あたしの宝物
花沢類×牧野つくし


あたしが道明寺と分かれて花沢類と付合いだしたことは、マスコミにスッパ抜かれ
それはそれは大騒ぎだった。

『魔性の女!? 』とか 『リッチな御曹子ばかりを狙う悪女』とか、そんな報道ばかりだった。

道明寺が高校を卒業しニューヨークに行ってしまってから、あたしがどんな気持ちで日々を過して
きたかなんて、みんな分ってくれないんだ。

パパとママが相変わらず貧乏で、一家を支えるために進が働き始めたのを放っとけなくて
しゃかりきに働いていたわたしが、この先の進路に悩んだこと。
進学が就職か悩んだ末、大学を目指し始めた受験勉強の辛さ。
相変わらずつきまとう報道陣の鵜の目鷹の目の視線。
遠くから聞こえてくる、道明寺の華々しいうわさ話。
寂しい時、悲しい時、好きな人が傍に居てくれない虚しさ。

でも、それを救ってくれたのが花沢類だったんだ。
これでも悩んだ。もがいてもがいてのたうちまわるほど。
だって、花沢類は好きだった人の親友だもの。

あの、嵐の晩。

道明寺から、来月には一時帰国すると、もらった留守録のメッセージを前に、
あたしはどうすればいいのかと、揺れる気持ちを隠しどんな顔して彼に会えばいいのかと
苦しんだ挙げ句、どうしても我慢しきれず手を延ばした携帯電話。
プッシュしたのはやっぱり、花沢類の携帯ナンバーだった。

思い余って電話をかけたものの、携帯を握りしまてまま一言も発せなかったあたし
の元へ駆け付けてれた。
花沢類。

無言のまま彼が走らせる高級車の助手席で、あたしも俯いたまま何も言えなかった。
行き着いた所は、マンションの一室だった。

黙ってあたしを抱き上げる花沢類の顔が、いつになく冴々していたのを今でも憶えている。
窓から差込む月明かりに照らされ、恐いくらいだった。

大きなベッドに優しく横たわされ、あたしはただ、ぶるぶると震えていた。
すると、耳もとで、真綿のような花沢類の声がする。

「牧野……怖がらないで」

そんなこと言われても、身体も心も怯えが作る深い縁の底にいるのだもの。
閉じた瞼の隙間からは、我慢仕切れず涙さえもあふれてしまう。

「牧野……泣かないで……泣かないで……」

花沢類は囁きながら、あたしが流す涙の跡を唇でたどり、滴る雫を全て吸い取ってくれた。
彼の仕種が、優しい温もりが、彼の柔らかい唇からあたしの肌を伝わって、悲しくて、それでも幸せで、
心が壊れてしまいそうだった。

そっと瞼を持ち上げて、うっすらと目を開けた。
あたしの視界を占領したのは、息が触れるほど近くにある花沢類の顔。
照明も何も灯っていない部屋の中、彼そのものが唯一のあたしの心の暗がりを
照らしてくれる明かり。

「……花沢類……愛してるよ……」

そう呟いたあたしの唇は類の口付けに封鎖され、息すら限られて。

一枚一枚、優しく服を剥ぎ取られ、生まれたままの姿を初めて男性の視線にさらした。
寒くなくても身体が震え、両手が無意識に身体を隠そうとした。
けれど、そんな行動も花沢類に遮られる。

「愛してる……なんて言葉じゃ足りないほど、あんたのこと愛してる」

花沢類の熱がこもった言葉を最後に私の記憶は、濁流の中に消えていった。

口内をうごめく、舌の動きに翻弄され、胸の頂きを繊細な指で揉みしだかれ生暖かい唇に含められ。
彼のだ液で濡れた赤い乳首が、どこからか吹込む風にさらされ、それさえ快感に変えていく。身体の統べてを花沢類の唇と手に侵略され、征服され。
やがて、女の部分を貫かれ、あたしの口元からあたしの物じゃない嬌声が弾き出され、部屋の天井に木霊した。

愛を交わした瞬間が過ぎ、あたしと彼の視線が絡まった。
両手で頬を包まれて、至近距離で見つめられ、経験したばかりの行為の激しさが
蘇り、あたしは頬を赤くしながら。

もう一度深い、キスをあたしに贈り、花沢類が微笑んだ。
いつも見慣れているけれど、今晩は初めての、あたしの大好きな笑顔で。

この笑顔。
この笑顔が好きだった。
ずっと、ずっと昔から。

これがあたしの宝物。

あの晩、そう心に誓ったんだ。
だから、あたしは、大丈夫。

道明寺へ別れを告げた時の、あの身を引き裂かれるような胸の痛みも。
口さがない人たちの、中傷も誹謗も。

何があっても、何が起ころうと。

この微笑みがあれば、花沢類がいつもあたしに笑いかけてくれるなら、
いつでも耐えていける。どんなことがあっても乗り越えていける。と。

ゴシップ記事が書かれた週刊紙をテーブルにそっと置き、ついと顔を上げれば
隣に佇んでいた花沢類がそっとあたしを抱きしめてくれた。






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