ヒメゴト
道明寺司×牧野つくし


小走りに2年生の教室の並ぶ廊下を急ぐ。
教室のドア越しに、夕日が室内を眩しいほど金色に染めているのがわかる。
その分、廊下側の影が濃い。
ひとけのない学校はなんでお化けが出そうなんだろう――と青池和也は自分の影に
ビクつきながら思った。
小学校も中学校もそうだった。怖がりなのはすぐに周囲に知れて、よく同級生にい
じめられたのもいやな思い出だ。
でもそんな時に必ず助けてくれたのが初恋の女の子だ。高校で一緒になれた時はう
れしくて、理由もわからずいじめられても学校に通うのが楽しかった。

(なのになー、つくしちゃんてば……)

いじめた当人の道明寺と付き合うことになってしまうとは。

「はあ……」

深く深くため息をついた和也は、何か聞こえた気がしてピタリと足を止めた。

(……すすり泣き?)
「や、やだよう。こわいよう」

金縛りにかかったようになりながら耳を澄ますが何も聞こえない。

「えへ、やだなあ」

照れ隠しの大きな独り言は、思った以上に廊下に響いて、その後の静寂が一層重かった。
やっぱり、怖い――と思った時、今度は確かに聞こえた。
微かな悲鳴が断続的に、どこからともなく聞こえてくる。和也はたまらず絶叫した。

「うわ〜っ!!つくしちゃ〜んっっ」
「和也君?」

進行方向の教室のドアが開いて、つくしの声がした。影になっているのでわかりにくいが、
顔をのぞかせて、こちらを窺っているようだ。
和也はめそめそと泣きながら、つくしに駆け寄る。

「つくしちゃん、お化けが出たんだよう。泣き声がしてさ〜」
「あはは、まさか。それよりどうしたの?」

明るく笑い飛ばされると、何だか気のせいだったような気がしてくる。

「あ、つくしちゃん掃除当番でしょ。まだいると思って。一緒に帰ろ。送るよ」

少し間を空けて、つくしが言いにくそうに口にした言葉に、打ちのめされる。

「ごめんね、道明寺と待ち合わせてて……」
「そっか、付き合ってるんだもんね……待ち合わせとかするよね……」

(あと、デートとか手つないだりとか、キ、キスとか、色々するよね……)

和也はがくりとうなだれ、フラフラとその場を立ち去りかける。

「和也君、また明日ね。明日は一緒に帰ろ」

つくしの声が追いかけてきて、喜色満面、振り返る。

「うんっ。また明日ね」

弾んだ足取りの和也は、逆光で一度もつくしの顔がよく見えなかったことには、気付かなかった。

和也を見送り、つくしは、きっちりと扉を閉めると教室内を振り返った。

時は少し遡って。
そもそもは、司がふらりとつくしの教室に現れたせいだ。

「オマエ、なにしてんの? 待ってたのに」
「誰もやらない掃除当番」

これは、つくしの意地でやっている。庶民のささやかな抵抗だ。

「なあ、お前の席どこ?」

そこ、と指し示された席に座り、司は面白そうにきょろきょろしている。

「なんか、おもしれーな。お前もこっち来い」
「そんな面白いかなあ?」

ゴミ箱を片付けて、つくしが近づくと、司に腰を掴まれて膝の上に横座りさせられた。
一瞬抗いかけたつくしは、完全に抱き込まれると大人しくなる。うっすら朱に色づいた
首筋を撫でながら、司は囁いた。

「今日、うち来るよな」
「……やだ」

なんでだよ、と司がムッとする。

「だってあんたイロイロ試すんだもん」
「ふうん?」

いつの間にか、司が間近に顔を寄せてきていて、つくしはどぎまぎする。

「試すって、どんな?」

降りてきたキスが優しくて濃厚なのはいつも通り。大きな音を立ててしているのは、
きっとわざとだ。恥ずかしがるのがわかっていてのこと。

「だ、だからこういうキスとか」
「キスとか、他には?」

スカートが捲り上げられた。下着のふちに指が潜り込み、太ももの外側から中心へと伝い
始める。もがくつくしの片腕は大きな身体に押しつけるようにして封じ込めた。
もう一方の華奢な手首は、いたずらを仕掛けるのと反対の手でがちりとつかむ。

は、とキスで濡れた唇から吐息が漏れ始めて、司は調子づく。

「き、教室でサカるなって、バカ男」

それでもつくしは言葉で抵抗する。必死に文句言っているのに、中心に辿りついた指が
お構いなしに割れ目を直になぞっている。指はじらすように溝を辿ってから中に潜り込む。
そして早くも突起を見つけ出し、弄び始めた。
小さな湿った音がした。
ごく小さな、でも密着している二人の耳には確かに届いて、途端に司の指の滑りが良くなる。

「ん…ふっ」
「お前もサカってるじゃん」

つくしが喘ぎながら恨めしそうに見上げてくるが、司はもう歯止めが利かない。
鼻先で黒髪をかき分け、耳朶を甘噛みする。溢れた蜜を塗り込めながら、一番感じる部分を性急になぶる。

「……ぅんっ」

つくしが、ぶるっと小さく身を震わせた。軽く達したようだ。あくまで閉じようとしていた膝から力が抜け、
強張っていた腕がやわらかく緩んだ。

「――脱ごうな」

司はあやすように囁いて、机に腰掛けさせた。

「あ、自分で――」
「いいから」

司に腰を支えられながら、ショーツを脱がされる。視線を身体の中心に感じた。
司が一瞬、頬を緩ませたのが見えて、頬が熱くなる。上も、と言いながらブラウスと下着を取り払われた。
上半身は丸裸で下着も着けず、何やっているんだろう、つくしは熱で浮かされたような頭の片隅で思う。

(こんなの、アタマおかしいよ)
「服、そんな放り出さないで……」

文字通りポイポイと、司はつくしの服を放り出していて、ブラが誰かの机に引っかかった後、
床に落ちるのが見えた。

「つまんねーこと、気にすんな」
「あ」


唇を吸いながら、達したばかりのつくしの内部に指を挿し入れられた。
一度イったナカは柔らかく熱く溶けていて、
するりと指の呑み込んだ。イイところを掻き回すと、内部の襞がうねる。もっと奥へと引き込もうとする。
勝手なマネをするつくしの身体に、お仕置きがわりに指を増やしてやった。

「は、んっ」

反射的に背中が反り返る。ふるりと揺れながら差し出された胸の尖りを口に含んだ。
身体は火照っているようなのに、胸のふくらみはなぜか冷たい。
舌先で乳首が勃ち上がってくるのを確かめながら、口中の熱を与えるように貪った。

「ぁんっ、あ、あっんぅ」

あられもない声と共に、蜜は溢れて手のひらを濡らし、ナカに挿れた指はきゅうきゅうに締め付けられている。
胸元から唇を離すと、ぷくりと腫れた乳首から唾液の糸が引く。司は名残惜しげに糸をを舐めとった。
いつもは暗がりでほの白く光る身体が、夕日で金色に染まっている。

(誰にも見せねー……オレだけのだ)


「あ、いやっ」

指を引き抜くと、つくしはすすり泣くに似た喘ぎをもらす。
いや、と小さく繰り返しながら、もの欲しげに腰が揺れた。司はうれしくなる。

「ちょっとガマン、な」

司は椅子に掛けたまま、つくしの両足を肩に乗せ、中心に顔を埋めた。

「やっ、あっ」

湿った音が教室に響く。ガタ、と机が音を立てた。
刺激が強すぎて、つくしは身体を支えられない。司の首筋にしがみついた。
スカートの裾に隠れて、司の口元は見えない。でも、時折角度を変える顎のライン、這いまわる舌の感触、音。
痛いほど感覚が研ぎ澄まされて、下半身が自分のものではないようだ。

「や……ぁ」
「こんな、溢れさせて」

ちゅっ、と吸いあげる音がした。同時に司の喉が動いて何かを飲み下しているのが判る。

(そんなの飲まないで……)

「どうみょうじ……」

声が掠れてうまくしゃべれない。

「どうみょうじっ」
「――なに?」

司が顔をあげた、唇が濡れて紅い。男のくせに赤い唇が映えてきれいだなんて、とつくしは頭の片隅で思う。

「おねがい……」
「どうしてほしい?」

「だから」

瞳で懇願するつくしに司は囁く。

「おまえの願いなら何だってかなえてやるよ。どうしてほしい?」
「お願いっ……ねえっ」

「できねーことなんて、何にひとつ無え」

イヤそうでもなかったよーな、と一瞬突っ込みを入れそうになったが、
息を呑むほど美しい顔が間近に迫ってきて、余計な思いは消し飛んだ。

「お願い……指じゃ、ヤダ」

心からの願いは、案外たやすく、口から零れた。

「あ……」

座った司の膝の上で、つくしは腰を揺らす。ナカを満たした司自身の感触を味わいたくて、ぎこちない動きを続ける。
慣れない動きが司にはもどかしい。本能は無茶苦茶に突きあげたがっているが、必死に堪える。
司の空いた手が、そうっと双のふくらみを揉みしだき始めた。

「あ、だめ……」

別方向からの刺激につくしの動きが止まる。
きゅ、と締め付けられて司も呻いた。

「ほら……オレが動くから」
「……うん」

こくり、と頷いたつくしを抱きしめる。
司の耳元で絶え間なく声があがる。
蜜でぬめる結合部に手を這わせ突起を弄ると、つくしが恥じらいもなく腰をすりつけてきて、甘く啼く。
欲望をあらわにする様が愛しくて、いっそう溺れた。

バタン、と遠い音がした。
廊下のようだ。


「――だれか、くる」

司の腕の中、快感に身を震わせていたつくしが、うわ言のように呟く。
「ここまで来ねえよ」
貪っていた身体から唇を離し、司がぼんやりと返す。
マズイ、という認識は互いにあるが、夢中の出来事のようで実感がない。離れ難くて行為を続けてしまう。
つくしのよがる声を吸い取るように、キスを繰り返す。キスから逃れ出た声は甘く響きわたって、
廊下まで漏れ出ているのは間違いなかった。

「イク……」

司が切なそうに呟いた。

「あたし、も」

手と手を絡めながら、二人で高みにのぼり詰めた。


――つくしちゃ〜んっっ


和也の大絶叫が轟いて、ギョッとして視線を交わす。

「マジで!? うそだろ……」
「ど、どうしよう」
「まず、服着ろ!」
「あんたが放り出すから!! どこよ!?」

目についたブラウスのみ拾い上げて急いで身につける。スカートにブラウスの裾をたくし込むと、
隠れてて、と言い残し、つくしは教室の扉を開けた。

つくしを認識した和也が、なぜだか半泣きで駆け寄ってくる。

「つくしちゃん、お化けが出たんだよう。泣き声がしてさ〜」

シている時の声を聞かれたのだ、と思い当たり、動揺する。なんとか誤魔化さねば、と笑い飛ばした。

「あはは、まさか。それよりどうしたの?」

先刻まで司を受け入れていた箇所が、じくじくと疼いて足もとが覚束無い。

「あ、つくしちゃん掃除当番でしょ。まだいると思って。一緒に帰ろ。送るよ」

素肌に身につけたブラウスが気になり、そうっと胸元が隠れるように腕を組む。
そして、このまま和也と帰れるわけもなく、酷な言い訳を口にしてしまった。

「ごめんね、道明寺と待ち合わせてて……」

「和也君、また明日ね。明日は一緒に帰ろ」

罪悪感を感じて、しょんぼりと立ち去る和也の背に声を掛ける。
ただそれだけのことなのに、大喜びする彼に済まないと思う。
スキップしている和也を見送ると、教室の扉を閉めた。

「道明寺?」

教卓の陰、扉の死角に座り込んだ司を見つけ出す。

「これ、バレなかったか?」

司がいたずらっぽく笑いながら、ブラウス越しにはっきりと存在を主張する胸の先端をつまんだ。

「んっ……たぶん、だいじょうぶ」
「それより、こっちの方がヤバかった……?」

大きな手で、膝近くまで伝い下りた蜜を下から逆にたどり、滴らせている秘裂をまさぐる。

「道明寺……いじわるしないで」

息を乱しながら、つくしが言う。

(いじわるなんか、してねえよ)

ただ、この掌の上で、ぐずぐずに蕩けていく様を、もっと見たかっただけ。

「おねがい……」

裸に剥いて、教室の固い床の上で、また繋がる。
明日、と司は考えた。

(コイツ、このこと思い返すかな。授業中とか)
たぶん真っ赤になって挙動不審になるだろう。動揺すればするほど、このコトを考えるだろう。

(そんな風に、オレのことでアタマいっぱいにしてろ)

組み敷かれて、あえぐ少女に願った。






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