花沢類×牧野つくし


―厳寒のニューヨーク・・空は鈍い鉛色に包まれていた。
 あいつを追いかけてきて、冷たい瞳で追い返されて・・
 きらめくような摩天楼さえも、滲んで見えない。―

『今日のフライトにはもう間に合いそうにないから、明日の便の予約を取っといた。』

どこからともなく聞こえてきた類の声に、つくしはふっと我にかえった。

『司に会っていく?時間ならあるけど・・。』

類のまっすぐな瞳が、つくしの心を切なく締めつける。

『うん・・もう、いいの・・。』

冷たい眼差しの司が、つくしの脳裡から消えなかった。

つくしは頬杖をつき、テーブルの隅へと視線を移した。

花沢類がはじめて自分で稼いだお金でプレゼントしてくれた花。
色鮮やかなその花が、マグカップの中で静かに揺らめいていた。

つくしの心を暗示するかのように―

夜の闇が深まった頃、類はつくしのベッドの傍に付き添っていた。

『何度も何度もしつこく言うようだけど・・ほんとにありがとう。』

類はふっと笑顔を見せると優しくつくしを抱き寄せキスをした。
初めて出会った春を思い出すような、やさしく暖かいキス。

『今のキスも・・なんとなくしたくなったから・・なの?』

つくしの問いかけに類は無言のまま、つくしを胸に抱き寄せた。

『ずっと心にしまっておこうって思ってた。司とうまくいっていればそれでいいと思ってたから・・。』
『花沢類・・』
『俺、あんたのこと好きだよ。正直、今あんたを抱きたい・・って思ってる。』

類の静かな情熱を秘めた言葉を、つくしは以外なほど冷静な心で受けとめていた。

『あたし・・花沢類からそんなこと言われたらホントに逃げこみたくなっちゃう・・。』

つくしは類から体を離し、類を見つめ返した。

『言ったじゃん。逃げるのはかっこ悪いことじゃないって・・。それにあんたは充分頑張ったよ。』

つくしはうっすらと滲んだ涙を見せないように類の肩に額を寄せた。
司の乱暴な優しさに心を焦がしながら、類の穏やかな優しさに心が溶けそうになる。
終わったはずのあの日の想いに心が引き戻されてゆくような感覚。

不確かな心がつくしを激しく揺さぶっていた。

『こんな時にせまるなんて・・・でも一度でいいから・・抱きたい・・。』

類はつくしの顔を仰がせ、唇を重ねた。
軽く触れあうようなくちづけは、やがて深くつくしの唇の奥を探る。

『んっっ・・・・』

甘い吐息がつくしの唇から洩れる。
唇が離れると、つくしはうっすらと目を開け、自らに言い聞かせるようにつぶやいた。

『あたしは・・道明寺を追って・・ここに来たの・・。』
『うん・・・そうだね。』

類はつくしの独り言のような言葉にに短く応える。

そして今度は類が、つくしに短く問いかけた。

『牧野は今・・何を思ってる?』

つくしは類の薄茶の瞳に吸いこまれるように黙り込んだ。

『答えて・・。今、何を思ってる・・?』

類はつくしを抱き寄せ、耳元に唇を寄せながら同じ問いかけをする。

『ものすごく、ずるいこと・・。言葉にできないような・・ずるいこと・・。』
『俺達・・たぶん、同じこと、考えてる・・。』

類はつくしの髪をかきあげ、奪うようにくちづけた。

『牧野・・』

互いを求めるように舌を絡め、唇の奥をなぞる。
類がつくしの服のボタンに指をかける。
つくしの指も抗うことを忘れたように、類の躰へとまわる。

『もう・・この手、止められない・・』

つくしの耳元にくちづけるように類が囁いた。

『いいの・・止めないで・・。』

―いつかは、こんな風になるような気がしてた―

すれ違ったふたつの心が、ひとつに重なってゆく。

類から借りた大きめのシャツがつくしの華奢な肩を滑り落ちていった。

『隠しちゃだめ。見せて・・。』

身に纏ったものすべて脱ぎ捨てた類は、胸元を隠したつくしの手をほどき、その躰を冷たいシーツの上へと押しつけた。
躰をそっと重ね、つくしの控えめな胸をそっと手で包み込む。つくしは類の掌を感じながら、目を閉じうっすらと唇を開いた。
類はつくしの胸に唇をよせ、やさしく揉みしだくように愛撫する。手のひらの中で胸の蕾が硬くなったのを感じ、甘く歯を立て、舌先で突きあげる。

『んっっ・・・・』

つくしが微かに声をあげると類はさらに指先で擦るように弄んだ。

『ああんっっ・・』

つくしはこらえきれなくなったように喘ぎ声を洩らした。

つくしが喘ぐ姿に、ふと類の心に司への嫉妬心がよぎった。
灼けつくような嫉妬心をかき消すように、類はつくしの胸元に強く吸いつくように唇を押しつける。
乳白色の肌に、赤紫色の花が鮮やかに広がっていた。

『痕、つけた・・・。』

類は少し切なそうな眼差しでつくしを見つめる。

『ううん・・いいの・・もっとして・・』

類の想いを感じたつくしは頬をやさしく撫で、包み込むような眼差しで見つめ返す。
ふたたびつくしへと体の重みを預けた類はつくしの肌に掌を滑らせてゆく。つくしの上気した肌の熱を奪うように、類はその冷たい手を這わせる。
冷たい手とはうらはらに、つくしの体に重なった類の肌は少しずつ汗ばんでくる。
冷たかったシーツはふたりの熱を吸いこみ、温もりを封じ込める。

『牧野の躰、熱いんだ・・。』

類の額から一筋の汗が流れ落ちる。

『汗、かくんだね・・。はじめて見たような気がする・・。』

つくしが汗の雫に愛しそうにくちづける。
汗が誘った舌の痺れは、やるせない心の痛みをも痺れさせてゆく。
司に抱かれた記憶。司の名を呼んだ記憶。すべてを忘れさせるように。

『類・・』

つくしはうわ言のように類の名を呼んだ。

『はじめて類≠チて呼んだ・・・』

まるで新しい発見をしたように類の声が弾む。
ふたりは子どものように微笑み合い、夜に溶けこんでゆく。

類の手がつくしの下着にかかり、足首までゆっくりと下がってゆく。
唇がつくしの体を彷徨いはじめる。
少しずつ、少しずつ、降りてゆく類の唇。
つくしは降りてゆく唇の予感に、踵を少しずらし、類の髪に指を絡めた。
やがて類の唇はつくしの秘部へとたどりつき、花芽を舌で刺激する。

『ああん・・・』

つくしは類の髪をかきあげながら、わきあがる快感に躰をそらせた。
秘部が熱く潤み、蜜がとめどなく溢れ出す。
つくしは類の唇に花芽を押しつけるように腰を淫らにくねらせた。

『ああっっっ・・はうっっ・・』

つくしの乱れた喘ぎ声に、類は顔を上げた。
初めて見るつくしの乱れた姿に類は興奮を隠せなかった。
類は喘ぐつくしを凝視しながら、指で絶え間無く、花芽を責めたててゆく。
熱い視線を感じたつくしは、閉じていた目をうっすらと開け、類を見つめ返した。

『淫らな女だって・・思ってる?・・。』

つくしは少し乱れた息遣いで類に問いかけた。

『うん、思ってる・・。』

類はつくしに触れている指を休めることなく答える。

『ちょっと意外だった・・でもうれしいよ。』

類が悪戯っぽい表情でつくしを見つめ返した。

つくしへと重なろうと類が躰を起こすと、つくしは類の下腹部へと手を伸ばした。

『熱い・・・。』
『あんたが触れているからだよ。』

類のものを握り締めるつくしの髪をやさしく撫ぜた。つくしはそっと類の下腹部に覆い被さり、先走って濡れた尖端にそっと唇を寄せた。

『んっっ・・・。』

快感に耐えるように低く声を押し殺した声がかすかにつくしの耳に届く。類はつくしの愛撫に身を任せながらも、手をつくしの腰へと伸ばし、自分の方へと引き寄せようとする。

『あっ、だめっ・・それ、恥ずかしい・・。』
『恥ずかしくないよ。おいで・・。』

腰を引き寄せられたつくしの秘部は類の目の前に無防備にさらされる。
類の唇はふたたびつくしの花芽をとらえた。

『ああっっ・・ああん・・・』

つくしは類の舌遣いに麻痺したかのように躰が動かなくなってゆく。類のものを愛撫していた唇と指先はおろそかになり、ただ、ただ、喘いでしまう。

『牧野・・欲しいんだね。今、あげるよ・・。』

類はゆっくりとつくしの脚の間から躰を起こすと、膝と肘をつき俯伏するつくしを背後からそっと貫いた。

『はうっっっ・・・』

類に貫かれ、びくんと反応しながらも、つくしはさらに類を深く受け入れようと
腰をくねらせる。目を閉じ、類のなすがままになるつくしの耳に届く音。
繋がり合うところからかすかに聞こえる水音。ふたりの肌がふれあう音。
そのすべてがつくしの心を淫らに昂ぶらせてゆく。
類はつくしの躰を愛撫しながらゆっくりと躰を傾けた。吐息がかかるほどに類が近づいてきたのを感じたつくしは、最後の望みを口にする。

『類の顔、見たい・・』

つくしの懇願に類はつくしの躰をゆっくりと仰がせた。類の瞳から溢れるあたたかさにつくしの心は満たされてゆく。

『類・・。』

つくしは類の躰に自らの脚を絡め、類をより深く求める。
限界が近づいてきていた類はつくしの腰を深く引き寄せ、激しい律動を送る。

『牧野っ・・受けとめて・・。』

類の表情が少し切なそうにゆがんだ。

『ああんっっ・・・』

つくしは絶頂と同時に躰の中にあたたかいものが流れこむのを感じた。

≪ごめんね、道明寺・・あたし花沢類のこと・・・≫

・・・・あれっ?

突然、まぶしい日差しがつくしを包み込む。
遠のいていた意識に少しずつ近づいてくる機械音。つくしはその機械音のする方向へ手を伸ばした。

『7時・・?』

つくしは目覚まし時計を見て、慌てて飛び起きた。

『あっ、いっけない、進のお弁当・・あ、進、今日はいないんだっけ・・。』

つくしは寝癖で少し乱れた髪をかきあげながら大きく息をついた。

―さっきの夢、リアルな夢だったな・・。ホントにNYにいたような・・。―

つくしは夢の中での出来事を思い返してみた。
躰の芯が熱くなりかけて、慌ててつくしは頭をぽかぽかと叩いた。

『ばかばかっ!何考えてんのよ、あたしったら!さっさと学校行かないと遅れちゃう!』

つくしは急いで身支度を済ませるとアパートを飛び出していった。

2時限目の終了後―

次の授業の前に一息入れようと、つくしは非常階段へ立ち寄った。
非常階段には馴染みの先客が1人。

≪花沢類・・・≫

つくしは今朝見た夢を思い出しどきどきながらも、平静を装い類に話しかけた。

『相変わらず眠そうだね。』

類はとろんと目でつくしを見上げた。

『ん〜。今朝夢を見たんだ。もう一度見てみたいなって思って。』
『え・・夢?どんな夢だったの?』

つくしは頬がかあっと熱くなるのを感じながら、類に問いかけた。

『ん・・・ぼんやりとした夢だったからよく覚えてないんだけどね。』

とぼけた表情の類につくしはすっかり拍子抜けし、かすかな苦笑いを浮かべた。

『花沢類はよく寝てるから、またきっといい夢見られるよ。あ、あたし授業行くね。じゃあね!』

つくしは類に向かって手をふると、扉の向こう側へと消えていった。
つくしの姿が見えなくなると、類は小さくつぶやいた。

『あんたを抱く夢を見たなんて・・言えるわけない・・よな・・。』

類は遠い目で空を見上げ、そして静かに目を閉じた。

≪もう一度あんたを抱きたいんだ・・夢でもいいから≫ 

類は深い眠りへと落ちていった。望むものをその手に抱く為に―






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