天使の顔した、悪魔
花沢類×牧野つくし


今日は、本当に忙しい一日だった。早い時間から準備に追われっぱなしだった。
あいつを追って大学の卒業を待たずにニューヨークへ行ったあたしと、仕事で忙しい道明寺が滞在できる日数はごく僅か。
もちろん忙しいのは仕事の関係上あいつだけだから、あたしだけ日本に残っていろんな後片付けしたっていいんだけど、あいつはこう言うんだ。
「もう一秒だって離れていられっかよ。一緒にニューヨーク戻るかんな」

だから、そんな多忙なスケジュールの中で、やっと決定した婚約会見の日だった。

会見は、F3や滋さんや桜子にも前もって知らせずに開いたので、会見後のパーティーでは、みんなから散々小突かれる結果となった。

「つくしーっ!なんでちゃんと知らせてくれないのよ〜」
「そうですよ、先輩。本当に水くさいんだから」

台風のような勢いで話しかけられる。

「ご、ごめんね…なかなか、話す機会がなくて…」
「もうっ〜っ!こんな調子で、サプライズウエディングなんかしたら、承知しないからね!」
「そうそう!結婚式は、ちゃんと前もって知らせてくださいね!」

向こうの方では、同じように道明寺がF3に捲くし立てられている。

『あいつも責められてる…』

そう思って少し笑いながら眺めていると、花沢類と目が合った。
最初は微笑んでいる花沢類の瞳。だけど、そのうち、その瞳は燃えるような熱さを宿した。
その力強さに、あたしは彼から目を逸らすことが出来なくなった。
花沢類、お願いだから、そんな熱い目で見つめないで。

あたしは、あまりの疲れから、パーティーを中座してホテルの部屋で休ませてもらうことにした。
道明寺はとても気遣ってくれて、一緒に部屋まで来てくれようとしたけど、あたしはそれを断った。

「主役が二人も抜けたら、ヘンに思われちゃうでしょ?まだ、ご挨拶終わってない人もいるんだから」

そう言って、送ろうとする道明寺の手をやんわり押し戻した。
部屋に入り、ベッドにドレスのまま倒れこむ。

「あっ〜〜〜……疲れた…」

道明寺と付き合うと決めたときから判ってはいたことだったけど、こんなに大変なのね、財閥って。
これからのことが心配だったけど、スタートは切ったんだ、進むしかない。

「ああ…眠い……」

眠りに引き込まれそうになった時、バスルームの扉が開いて、誰かが出てきた。
驚いて身を起こす。誰?!
ダウンライトの部屋からは、バスルームの扉から漏れる明かりの方が強くて、逆光になる。誰なのか、見分けがつかない。

「だ、誰?」

怖がっているように見せちゃダメ。大きな声を張り上げる。

「俺だよ、牧野」

その声は…!

「花沢類!…ど、どうして、この部屋に」
「カードキーの複製なんて、簡単なことなんだよ」

そういって、花沢類はポケットからカードキーをひらりと出して見せた。

「な、なんで、そんなこと…?」
「牧野と二人きりで話したかったからさ。今日みたいな忙しい日じゃないと、司はあんたから離れないからね」
「ふ、二人きり…?」
「そ。牧野ってば、4年待たずにさっさとニューヨークに行っちゃったから。俺、出る幕なかったじゃん」
「は?」
「今日が最後のチャンスだと思ってるよ。司のことだ、きっと間髪おかずに、あんたを『牧野つくし』から『道明寺つくし』にしちまうだろ」「花沢類…何言ってるの?」
「牧野を俺のモノにしたいんだ」

その言葉と同時に、花沢類はあたしを背中から抱きしめて、あたしの首を自分の方に向かせ、強引に唇を重ねた。

「んっっっ!!」

驚きから、一瞬身動きが取れない。でもそれは驚きからだけじゃなかった。
花沢類があたしを羽交い絞めにして抱きしめる。その力強さに抵抗できない。

「んんんんっっっっ!!」

身体をよじって逃れようとするんだけど、花沢類は腕を解いてくれなかった。
ドレスの上から胸を揉まれる。荒々しい手の動き。
やだ、花沢類っ…こんなのっ…!
心の中で叫ぶけど、それはもちろん花沢類に届くわけもなく、彼の手は更に強引さを増していく。
唇を堅く閉じて、舌の侵入を拒む。だけど、花沢類はお構いなしにあたしの唇を求め続けた。
胸の愛撫が、ゆっくりな動きに変わった。その指は、あたしの頂上を探して彷徨う。
丁度、その場所を突き止められたとき、不覚にもあたしの唇は声を漏らした。

「んっ……っ」

花沢類は、指をそこから移動させずに、あたしの頂上を攻め続けた。
油断しちゃだめと思うのに、指の動きがあたしを狂わせる。
開かないと誓った唇は、あっさりと花沢類の舌を受け入れてしまった。

「んっ…んんんんっ…」

花沢類の舌が、あたしの中を蹂躙する。舌同士を絡めあって、弄ぶ。
すかさず花沢類の手が、あたしのドレスのスカートの中に入ってくる。
冗談っ…!何考えてるの、花沢類!

「んんんっ〜〜〜っっ…」

花沢類の腕を掴んで、そこから引き離そうとするんだけど、花沢類の腕は言うことを聞いてくれない。
そのまま、下着の中へと進んでいく、指。

それ以上進むとっ…!!

抵抗も空しく、指が、あたしのクレバスに埋まる。
花沢類は気付いてしまった。あたしがもう十分に潤っていることに。

「牧野、こんなになってる」

花沢類は唇を離すと、あたしの耳元で囁いた。

「俺に半ば無理やりヤられてるのに…牧野も、俺としたかったんでしょ?さっき、俺の視線から目を逸らさなかったもんね」

花沢類が、あたしの耳朶を軽く噛む。

「やっ…なに、考えてるのっ!…はなざわるっ……んんんっ…」

反抗の途中で、花沢類はあたしの蕾に触れた。

「感じてるんだ…やっぱ牧野は可愛いね…このまま司だけのものになんかさせないよ」

花沢類はあたしの腰から下着を力ずくで降ろし始める。

「ちょっと、やだ、何をっ…!」

片足だけを抜き取って、花沢類はあたしの正面に廻った。
隙を見てベッドから這い降りようとしたあたしの足首を両手で掴んで、ぐりんと持ち上げられ、そのまま大きく足を開かせられる。
やだっ!…花沢類の目の前にっっっ!
花沢類は立ち膝で、目の前に開かれたあたしの秘部に顔を埋めた。

「やっっ…ああっ…やだっ…んんんっ…!」

花沢類の舌が、あたしの蕾の上を這う。

「ああああんんんっ……だめっ…いや…花沢類っ…」

腰をよじって舌から逃れようとしたけど、それがより一層、花沢類の舌の動きを増長させていく。
感じてやるもんか、こんな無理やりだなんて、冗談じゃないっ!
そう思うのとは正反対に、どんどん潤いを増していくのが判った。

「牧野…」

花沢類が仰向けのあたしをごろんと回転させて、うつ伏せにさせた。
後ろから腰を持ち上げられ、両手で身体を支える。こ、このスタイルは、まさかっ…!
逃げたいけど、腰を押さえ込まれている。最後まではイヤっ…!

「やだ、やめて、花沢類っ…!」

背後から、ベルトを外してジッパーを降ろす金属音が聞こえた。

「牧野、もう、諦めて…」

そう言って、花沢類はあたしの中に一気に入ってきた。

喘ぎ声なんて出してたまるもんか。そう思ったのに。

「………っっ!!!」

挿入された瞬間、道明寺との違いに思わず声を出しそうになった。
入れられただけなのに、どうしてこんなに痺れるような快感が?

「どう?司とは違う?」

見透かしたように訊く花沢類。

「やだ…こんなのっ…花沢類っ…」
「嫌?そうかな…じゃ、どうして動いてないのに、中がヒクヒクしてるの?」
「………っ!」
「嘘つきだね、牧野」

そういうと、花沢類はあたしの腰を掴んで、後ろから打ちつけ始めた。

「っ…っ…っ…っ…!!」

声が、出口を求めて渦巻いている。でも喉は声をだすまいと必死で閉ざす。
花沢類の腰の動きが加速する。ああっ…どうしてそんな動きっ…っ!

「まきの、声出さないつもり?…感じてない振りなんて、正直じゃないよ」
「…やっ…花沢類っ…っ…やめてっ…」
「やだよ、牧野をイかせるまでは、やめない」

花沢類の動きが、いつもの道明寺との違いをあからさまにしていく。
こんな動きで突かれたのは、初めて。
必死で理性を保って、声を出さないようにしているのに、花沢類の動きは、その理性を剥がしにかかる。
とうとう、あたしの喉は限界を超えた。

「………ぁっ…」

小さく喘ぐ声を、花沢類は聞き逃さなかった。

「…やっと声が聴けた…牧野、もっと聴かせて」

花沢類は、入れたままあたしをうつ伏せにして、足を片方ずつ回転させて、今度はあたしを仰向けにした。

「牧野の顔を見たいからね…」
「んっ…やだっ…花沢類っ…」
「ついでに、そのフルネーム、もうやめなよ。名前で呼んで」
「そんなっ…急にっ…」
「司としてるとき、司のコトは何て呼ぶわけ?…名前で呼んでるなら、俺のコトも『類』って呼んでよ」

花沢類の顔に、小さな嫉妬を見た気がした。

「んっ…やっ…お願い、やめて…」
「牧野の中は、やめてって言ってないよ。絡み付いて、離れないもん」

花沢類は、再び腰を揺り動かし始めた。
急に動かれて、声を抑える準備をしていなかったあたしは、また喘ぎ声を花沢類に聞かせてしまった。

「あっん……」
「そう、もっと聴きたい…」

花沢類は、腰を動きを微妙に変えながらあたしの中を泳ぐ。
その動きは、今まで道明寺との行為ではもたらさなかった新たな快感を生んでいく。
これ以上、声を抑えるのは不可能かも。

「…花沢類っ…」

名前を呼んだ途端、花沢類は急に動きを止めた。

「牧野…名前で呼んでって、言ったよね」
「…えっ…」
「名前で呼んでくれるまで、動かないよ」

行為を止めさせる最大のチャンスだった。あたしの中では、理性と本能が闘っている。そして、ほんの少しの差で、理性が勝った。
これ以上、花沢類と、こんな乱れたこと出来ない。

「じゃ、止めて…これ以上、こんなことしないで…」
「…そう。そんな嘘つくんだ…」

花沢類は一つ呼吸を吐くと、さっきまでの動きよりももっと激しくあたしを突き始めた。

「んっ…ああぁっ…やぁっ…っ…!」
「さっきも言ったろ?…牧野をイかせるまではやめないって…」

花沢類の動きは、あたしをどんどん快楽へと導き出す。

「んんっ…あぁぁっ…ああああっ…んんっ…っ…っ…」
「そんな声出して、止めてって言えるなんて、牧野…ずるいな…」
「やっ…んっ…んんっっ…っ…」

もうすぐで、絶頂を迎えてしまう。こんな状況で、イきたくない。
そう思うんだけど、着実に階段を登っている。
ああ、もうすぐ、もう…あたしっ…。

「ああぁっ…ダメ、…花沢類っ!…」

再度、花沢類の名前を呼ぶと、さっきと同じように動きを止めた。

「名前で呼んでってば、…ほら、牧野」

そういうと、今度はゆっくりと中を掻き回される。
一度、もう少しで登り詰めようとした身体が、さっきまでの激しさを欲する。
このゆっくりな動きが、あたしの欲望を更に刺激する。

「牧野…?イきたくないの…?」

緩慢な動き。動かれるほどに、あたしの中が焦れる。
早く、早くイきたい…っ…っ…!もっと、欲しい…っ!

「…るいッ……イかせてっ…っ…!!」
「…やっと、正直になったね…うん、一緒にいこう」

花沢類が、さっきと同様に激しく動く。すぐそこに、絶頂が来てる。もう、もうすぐっ…っ!

「牧野、中、出すよ…」
「ああッ…ダメ、中はっ…ダメっ…」
「そんなこと言っても、もう、遅いっ……」
「あぁっ、だめっ、あぁっ、ああっ、あっ、あっ………類っっっ!!!!」
「牧野っ…っ!!」

あたしと花沢類は、同時に名前を呼び合って、階段を登り切る。
あたしは、花沢類があたしの中へ全てを注ぎ込むのを、止めることが出来なかった。

「司が戻ってくるとまずいからね」

花沢類は、行為が終わると息を整える暇もなく、タキシードに手を通し始めた。
あたしは、中に注がれた花沢類の欲望を、シーツに零さないように、必死でこらえていた。

「今度帰ってきたときも、しようね。あ、それとも俺がニューヨーク行こうかな」

花沢類は、意地悪な微笑みをあたしに見せた。

「じょ、冗談っ…するわけないでしょ!」
「また嘘つくの?ま、でも牧野の身体は正直だから、身体に訊くから、いいか」

あたしは、花沢類に向かって枕を投げつけた。

「早く出てって!」

花沢類は、昔と変わらずに、くくっと笑った。

「あ、それから」
「?」
「牧野にしるし、付けたから。足の付け根んとこ。司とは暫く出来ないよ」
「!!」
「ヤらせない言い訳、考えておいた方がいいよ、牧野」

あたしは、そう言って部屋を出て行く花沢類を呆然と見送った。
………この、天使の顔した、悪魔めっっっ!!






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