花沢類×牧野つくし
![]() 「はっ夢か・・・」 目が覚めて飛び込んできたのはオフホワイトの天井だった。 頭の先から足の先まで硬直した体・・・ 何かに縋る様に力一杯握り締めた指を徐々に緩めるとベッドに起き上がった。 なにも身にまとっていない素肌に感じる生暖かな風が不快に感じる。 暗闇の部屋で時計のカチカチと時を刻む音が平静さを取り戻させてくれた。 ふと落とした視線はシーツに残る2ヶ所の変色したシワの跡だった。 どれくらいの力で握られていたのかを知らせてくれた。 体の力は抜けても固いままの下半身・・・ 「はぁ〜あんな夢みたのに・・・」 ベッドに導かれるように体の力を抜いて倒れこむと柔らかなマットが体を包んだ。 「んんんっ」 ヤバイ起こしたかな? 体ごと左に向けるとベッドの端で俺に背を向けて眠っている彼女が むにゃむにゃと寝言を言いながらベッドの端で寝返りを繰り返している。 そーっとそーっと起こさないように牧野に近づく・・・ 無邪気な顔で寝息をたてている牧野の体を引き寄せると生肌の暖かさにホッとした。 深い眠りに落ちて力が抜けている体はされるがままに俺の腕の中に納まった 「また・・・っか」 ベッドの上で溜息交じりの言葉を吐き捨てた・・・ 喉の奥が乾いて唾を飲み込む度に喉仏の辺りに違和感を感じる 静寂が広がる寝室で時計の規則正しい秒針の音が妙に耳に残り 全てが不愉快に感じる 不快を少しでも解消させたくて気だるい体を起こしサイドテーブルに置かれた 飲みかけのペットボトルに手を伸ばした・・・ キャップを乱暴に外し口をつけると一気に流し込んだ 生暖かな水が喉をさらさらと流れて一瞬潤ってはまたすぐ乾き始める。 最後の一滴まで飲み干したものの喉は潤わなかった・・・ ペットボトルをゴミ箱に投げ入れると冴えた頭に浮かぶのは先ほど見た夢だった・・・ 繰り返し見る悪夢・・・ 夢を見てこんなに辛くなった事はない 夢をみても目覚めと同時に忘れたり、覚えていても断片的だったり・・・ 夢なんてだいたい都合よく俺の心を幸せにしてくれるものが大半だった。 そんな夢でさえ半日もすれば夢を見たことさえ忘れるのに今回は何かに とり憑かれたように忘れる事さえ許してくれない 同じ景色に同じ行為・・・ 牧野がまだ制服を着てて隣には当たり前のように司がいて 司が牧野を抱き寄せると鮮やかな景色が一変して暗闇の世界に呑み込まれる 真っ暗な部屋に一筋の明かりが何処からか指し込み 照らされた先には男の本能を駆り立てるような目に鮮やかな真っ赤なシーツが印象的な ベッドに目を奪われる ベッドの脇で光に導かれるように2人がみつめ合いベッドにもつれ込む 真っ赤なシーツに牧野の白い肌が際立ち、本能のままに司が愛撫を繰り返す まるで巨大スクリーンで映画でも見ているような錯覚を引き起こし 食い入るように2人のセックスをただ観ている・・・ 牧野の唇から熱い吐息混じりに「愛してる」と囁かれると決まって 俺の頬を一滴の涙が伝って落ちる・・・ その涙が床に落ちると俺を包んでいた暗闇に稲妻が走り強烈な光が四方八方に亀裂を作る まるでパズルが崩れ落ちるみたいに見ていた光景が崩れて あまりの眩しさに顔を背けると俺の足元が一気に崩れ落ちるんだ・・・ そしてベッドの上で目覚める・・・・ 悪夢を見るのは決まって司と牧野が顔を合わせた時。 司が帰国して仲間内で集まって以来見るようになった。 顔を合わせればあの頃のままでケンカ口調でじゃれて総二郎が冷やかす 変わったのは牧野が司の隣じゃなくて俺の隣に居るってこと・・・ 眠る事が大好きな俺もこんな夢ばかりみてたら眠る事も正直辛くなってきた。 気がつけばため息を何度もついていた・・・ ベッドに横になった俺はオフホワイトの天井をみつめあらぬ事を考えていた 牧野と付き合ってから夢のような毎日を送ってる。 牧野から想いを告げられた夜、信じられなくて・・・ 夢なんじゃないないかって疑った・・・ 牧野と初めて一つになった夜 眠るのがもったいなくて夢なんじゃないかって・・・ 朝、目覚めたら隣に牧野が居ないんじゃないかって怖くなった・・・ 牧野が隣に居てくれる毎日が夢のようで・・・ 幸せ過ぎて怖い・・・ だってこれより幸せを知らないんだ・・・ もしも牧野が隣に居なくなったら? 初恋はほろ苦く心に大きな傷を残した あんたがあの日浜辺に来なかったら俺は今もあのどん底から 抜け出せてなかったかもしれない 俺の傷を癒してくれたのは他の誰でもないあんただから・・・ じゃ・・・あんたが俺の前からいなくなったらどうやって傷を治せばいい? 考えるだけで怖い・・・・ だって幸せの後に来るのは不幸でしょ? また独りに戻るのが怖い・・・ 夢のおかげで行き場のない感情が溢れ出した・・・ 腕に残る鈍い痛みに幸せを感じる・・・ 存在をも忘れて感傷に浸っていた俺は左腕にあったはずの重みがない事に 気がつき左方向に寝返りをうった・・・ こんなに大きなベッドなのに寝てても牧野の性格が良く現れてるんだ。 腕の中で眠りについても寝てる時くらいゆっくりすればいいのに いつの間にかベッドの端で俺を待ってるみたいにこちらを向いて眠っている。 けして寝相が悪いとかじゃなくて寝返りを繰り返して端で止まる それを追いかけるように牧野の体に寄り添って眠るのがほとんど・・・ 今もシーツを掻き分けて牧野の傍まで体を移動させた。 寝顔を見るのが結構好き・・・ 無防備で飾り気のない寝顔は俺の宝物なんだ 頬にかかる乱れた髪を指でそっと耳にかける 頬に指が触れる度一瞬ぴくっと反応して眉が動く 牧野の寝顔をみてたらさっきまでの感情が沈下してゆく・・・ 眠る牧野の腕を伸ばして腕枕をしてもらう 細い腕に頭を乗せると心臓の音が心を落ちつかせてくれる 重みが加わるとむにゃむにゃと寝言のような言葉にならない声を出しながら 俺の頭を抱きこむ・・・ ちょっと苦しいけど結構幸せ・・・ 牧野はどんな夢みてるのかな? 俺は夢の中でも牧野の隣にいる? ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |