太陽と月
花沢類×牧野つくし


―――――道明寺が太陽なら、花沢類は月―――――

今頃になって、あたしの心は揺らいでいる・・・・

道明寺がNYに行ってからもあたしは相変わらずの生活を
続けていた。寂しくないと言えば嘘になるけど、4年頑張ったら
また道明寺と一緒にいられる。そう、思っていた。

だけど・・・ 道明寺財閥の子息と言う立場を周りは放って
おかない。メディアでは引っ切り無しに面白可笑しく
浮いた噂を立てまくる。
嘘だと分かっていても、こうも毎日じゃ気が滅入る・・
道明寺の声が聞きたい。
例え一分しか一緒に居られなくてもいい。道明寺に・・・逢いたい。

「・・・さん。牧野さん! オーダー上がったよ!早く運んで。」
「あっ、はーい。」

いっけない。今はバイト中だった。余計な事
考えないようにしなくちゃ。

「牧野!」

F3は交代でたまにあたしのバイト先に様子を見に来る。
今日は花沢類の番らしい。
何でも、道明寺から、あたしに悪い虫が付かないように見張りを
頼まれたみたい。そんなに心配ならNYから自分が来いっての。

「牧野、今日はバイト何時に終わるの?」花沢類が聞く。
「う〜んとね、今日はもうすぐ上がりだけど。」
「じゃ、送ってくよ。」
「えっ。い、いいよ。遅くなっちゃうし、あたしなら大丈夫だから。」
「だから、だろ。夜道の女の子の一人歩きは危ないからね。それにさ、
牧野に何かあったら俺が司に殺されかねない。」

くくっと花沢類が喉をならして笑う。

「分かった。じゃ、お言葉に甘えて、送ってもらおうかな。」
「決まりだね。車、回してくるよ。」

結局、あたしは花沢類に家まで送ってもらう事になった。

「8回目・・・」

運転席で花沢類が呟いた。

「8回目って何が・・・?」
「牧野、自分で気が付いてないの? ため息だよ。車に乗ってから
8回も。俺といるのそんなに退屈?」
「ち、違うの。嫌な思いさせてごめんなさい・・・。ちょっと、
考え事してて・・・。」
「・・・司の事? 連絡ないの?」

花沢類の問いに、あたしは答えられなかった。

「牧野・・・?」
「や、やだなぁ・・・。花沢類には隠し事出来ないね。そうなの、
あいつってば、電話一本よこさないんだよ。こんな、可愛い彼女
放っておいて・・・」

あたしは、そう言うのが精一杯だった。駄目だ・・・
泣きそう・・。

「牧野、ごめん・・・。俺、余計な事言っちゃったかな。」
「ち、違うよ。花沢類のせいじゃないってば。ごめん、なんか
愚痴っちゃって・・・。あ、でもこれでちょっと、スッキリ
した。あいつが帰ってきたら一発くらい殴ってやらなきゃね。」
「くくくっ。牧野らしいや。司、気の毒に。」

・・・やばかった。あたし、もう少しで花沢類に泣き顔を見せるとこだった。
でも、あたしが泣ける場所は一つ。道明寺の胸でだけ。そう決めている。
ええい。しっかりしろ、つくし!これくらいの事で泣くなんて、
あたしらしくない。

「牧野、明日バイトは?」
「明日は休み取ったんだ。大学も休みだしあたしだって、たまには休養しなきゃ
倒れちゃう・・・。」
「くくっ。そんなに頑丈なのに?」
「あ? なんか言った?花沢類!」
「いや、別に・・・?くくっ」

何よ?その笑いは・・・

「休みならちょうどよかった、ちょっと位、遅くなっても
平気だよね?ドライブしようよ。気分転換にね。」

花沢類は何かとあたしを気遣ってくれる。けれど、こんな時間から
花沢類とドライブするなんてあいつが知ったら・・・。

「ううん。やめとく。何だか、疲れちゃったし。」
「まぁ、そんな事言わずにさ。」

花沢類は、強引にルートを変える。

「ちょっと、花沢類!」
「たまには俺にも付き合ってよ。ね?」

この笑顔にはかなわない・・・あたしは断るタイミングを
逃してしまった。

「分かった。でも、ちょっとだけだよ?」
「うん。わかってるよ。」

花沢類の、運転の腕は随分上達している。最初、西門さんと
車に乗せられた時は、散々な目にあったっけ・・・。
思い出すとおかしくて、笑いがこぼれる。

「何笑ってんの?牧野。」
「何でもない。」

そう言いつつも花沢類の顔を見ると、また
あの時の事を思い出して、笑いが止まらなくなった。
何がそんなにおかしいのかわからず、花沢類はいぶかしげな
顔をしてあたしを見ている。

「ちょっとは、元気になれたみたいだね。」
「うん。ありがとう。花沢類」
「どこ行くの?」
「さあ・・・? 牧野と二人きりになれる所ならどこへでも」
「は、花沢類、悪い冗談やめてよね」
「なーんてね。本気にした?牧野?」
「もうっ!驚かせないでよ!」
「ごめん。だってさ、牧野見てると青くなったり
赤くなったり、信号みたいで面白くてさ。くくくっ。」
「花沢類っ!あんたねぇ・・・」
「うわっ。やめろ、牧野!今は運転中なんだからさ。明日の
新聞記事に、牧野と二人で載んのはごめんだからね、俺。」

・・・そんなの、あたしだってごめんだ・・・・

「花沢類・・・」
「ん?」
「ありがと。」

いつもそうだ。この人はあたしが辛い時必ずそばにいて
手を差し伸べてくれる。
今までの沈んだ気持ちが一気に軽くなったような気がした。

「おい、牧野・・・・?」

なんだか、花沢類の声が遠くに聞こえる。
ホッとした気持ちと、この所の寝不足に加え車の中で流れる
BGMが、眠気を誘う。

「もう駄目・・・」 

「ね、牧野・・・司の事だけど・・・」

話しかけても返事はない。ふと助手席を見ると、気持ちよさそうな
顔をして牧野は眠っていた。
いくら友達とは言え、この狭い空間で、しかも男と二人きりの
この状況でよく寝れるよな。
無防備な顔をして眠る牧野を見て苦笑する。

「さてと、どこへ行こうかな。」

牧野と二人きりになれる場所ならどこでも・・・
さっき、牧野に言った事はあながち冗談じゃないんだけど。

「もしもし・・・こんな時間から悪いんだけど・・・」 

タイムリミットは72時間・・・
俺は2本の電話を入れると、ハイウェイに乗った。


暗がりの中でパチパチと何かがはじける音がする。
オレンジ色の炎に浮かぶ人影、その炎が照らし出す顔は・・・
花沢類・・・

はっ!やだ、あたしあのまま寝ちゃったんだ・・・。てゆうか、
ここどこよっ!?

「は、花沢類。」
「起きたの?牧野。」
「うん。じゃなくって、ここどこ?」
「俺んちの別荘・・・」
「べ、別荘って・・・」
「だって、牧野何回起こしても起きないし
別に家でもよかったんだけど、誰にも邪魔されたくなかったからさ。」
「邪魔って・・・花沢類、あんた何考えてんのよ!」
「牧野・・・悪いけどその話はまた後にしてくれない?・・
俺もう、眠くて限界・・・あんたの部屋は、二階の角部屋だから・・・」

そう言うとドアを閉めて出て行った。
カーテンを少し開け、外を見るとうっすらと雪が積もっている。

時計は午前四時を指そうとしていた・・・・・。


         ―――――――――― NY ―――――――――――

社長、お電話が入っております。

「今会議中だ、そう伝えろ。」
「それが、花沢様と仰る方で火急の用件があるのでどうしても取り次いで
欲しいと・・・」
「類が・・・?わかった。繋いでくれ」
「よお、久しぶりだな。わりぃけど今会議中だ。手短に頼む」
「あ?てめぇ、何ふざけた事抜かしてんだよ!」
「おい、待てよ!」

冗談じゃねぇ! 日本時間じゃ今は真夜中だ。
こんな時間に、類と牧野が二人で一緒にいる?
そう思っただけで体中の神経がざわめく。俺がなんの為に
ここにいる?全部あいつの為じゃねぇか。むざむざ類に
牧野を渡してたまるかよ・・・。
会議は中止だ。専用機を用意してくれ。

「お待ちください!社長!どちらへ・・・・」 
「うるせぇ、手を離せ。日本へ帰るんだよ!」

俺は慌てて会議室を出た。・・・周りがやけに、騒がしいな・・・

「た、大変です!!」
「何事だ。騒がしい」
「申し訳ありません。そ、それが・・・新プロジェクトの偵察に向かった
わが社のヘリが・・・消息を絶ったと、今連絡が・・・」
「社長・・・!」


あの時俺は2本の電話を入れた。一本はここの管理人。
そして、もう一本は・・・司に。

電話の向こうの司は、思ったより元気そうだった。

「司・・・俺今、牧野と一緒にいるんだ。 そうじゃない。
寝てる牧野を俺が無理に連れ出した。あいつ、辛そうな顔で、無理して
笑うんだ・・・痛々しすぎてもう見ていられないんだよ・・・
どこにいるかなんて、言えるわけないだろ?自分で探し当てろ。
タイムリミットは今から72時間。仕事を一つ終えて来るにしても
充分な時間だろ?これ以上、牧野を泣かせるような真似したら・・・
―――――――牧野は俺がもらう 」

それだけ言うと俺は電話を切った。
司は来るだろうか・・・いや、あいつの事だ。
牧野の為なら、必ず来る。そうだろう? 司・・・

花沢類がリビングを出て行ってからも、あたしはそこを
離れられず、暫くソファーに座って暖炉の炎を眺めていた・・・
道明寺・・・今頃何してるの・・・? 
あたし・・・寂しいよ・・道明寺・・・せめて、声を聴かせて・・
大丈夫だ。心配すんなって・・それだけであたしは・・・・・
――――――道明寺

「・・・・きの・・・牧野・・・」

誰かがあたしを呼ぶ声がする

「う・・ん・・・」
「牧野・・・起きて・・・」
「・・・ん・・・ いっけない、あたしまた寝ちゃったんだ。」

すぐ目の前に花沢類の顔・・・

「うわっ! びっくりしたぁ・・・」
「ぷくくっ・・・牧野、口開いてた・・・」
「う、うそっ!?ほんとに!?」
「・・・嘘。くくっ」
・・・この男だきゃぁ・・・

「それより、今何時?あたし今日中に帰らなきゃ・・・!」
「うん、俺もそう思ったんだけど・・・外があの状態じゃ・・・」

花沢類が指差した向こうは・・・猛吹雪・・・・

「なっ、何で!?」
「やばいな〜。これじゃ帰れないわ。俺の車、スタッドレス
履いてないし・・・」
「ど、ど、どうすんのよっ!?」
「どうするって・・・予報じゃ2,3日止みそうにないって言ってるし
泊まるしかないでしょ。いやぁ、実はさここに来る途中も
道路がかなり凍結してて、何回もガードレールにぶつかりかけたんだよね」

・・・あんたって奴はどうしてそうゆう恐ろしい事をしれっと・・・

「あのさ、花沢類一つ聞きたいんだけど・・・?」

あたしはここに来て、感じていた疑問をぶつけてみた。

「なに?牧野」
「寒いの苦手な筈の花沢類がどうして、こんな寒いところに
来ちゃった訳?」
「知りたい?」
「知りたい」
「どうしても?」
「どうしても」
「怒んないでね?」
「いいから早くっ!」
「かくれんぼ」
「はぁっ!?」

・・・やっぱり金持ちのやる事は理解できない・・・

「そんなくだらない事にあたしを巻き込んだわけ!?」
「まぁ・・・ね。多分、俺の負けだろうけど・・・
でも・・・見つけて欲しくないんだ 」

そう言って少し悲しそうな顔で微笑んだ花沢類の真意が
何処にあるのか、その時あたしはまだ知らなかった――――

「それよりもさ、牧野・・・お腹すかない?」

そう言われてみれば・・・

「あ、あたし何か作るね? って・・・冷蔵庫の中には何にもないよね・・・」
「あぁ、それなら昨日揃えてもらったから大丈夫だよ。途中でコンビニ?って
とこにも寄って牧野の好きそうなお菓子とか買っといた。」

花沢類が、コンビニ・・・!? コンビニの袋がおよそ似つかわしくない
花沢類を想像したら、笑いがこみ上げた。

「・・・でもちょっと待ってよ・・・?揃えてあるって事は・・・、
花沢類・・・!!あんたまさか、最初からそのつもりでっ!!?」
「は?何のこと?」

顔色一つ変えず、そう言い放つ花沢類。

〜〜〜〜〜〜〜この確信犯がっ!!

食事を済ませ片付けを終えても、外に出ることもかなわずボーっと
しているあたしに花沢類が声を掛けた。

「 牧野 」
「うん?」
「風呂入らない?温泉あるんだ。」
「温泉?」
「そ。温泉。一緒に入る?」
「うん。」
「マジで!?牧野、意外と積極的だな・・・。」
「あ?え!?ち、ち、違うの!今のは間違い。ちょっと、ボーッと
してた・・・あたし一人で入るからいいっ!」
「ちぇー。残念 一回、大河原だっけ?あいつの別荘で裸見てんだし
俺は全然かまわないのに。」

・・・・あんたがかまわなくてもあたしはかまうのよっ!

花沢類の別荘のお風呂は全面ガラス張りで、外にも露天風呂がある
立派なものだった。
いくら、敷地内といえ全面ガラス張りって・・・
ガラスの向こうの雪を見ていたら、あの日の事を思い出す。
カナダのスキー場で浅井達に騙されて雪の中に飛び出して・・・
酷い目にあって、でもあいつが助けに来てくれたっけ。

道明寺・・・

あぁっ!もうっ!やめやめ!!これ以上あいつの事考えるのよそう
それより、いつ帰れるんだろ。雪が止まないって事は、その間
ここで花沢類とずっと二人で・・・二人!? 
今まで深く考えなかったけど、これってとってもヤバくない・・・? 
いや、ほらでも滋さんの別荘でも一緒に眠ったけど何もなかった
訳だし・・・ そうよ、つくし!ここは深く考えちゃ駄目なのよ!
それに、こんな所まできたホントの理由を聞かなくちゃっ!
あたしは勢いよくお風呂から上がると花沢類のいる部屋へ向かった。

「・・・花沢類!!」
・・・寝てる・・・ほんとよく寝る人だな・・・・
「こんな所で寝てると風邪引くよ・・・花沢類・・・?」

花沢類の寝顔見るのは初めてじゃないけどこうして見ると
スゴク綺麗な顔してる。眠れる森の王子様みたいだ・・・
それに、瞳と同じ薄茶色の髪の毛はサラサラで・・・

――――――― 触ってみたい ――――――

ハッ!!あたし今、何考えた!? 駄目だってばっ!
でも・・・触ってみたい・・・
そっと、花沢類の髪に手を伸ばしてみる。

ドクン ドクン 高鳴る心臓――― ピチャン・・・

そう・・・ピチャン・・・え?うげっ。濡れた髪の雫が花沢類の顔にっ!!

「冷たっ!」
「ご、ご、ごめん。起こすつもりはなかったんだけど・・・あの・・・
こんな所で寝てると風邪ひくよ?お風呂空いたから・・・その・・・」

駄目だ・・・あたし、何かいけない事したみたいで花沢類の顔がまともに
見れない・・・

「あぁ、さんきゅ。」

花沢類が起き上がった瞬間、花沢類の唇が、あたしの唇に触れた。
羽のように軽いキス・・・・・
何?今の!?

その夜、あたしは胸のドキドキが治まらなくてなかなか眠れなかった。

翌朝、朝早く目を覚ましたあたしは、早々と朝食の用意に取り掛かった。
目を覚ましたとゆうよりはほとんど眠れなかったのだけれど
じっとしていると昨日の出来事が頭をよぎってしまう。
まだ、花沢類の唇の感触が残っている気がして指でそっとなぞってみる

どうしてあんな事・・・花沢類・・・・・

「ん?呼んだ?」
「ひゃぁっ!び、びっくりした。もう起きたの?あ、そうだ。

朝食、出来てるよ? 洋食と和食どっちがいいかわかんなかったから
両方用意しといた。 それにしても、雪なかなか止まないね。」

「 わかりやす 」
「な、なにが?」
「緊張するとよく喋る。もしかして、昨日のキスの事気にしてんの?くくっ」

やっぱり、あれはわざと・・・っ!

〜〜〜花沢類ぃぃぃぃっ〜〜〜


―――――再びNY―――――


「お待ちください!社長!どちらへ・・・・」 
「うるせぇ、手を離せ。日本へ帰るんだよ!」

俺は慌てて会議室を出た。・・・周りがやけに、騒がしいな・・・

「た、大変です!!」
「何事だ。騒がしい」
「申し訳ありません。そ、それが・・・新プロジェクトの建設予定地偵察に向かった
わが社のヘリが・・・消息を絶ったと、今連絡が・・・」
「社長・・・!」
「うるせー!俺は日本に帰る。」
「お待ちください!あなたはもう学生ではないのですよ。何千何万もの社員の運命が
あなたの肩にかかっているのです。よくお考え下さい。」

秘書が強めの口調で俺にそう言い放った。
社員の運命・・・?んなもん今まで考えた事もなかった。俺はただ
牧野と一緒にいる為だけにがむしゃらに頑張ってきた。それこそ、
牧野にも、F3のメンバーにも連絡も取らずに、だ。
それを、会社の運命と引き換えにしろと・・・?
そんなもんより牧野のほうが何万倍も大事に決まってる。

牧野、牧野、牧野――――

「社長!どうか御指示を・・・!」
「くそっ!」

俺はこんな時にも何もしてやれないのか・・・

「・・・を離せ・・・」
「は・・・?」
「手を離せっつってんだよ!これから現地へ向かう。手配しろ・・・」
「それとおまえには、調べて欲しい事がある。24時間以内にだ。それが
出来なけりゃおまえは首だ。分かったな。」

牧野、待ってろ。類の好きになんて絶対させねぇ・・・!!

夜になって、あたしは部屋へもどってすぐにベッドに潜り込んだ。
広々としたこの部屋で一人で眠るのは寂しすぎて・・・
隣に道明寺がいてくれたら・・・そんな事ばかりを考えてしまう。

「ふっ・・・うっ・・・ど・・みょ・・じ・・・」

泣いちゃ駄目。花沢類に気付かれたくない・・・。
そう思いつつも、涙は留まる所を知らず、あたしは声を押し殺して
泣き続けた。

・・・・コンコン。ドアをノックする音がする。

「まだ起きてる・・・?牧野・・・?」
「は、はい。ちょっと待って・・・」

あ〜!あたしの馬鹿!なんで返事しちゃうのよっ!
とにかく、泣いていた事を花沢類には気付かれないようにしなくちゃ・・。
涙を拭い、前髪を指で下ろしながらドアを開ける。
瞬間、あたしは花沢類の腕に強く抱かれた。・・・花沢類・・・?

「花沢類・・・なんの冗談?」
「牧野・・・」 いつもと違う様子にあたしはたじろぐ。

「もう遅いし、あたし、もう寝るから!」 無理にドアを閉めようとしたけど
花沢類の力にかなう筈もなく・・・。花沢類は強引に部屋の中に
押し入ってきた。パタンとドアの閉まる音がする

「やだ、花沢類・・・こんな冗談笑えないってば。」
「冗談でこんな事、すると思う? 俺が出て行ったら、牧野はまた独りで
泣くんだろ? そんな事はさせないよ。」
「俺、いつか牧野に言ったよね?好きだって。 司だって俺の牧野に
対する気持ちは知っている筈なのに、牧野のお目付け役を頼むなんてね。
司にしてみれば、そうやって俺に釘を刺したつもりなんだろうけど、
好きな女が泣くのを、知らないフリして見過ごすような男じゃないからね。
俺は。」
「牧野、あんたも残酷だよ。いつまで俺をあんたの寂しさを紛らわす為の
都合のいい男にしとくつもり?」

花沢類の突然の言葉に、あたしは何も言い返せなかった・・・。

「都合のいい男」 そんなつもりはなかった。ただ、花沢類といると
穏やかな気持ちになれて、とても居心地がよかった。
だまって一緒にいてくれるこの人を、そんなに傷つけていたなんて
あたしは思いもしなかった。

「ご、ごめんなさ・・・」

そう言い掛けたあたしの言葉を遮るように 花沢類は続ける。

「俺は、あんたに謝ってもらいたいんじゃないよ。」
「何で、司なの?いつだって牧野の傍にいるのは俺なのに・・・
あんたに寂しい想いばかりさせている司の為に泣くのを、俺は
もう見ていられない。」

「違う、道明寺は悪くない。これは、あたしが決めた事なの。
だから・・・道明寺の事、悪く言わないで!」
「じゃあ、なんでそんな辛そうな顔してるの?何で、俺にそんな顔見せるの?
そんな顔を見せられて、俺が、牧野を放っておける筈ないだろ。」
無理に笑ってるあたしを・・・このひとは気づいていた・・・。

花沢類の奪うような強引なキス。
道明寺とは違う唇。今まで味わった事のないような官能があたしを襲う

「あ・・・んっ・・・ふっ・・・」

―――――流される―――――

「嫌だ。やめてっ!」

バシッ!! 花沢類の頬が鳴る。

「ご・・・ごめ・・・」

それ以上は言葉にならない・・・

「くす。随分、手荒だね。牧野は、嫌だって言ったけど、
唇はそうじゃなかったよ?俺は、牧野の言葉と唇、どっちを信じればいいの?」






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