道明寺司×牧野つくし
それは、ある日突然のことだった、と言うべきであろう。 牧野つくしは、ふと、一枚の写真をみつけた。そこには、かつての恋人が写っていた。 「道明寺・・・」 牧野つくしは、そうつぶやいた。その写真は、まだつくしと会っていなかったころの写真であり、 司の表情は、不機嫌さに満ちていた。 すると、つくしの頭に、過去の記憶がよみがえった。 もう、8年も前のことだが、まだ永遠に忘れられないであろう恋人のことが・・・ それは8年前のことだった。道明寺が、長いNY生活を経て、戻ってくるまであと1ヶ月というときだったのだ。 つくしの心は、はずんでいた。もう何年もあっていない恋人と会えるからである。 もちろん、電話や手紙で、連絡を取り合ってはいたが、一回もあっていなかったのだ。 しかし、現実はそううまくいかない。道明寺楓が、縁談を持ってきたのだ。といっても、司にではない。 つくしの弟の進にであった。なぜか2人は気が合い、とんとん拍子で話は決まった。そして、 2人は結婚。その結婚式は、道明寺司が日本に帰国する日だった。 しょうがないので、つくしは、結婚式に出た後に、かつての恋人と会うことにした。 結婚式に出ていたつくしは、初めて進の結婚相手の兄の、拓郎に出会った。 拓郎は、見た目はよく、少々道明寺司に似ているところがあった。 その日、司が帰国するのは午後6時。午後2時に、拓郎から、半ば強引に車に乗せられた。 つくしは、少々お酒が入っており、おまけに司に似ている拓郎だったために、つい車に乗り込んでしまった。 そこで・・・つくしは、その後のことは思い出したくない、というように首を振ると、片付けの続きをし始めた。 牧野つくしの部屋は、元来小さく、必要最低限なものしかおいていないため、 すぐに片付いた。その部屋の真ん中に、小さなコタツがあった。 その中に入り、つくしはゴロンと横になった。 すると、心中に、さっきの写真のことが思い出されてきた。 あの、不機嫌そうな表情。でも、つくしの一枚の、道明寺司の写真だった。 すると、思い出は湯水のように思い出されていく。 「なんで、クリスマスの日なんかにまで、あんな奴を思い出さなきゃいけないのよ・・。」 そうつぶやいたが、思い出したものは、とどまることを知らない。 「せっかく、あんなやつ、忘れることができたと思ったのに・・・」 そうまたつぶやくと、眠りに落ちた。 目が覚めると、真っ白な天井があった。そして、シャンデリアがかかっている。 どう考えても、あの小さなつくしの部屋ではなかった。 「あ、あれ・・・」 急いで起き上がってみた。つくしの今まで寝ていたものは、ふかふかのベッドだったようだ。 そして、近くの窓からは、とてもきれいな夜景が見えた。だが、そんな夜景も、つくしの部屋のものとは 格が違った。部屋を見渡してみると、いくつも部屋がつながっており、とても広かった。 「ホテルかも・・・」つくしはそうつぶやき、思考をフル回転させた。 (なんであたしがこんなところに・・・監禁?まさかね。あたしなんかを監禁するわけがない。 じゃあ、誘拐・・・いや、どう考えても金持ちそうに見えないし・・・うーん) ベッドに座り、色々考えてみた。だが、思いつかなかった。 「おい、全部聞こえてるぜ」 声がした。低く、くぐもった声だ。相当怒っているようだ。 牧野つくしは、その声を聴いた瞬間、行動が止まった。 だれかは、すぐにわかった。つくしは、振り返りも、立ち上がりもしなかった。 「何無視してるんだよ。8年ぶりだぜ、8年」 またもや声がした。だが、この場で、道明寺司と向き合おう、という思いは、全くなかった。 気がついたら、立ち上がって、逃げようとしていた。だが、いつの間にかベッドルームのドアには、 かぎがかかっていた。先ほどまであいていたのに、である。 司が歩いてくる音がした。そして、つくしの後ろに立った。 そのことは、つくしもわかっていた。 「な、なにするつもり・・・」 つくしの声は、いつの間にか嗄れていた。 そして、その自分の声を聴いた瞬間、思った。あの時と一緒だ、と・・・。 つくしは、ドアのほうを向いていた。だが、道明寺司が、つくしの真後ろにいることは、よくわかっていた。 「ちょっとぐらいこっち向けよ」 だが、つくしは、何も言わず、ドアのほうを向いただけだった。 「おい、向けって言ってるだろ!」 叫び声がした。だが、あちらを向く気にはならなかった。 つくしは、今の状況がよくわからなかったが、道明寺司とは、会いたいようで、会いたくない・・・そんな気持ちだった。 もちろん、あんなことさえなかったら、まだ会いたかっただろう、だが・・・。 つくしは、今でも、司のことが好きだった。だから、一刻も速くこの場から離れて、司を悲しませたくないのだった。 だが、ドアにはかぎがかかっており、そんなことは無理だった。 どれくらいそうしていただろうか。司は、あれ以来何も言わなかった。いや、 むしろまるでいないかのように、息もなく、いる気配さえしなかった。 つくしは、もういないかもしれない、という淡い期待ができ、振り返ってみることにした。 まあ、それもつくしにとっては、多大なる決心が必要だった。 というのは、つくしは、あのことがあって以来、絶対司の顔を見ない、と決めていたからだったのだが・・・。 振り返ってみると、司がいた。だが、向き合う形にはならなかった。 というのは、司が、しゃがみこみ、うずくまっていたからだった。 その姿は、天下の道明寺家の跡取り息子とは思えない姿だった。 そして、まるで泣いているようにも見えた。 「道明寺・・・」 つくしは、気がついたらこう、つぶやいていた。 すると、司が立ち上がった。あまりに突然な出来事に、つくしはなにもできなかった。 そして、あの長い足でつかつかと近寄ってきた。瞳は、つくしだけを見つめていた。 道明寺司は、つくしの目の前に立った。その目は少し充血していた。 だが、視線はつくしを捉えたままだった。つくしは、その視線から目をそらすこともなく、じっと見返していた。 「牧野。」 道明寺司は、そう言った。 「おまえは、俺のこと好きか?」 つくしは、そう聞かれて、なんて答えればいいか少し迷った。 (道明寺を?好きに決まってるじゃん。でも・・・あたしは道明寺を裏切ったし・・・。) すると、司が言葉を発した。 「おれは、おまえのことが、いまでも好きだ。8年間の間も、あのことがあっても・・・」 その顔は、本気だった。 (道明寺は、あたしのことを、好きといってくれている・・・あんなことがあっても・・・ あたしは、この人を、苦しめている。あたしが、あのときに、のこのこくっついていくから・・・ こんなことになったんだ) ベンツに乗り、つくしと拓郎は、超高級レストランにやってきていた。 「あ、あの、拓郎さん・・・こんな高そうなとこ、あたしお金払えないし・・・」 つくしは、料金のことばかり気にしていた。 「いや、いいよ。おれが払うよ」 「で、でも・・・」 「妹の、夫のお姉さんなんだから、これくらい当たり前だよ。 あすから、加奈子が、お世話になるんだから」 拓郎は、そう微笑んで言った。 まだ負に落ちないつくしであったが、料理が来たため、その話はうやむやになった。 その料理は、とてもおいしそうだった。 「おいし〜い!」つくしは、料理を食べて、本当においしそうに言った。 その様子を見た拓郎は、少し笑った。 「つくしさんは、本当に料理をおいしそうに食べるねえ」 「だって、おいしいですから」 拓郎は、その様子を見て、少し悲しそうな表情になった。 だが、それも一瞬で、途中からきたお酒をつくしにすすめた。 「じゃあ、少し・・・」 「進君と、加奈子の結婚を祝ってカンパーイ!」 つくしと拓郎は、そう言うと飲み始めた。 SS一覧に戻る メインページに戻る |