F4
「俺らって、いつまでこんなんなんだよ!!」 青筋を立てて俺の目の前にいるのは、俺らF4のリーダー、“寸止めの帝王”道明寺司。 そしてここにいるのは、世の女性たちを魅了して止まない天下のF4、花沢類、西門総二郎、そして俺、美作あきら。 司が青筋を立てているのはなぜか? それは司がすべてを投げ捨ててでも惜しくないほど愛すこの世でたった一人の女、パンピー代表・牧野つくしと、未だにその一線を越えられないから。 童貞の司と、鉄パンツを大事にはいている牧野。 そのチャンスがこれまでなかったわけではない。 でも、なぜかその一線は越えられずにいるお子ちゃまなこの二人。 NYで修業をしているはずの司が、なぜか緊急帰国し、牧野に会わずにこうやって俺らを集めたのは、ひとえに牧野との儀式を滞りなく迎えるためのアドバイスを俺らに求めるため・・・なんだろう。 プライドがエベレストよりも高い司が、素直にそんなことを言うわけがない。 愚痴りたいだけだって言ったところで、童貞の司が、百戦錬磨の俺ら(類に関しては疑問だが)にその手の話を聞きたいことなんて、長年の付き合いで理解できる。 やっぱりここは、お兄さんたちの出番ですか〜 「牧野の心の準備を待ってたら、おまえら棺おけの中でもできねーぞ」と総二郎。 「いや、あいつの心の準備はできてんよ」 「マジで?」 思わず俺は言葉をもらす。 「卒業式の前に俺んちのコテージにあいつを連れてったんだ」 そこで二人はヤル気マンマンだったらしい。 でも熱を出してしまった牧野にそれ以上できなくって寸止めをくらったらしい。 パリでも、その気マンマンだった二人だったけど、司はすぐにパリを発たなくてはならなくてまたもお預け。 ほんとに呪われたやつらだ。 その後も、何度か牧野をNYに呼び出していた司。 そのたびに、かーちゃんから突然の出張を命じられたり、ねーちゃんが牧野を酔っ払わせてしまったり、牧野がアレになったりで本懐を遂げることができないとしょぼくれる司。 こうなると、さすがに同情するしかない。 「こうやって俺らに会うよりも、牧野に会いに行けばいいだろ」 総二郎、そりゃもっともだ。 もっと言ってやれ。 「今夜はあいつ、徹夜でレポート書かなくちゃなんねーってぬかしやがってよ…」 やっぱそんな理由があったのかよ(呆)。 ただ俺らにアドバイスを求めに来ただけじゃなかったわけだ。 「………結婚しちゃえば?」 寝てたと思った類が間の抜けた声で言う。 「結婚して、NY連れてっちゃえばいいじゃん」 「でもよ…、約束まではまだ…」 「じゃ、俺が牧野と学生結婚しちゃおっかな」 「んだとっ!!!」 「「司っ!!」」 類…。 わざわざ野獣を怒らすなよ…。 「だってさ、今、牧野の一番近くにいるのって俺だよ? 司よりチャンスあるじゃん」 「てめ…」 「司、落ち着け、まだ類が手ぇ出したわけじゃねーだろ」 総二郎があわてて司をなだめる。 でも…。 類ほどじゃないが、俺だって司よりも牧野の側にいる。 俺にだってチャンスがあるはずだ。 「司、わりーけど、俺にだってチャンスあるよな?」 「んだと、あきら」 「司がこのまんまなら、俺が牧野をもらうぜ」 「あきら、おまえまで何言ってんだよ」 「俺は牧野が好きだ。司にも類にも負けねーくらいにな」 「「「………」」」 3人とも絶句している。 そりゃそうだ。 俺は誰にも明かしたことがない気持ちを、初めて言ったんだから。 「帰る」 司がさっさと店を出て行った。 たぶんこのまま牧野のアパートに向かったんだろう。 そして二人はきっと…。 今夜こそ…。 とっととやっちまえ。 そうすりゃ、俺のこの想いも風化できんだろ。 「あきら、マジか?」 いつもはポーカーフェイスの総二郎が、心配げに声をかけてきた。 「さぁ、どうかな」 俺は精一杯の虚勢を張った。 「あきらの気持ちなんて、知ってたよ」 類が飄々と言ってのけた。 コイツにはほんと嘘がつけねーな。 「牧野は、司以外の男なんて受け付けないよ」 類がそう言うんだからそうなんだろう。 類じゃなくてもそれはわかる。 結局は、俺たちは司の背中を押してやったってことなんだな。 悔しいけどよ。 二日後。 NYに戻る司を見送りに道明寺家のエアポートにやって来た。 そこには牧野もいて、司とぎゃあぎゃあ言い合っていた。 でも二人の雰囲気はこれまでと違っていた。 互いを見つめる瞳が、艶っぽさを含んでいたから…。 もう俺の出る幕じゃないんだな。 これが失恋ってやつなのかもしれない。 初めて感じる胸の痛みを感じながら、俺はじっと二人を見つめていた。 SS一覧に戻る メインページに戻る |