うのも忘れずに。 ぱくぱくと声にならないうめき声のようなセリフを言ってるクラスメイトは お世辞にもお上品とは言えなくて、思わずぷっと吹き出した。 みるみる内に彼女の頬が緋に染まる。 「覚えてらっしゃい!」 チンピラと変わらない捨て台詞で、 長くカールした髪を翻して、クラスメイト達は足早にその場を去った。 はぁ、と大きなため息をついた。 沈み込んでしまいそうな気分を、無理矢理引き上げる。 こんな気分の時は ――― あの、非常階段へと続く廊下を足早に歩く。 あそこに行って叫んでやる。 拳を握りしめて、うんと大きく頷いた。 ドアのノブをがちゃりと開ける。 一面の青空、髪を攫う柔らかな風。 すうっと息を吸い込んだ。 「金持ちだからっていばってんじゃないわよっ」 もう一度拳を握りしめて、大きく息を吸う。 「ばーーーーーーーーーーかっ!」 「誰がバカだ?」 低く、響く懐かしい声。 「おい、牧野」 手すりにつかまったまま、呆然と立ちすくむあたしの背中から、 ふわりとたくましい腕が伸びる。 背中に感じる、懐かしいぬくもり。 身体中を覆う、甘い香り。 「なん、で?」 かろうじて声になったセリフは間抜けにもそんな3文字で。 「お前が呼んだからだろ?」 「嘘…?」 「嘘じゃねーよ」 振り返った先にいたのは、確かに道明寺で、 あたしはその先のコトは何も考えられなくなってしまった。 久しぶりの道明寺の顔をまじまじと見る。 「あんま、見ンな」 道明寺があたしの瞳を掌で覆った。 「キスできねぇだろ」 最初は触れるだけのキス。 柔らかな感触。甘い甘い恋の味のするキス。 溶けるような気持ちで身を任せた。 ゆっくりと道明寺がその角度をずらして、 あたしの唇を、深く深く味わい尽くす。 絡め取られる舌、柔らかになぞられるその仕草、全身が甘く痺れて、うっとりと道明寺の両腕を掴んだ。 これが、夢なのか、現実なのか ――― もうそれさえ判断がつかない。 「逢いたかった」 道明寺の掠れた声に、返事さえ出来ずにあたしは必死に空気を吸い込んだ。 痺れた頭の隅で、これは夢かもしれないと思う。 だって道明寺はニューヨークにいるはず… これは、夢だ。 そう思うと、自然と素直な自分がむくむくと顔を出す。 「あたしだって、逢いたかった」 ぎゅっと道明寺の背中に両腕をまわす。 夢とは思えないほどリアルなそのぬくもりに酔いしれた。 「そーか、そんなに逢いたかったのか」 道明寺が嬉しそうに笑いながらあたしを見、もう一度キスの雨を降らせる。 「俺も、逢いたかったし ――― ずっと、こうしたかった」 道明寺が耳元に唇を寄せて、そっと囁いた。 「アイシテル」 触れるか触れないか、ギリギリの所を動く唇と、 耳元に触れる声の微かな振動に、全身がびくりとなってしまう。 「ここ、弱いのか?」 意地悪な声と、それとは裏腹な優しいキスが耳を襲う。 ずくり、と脳裏で光が弾けた。 感じたことのない感覚に支配されて、あたしは道明寺にすがりついた。 「…んやっ」 自分の声とは思えないほど甘い響き。 道明寺はクスリと笑って、あたしの首筋にキスを落とした。 きつく吸い上げられるそれに、あたしは身もだえて首を振った。 「俺に任せろ」 そう言ったかと思うと、道明寺の綺麗な指先があたしの制服のボタンを器用に弾いた。 まるでマジックのように制服と下着が上半身からずり落ちた。 あらわになる肌に、あたしは身じろぎをする。 「逃がさねぇよ」 捕まれた両腕はほどきようもなくて、晒された胸の頂がどうにも恥ずかしくて、泣きそうになった。 道明寺の強い天パの髪が、鼻先をくすぐった。 そして、胸の辺りに柔らかなしめった感触が走る。 それは頂を避けて、ぐるりとじらすような動きで 何度も何度も柔らかな胸の裾野を繰り返しなぞった。 くすぐったいような、痺れるような、不思議な感覚。 不意に道明寺の舌先が、敏感な部分を掠める。 「ぁああっ」 思わず漏れた甘い叫びに、道明寺が上目遣いでにやりと笑った。 「牧野、乳首立ってる」 「や、ヤダっ」 「そうじゃねぇだろ?」 冷たく言い放って、道明寺が繰り返しくにくにと 胸の先を転がすようにもてあそんだ。 「…あ…っんっ」 みるみるうちに、あたしの身体はあたしの理性を超えていく。 ぴたり、と道明寺の動きが止まった。 「嫌、か?」 真剣な瞳で、道明寺があたしを覗きこんでいた。 嫌と言えば、道明寺は辞めてくれる。 頭のどこかでブレーキが点滅する。 拒否するなら、今 ――― 「もっと…シて…」 一度超えてしまった本能は、どうにも止まりそうになかった。 ゆっくりと道明寺のキスがあたしの胸に降り注ぐ。 そのたびにあたしの身体はびくんと飛び跳ねて、 堪らず道明寺の身体にしがみついた。 片方の胸を舌先で、もう一方の胸を指先でいじりながら、道明寺があたしを上目遣いで見つめている。 「やっ…見ないで……っ」 「牧野、感じてるカオ、やらしーな」 「や…っあぁんっ」 「すっげ、エロい」 そういって道明寺がゆっくりと瞬きをした。 「もっと見せろよ、そーいうの」 勝手に口から漏れる吐息も、思わず捩ってしまう身体も、恥ずかしくて堪らない。 夢じゃなかったら穴を掘って自分から埋まりたいくらい。 「悪ぃ、我慢できねーかも」 道明寺がそういって、あたしのスカートの中に掌を差し込んだ。 するりと滑るように内股を撫で上げられて、 あたしはビリリと雷が全身を突き刺したような感覚に陥った。 そっと、ショーツの上を道明寺の掌が滑っていく。 そして、道明寺の指が何かを見つけたみたいに、一点をくいと押した。 「あぁぁぁぁ……っ」 一瞬目の前が真っ白な光に包まれる。 頭の後ろで何かが弾けて、一気に腰の辺りまで快感が走り抜けた。 ビクンビクンと身体が言うことをきかない。 あたし、どうなっちゃうの? 薄れゆく視界の中で、道明寺の苦笑いがやけに鮮明に脳裏に焼き付いていた。 久しぶりに来て見たらこんなトコで寝てるなんて、相変わらずだよね。 類は思わずクスリと笑いを零して、フェンスにもたれるようにして寝ている友人を見下ろした。 「ん……」 やっと目を覚ました牧野が、目を白黒させて俺を見ている。 「る、る、類っ」 「何?」 俺の返事なんて頭に入ってないくらい動揺して、 牧野がワタワタと妙な動きを繰り返していた。 「なんで…道明寺…やっぱ、夢?」 相変わらず。 考えてることは全部外へ垂れ流しの牧野に、思わず吹き出した。 「何よ!?」 真っ赤になった牧野が、ぷんと顔を背けて拗ねてみせる。 ひゅうと少し強い風が、俺たちを攫っていく。 牧野の髪がふわりと舞った。 首筋に、くっきりと残るキスマーク ――― 「相変わらず、早いね、牧野のこととなると」 くすくすと笑いながら小さく独り言。 「何よっ!?」 「――― ナイショ」 司に、牧野が滅入ってるよって伝えたことも たまには会いに来ないと奪っちゃうよって言ったことも たぶん、牧野が夢だと思ってることが、現実だってことも 夢で逢えたら 素敵 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |