呼び出し
花沢類×牧野つくし


誰もいないオフィスで溜息をつきながら、ネクタイを緩める。大学を卒業し
家業を継いだ俺は 夜遅くまで会社に残る事もしばしばだった。ブラインドを
上げ、愛しい彼女の事を考えながら夜景を楽しむ。
どうしてるかな・・・。 その時、ふいに携帯が鳴った。
見覚えのあるそのナンバーに思わず口元が緩む。・・・牧野だ。

「もしもし・・・」

浮かれた気持ちとは裏腹の冷静な声で電話に出てみる。

「・・・久しぶり。今から?分かった、30分でそっち着くから、待ってて。」

焦る気持ちを抑え、牧野が待つバーへと急いだ。呼び出された原因は大体
察しがつくけどね、いつもの事だから。

「・・・で?何?牧野、また男にフラレれたの?」
「げほっ。または余計っ!あたしだって、好きでフラれてる訳じゃ
ないっての。」
「頼むからさ、男と別れる度に俺を呼び出して愚痴んの止めてよね。
俺が夜弱いの知ってるでしょ」
「そりゃそうなんだけど・・・そう固い事言わずに付き合ってよ。
友達でしょ。」

友達か・・・ グラスの氷を指でくるくる回しながら、唇をとがらせる牧野を
見遣った。

「ぷっ。変な顔」
「ちょっと、花沢類っ!傷心の女に向かって変な顔とは何よ!」
「隣にこんないい男がいるのに、見向きもしない牧野が悪いんじゃないの?」
「・・・・・・・だって・・・・金持ちのお坊ちゃまは、道明寺で懲りたの。
それに、友達だったらずっと付き合って行けるから、花沢類とはこのままの
関係でいたい・・・かも。」

一つ一つ言葉を選びながら話す牧野の言葉に耳を傾けていた俺は、「道明寺」
って名前が牧野の口からサラッと出たのには少し驚いた。
司の事、もうふっ切れたのかな。

「何よ?人の顔じっと見て。」
・・・・今夜の牧野はやけに喧嘩腰だ。
「くくっ。フラレた割には元気じゃん、牧野」
「だーっ!!まだ言うかっ!もうここは花沢類のおごりね。こう見えても
結構落ち込んでるんだから。」

「ふーん。」
「あっ。何よ!人事だと思って。」
「だってヒトゴトだもん。それに俺は牧野が男と別れてよかったと
思ってるし?」
「は〜な〜ざ〜わ〜る〜い〜っ!人の不幸を喜び過ぎだよっ。」

「そんな事より、牧野・・・俺もう眠いかも・・・最近仕事が忙しくて
あんま寝てないし・・・それに、ここの間接照明暗いから・・・・
なんか、もう・・・」
「ぎゃっ!花沢類っ。こんな所で寝ないでよ。と、と、取り敢えず
外に出よ。全く、どこででも寝る癖直ってないんだから・・・」

支払いを済ますと、あたしは花沢類を引きずるようにして店を出た。

「今日はとことん付き合ってもらおうと思ったけど、その様子じゃ
無理みたいだね。」

右手を上げてタクシーを捕まえると、押し込むようにして花沢類を
乗せ運転手さんに行き先を告げた途端、あたしまで引きずり込まれた。

「ちょっと、なにすんのっ!」
「え・・・あんたが家まで送ってくれるんじゃないの?」
「冗談でしょ。あたしはまだ飲み足りないんだからっ」
「ま、いいや・・・着いたら起こして。」

こっちの言い分も聞かずあたしの肩に頭を預けてさっさと寝てしまった花沢類を
少し恨めしく思いながらも仕方なく、花沢邸まで付き合うことにした。
どれくらいの時間が経ったのかはっきりしない意識の中で、花沢類の声が
聞こえたような気がした。

・・・いつの間にか眠っちゃったんだ、あたし。
時計を見るとタクシーに乗ってからまだ5分も経ってないや・・・。
それにしてもさっきの声は幻聴・・・?疲れてんのかな・・・

「・・・きの・・・・・ま・・きの」
「えっ・・・!どうかした?」
「俺・・・気分わる・・・ 吐きそう・・・・」
「えぇぇぇぇっ!大丈夫?家まで我慢できそう?」
「・・・無理・・・限界みた・・・い・・」
「ま、待って。すみません、タクシー止めてください。ここで
降りますっ。」 

「・・・大丈夫? 花沢家の車、呼ぼうか?」
「いい、車に乗るとまた気分悪くなりそうだし。それより、
少し横になりたいんだけど・・・」
「横になりたいって・・・こんな所にそんな場所・・・・」

あった・・・あるにはある・・・タイミングよく目の前に何故だか・・・
インペリアルホテル・・・・。
チラッと横目で花沢類を見る。やっぱり具合悪そう・・・

ええいっ、つくし!女は度胸よっ 別に悪い事するわけじゃ無し
花沢類をこのまま置いて帰る訳にはいかないもん。

ホテルの部屋に入ると、倒れこむようにしてベッドに横たわった
花沢類はすぐに寝息を立て始めた。

「よっぽど、疲れてたんだね。無理に付き合わせてごめんね?」

サラサラの髪を撫でながら呟いた言葉は、花沢類に届いただろうか・・・

さてと、これからどうするかなんだけど・・・
やっぱ、花沢類を一人置いて帰るのは・・マズイよね・・・
あぁ、もうここまで来てグダグダ言っててもしょうがない。
シャワーでも浴びてこよう。

タオルで髪を拭きながら部屋へ戻ると、真っ先に花沢類の寝顔が目に入った。

「ふふっ。ホントによく寝てる・・・。」

花沢類の寝ているベッドに腰掛けて、瞼に掛かった髪を指で掬い上げ
「おやすみ。」と一言声をかけ、隣のベッドに潜り込もうとした瞬間・・・

後ろから抱きしめられたあたしは、何が起こったか直ぐには理解できないで
いた。


「いい匂いだね・・・。」
「はっ、花沢類。目が覚めたの? 具合は・・・」

言いかけた瞬間、唇を掠め取られた。

「んっ、んんっ・・・。ちょっ、ちょっと何すんのっ!?」
「なにって・・・キス。」
「はぁっ!?」
「牧野と、キスしたかったから・・・。いけなかった?」
「したかったからって・・・そう言うのは恋人同士がすることで・・・」
「そう?外国じゃ挨拶代わりなんだし・・・いいじゃん。」

・・・挨拶代わりにあんな深いキスをするなんて話、聞いた事はないんですが?

「でさ、牧野・・・続き、する?」
「つ、続きって何の?」
「キスの。」

何の躊躇もなく即答する花沢類。

「あっ、あはははははは・・・冗談だよね?また、いつものように
あたしの事からかって遊んでるんでしょ?」
「本気。総二郎じゃあるまいし、冗談で女を口説くような真似、
俺がする訳ないじゃん」

「えーっと・・・あっ、そうだ!まだ寝ぼけてるんじゃないの?
で、正常な判断が出来てないとか?」
「目はちゃんと覚めてるし、寝ぼけてもいないよ。」

そ、そんな綺麗な顔で近寄られると困るんですが・・・・
ベッドに座ったまま後ずさりしながら、どうやってこの場を
切り抜けるか必死で考える。

「あたし達、友達だよね?」
「そう思ってんのは、牧野だけでしょ。俺は違うよ」
「あっ、あのあたし胸小さいし、ご期待に添えないと思う。」
「・・・そんなの気にしない。それに、これからいくらでも大きく
出来るし。」

だぁぁぁぁぁっ!そのイヤラシイ手つきはなんなのよっ!

「それにあたし、今日は勝負下着じゃないしっ!花沢類だってそうでしょ?」

って何口走ってんのよあたし。

「プププッ。牧野・・・男は勝負下着なんか穿かないと思うケド・・・?
緊張してんの?牧野。」
「なっ、なんで?」
「よく喋るから。それ、牧野の癖でしょ」

・・・見抜かれてる・・・・

「えーっ、あーっ・・・・」

駄目だ、これ以上花沢類を納得させるような言い訳が思いつかない。

「どしたの?もうネタ切れ?」

にっこりと笑う花沢類。その顔はあたしにしてみれば
どう贔屓目に見たって、悪魔の微笑みだわよ。牧野つくし、激しくピンチ。

色んな考えを巡らせ、やっとの事であたしは最後の答えに辿りついた。
そうだっ!あれだ!あの事を言い訳にすれば、花沢類だって諦めてくれるに
違いない。

そしてあたしは最後の切り札を口にした。






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