素直になろう
花沢類×牧野つくし


今年こそいい年になりますように。あたしは誰も居ない神社で手を合わせた。
去年の春、NYに行った道明寺は夏休みにも、正月にも帰ってこない。

「四年後に迎えに来る」って、「四年後にしか帰らない」って事だったわけ?

あたしはまるでやつあたりのように、乱暴に鈴を鳴らした。

「・・・・ねえ、着物姿でそうゆうの、やめといた方がいいんじゃない?」

聞き覚えのある声に振り向くと、手触りのよさそうなコートを着た花沢類が立っている。

「・・・なんで、こんなとこにいるの?っていうか、花沢類が初詣って、なんかすっごい違和感ある。」

小雪の舞う神社にたたずむ花沢類は、赤くなった指先を吐息で温める。

「あんたが着物着てることのほうが、よっぽど違和感あるけど?なんかの仮装?」

いちおう振袖着てるのに、仮装ってどーゆうことよっ!

「お母さんのお古!喫茶店のバイトで着物着て来いって・・・ちょっと、何笑ってんのよっ!?」

花沢類は、我慢できないとばかりに大笑いする。

「あんたって、ホントいつも働いてるよね・・・。それって自分で着たの?」
「あったり前じゃん!着付けなんてしてもらったらいくらかかると思ってんの?」

そう言って胸を張るあたしの顔を花沢類はしげしげと眺めた。

「・・ふうん。さっきまであきらんちで新年会してて、帰り道にこの前の道車で通ってたらあんたがこの神社に入ってくのが
 見えたからさ。・・・あんた、今から暇?」

特に予定はないけど、窮屈な着物を早く脱ぎたいし、おなかも空いてるし・・。
花沢類と会うのは久しぶりだから話したいけど・・・。

「う〜ん、今日はやめとく。着物、早く脱ぎたいし。」

その言葉をどう誤解したのか、花沢類はあたしの手を取って歩き出した。

「うん、いいよ。行こ?」

へ?行くってどこへ?

「・・・ねえ、すっごい美味しい・・んだけど、高いんじゃない、このお店?」

牧野が心配そうに料亭の個室を見渡す。

「あんたに払えなんて言わないから、安心しな。・・・ほら、早く食わないと肉硬くなるよ。」

牧野はあわてて鍋から牛肉を掬い出す。

「ごちそうになんて、なれないよっ!あたし、道明寺とだって基本的には割り勘だよ?
 うわっ・・・・・美味っしい〜。
 こんな柔らかいお肉初めて食べた・・。このお酒も美味しいね。なんていうお酒?」

俺は答えずに牧野の猪口に酒を足した。・・・・もうちょっとかな・・自分は飲まずに牧野を見つめる。

「代わりに別のモンご馳走になるから、気にしないで食いな。・・・・・うん、いい飲みっぷりだね。」

バイトで疲れてる上に、腹減ってるとこに飲んじゃだめだよ、牧野・・・・俺の前以外じゃね。
目の周りがほんのりと赤くなってきた牧野に、俺はさらに酒を注ぎ足す。
これはね、「鬼殺し」って言うんだよ、牧野。

そっとベッドに下ろされた牧野が薄く目を開ける。

「ここは・・・あれ、花沢類・・?あたし、なんで・・?」

まだぼんやりとしている牧野のふっくらとした唇をキスでふさいだ。

「んんっ・・?」

牧野が軽く身じろぎする。俺は牧野の耳元にキスを落とすと、着物を着るためにあらわになったうなじを指で撫でる。
後れ毛が幾筋か残る細い首筋は真っ白で、俺は襟元を開きながら唇をはわせた。
硬く縛られた紐を一本ずつほどいていく。

「や・・花沢類、だめ・・・。」

酔った牧野が、かすれた声で俺を止める。
その声に甘さが混じっていると信じて俺は手を進めて行く。
薄桃色の襦袢の下には、雪のように白い牧野の肌が眠っていた。
乱れた和服って、なんでこう色っぽいのかな。
牧野から立ち上る石鹸の香りをゆっくりと味わいながら、小さな双丘を手で包む。
ピンク色の柔らかな頂を口に含むと、牧野が息を吸い込むのが分かった。

「・・・・あっ!・・・だめ、やめて・・。」

牧野が、苦しげに眉を寄せる。
俺は身体を起こすと、牧野の上に覆いかぶさるように、顔を近づける。

「牧野・・・俺さ、さっきあんたと会う前に、あきらたちと別の神社で初詣してたんだ。
 そこで、初めておみくじっていうの引いてみたらさ・・・アドバイスみたいなの書いてあったんだ。
 『欲するもの、強く求めよ。』ってさ。そしたらあんたが見えた。・・・・・・もう、素直になろうと思って、俺。」

牧野の手が俺の腕を止める。

「だめ・・・こんなの、あたしは道明寺と・・・。」

俺は新たなキスで、抗議を封じ込める。今はその名前、世界で一番聞きたくないよ、俺。

「司とは、もうした・・?」

俺は着物の裾をはだけながら太ももの内側を撫でる。
何度かまばたきした牧野の顔が、真っ赤になっていく。

「・・・・答えて・・?」

クロッチの脇から、牧野のクレバスに指を這わせる。
そこは少し熱を帯びてはいたが、まだ潤ってはいなかった。
牧野の耳元に口を寄せてささやく。

「司はここに、もう触れた・・?」
「あんっ!・・・・い、一回だけ・・・。」

クリトリスの周りを中指でゆっくり円を描きながら、俺は胸の中にちりちりと痛みを感じていた。

「ふうん・・いつ?あいつがNYに行く前は、まだヤってなかったよね?」

泉の奥からぬめりが溢れてくるのを感じながら、俺はクレバスの間にゆっくりと指をすべらせた。

「修学旅行で・・・ロス行ったときに・・あいつも合流して・・・あ、んんっ、だめ・・・やめて、こんなの・・・。」

酔っているせいか、いつもより緩慢な動きの牧野のショーツをずりさげると、俺は彼女の両足の間に身体を移した。
ひざの辺りに絡まる薄っぺらい布を、くわえて引き抜く。

俺は薄く丘を覆う茂みにキスしながら、両手で扉をそっと開く。
小さく震える芽の周りには、愛液が糸を引いていた。
親友が世界で一番大切にしている女を、抱く。
そのことに躊躇が無いと言ったら嘘になるけど。
俺は冷たくて柔らかな尻を持ち上げると、牧野の中心に顔を埋めて、襞と襞の間を舌先で舐め始めた。
けして、花のような香り・・とはいえない匂い。

・・・・でも、まるでケモノの雌が雄を誘うように、この匂いこそが、男を誘う。・・・・ここへ、来いと。

「あっ!だ、だめだよ、花沢類っ、そんなとこ・・・・いやっ!」

牧野がベッドにひじを立てて、身体を起こそうとする。

「司には、してもらわなかった?」

俺は舌の代わりに指を牧野に差し入れながら、訊く。
牧野が、顔をしかめながら、首を振る。

「ふうん・・・ま、あいつは経験ないし、しそうもないね。・・・・目、つぶって・・・・ただ、感じてて。」

牧野の瞳が、迷うように揺れる。

「牧野・・・。俺のこと、嫌い・・?」

指を中で動かしながら、俺は牧野の耳朶を甘く噛む。

「嫌・・いなんか・・じゃ・・あっ、あんっ、や、だめ・・。」

俺は指を強めながら、さらに卑怯な質問をする。

「気持ちよくない・・?ホントにやめてほしい・・?」

牧野が恥ずかしそうに、両手で顔を隠した。
そんな牧野が愛しくて、俺はその手の甲にそっとキスを落とす。
その間にも、牧野の中からは、透明な蜜が、次々とあふれ出している。
俺は、意地悪な質問はそこまでにして、後は下の彼女に訊くことにした。

クリトリスは、ぷくんと膨れて赤みを増していた。
そこを唇ではさみ、舌をちろちろと絡める。
舌をとがらせて刺激するたびに、牧野の腰が跳ねる。
俺は逃がさないように、片手でしっかりと牧野の腰を抱くと、指を二本に増やして牧野の中をめがけて強く挿入した。

「あんっ、あんっ、っ・・・!」

牧野は、近くにあったシーツをつかむと、ぎゅっと握り締めた。
湿った音が、牧野の準備が整ったことを告げる。
俺はすばやく避妊具の袋を破くと、自分自身に装着する。

「牧野・・・行くよ。」

俺は牧野の返事を待たずに、その扉を貫いた。
十分に潤っていたのに、経験が浅いせいか、そこは狭くてなかなか奥へと進めない。

「牧野・・・力、抜いて。・・・・・ゆっくり行くから、俺と呼吸を合わせて・・。」

小さくうなずいた牧野と俺は、視線を絡ませながら一つになった。
つながったまま、俺は牧野を抱きしめる。
暖かな牧野の中を、じっくりと感じる。・・・・・牧野の中に、いるんだな、俺・・。

「牧野・・・・。」

俺は、つむぐべき言葉を、見つけられない。
好きだ、とか、愛してる、とか、誰にももう渡さない、とか・・・。
そんな言葉じゃ、今の俺を表せない。
どんなに牧野を愛しいと思ってるか、自分だけのものにしたいと思ってるのか。
俺は自分の心の内を全て込めて、牧野にキスした。
そして片手を牧野の背中に回し、片手で自分の身体を支えながら、牧野に自分を打ちつけ始めた。

唇を合わせたままつながっているせいで、牧野が苦しげに吐息を漏らす。
俺は顔を離すと、両手で腰を抱えてもっと激しく動き出した。
解き放たれた牧野の口から、甘い嬌声が聞こえだす。

「ううん、あんっ、あっ、あっ、あーっ、ん・・やああっ・・」

打ち付けるたびに聞こえる声に、俺はますます高ぶっていく。
俺は牧野の片足を持ち上げると肩に担ぎ上げ、開脚させる形で腰をグラインドする。

「あっ・・・花沢類っ、あたし、もう・・・」

牧野の両手が何かを求めるようにさまよう。
俺はその手をしっかりと握り締めると、最後の高まりに向けて、走り出した。

「牧野・・・・!」
「あああっ!」

牧野の身体が固まったのと、俺の源に快感が走りぬけたのはほぼ同時だった。

「ふうっ・・・。」

牧野の肩から、力が抜ける。
俺はそっと肩から脚を下ろすと、両手で牧野の頬を包んでそっとキスを落とした。
そのままじっと抱き合っていると、牧野が小さな声でつぶやいた。

「花沢類・・・後悔、してない・・?あたし、このこと今夜だけのことって、忘れた方がいいの・・?」

俺はたまらない気持ちで牧野の瞳を覗き込む。

「後悔するくらいなら、初めからこんなことしないよ。・・・・今夜だけ、なんて思ってない。
 ・・・あんたは俺に、忘れて欲しい?」

牧野が両手を伸ばして俺を抱く。
俺はその瞳から答えを見つけられないまま、そっと閉じられた・・・。

「牧野!まーきーのっ!」

目を覚ますと花沢類の部屋で、あたしはベッドに寝かされていた。
部屋を見回すと、花沢類だけじゃなく、西門さんもいる。

あ、あれっ!?
あたし、花沢類と・・・あれれ、ちゃんと着物も着てるし・・やだっ、あれ夢!?

「もう朝の10時だぞ、いいかげん起きろよ。」

西門さんが、あきれたようにつぶやく。

「みんなで飲もうよ〜って牧野が言うから皆に声かけたのに、お前寝たまま起きないし。ま、総二郎しか来てないけど。」
「え?あたし、そんなこと言った?」

花沢類が、肩をすくめる。

「うん。しょうがないから、うちに連れてきた。・・・・はい、水。すっげー飲んでたから、のど渇いたでしょ。」

あたしは受け取ったコップを飲み干しながら考えをめぐらす。
・・・あたし、欲求不満かな、すっごいエッチな夢見ちゃった・・恥ずかしい!

「じゃ、またね。」

俺はアパートの前で牧野を下ろすと、車の中から手を振った。
横に座る総二郎が俺をつつく。

「・・・ったく、この貸しはでかいからな。わざわざ着物の時に手ぇ出すなよ。朝早くから、着付けのために呼びつけやがって。
 言っとくけど、もしばれても司には俺の名前出すなよ。とばっちりはまっぴらだかんな。
 ・・・・・それにしても牧野、多分夢だと思ってるぞ。・・・いいのかよ、それで。」

俺は、大きくためいきをついてから、こう答えた。

「やっぱ、正攻法で口説いてから、やりなおしたいんだ。・・・終わったあともさ、牧野、まだ答え出せてないみたいだったから。」

総二郎は「俺、知ーらねっと。」と言ったまま、黙ってしまった。

窓の外には、一日遅れの初詣に向かう人の波が流れている。
来年は、一緒に牧野と行けるといいな。そう思いながら俺は、目をつぶって寝不足の俺を襲う睡魔に身を任せた。






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