記憶の憧憬
道明寺司×牧野つくし


俺は、道明寺に恨みを持つ人間に腰を指され、そのショックで記憶の一部を失ったまま、ババァにアメリカへ連れてこられた。
そのまま、大学へ通わされ、家庭教師をつけられ、ビジネスの世界に放り込まれて、がんじがらめの状態。
自分の事を考える時間など、ほとんど無いまま、月日が流れた。

その間、ババァは何度か、俺に事業提携を絡めた見合いの話を持ってきていたが、それだけは、撥ね付けてきた。
他の事ではババァの言いなりになっていたが、結婚だけは話は別だ。

俺は、女が嫌いだ。
そして、道明寺と言う名も。

どんな女だろうと、結婚して子供を産ませ、この馬鹿でかい財閥の後継者という運命を押し付けられたガキを世に送り出すなど、考えただけで反吐が出る。
道明寺なんて、俺の代で潰れちまえばいいと、本気で思っている俺は、ガキを作るどころか、結婚なんてする気はサラサラねぇ。

女なんて、どいつも同じ・・・俺の富と名声と見てくれ・・・そんな上辺だけのものに、ハイエナみてぇに群がってくる。
そんなキタネェ女共に声を掛けられ、気が向けば抱いた。
だが、同じ女は2度と抱かない。
女など、誰でも同じ・・・ただ、性欲を処理するために、抱き捨てるだけの存在だ。

俺はそうして、ここアメリカでの時間を過ごしてきた。

ビジネスの世界で、何とか使い物になるまでに叩き上げられた俺は、日本支社長を言い渡され、6年振りに日本へ帰国する事になった。

帰国した俺は、邸でお披露目のパーティーを開く事になった。
そこには、ババァによって大勢の客が招かれ、各界の著名人が軒並み雁首を揃えていた。

大抵の奴らが、若くして道明寺の日本支社長となった俺を品定めするか、今の内に媚を売っておこうとする者ばかり。

そんな中、見知った顔を見付けて、俺は近寄って言った。

そこに居たのは、俺がこの世で唯一、心を許す奴ら。
ガキの頃からつるんでいた、F3だった。

こいつらとも、アメリカに渡米後、連絡をする暇も無く過ごしていたから、顔を合わせるのは6年振りだ。

しばし、再開を喜び挨拶を交わした後、俺は、ある事に気が付いた。
F3達の傍に、ただ一人、俺に背を向けるようにして、小柄な女が寄り添っている。
俺は、何となく気になって、そいつの顔を盗み見た。

・・・この女は確か、6年前、俺が刺された時にしつこく会いに来ていた女だ!!
だが、6年振りに見た女は、俺をムカつかせる事は無かった。
それどころか、6年の月日は女を少女から大人へと変え、その場の誰とも違う輝きを放っている。

俺は、そいつの存在が何となく気になって、気付くと女を目で追っていた。

でも、何故この女が、今日のパーティーに出席しているのだろう?
気になった俺がF3にたずねると、女は、あきらの秘書だと言う。
女をパートナーとして公の場に連れて歩くと、やれ婚約だ、結婚だと騒がれるので、あきらはいつも、秘書であるあの女に無理やりパートナーをやらせているらしい。
だが、無理やりと言っている割には、あの女もあきらも、とても自然に寄り添っているように見えた。

その後も、俺の目は自然に、あの女を追っていた。
暫く見ていると、あきらだけじゃねぇ、類も、総二郎も、あの女とかなり親しげに接している。
そしてあの女も、屈託の無い笑顔で、F3それぞれと、親しく接していた。

F3を手玉にとるとは、いい気なもんじゃねぇか・・・
俺は、得体の知れねぇ感情が沸き起こって来るのを感じた。

しばらくして、女が一人、テラスへ出て行った。
俺は、主要な客との挨拶を終え、やっと一息つける所だったので、自分もテラスで一服しようと、何の気なしに、女の後を追った。

テラスで女に近付くと、女は驚いた顔で、即座に俺から離れようとした。
その対応が癇に障った俺は、咄嗟に女の腕を掴み、話しかけていた。

「あんた確か、俺が刺された時、会いにきていた女だよな?
ちょっと、向こうで話さねぇか?」

「いえ、仕事で来ておりますので、美作のところへ戻りませんと。」

「そう言うなよ・・・6年前の事も謝りてぇし。」

「えっ?」

「まぁ、ここじゃ何だから、向こうで話そうぜ。」

俺は、女をパーティールームからは死角になった場所へと引っ張って行った。

「あの頃は、悪かったな。
あんたの顔を見ると、何故だかイライラして・・・
あんたに当り散らしちまってたよな。」

「いえ、もぅいいんです。」

「今、あきらの秘書なんだってな。」

「はい・・・」

女は、俺と目を合わせようとしない。
俯きながら、最低限の返事を返すだけだ。

俺の頭の中には、さっきまでF3に見せていた、屈託のない笑顔が浮かんでいた。
それに比べて、あまりにもそっけ無い俺への態度・・・
俺は、話しているうちに、またあのイラつく気持ちが自分の中に広がっていくのを感じた。

「いい気なもんだな」

「えっ!?」

「6年前は、類と付き合っていたと思っていたが、今度はあきらか?
それに、あの様子じゃ、総二郎もお前の事を気に入ってるみてぇだしな。
お前のどこが、そんなにいいんだか・・・
何か、特別なベッドのテクでも持ってんのか?」

「なんですって!!」

女は、俺に平手打ちをしてきやがった。

「何すんだ、てめぇ!」

俺は女を壁際に追い詰め、にらみ合った。

女の漆黒の瞳を見ている内に、俺の胸の中は、ある欲望に支配された。

「この女が欲しい・・・」

俺は、女を腕の中に拘束すると、憑かれたようにキスをした。

唇を合わせた瞬間、強烈な激情に支配される。
"こいつをメチャクチャにしてぇ・・・"
自分でも、何故そんな事を思ったのか解らない。
だが、その衝動は、もはや止める事ができなかった。

一体、どうしたって言うんだ?
俺が、自分から女を抱きたいと思うなんて・・・

他の客に聞こえないよう、小さな抗議の声を上げ、細い身体を精一杯捩って抵抗する女の、胸元のしっかりと覆われたドレスは、この女の身持ちの固さを誇示しているようだ。

だが、視線を落とせば、スカートには、深く開いたスリット・・・
抵抗して乱れたスリットからは、白い脚が太腿まで露になっていた。

俺は欲望のままそこに手を差し入れ、ドレスと同じ色のショーツを引き擦り下ろした。

「声を出したら、他の客が気付くぞ」

「・・・サイテー・・・」

壁に身体を押し付け、俺を卑下する口を塞いだ。
そのまま、右足を抱え上げ、俺は女の中に、強引に自身を沈めた。

その途端、今まで味わった事のないような、脳天を突き抜けるような快楽が、俺を支配する。
俺は、その快楽を貪るように、女を突き上げ続けた。

愛撫もせずに、いきなり突っ込まれた女の、苦しげに歪む顔・・・
声が漏れないよう、口元に手を当て、唇を噛み締めながら俺の突き上げに耐える顔・・・
その顔すら、これ以上無いほど、俺を煽る。

欲望のまま、腰を振り続ける俺の行為に、時折小さく、苦痛に呻く声が漏れ聞こえた。
だが、たった今、小さく聞こえた、『道明寺・・・』という喘ぎ・・・
女は、小さく声を上げると、俺のあまりの突き上げに、気絶しちまったようだ。

この女の全てが、俺を煽る・・・

もっと、この女が欲しい・・・

思う存分、味わいてぇ・・・

俺は、女の中から自身を引き抜くと、脱力した女の身体を抱き上げ、俺の部屋へと連れて行った。

テラスの死角から、誰にも見られる事の無いよう、俺は邸の東の角部屋へ女を連れ込んだ。
NYで、何人もの女を抱き捨てても、俺は一度も、邸に女を入れた事はねぇ。
だが、今俺は、何の躊躇いもなく、女を自分のベッドに横たえている。

俺は、自分からこんなにも女を求めたのは、初めてだった・・・

逸る気持ちを抑えて、俺は女の身体から、ドレスを慎重に剥がしていった。
一糸纏わぬ姿の女を見て、俺は目を見張った。

女の身体は、まるで穢れを知らない少女のようで、それは神々しいまでに、美しかった。

俺はたまらず、自分の身に着けているものを脱ぎ捨てると、女の滑らかな肌へと覆いかぶさっていく・・・

まだ目覚めていない女の唇に俺の唇を重ねた。
そのまま、頬に、瞼に、額に、首筋に・・・キスの雨を降らせる。

今まで、どんなに女を抱いても、これほどキスをした事は無かった。
その行為は、ただ、自分が身勝手な欲望を吐き出すだけ。

だが、この女に対する俺の感情は、今までどの女に感じたものとも、明らかに違う。

この女の全てに、優しく口付けたい。
そして、この女にも、俺の得る以上の快楽を与えてやりたい。
今、目の前に横たわる女の全てが愛しい・・・

俺は、自分の気持ちを悟った。
この女に、惚れているのだと・・・

その気持ちに気付いてしまった俺は、もう、止められなかった。
記憶を失くして初めて味わう、感じた事のない気持ちに身体中を支配され、思考能力は奪われた。

溢れる愛しさを込めて、俺は女へと手を伸ばした。
女らしい曲線を描く、白い身体に沿って、指を沿わす。
未だ覚醒していなくても、反応を返す女が愛しい。

俺は、柔らかな胸へと顔を埋めた。
その膨らみを掌に包み、舌で蕾を味わう。
口の中で蕾を転がすと、それはすぐに、ツンと尖った。
反応の良い身体・・・
反対の蕾も、夢中で口に含む。
ビクン!と女の身体が跳ねた。

そろそろ、目を覚ます頃だ・・・
俺は、唇を胸から腹へ、腹から太腿へと進める。
この白い身体の全てに唇を這わせ、所有の印を付けたい。

あきらにも、総二郎にも、類にも、他の誰にも、こいつを奪われる事のないように・・・

俺の唇は、女の太腿の内側へと移動していく。
俺は、女の脚を左右に開き、クレバスへと顔を沈めた。

舌を突き出して割れ目を舐めあげると、女は背中を反らせた。

覚醒した女は、驚き、自分の置かれた状況に、声にならない声を上げた。

「っ!!」

「目ぇ、覚めたか?」

「イヤッ!!」

女は、咄嗟に胸元を隠し、脚を閉じようとした
・・・が、俺の身体が脚の間に入っていて、それは叶わなかった。

俺は、女の両手を頭の上で拘束し、抗議の声を上げる口を俺の唇で塞ぐと、酸欠になるまで女を追い込み、女がおとなしくなると、再びクレバスを侵略していった。

次第に、女の声は艶を含み、抗議の声は喘ぎに変わっていく・・・

女の泉から、トロリとした液体が溢れ出すと、俺はたまらず、その場所へと指を沈めた。
2本の指をその場所へ吸い込ませると、中の感触を楽しむ。
俺の指は、狭いその中を掻き回しながら、女が声を上げる場所を探っていく。

女が反応を返した場所を執拗に攻めていくと、泉からは今までとは比べ物にならねぇ位の愛液が溢れ出した。

それを確かめると、俺は、いきり立った俺自身を入り口にあてがった。
俺の分身は、躊躇う事無く、泉の中へと吸い込まれていく・・・
奥まで入ると、途端に、温かく柔らかい女の中は、俺を締め付け、包み込む。

俺は再び、テラスで味わった以上の快楽を貪るべく、腰を揺すった。
初めはゆっくりと、女の声が漏れ出すと、そのスピードを速めて、奥へ、奥へと女を突き上げる。

俺を支配するのは、高い崖から一気に堕ちていくような強すぎる快感・・・

それを後押しする潤んだその瞳に・・・
「道明寺」と俺の名を呼び、喘ぐその声に・・・
決して作り物ではない、甘やかなその香りに・・・

五感で感じる感覚の全てが、心の奥底に埋もれて、決して呼び起こすことの叶わなかった記憶を呼び起こす・・・

牧野・・・牧野・・・

それは、俺の目の前に突然現れて、俺の全てを支配した女。
栄徳の屋上で・・・カフェで・・・非常階段で・・・
この邸の、この部屋で・・・あいつのボロアパートで・・・
他にも様々な場所で・・・俺の視線は、いつも牧野を追い求め、その圧倒的な存在に支配されていた。

俺の風景は、あんなにも牧野で埋め尽くされていたのに・・・
こいつだけが、たった一つ、俺の望んだ、全てだったのに・・・

こんなにも愛しいものを、今までずっと、忘れたまま過ごしていた。

全て思い出した今、もう、2度と離さない。
お前の全ては、俺のものだ・・・
牧野・・・
牧野・・・

俺は、下半身を支配する快楽と、心を支配する愛しさが溢れ出し、その全てを、牧野の中へと残さず解き放った。

また、牧野を追い込んでしまった・・・
俺の強すぎる情熱に翻弄され、気を失っちまった牧野・・・
今、お前に誓おう。

俺はもう、2度とお前を離さない。
もう決して、お前を忘れたりしない。
これから先、歩む未来は、この命尽きるまで、お前と共に・・・

All my lives are dedicated to you.
−俺の人生の全てを、お前に捧げる−






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