私の心
花沢類×牧野つくし


雨が次第に強くなってきて会話さえも聞き取りにくくなってきた。
もっとも車の中にいるふたりは乗ってからというものほとんど口をきいていないからどちらにしても同じことだったろうが。
沈黙にとうとう居たたまれなくなったつくしが小さくため息をつく。

「いつまで怒ってんの?」「・・・別に」

思えば今夜は初めから類は不機嫌だった。ぶつぶつ言うつくしをやっとの思いで説得し週末の旅行の予定を入れたというのに、突然の道明寺の呼び出し。正確には8ヶ月ぶりに帰国した椿おねーさんからの呼び出しだが。
無視して出かけようという類に対し、椿おねーさんの妊婦姿が見たいから、という理由でつくしはさっさと旅行を取りやめにしてしまった。
道明寺邸で久々の再会を楽しんだ後、「つくしを送る」と半ば強引に類がつくしを連れ出そうとし、挨拶もそこそこに出てくることになってしまった。

「ねぇ、うちこっちじゃないんだけど。」

つくしは恐る恐る問い掛けてみたが返事はない。類は険しい顔でハンドルを握っている。

「ねぇってば!」
「−大声出さなくても聞こえてる」

相変わらず前を向いたまま表情も変えずに言い放つ。花沢類なんだから変なところに連れて行かれるとか危険な目に遭わされるとかそういう心配があるわけではない。でも・・・・

「ねぇっ、何で怒ってんのよ。ちゃんといってくれなきゃわかんないでしょ。」

花沢類の身を乗り出して右手を取り、詰め寄るつくし。

[あっ、こらっ!」

車が大きく横に揺れたかと思うと怖い顔をした類が200mほど先の少し広くなったところに車を急停車させる。

「ばっかやろー。高速で100km以上出てるんだぞ。スリップしたらマジふたりとも死ぬよ」
[ごめんなさい・・・」

車が通り過ぎるたびに一瞬照らされるつくしの顔はまるで映画のフラッシュバックしたシーンのように見え、これほどコケティッシュに見えたことは今までなかったように類には思えた。

「旅行キャンセルしたこと怒ってるんでしょ?」
「・・・・」
「ごめんね。」

類の手が不意につくしの肩を抱き寄せたかと思うと唇を重ねてくる。

「今夜は帰るなよ。」

かすれたような声で囁いてくる類のその唇はさらに奥のつくしの舌を求める。さらに強くなってきた雨の音が互いの口から洩れる吐息と混ざり合う。狭い空間の中に篭る熱気が次第に類の理性を奪い始めていた。深く重ねた唇を離し首筋へと移動させる。

「ん・・・」

つくしの口から小さな喘ぎ声が洩れる。同時に類がボタンを操作し、シートを一番後ろへと倒す。

もどかしい思いでジャケットの前をはだけさせスリップドレスの肩ひもを唇でなぞってゆく。

「やめて・・・ここじゃいや・・・」

つくしの手が類の手を止める。類は乱暴に抵抗する手を肩で抑え込み、胸元を大きく開かせる。そして助手席のつくしにほとんどのしかかるような形で体を寄せ、柔らかいその胸元へ口付ける。

「は・・・ぁん・・・」

雨音で半ば聞こえない喘ぎ声。しかし目を閉じて軽く背中を仰け反らせるつくしの様子は類の愛撫を求めてやまないことを十分に感じさせる。通り過ぎる車のサーチライトがほんのりと浮かび上がらせるつくしの白い肌。それが類の気持ちをさらに高ぶらせる。
胸の先端に唇を寄せ、味わうように口に含むとそっと舌でころがす。同時に手は下半身をまさぐり、いつもに増して熱気を帯びているそこを下着越しに何度もなぞる。

「いいだろ・・・?」

そう類は問い掛けるが、答えを待っているのではないことをつくしは知っている。私の答えならもうすでに類の指の中にあるのだから。

普段の類なら到底考えられないことだ。こんな・・・高速の・・・・路肩で私を求めてくるなどとは。
しかしこんなふうに類が感情を揺らせるときは理由は一つしかない。

    道明寺・・・・いつまであんたはわたしたちの間にはいりこんでくるの?

私たちはそれぞれ以前思いを通わせあったり、親友だったりしたあいつの心情を理解しながらも、もう戻れないあの頃に向かって背を向けようとしていた。
乱暴に下着を脱がせ、私に覆い被さるようにして類が体を重ねてくる。狭い車内での不自由な動きでなかなかスムーズに入らない。少々強引に自身をねじ込んでくる。

「く・・・」

まだ十分に用意が出来ていないそこを押し広げられる感触に若干の痛みを感じながらもつくしは類の嫉妬、いらだち、激しさそれらすべてを受け入れようとしていた。
類はつくしの内部に自分をすべて収めてしまうと大きく息をつく。

「牧野・・・俺のことあきれてるんだろ」
「そんな・・・ことない」
「感じてないだろ?」

やりきれないような類の声。

「司にあった日はいつもそうだ」
「そんな・・・」
「あいつを見るなよっ、あいつのことすべて忘れろよ」

激しく腰を動かし類がそう言い放つ。

「牧野、目を開けて、俺を見てろっ」
「おまえは俺のものだ、誰にも渡さない・・・」

類の体から落ちる汗が飛び、つくしの上半身に降り注ぐ。類が嫉妬の感情を見せたときは私にはもうなす術はない。ただ彼の激しさを黙って受け入れるほかに方法はないのだ。
まるでそれが、唯一お互いの気持ちを確かめ合う方法であるかのように。類の絶え間のない攻めにつくしは何度も達しながらも二人の間の埋めようもない心の隙間が少しずつ大きくなっているのを感じていた。


   道明寺・・・・お願いだから私の心から出て行ってよ・・・






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