この先の生活のこと
高野誠一×雨宮蛍


「ホタル、そろそろ出るわよ」
「はいっ」

コンペを勝ち抜き、大きなプロジェクトに参加することになって、ホタルと山田は早速
先方と打ち合わせをすることになった。無事に打ち合わせも終わり、ちょうどお昼の時
間帯ということもあったので、二人で昼食を取ることになった。お互い忙しく、会社で
話す機会も減った上に最近はなかなかプライベートで会う機会がなかったので、二人で
話すのは久しぶりだった。

「お疲れさま」
「無事に進められそうで良かったです」
「かなり大きなプロジェクトだし、ホタルにもバリバリ頑張ってもらうわよ」
「もちろんです」

仕事の話はそこそこにお互いの近況を話す。山田は新居購入を進めていたり、産休を
取った場合の仕事の引き継ぎのことなどこの先のことをしっかり考えているようだっ
た。

「ホタルは最近どう?」
「私は情けないくらい相変わらずです」

ホタルは今の生活に精一杯でこの先の生活のことを真剣に考える余裕などない自分に
改めて気づかされる。きっと自分と違い、誠一はきちんと先のことまで考えているん
だろうと思うと、自分も真剣に考えた上できちんと話し合わなくてはな…と思った。

それから数日後、休日に二人で買い物に出掛けた。ホタルは先日の山田との話を思い
出し、ついつい道行く小さい子供がいる家族連れに目がいってしまう。ふと、隣を見
ると、小さな兄弟が戯れてるのを見て、誠一が優しい表情になっている。誠一はずっ
と子供が苦手だと思っていたが違うのか?子供のことやこの先のことを聞いてみたい
とホタルは思った。

帰宅していつものように二人で縁側でビールを飲んでいる時、ホタルは話しを切り出
してみることにした。

「ねぇ、ぶちょお?」
「何?」
「…やっぱりいいです」
「言いかけてやめるな。気になる」
「変なこと聞くけど、怒らない?」
「内容による」
「じゃ、止めときます」

変な沈黙が出来たが、先に誠一が口を開いた。

「怒らないから、話していいよ」
「ではお言葉に甘えて。あの…えと…」
「何?」
「ぶちょおは子供欲しい?」
「!!!!!」

驚きのあまり、誠一は飲んでいたビールを吹き出してむせてしまった。

「ごっ、ごめんなさい。変なこと聞いて。聞かなかったことにしてくださいっ!」
「いや、全然変じゃないよ。いきなりでびっくりしただけ」
「すいません」
「何かあった?」

ホタルは山田と話したこと、その後自分もいろいろ考えたことを誠一に一通り説明した。

「私は、結婚したのに、子供のことなんて真剣に考えたことありませんでた」
「君らしいね」
「でも、いざ考えてみたら自分のことに精一杯で余裕ないし、母親になんてなれるの
かなぁって不安になりました」
「そっか」
「自分のことすらきちんと出来ていないのに、子供が子供産んでどうする!って思っ
ちゃいました」
「確かに全国のお母さん方が心配するだろうな」
「でも」
「でも?」
「そうなれたら幸せだなぁって」
「……」
「美男と美女の子供だから絶対にかわいいですからねっ!」
「はっ?美女?どこ?」
「ひどい!ここにいるじゃないですかっ!」
「で、それはつまりホタルは子供が欲しいってこと?」
「自分が母親になるなんて考えたことなかったし、想像もつかないんです。でも…」
「でも?」
「そうなれたら幸せだなぁって。なりたいなぁって思いました」
「そっか」
「ぶちょおは?」
「欲しいよ。二人くらい」
「二人?」
「ほら、俺兄弟いないからさ。兄弟いる人がいつも羨ましかったんだよね。だから自
分の子供は寂しくないようにってさ」
「私は、おやつを独り占めできる一人っ子が羨ましかったですよ」
「君らしいね」
「すいません」
「俺もいい年だし、のんびり構えてもいられないからずっと考えてたよ」
「ぼんやりしてたのは私だけってことですね」
「でも、山田の話を聞いてきちんと考えたんだろ?」
「はい」
「子供なんてめんどくしゃい…にならなくてよかったよ。ちょっとホッとした」
「干物女ですけど…やっぱり大好きな人の子供は欲しいですよ」

暫く沈黙の後、誠一はホタルを抱きしめ、優しくキスをした。 そして、そのままそ
の場に押し倒した。

「ぶちょお?」
「何?」
「あの…ここで?」
「嫌?」
「嫌じゃないけど」

はっきり否定をされなかったことで満足したのか誠一は再び優しくキスをした。

「あ、あのっ、ぶちょお!」
「今度は何?!」
「せ…せめて明かり消して下さい!」
「……止ーめた」
「えっ?」
「無理しなくていいよ」

優しい口調でそう言って、ホタルから離れると誠一はどこかに行ってしまった。その
場に残されたホタルはやり場のない想いががこみあけて来て、泣きそうな気分になる。
起き上がって自身の部屋に行こうとしたけれど、動けなくてその場に座っていると、
誠一が戻って来た。

「ホタル…泣いてる?」
「ムードのない女ですいません…」
「謝るのはこっちだよ。嫌なことして、ごめんな」
「嫌じゃないんです!でも…」
「でも?」
「恥ずかしくて…」
「君を落ち込ませたことにかわりはないよ」
「……」
「君がこういうこと得意じゃないのは十分理解してるつもりなのに…ごめん」
「大丈夫ですよ」
「血気盛んな若者でもあるまいし、自分のことながら情けないよ。ごめんな」
「あの…」
「何?」
「ぶちょおのお部屋でならいいですよっ!」
「え?」
「えっ、あの、いや、その」

何言ってるんだろう?!誘うようなことを言ってしまった!とホタルは恥ずかしくな
り、誠一の顔がまともに見れない。

「じゃ、行こう」

ずっと俯いているホタルの手を強く引き、誠一は自身の部屋に向かった。そして部屋
に入った瞬間…ベッドに押し倒した。

「きょ、今日はぶちょおに猛獣到来ですか?!」
「君のせいだよ」
「な、なんでっ」
「だって誘うんだもん」
「そっ、そんなことありません!」
「ここでならいいんでしょ?」
「そっ、それは、なんか、その、勢いで…」
「嫌?」
「嫌じゃないですけど…あっ!でも!でも!」
「明かり?」
「はい」

パチンと明かりが消され、窓から入る月明かりだけが部屋の中を照らす。

「じゃあ、俺からも一つお願い」
「はい」
「こういう時にぶちょおはなし!」
「はい…ぶ」
「貴様!」

そのまま唇をふさぐ。何度もキスをし、舌を絡め合う。何度肌を重ねても、ホタルか
ら恥じらいが消えることはなく、全く慣れないが、この瞬間に全身が溶けてしまいそ
うな感覚に陥り、誠一に全てを委ねたくなる。

「…もっと…」
「何?」
「そんなの恥ずかしくて言えません」
「そんなムードのない子には何にもしません」
「……意地悪……」
「ウソだよ」

その後、甘い甘い時間の中でホタルは何度も意識が飛びかけた。誠一もまた昂ってい
るのがわかるともっともっと欲しくなる。ホタルからも何度もキスをした。

「今日は積極的だね」
「誠一さんのせいですよっ!」
「じゃあ、色っぽいホタルさんをもっと堪能させてもらうとするか」

それから、さらに濃密な時間が流れた。

「あっ…んっ…激…し」
「ごめん…優しく…出来ない」

どのくらいの時間、そうしていたかわからないくらい互いを求め合った。そして知ら
ない間に深い眠りについて、気がついたら朝だった。

翌朝、珍しくホタルは誠一より早く目が覚めたが、離れ難くて、ずっと寝顔を見てい
た。

「おはようございます」
「早いね」
「滅多に見れないぶちょおの寝顔を独り占めです」
「夢見てた」
「どんな夢?」
「俺とホタルと小さい子供がこの家にいて」
「そっ、それは私とぶちょおの子供ですかっ?」
「たぶん。でさホタルとその子が取っ組み合いの喧嘩してて、俺が笑いながら止めて
るの」
「真剣に止めてくださいよ!」
「だって喧嘩しながら二人で言い合いしてるだけど、子供の方が言ってることが大人
だったんだもん。可笑しくて」
「ひどい!」
「ホタルの精神年齢いくつだよ…と思ったところで目が覚めた」
「がっくし。ぶちょおの夢の中でも私はそんなんなんですね」
「子供の方が精神年齢が上かもな」
「ひどすぎます」
「…でも、そんな日が早く来るといいな」
「子供は欲しいですけど、そんなのは嫌です!」
「はいはい」

二人でも幸せだけどいつか子供が産まれて家族で暮らせたらもっと幸せだろうとホタ
ルは思う。但し、誠一の夢の通りにはなるまい!そう心に誓ったのだった。






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