成長
道明寺司×花沢類×牧野つくし


部屋のインターホンが不意に鳴ったのはつくしが類の胸に体を預け、ゆっくりとくつろいでいる時だった。ルームサービスを頼んだ覚えもない。怪訝な顔をしながら体を起こしたつくしを類がそっと手で押し止める。そのままちらりと腕の時計を見やり

「時間、ピッタリだな・・・」

そう一言つぶやくと何の躊躇もなくドアへ向かって歩き出す。

どういうこと・・・?

つくしが考えていると間もなく戻ってきた類の姿が目に入る。その後ろにもうひとりの男の存在をみとめ、そしてその男が誰であるかを悟るとつくしはさっと顔色を変えた。

「どうして・・・」

反射的にソファから体を起こし、少し捲れ気味だったスカートの裾を直す。
そんなつくしの姿を少しはなれたところにいる類がおかしくてたまらない様子で見つめている。

司はいつもより緊張した面持ちでその場に立っている。しかし先週逢ったときのようなやるせない表情はもう見当たらなかった。

類に知られてしまった・・・?

つくしは道明寺に目でそう問い掛けた。
道明寺の口が何かいいたげに開こうとしたまさにその時類の静かな声がそれをさえぎった。

「あせらなくていいよ、牧野」

水を浴びせられたというのはまさにこういう状態をいうのだろう。
つくしは自分たちの・・・道明寺との関係が類に知られてしまったことをその一言から察した。
いつかはこんな日が来るとは思ってた・・・・

「あ、あの、花沢類、あたしっ・・・・」

言い訳するつもりはなかった。こうなったのはすべてあたしのせい。
あたしが類とつきあいながらも道明寺のことを忘れられないからこんなことになってしまった。

「牧野」

あたしの言葉は不意に道明寺の声にさえぎられる。

「だって、道明寺・・・・」
「いいから黙って聞け」

道明寺の口から聞かされた言葉は思っても見ないことだった。

類が怒ってはいないって・・・まさか・・・そんなことありえない。

「俺たちさ、幼稚舎の頃、くまのぬいぐるみをめぐって大喧嘩したことあるんだ」

ね?とでもいうように類が後ろにいる道明寺に向かって笑いかける。

「ああ・・・類のオヤジさんのイギリス土産がどうしても欲しくってな、」

人と争うことなんて絶対にしそうにない類が喧嘩した、という珍しい話にあたしはいつのまにか聞き入ってしまっていた。しかもその原因がぬいぐるみっていうんだから笑わせるじゃない。

「無理矢理司が引っ張るもんだから結局・・・・」

ふたりで顔を見合わせ笑い出す。

「どうしたのよ、ねえっ」

つくしが続きをせかして聞き出そうとする。
手がちぎれて無残な姿になったテディベアのあわれな顛末を聞きながら、どうしてこんな話を今この修羅場になりそうな場面で花沢類は言い出したのだろうかとふとつくしは考えた。

「だから、もうそんな失敗はしたくないって思ったんだ」
「俺も類も成長しただろ」

はあ・・・どういうことよ。

こいつらの思考ってまったく理解できない。
整理しきれていない頭を抱えて、つくしは二人の顔を交互に見つめていた。

「な…なによ。どういうことなの?」






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