したたかなあおいのお話
有栖川あおい


最近りんこの様子がおかしい、と気づいたのはどちらが先だったか。
ぽーっと外を見つめていたかと思えばいきなり赤面して机に突っ伏して足をじたばたさせたり、いつもはあんなにうるさかった七瀬晃とのけんかもぴたりと止んだ。
数日前まではお腹を押さえて苦しそうにしていたので月に一度のアレかと思っていたのだが、何日経ってもどうにも様子がおかしいということで心配した朝岡みなみと有栖川あおいは親友の紅玉りんこに屋上のテラスに呼び出した。

「りんこ、あんた最近変だよ?どうしたのさ」
「りんこさん、具合でもお悪いのですか?」

彼女らのパートナーであるガーネットとサフィーも同様にりんこに心配をしているのだという旨を口々に伝えた。
当のりんこは一瞬きょとんと目を瞬かせたがその後ゆでだこのように顔を赤らめ、俯いた。

「な、なんでもないよっ」
「そのお顔はなんにもないというようなお顔ではありませんわ」
「もしかして、りんこさあ、あの七瀬晃となにかあったの?最近けんかしなくなったし」

みなみが何気なくそう言った瞬間、その場の空気が変わった。

「ななななななな、ち、ちがっちがうったら!別にあいつとはなんにもっ…!」

りんこの過剰な反応に皆はそれが図星であったことに気づき、みなみにいたってはひじでりんこをつつきながらにじりよって詳細を聞き出そうとした。
りんこは始めは頑なになんでもない、とかぶりを振っていたがやがて根負けしたのかみなみとあおいだけになら、とジュエルペットたちを追い払って(これには大変苦労した)から口を開いた。

「………という、わけなの」
「「ええっ!?」」
「やだっ!声が大きいよっ!!」

告げられたことに驚いて思わず大声を出した2人を慌てて真っ赤な顔をしたりんこが制した。

りんこのそれが伝染したように同じく真っ赤な顔をしたみなみがほう、と息をつく。

「あんなに奥手でメルヘンな夢ばっかり見ていたりんこがねえ…もう初体験を済ませるなんて。そして相手がよりによってあの七瀬…驚いたよ。けんかするほど仲がいいとは言うけど、もうそんなに進んでいたとはね…」
「私もいきなりまさかそんなことになるとは思わなかったよ…どうしていいかわからなくてわたわたしている間になんか、流されちゃって……」
「でも、まあ、したってことは好きなんだよね?」
「…多分。す、少なくともあいつは私のことす、すす好きって、言ったよぉ?」

思い出し照れで更に顔を赤らめて曖昧に微笑むりんこの背中をやや勢いをなくしたみなみがそれでもきゃーきゃーと声を発しながらばしばしと叩いている。

その様子を見つめながら、先ほどから黙ったままのあおいは微かな危機感を感じていた。
りんこの幸せ(当人は未だ混乱しているようではあったが)を喜ばしいことと思う一方、自分と桜木ナオトのことを思うと心が沈んだ。

あれから毎日のように電話でその日の出来事を伝え合い、時たま公園などで直接会ったりするうちにお互いのことを多少なりともわかりあえてきたように思える。
半ば無理矢理押しかけた形ではあるがナオトの部屋に招かれたことも一度や二度ではない。

しかし、なにもないのだ。
本当になにも。

あおいは自分の好意を熱心にナオトに伝えているつもりだし、それにナオトもまんざらでもないような態度をとっている。

このままじゃ、いけませんわ―――みなみとりんこのじゃれあいをよそに、あおいはあることを実行にうつすことを決めた。






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