ぶちょおのウワサ(非エロ)
高野誠一×雨宮蛍


「ええっ! あの人って上司と不倫してるのっ?!」

お昼に久しぶりに外で集まったホタルの同期。
女性が多く集まると必ず噂話に花が咲くのが定番であり、
今日はある恋愛話で盛り上がっていた。

「そうらしいのよぉ…あんなオヤジとよ」
「えぇ〜〜。私だったらヤダ」
「私も! 同じ会社に若くてイイ男がいるのに、何でわざわざアレとよ」

噂話を目の前で聞いていたホタルは
思いがけない衝撃事実にただ目を丸くするばかりであった。

「ホタルはどう?」
「ぇえ?」
「あのオヤジと付き合える?」

ホタルはぼんやりと考える。

 オヤジ…って確かあの人37歳だったよね。
 高野ぶちょって確かこんど39歳だったはず。
 私、もっとオヤジと一緒にいるんだよぉ〜。
 何て答えればいいんだろっ???
 いいや、適当にっ

「いやぁ〜………だいじょうぶ? じゃない?」
「ええっ?!! ホタルオッケーなのっ?!あれだよ?暑苦しいうえに
バーコード頭の○○部長だよっ?」
「…え? 年齢のことじゃないの?」
「年齢もそうだけど、見た目もよ。あと上司ってとこ」
「上司?」

噂話を始めた女性が、ため息をつきながらホタルに説明を始めた。

「だって、恋人が直属の上司ってことは、
仕事はやりにくいし好きな人に嫌な所も全部みられるのよ。
プライベートとは絶対に分けたいじゃない!!」


 ぶちょおは、私の直属の上司で少し離れてるけど隣の机で、
 仕事もプレイベートも全部見られてるし。
 年齢もひとまわり以上ちがうし。
 やっぱり私とぶちょーって釣り合わないのかな。
 どうしよう、何だか不安になってきた…。


「…ホタル?」

思いつめたホタルを不思議そうに覗き込む同期の女性達。
でも、その空気を吹き飛ばすように1人の女性が言った。

「でも、ホタルのとこの部長は別格よね♪」

「えっ?!」

ホタルが驚いて顔をあげると
話し始めた女性がうっとりと空を見つめる。

「あ! 高野部長でしょ!!」
「そうそう、アノ! 高野部長♪」
「あーー、あの人だったら、こっちからお願い〜♪ よね!!」
「仕事出来るし、エリートだし、スーツの趣味もバッチリだし、
クールだけど話がわかって尊敬されてるし、39歳っていうのが
不思議なくらい若く見える」
「なんて言ったってあの癒されるスマートな顔立ち!」
「あれがホントの二枚目って言うのよねぇ…」
「ひと回りくらい年が離れてるけどそれがまた包容力を感じられていいよね〜」
「高野部長との秘密の恋なんて、くぅ〜!! 考えただけで燃えるわぁ♪」
「そんな上司の下に異動したホタルが羨ましい〜!! だって残業で残ってる時に
あの顔で突然抱きしめられちゃったら、もう落ちるしかないじゃない!!」
「あんなに近くにいて、叱られて優しくされたら好きにならないわけがないしね」
「私、不倫でもイイ♪ 一度でいいから夜の生活をお願いしたい♪」
「私は高野部長の髪に手を差し入れて、あのクールな顔を淫らに壊してみたい〜!」

さっきまでの話の流れと変わり高野の話題で盛り上がり続けている同期たちに、
呆然としていたホタルだったがようやく発した言葉が
「…え? さっきまで年齢とか上司とかダメとか言ってたよね?」
という弱々しい声。

「ホタル…さっきも言ったけど『高野部長は』別格なのよ」

迫力に圧されるホタルに更なる圧力。

「ねぇっ!! ホタル!」
「…えっ? な、なに?」
「たしか、高野部長って美人の奥さんと離婚したって聞いたんだけど」
「そうなの? ホントに? ホタル?」

「…そ、そうみたいだよ」

「ラッキー♪ 私、今度アタックしよっかなぁ〜」
「あんた、彼氏いるでしょうがっ! じゃあ私も♪」
「ずーるーいー! 私もぉ!!」

 い、言えない…絶対に言えない!! 一緒に暮らしてるなんて。
 しかも料理やら洗濯やら掃除やらやってもらってるなんてバレたら、
 絶対にこいつらに殺される…。


「こないだ新しい服買ったんだ〜あれで飲みに誘っちゃおうかなぁ〜
高野部長…相談があるんです♪ って」
「絶対、高野部長はワインとか好きな女性が好きそうよね」
「そうそう。クールな男は、オシャレな女がお似合い!!」

「ホタル〜!! 今度、そっちにお昼遊びに行ってもいい?」

 ◇ ◇ ◇

「あーめーみーやー!!!」

縁側でまったりと過ごしていたホタルの頭の上から
突然、怒った声が響く。
ホタルは予想していたことに咄嗟に新聞をかぶって
隙間から高野を見たがすぐに新聞を取り上げられていた。

「キミは、キミの同期に何を言ったんだっ!!」
「ご、ごめんにゃさいっ〜!!」
「謝る前に、何て言ったのか教えなさいっ!」
「…部長は…離婚したけど、二ツ木さんとすごぉ〜く怪しいくらい
仲がいいって…」
「アホ宮ぁっっっーーー!!!」
「ごめんなさい〜〜だってぇー…」
「だって?!」

大声を出しすぎてぜいぜいと息をする高野に
神妙な面持ちで話し始めるホタル。

「……取られちゃうと思って……」

「取られる?」

「だって、だって! みんな高野部長は別格だって言うんですよ?」
「は? 別格?」
「私! あの人たちにバレたら、殺されますっ!!きっとバレた翌日には
東京湾にジャージとビールと抱き枕ごと浮かんでますっ!」


全く意味がわからず不審そうにホタルを見る高野だったが
真剣な瞳で自分を見つめるホタルにふぅ〜とため息をついた。

「と・に・か・くっ! 変な噂は否定しとけ!!」
「…わかりました」
「まったく! 私に近づいてくる女性なんていないんだから、
これ以上、私がモテなくなったらアホ宮のせいだからな!」
「うー…うー…うー…」
「何だよ、何か言いたいことがあるのか?」
「……ぶ、ぶちょおのバカ〜〜! エロジジイ〜!! オシリぷぅ〜っだっ!!」
「…キサマぁ…言いたいことはそれだけか? それだけなのかっ?!」

意外と鈍感な高野にホタルは行き場の無い怒りを発した結果、
思いっきりホッペタをつねられ、取っ組み合いのケンカに発展する二人。

ケンカという名のじゃれ合いが甘い時間になるのは…。
またあとのハナシ。






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