素直になろう(非エロ)
番外編


日曜日の昼下がり、あたしと未央ちゃんは、連れ立って駅前の喫茶店に入った。
席に着いて、店員さんにコーヒーを2つ頼んでからすぐに、未央ちゃんから話を切り出してくれた。

「それで、相談したいことって何かな。理花ちゃん」

未央ちゃんが、弾むような笑みを浮かべて尋ねてくる。
同性から見ても綺麗な顔だちに、思わずドキリとしてしまう。

「ごめんな。未央ちゃん。わざわざ、貴重なオフの日に呼び出してもうてん」
「ううん。いいよ。理花ちゃんの為なら一肌でも、二肌でも脱いじゃうから」

ちょびっと舌を出しながら、上機嫌な様子で返してくれる。
未央ちゃんは美人さんなのに、とても人なつこくて、ものすご話しやすいひとや。
プライヴェート藍の撮影の時も、スタッフの皆に好かれていたし。

「もしかして、いや、もしかしなくても、収くんのことでしょ」
「いや、ううん、そうなんやけど」

彼の名前が出た途端に、ゆでたこのように赤くなってしまう。

「もしかして、上手くいっていないの?」

俯いてしまったあたしを気遣うように、未央ちゃんは心配げに声をかけてくれた。

「ちゃ、ちゃうねん。そんなことなくて、その、あの」
「どうしたの?」

未央ちゃんが、微かに首を傾げた。

「あの、あのな?」

あ、あかん。
何をしゃべろうとしているか、分からんようになってきてしもた。
落ちつけ、落ちつくんや、あたし!

すーはーすーはー
何度も深呼吸してから、ようやく言葉を続ける。

「実はな、うまくいっているから、新たな問題がでてきたんや」

「えっ!?」

首を傾げたままの未央ちゃんに、あたしは羞恥心という大きな塊を、吐き出すようにして言った。

「あんな、未央ちゃんは、一哉くんとキスしたん?」
「うん。……あ、いや、今の無しっ!」

慌てて否定したけれどもう遅いで。未央ちゃん。

「理花ちゃーん。いきなりそんなこと訊くなんて酷いよお」

机にぐてーと倒れ伏したまま、未央ちゃんは恨みがましそうな視線をこちらに投げかけてくる。

「ホンマ、ごめん」

慌てて手を合わせて謝ると、未央ちゃんは苦笑交じりの表情をみせて、大きく溜息をついた。

「ま、今さら隠しても仕方なんだけれどね」

ひとまずにしても話に区切りついた時に、店員さんがコーヒーを運んできた。

「話の続きをお願いできるかな?」

カップに入ったコーヒーを半分程空けた時、未央ちゃんが仕切り直しをしてくれた。

「あの、あのな。やっぱ、男の人ってキスとかしたがるもんなんやろか?」

目の前にいるのは未央ちゃんやのに、何故か、収くんを前にしているような気がして、ひどく落ち着かない。

「あたし、そーゆーの経験あらへんから、めっちゃ恥ずかしいねん。ほんでも収くんは、
人前でもキスするのも平気やし、何度かされそうになったこともあるんやけど」

「うん」

未央ちゃんが頷いたことを確認してから、話を続ける。

「そやけど、あたし、とても恥ずかしくなってしもうて、身体を引き離してしまうんや。最初の時なんか、
収くんを噴水に突き落としてもうたりして、どうしてもうまくいかへん」

「なるほど」

相槌を打ってくれた未央ちゃんの顔を一瞬だけ見て、顔を伏せる。

「やっぱ。こんなガキっぽい子やと、あきれてまうやろな」

暫くの間、黙っていた未央ちゃんが、少し真剣そうな表情で尋ねてくる。

「ねえ。理花ちゃん」
「な、なに?」
「理花ちゃんは、収くんとキスするのは嫌?」
「そ、そんなことあらへん」

立ち上がりかけながら、叫ぶように言ってしまう。
めっちゃ恥ずかしいけれど、やっぱ、収くんとキスをしてみたいと思う。

「好きな人と、キスをするのは別に悪いことではないと思うの。お互いに触れ合うということは
愛情を確かめるという意味もあるしね」

「そ、そやな」
「それに、収くんって無理じいはしないでしょ」
「う、うん」

収くんは時々、キスしようするけれど、あたしが抗うとあっさりとひいてくれる。

「あたしが言うのも何なんだけれど、収くんは優しすぎるほど優しいひとだから。
理花ちゃんが嫌がることはしないはずだよ」

未央ちゃんは過去を懐かしむような表情をみせた。

「そう、そやな」

未央ちゃんは、以前、収くんと付き合っていたことがあったから、よく知っているんや。
収くんのことでは、世話になりっぱなしやけれど、少しだけ嫉妬してしまうな。

あたしの心情を知るはずもないけれど、未央ちゃんはとても優しそうな表情を浮かべて続ける。

「ねえ。理花ちゃん。少しだけ自分の鎧を脱いでみるのもわるくないんじゃないかな?」

彼女の言葉によって、確かにあたしの背中は強く押された。

「そやな……あたし、勇気をだしてみるわ」

不思議とキスをすることへの不安は薄れて、代わりに期待のようなものが膨らんでくる。

「ホンマ、おおきにな。未央ちゃん」
「がんばってね。理佳ちゃん」

あたしは、未央ちゃんにお礼を言ってから、残ったコーヒーを一気に飲み干した。

収くん。明日のデートの時は、今までのあたしと一味違うから覚悟しといて、な。






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