非常階段
花沢類×牧野つくし


「ごめん、ずいぶん待たせちゃったよね」

息を切らせてつくしが飛び込んでくる。

「いや、大丈夫、ここでうたた寝するの気持ちいいから」

非常階段の踊り場に座っていた類があくびをしながら立ち上がる。つくしは踊り場の手すりに背中でもたれかかりながら類に向かって話し掛ける。

「ここであんたの姿見るのすっごい久しぶり。卒業して以来だよね」
「卒業してここで会えなくなって寂しい?」

さり気なく茶色のサラ髪をかきあげながら類はつくしの答え期待しているようにも見える。

「うん・・・ここはあたしのオアシスだったからね」
「俺といた良い思い出しかないんだろ?」
「ま、まぁ・・・そうだね」

つくしの頭の中に浮かんだひとつの情景がわずかに答えを躊躇させる。類はそのわずかな躊躇さえも見逃さずにつくしを見つめる。

    ああいう表情を見せるのは司のことを考えるときだけだ。
    牧野とこうして会っていたのは俺だけじゃなかったのか・・・?

「司ともここで会っていた?」

嫉妬から来るこんな言葉を類は自分でもみっともないとは思ったが、聞かずにいられなかった。

「えっ?ちがうよ。会ったりなんかしてないっ」

嘘が下手なつくしの今の様子からそれは本当のことだろう。内心ほっと胸をなでおろす類だったがいまだ疑問は残る。

「じゃあ、ここで何があった?」
「別に、何も・・・・」、つくしは唇を噛み平静を装おうとはしていたが、明らかに何かを隠している。あえて問い詰めないほうが良いのかもしれないが、司が絡んでるのだとすると類はどうしても内容を知りたかった。

    あいつとの間に何があった?

「終わったことなんだろ。だったら話せよ」

類はゆっくりとつくしに歩み寄ると、その細い肩を抱き寄せ耳元で囁く。

「う・・・ん・・・。一年程前になるんだけどね・・・」

つくしが手短に話した内容を聞いて類は愕然となる。つくしの気持ちが自分に向かないことにキレた司がつくしをここで押し倒し、レイプしようとしたなどとは俄かには信じられなかった。いや、しかし・・・司ならやるかも、という思いもあった。

牧野には何か心の中を駆り立てられるものがある。同じ女を好きになった類にはその気持ちが十分にわかった。だからと言ってすぐに司を許す気持ちにはなれそうにもなかったが。

「花沢 類・・・?」

おずおずとつくしが類の顔を覗き込む。類はさっきから険しい表情のままだ。

「く・・・そ・・・っ!」

突然類が類らしからぬ大声を出してつくしに詰め寄る。

「あいつ・・・何をした?」

気持ちの高ぶりを押さえきれず類は激しくつくしの唇を奪う。

「キス・・・・したのか?こんな風に」

辛そうなつくしの表情がこの質問の答なのか。
腰を抱き寄せながら、その押さえきれない苛立ちを荒々しいキスに変えてつくしへと落とす。
さらに唇を首筋に移そうとして、類はつくしの頬を濡らす涙にはっと気づく。悲しい悲しい目をした固い表情・・・。

「・・・・牧野・・・・」

水を浴びせられたかのように類は我に帰る。

「悪かった・・・つらい思いをしたのは牧野だったってこと俺忘れてたよ」

先程とは違って、そっと優しくつくしの頬に口付け涙を拭い取る。何度も何度もそれを繰り返すと再び唇を重ねる。互いの吐息を確かめあいながら舌を絡めあう。ひとしきりキスを交わした後もふたりは無言で抱き合っていた。

無理やりのキスだから腹が立つのか、じゃあ同意の上だったら構わないのか

 いまだ揺れ続ける感情を自分自身でコントロールできずに類は戸惑う。
    今さら嫉妬してどうする・・・過去のことに・・・

知らず知らずのうちに抱きしめる手に力が入っていたらしい。

「いたっ、痛いよ。花沢類」

その言葉に慌てて類は手を少し緩める。

「もう忘れたいことだから・・・」

伏目がちにそう言うつくしの長い睫毛とその下から覗かせるほんのり赤らめた表情が類の感情に再び火をつける。

「俺が忘れさせてやるよ」

そう囁き、つくしの瞼に静かに唇を落としていく類。その唇が頬、耳たぶ、うなじへと少しずつ移動する。しばらくうっとりとそのキスを受け入れていたつくしだったが、類の手が制服のボタンにかかるのに気づくと驚いて体を離す。

「な、なにすんのよ?!」
「なんで?司はよくって俺はダメなの?」
「道明寺とはそんなことまでしてないっ!」
「だから、したいんだよ」

平然ととんでもないことをいう類に、つくしは真っ赤な顔で口をパクパクさせている。

「テスト休み中だし、誰も来ないって」

クスッと笑った類が囁いた一言が、追い打ちをかけるようにさらにつくしを固まらせる。

「大丈夫だよ。今日の俺すっごく早いと思う。興奮してるし」

類の手が再び制服のボタンにかかる。

「ちょ、ちょっと・・・」

真昼間にこんなところでしている行為にたじろぐつくしの右手が、何とか止めようと類の腕をつかむ。
あっさりとその手を掴みなおした類の手は、掴んだ右手をつくしがもたれかかっていた後ろの壁の手すりに握らせる。同じように左手も後方の手すりを握らせる。そうすると自然に胸を突き出すような格好で立つことになってしまう。

類の行動の意味がわからず、怪訝な顔をしていたつくしだったが、この次の類の行動はつくしの想像をはるかに越えたものだった。いきなりスカートの中に手を入れ下着を素早く下ろしたかと思うと、次の瞬間に膝立ちになってつくしの秘部に唇を寄せてきたのである。

「・・・・・!!!!」

驚きのあまり声も出ないつくしだったが、次第に状況を把握していくと共にサーーッと血の気が引いていくのを感じる。逃げようとするつくしの腰を類はしっかりと押さえ込んで離そうとしない。
段々と内部へと入り込んでくる類の舌の動きに足の裏がぞくぞくするような快感を感じ始めたとき、つくしは大きな吐息を吐いた。つくしの抗う力が弱まってくるのを悟った類は右手を舌と共に秘部へと進める。

「ああんっ・・・だめぇ・・・」

類の唇が触れている場所からしびれるような感覚が起こり、つくしの体中を駆けぬける。

「や・・・・あああっ・・・・」

恥ずかしさと気持ちよさの入り混じった不思議な感情のままつくしは絶頂へと達した。

放心状態で座り込んでいるつくしを類は優しく抱きしめる。

「さ、続きしようか」

類の突然の言葉にビクリとなり、思わず後ずさりするつくし。

「うそ、冗談だよ。さすがにここでは無理だろ」

笑いながらいう類の言葉にほっと胸をなでおろす。

「そ、そうだよねーいくらなんでもここでは・・・」
「・・・・準備してこなかったから」

まっすぐにつくしを見つめて類が言う。

    え?それって・・・じゃ、ちゃんと準備してたら・・・・

「今度は、準備万端で来るわ」


      あたし当分ここにくるのやめとこ・・






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