告げられた気持ち
花沢類×牧野つくし


沈黙が続いていた。
類の唇の濡れた音だけが聞こえてくる。
卑猥という言葉の酔いがこみ上げそうになり、つくしは頭をふる。
どうかしてる。
花沢類にこんな感覚を抱く自分に心が焦る。

「私が聞く理由じゃないかもしれないよね。けど」

沈黙の前からの問いをもう一度ぶつけてみると、そむけていた顔を類が僅かに傾ける。

「チョコレート、食べない?」

澄んだ瞳がつくしを見つめ、つくしは彼に魅せられていた気持ちを恥らう思いで視線から逃れた。

「いらない」

断る先で、類の指がまたひとつ艶やかな菓子を摘む。

「怖い顔してないで食べたらいいのに」

菓子を溶かす舌先の音が再び鳴り、類がたてる微かな音に体が敏感に反応していく。

「パリに行っちゃうの?」
「たぶんね」
「…たぶん?」
「牧野が行かないでって言えば、行かない」

微笑む類の甘さはまるで天使のようだ。女心を絡めとる魅惑に満ちている。
意図して私を試してるのだろうか。つくしは困惑を隠せない。

「私がそんなこと言えるわけないでしょ」
「言いたくても言えない?」
「ふざけるのはやめてよ、花沢類。私たち、友達だよね?」
「今はね」
「今は?」

からかいながら、類はつくしの感情を絡めとっていく。

「――花沢類は、道明寺を裏切れないよ。絶対」

最後の切り札でつくしは先手を打った。

道明寺がNYに行って二年、これまでずっと彼は支えでいてくれた。
親友のように兄のようにつくしのそばにいてくれた。
つくしは類を信頼していたし、自分たちの間にそれ以上の感情が芽生えることは
ないと安心もしていた。
お互いがお互いを求めることはないと自信があった。
しかし、類はいま明らかに二人の安全地帯を壊そうとしている。

「理由が知りたいの?俺がパリに行こうとしてる理由」
「…うん」
「どうしても?」
「花沢類…?」
「知ったら引き返せなくても?」

引き返せない。類の問いにつくしの警戒心が高まる。

「私…帰る」
「牧野が逃げるなら俺はここにいるよ?」

強い口調だった。

「俺はここにいて、君を見ていることにする。一人でいる牧野も、司と並ぶ牧野も」

君を、ずっと見ている。
優しさと辛辣さ、狂気なまでに静かな愛がそこに横たわるのを感じ取り、つくしは竦み上がる。
彼から逃れられない。そう知るしかなかった。

「パリへ行こうとしたのは、静に呼ばれたからだよ」
「…静さんに…?」

喉がカラカラに乾いてつくしは思うように声が出ない。

「もう一度、やりなおしたいって。言われた」
「…行くつもりになったなら、それでいいじゃない…」

彼が静さんと寄りを戻す、聞いただけで気分が悪くなりそうだった。
それを無視してでも、つくしはここから離れたかった。

「でも、やりなおせないと思ったんだ…」
「…花沢類…」
「やりなおせるかな、自分にそう問い掛けたら、はっきりとわかってしまったんだ。
牧野が好きだって」
「…やめて」
「だからパリに行こうと思った。牧野を苦しめるとわかっていたから、
もう離れるしかないと思ったんだよ」

「やめてよ!」

耳をふさいで類の部屋を出ていくつくしを、ベッドから降りた類が追いかける。
廊下に出たところでつくしの腕をつかまえると、不審な顔をする使用人を前に
抵抗する体を抱えこんだ。

「逃げないで!ちゃんと俺を見て。もう逃げたら駄目だ、牧野。
これ以上は誤魔化せない、お互いに。そうだろ?」
「…駄目っ」

類の腕の中でつくしが身をよじる。

「牧野もわかってるはずだよ」
「でも、裏切れない…っ!」

顔をそらせて叫ぶつくしの頬を類が片手で上向かせた。

「俺は、牧野が欲しい。誰を裏切ってても、君を手に入れるよ。決めたんだ」
「…いやっ!花沢類」

類の真剣な瞳が焦れたようにつくしを見つめ、脅えるつくしの瞳へ、心をこめて問い返した。

「ほんとうに、いや?俺に抱かれたくない…?」

告げられたつくしが唇をかんでうなづくと、類はつくしの強情さに溜息をもらす。

「…それは、嘘だね」

つくしの唇に、類は強引に自分の唇を重ねた。
驚いて身動きができずにいる使用人のことも意に介さず、類は、唇をふさいだまま
つくしの体を抱きかかえ自分の部屋に入ると、引き返せないドアを後ろ手に閉めて――その腕につくしを抱きしめた。

類の強引なキスはつくしの強情を容易く押し流していく。
抵抗する力が抜けてゆくつくしの様子を感じとって、類は深く深く、
つくしの奥へとくちづけていく。
息をつまらせて唇で喘ぎあやふやに陶酔する彼女の表情が、裏切りと未知の性への臆病さと
あいまって見えて、類の激情を駆りたたせていた。

「…くる、し…花沢…る…」

つくしの呼吸が楽になるように、深いキスから唇を噛むキスへと、類は交互に繰り返す。

ビタースィートの味が残る、苦く甘いそのキスは、つくしの感情を翻弄していった。
恐れも不安も、離れている恋人を裏切る罪悪感も、類から注がれる甘い愛の水に溶かされ、流されてしまう。
類の唇の柔らかさが、つくしの首筋、肩、鎖骨へと愛撫するとき、つくしは初めて、
体が異性を求める――体感する激しい恋を知る。
初めて味わう乳房へのキスも、つくしを狂わすのに充分な刺激があった。

「…だめ、立ってられない…」

膝を崩す愛しい彼女を、類が抱きすくめる。

「ベッドに行こう…」

抱きかかえたつくしをゆっくりとベッドに降ろし、体を重ねて見つめあう。
類の愛撫に潤んだつくしの瞳を、類が食い入るように間近で見つめた。

「…引き返そうか?」

どうしても、彼女の口から言わせたい言葉があった。
自分でも限界寸前のところで、類はつくしに意地悪を言う。

「…どうして…?」

つくしの眼差に動揺が走り、類は溢れる気持ちを堪えてつくしの額に額を合わせる。

「俺に、キスして欲しい?」
「…………」

僅かにつくしがうなずいて、類を見つめる。

「…ちゃんと、言って。牧野。もっと俺が欲しい…?」

訊ねられてつくしは戸惑い、躊躇いがちに類の耳元へ唇をよせる。

「……花沢類…」
「ん…?」
「……大好き……」

つくしから初めて告げられた気持ちが、類の胸を震わせ、昂ぶらせた。

「…牧野…」
「ずっと、好き…」

首に回されたつくしの腕に頬を押しつける。
聞きたいと願っていた愛の言葉が体中を狂おしく駆け巡り、類の本能を激しく揺らす。

「…愛してる」

言葉では伝えきれない感情が溢れ、貪るように類はつくしの唇を求め、
つくしも必死で類へと答えその背にしがみつく…。






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