第六部 ストーンオーシャン
[4] 「……なんかさ、DIO、最近ずっと、此処にいない?」 渋面をつくりながら、徐倫は図々しくも我が物顔で徐倫に膝枕をさせ、その 上で本を読む男に向かってそう言った。ちなみに徐倫が今日身に着けているの は黒レースのベビードールだ。蝶をイメージしているらしく、胸のところから ひらひらと羽根のように分かれている。何時もの事だが、『隠す』という機能 は、皆無だ。 「おや、嫌だったかな?徐倫。君が余りにもよがるものだから、てっきり 常に居て欲しいと思ったのだけどな」 言い、するりと大腿部を撫でて来る。感覚をなるべく無視しながら、前にも 言ったけど!と、徐倫は叫ぶ。 「あたしは、無闇やたらとベタベタするのは嫌いなんだってば!それに! あたしをよがらせてるのはDIO、アンタじゃないッ!」 おや?そうだったかなァ?と、いかにも白々しい様子で身を寄せてくる。 身をずらす。腕を掴まれ、押し倒される。バサン!とDIOの読んでいた分厚 い本が、ベッドから落ちる。 「……今日はもう、やらないわよ」 唸りながら、徐倫は言う。 「おや?それは昨日の話じゃあないか?」 「冗ッ談!!此処が常に暗いからって、時間の感覚無いと思ってるでしょ? 残念!蝋燭溶け具合で分かるわよッ!何回やれば気が済むのよッ!最近、 多すぎだわッ!!セックスで死ぬなんて末代までの恥よッ!!飛んでるわッ!!」 「腹上死は男の浪漫だと、どこかの本で読んだが?」 「捨てなさいよッ、そんな本!なんてもの読んでいるのッ!」 「君を悦ばせる為には必要な知識だと思うのだがな。まぁ、何年経とうとヒ トは余り変わらないという事を認識させられるがね」 さらに紡ごうとした徐倫の言葉を、唇を合わせ、封じる。ちゅばちゅばと互 いの舌を合わせる。何時の頃からか、徐倫も舌を重ねてくれるようになってく れた。素晴らしい進歩だと、ほくそ笑む。 指を動かしやわやわと胸を揉む。数時間前に散々弄ってやったせいか、秘所 に手を伸ばすと既にじっとり濡れている。本当に、感じ易い好い身体だ。 ……最も、そのようにしたのだが。 指で濡れた中を弄ってやる。無意識でか、媚びるように、腰を動かす。指摘 してやると羞恥で顔を染める。其処が良い。身体は完全にDIOに馴染み、触れて 吐息を掛けてやるだけで濡れて来るというのに、精神は中々落ちない。あっさ りと屈する他の牝犬と違ってそういう所が面白い。 脚を強引に開き、秘所を舌で弄る。徐倫は柔らかい、懐かしい匂いがする。 ジョースターの持つ血だからなのかは分からない。ただ、好い香りだと思う。 これは初めて徐倫のスタンド、ストーン・フリーを羽交い絞めにした時に思っ た事だが、普通、スタンドから香りなんてしないものだ。 なのに、徐倫のスタンドは石鹸の香りがする。柔らかくて、懐かしくて、初 めて嗅いだとき、それが何の香りか気づくのに大分時間が掛かった。 ぺしゃ、べしゃ……と、わざとらしく音を立てて、秘所を舌で弄る。徐倫の 呼吸が荒い。瞼が辛そうに伏せられる。昂ぶりに近づいていることを見抜くと、 すっと、離れて、横になった。 徐倫は、え?と虚につかれる。 「べたべたするのは嫌なんだろう?離れてやったよ。空条徐倫」 そんな、と短い声が洩れる。その呟きに、口角を上げて耳元で囁く。下身を 曝け出し、仰向けのまま、徐倫の手を、自分のものに触れさせる。 「……欲しいんだろう?自分で、挿れてご覧……」 「――ッツ!!?」 目が、零れ落ちんばかりに見開かれた。くつり、と笑って、ベビードールの 上から頂を撫ぜる。乳首が、ぴんと立っていた。 「じょ、冗談じゃないわッ!誰が、誰がそんなッ!!」 「おや、そうかい?じゃあ、勝手にするのだな。言っておくが、自分じゃ あ、イけないと思うがね?」 言うと、泣きそうな顔で睨まれた。耳までも赤い。 「――『おねだり』でも、良いが?『入れてください、DIO様』と言って ご覧、徐倫――」 くつくつと笑いながら、耳元で囁く。ついでに耳たぶを舐め、ぴん!と乳 首を弾いてやる。ふるっ、と徐倫が身を、震わす。 い……。と、小さい声が、響いた。ンン?聞こえないなぁ〜と、耳を寄せ る。 「い、いれ……」 「もぉッと、大きな声でェ〜!!」 「――――!言えるかッ!このッ!ド変態ッツ!!!!」 ストーン・フリーで、思いっきり殴りかかる。それをあっさりとザ・ワール ドで掴まれる。本体も掴まれ、圧し掛かられる。 「やれやれ、結局こうなるのだな。一度、騎上位というのを徐倫とやってみ たかったのだが……」 「妙な希望持つなッ!!そして結局ヤろうとするんなッ!!」 「しかし放っておくのは辛いだろう。君を想ってのことだよ、空条徐倫」 「そんな、アンタが、勝手に……アんッ!ぁ、あ、あァんッ!!」 ……実際、と思う。人並み以上に甘え癖でもあるのか、慣れると過剰なまで にスキンシップを求めてくる。だが、それにしても、此処最近は入り浸りであ る。今までは食事とセックス時のみ居たのに、段々読書までするようになって 来た。そして、暇があれば戯れてくる。世界中に手下が居るらしいが、こんな コトでこいつの組織は大丈夫なのかと、見当違いでも心配になる。 自分が部下なら、こんな上司はお断りだ。 ある日、それをそれとなく尋ねてみた所、「優秀な息子がいるから大丈夫だ」 という返事だった。 「徐倫、君は逢ったことが無いと思うがな……多分、息子たちの中で、一番 私の血を引いている子だろう」 薔薇の浮かんだ浴室でそう答えられ、へぇ、と応じた。広い円形の浴槽に、 お互いが浸かっている。断じて、仲良く一緒に浸かっているのではない。徐倫 が入っている所に入って来て、一緒に浸かる羽目になったのだ。早く出てって くれ!と祈りながら、平静を装って言葉を続ける。とにかくこの男の相手を するには平常心が大切だ!と学んでいた。 「……そう、じゃあ、時々でも顔を見せてやった方が良いんじゃないの?」 「何だ、妬いているのか?」 ンなわけねーだろォ!!と内心、盛大にツッコミを入れる。言葉は抑える。 刺激したら、絶対この場で犯される。 「一般的な話よ。構って貰って嫌がる子どもは居ないってコト。……あたし は上がるわ。じゃあね」 「まぁ、待て、徐倫」 裸を見られるのは何時もの事だと、腹をくくって浴槽から出る。……と、次 の瞬間、DIOの腕の中だった。薔薇の、風呂に、浸かった状態で。 こ い つ 最 悪 だ 。 わざわざ時間を止めてこんなことしやがった! 『世界』をこんな事に使うなよ。スタンドに感情があったら絶対スタンドは 泣いてるぞと、頭がくらくらした。しかし父の記憶を探ると、わざわざ相手を 驚かす為に、時を止めて登った階段を降ろすなんて芸当もしていたりする。も う、何ていうか子どものやることだ。 「折角一緒に浸かったのだ。もう少し二人で楽しもうじゃないか……」 「アンタが勝手に入ってきたんでしょ!?」 何のことだ?とすっとぼけて首筋にくちづける。ひゃう!と首を反らせ る。指を入れられ、ひゃ、ぁ!と身震いした。 「ゃ、ぁっ!お湯が、ぁ……!!」 「湯?湯が?どうしたんだい徐倫?」 縋り付きながらの言葉に、DIOはくつくつ笑う。こいつ最悪だ。中が、気持ち 悪い。湯気も加えて頭がくらくらする。早く、上がりたい。 溢れ出そうな涙を堪えて、スン、と鼻をすすると、湯の中のまま、身を貫か れた。水中ではやはりやり難いのか、貫いたまま、徐倫の身体を持ち上げる。 湯から出て、背を浴室の床に置かれた瞬間に、ずぶりと深く、挿さる。 こいつ最悪だ。そして最低だ。 「んぁ!ゃアッ!もッ!あたま、が、くら、くら、するぅ!」 それは良かったと、くつくつ笑い声が響く。薔薇の香りがする。薔薇と、石 鹸の香りが、混じってる。ぐち、ぐち、ぐちゃぐちゃ。惚ける。逞しい背に縋 る。きゅと、爪を、立てる。本当にもう、この男から何度目かと数えるのも嫌 な程もたらされた絶頂に、身を、弾ました。 [5] 徐倫、君は良い香りがすると、ベッドの上に腰掛け、向かい合って繋がった 格好で、DIOは言った。今日も今日とて、散々貫かれた後で、そう。と短く徐 倫は応え、DIOの胸に頭を寄せる。互いの呼吸が、ひとつになっている。 話があるのだが、と、彼は言った。 「徐倫、永遠の若さに興味は無いか?永久の美しさを、欲しいとは思わな いか?」 そう、徐倫の頭を撫ぜながら、DIOは囁く。言葉に緩慢として、徐倫が顔を 上げる。 「それって、吸血鬼にならないかって事?DIOの血を貰って?」 そうだ。と、徐倫の言葉にDIOは頷く。永久の時を、永遠の若さでもって、生 きられるのだ、と。 「そう、それは魅力的ね。でも、ダメよ」 「何ッ!?」 「あたしは人間なの。もう、随分と日の下には出ていないけれど、あんたに 囚われた状態だけど、それでも、人間なの。これだけは、譲れないわ」 「……このDIOと共に生きることを、拒むと言うのか……」 アンタこそ何を言っているの、と、徐倫はDIOの言葉に苦笑する。 「あたしを吸血鬼にして、どうするって言うの?そうしたら、あたしの血 はDIO、アンタの血になってしまう。今までみたいに血を吸うことなんて、出 来なくなるわ。それがどういう事を意味するのか、分かっているの?」 白い、細い指で、徐倫はDIOの紅い唇を、そっと、撫ぜた。 「分かっているの?それとも、分かっていて言っているの?吸血鬼にな ってもジョースターの血を吸えるとでも?吸血鬼になっても、子を成せると でも?他の女達と、あたしは違うと、そう言っているの?」 こてん、と、徐倫は自分の頭をDIOの胸に預けた。 「あたしは死ぬわ。いつか、きっと。でも、それで良いって、思わない? DIO、あんたは、あたしに、あんたと同じ土台に立って欲しいって、そう思 っているの?あんたと同じように、太陽を恐れ、人の血を喰らう。永遠の時 を生きる。そうなって欲しいと?一体ぜんたい、『何のため』に?」 私は、と、掠れる声がした。DIOと、娘の小さな声がした。 「あたしは、以前ほど、あんたのことは嫌いじゃない。でもそれでも、譲れ ないモノっていうのは、やっぱりあんのよ。 あたしは人間よ。これはけして、譲れないの……」 どさりと音を立て、徐倫の身を押し倒す。細い娘の首筋に手をやる。DIOの手 に比べ、娘の首は実にか細い。少し力をいれれば、あっさりと絶命するだろう。 ぐ、と、ほんの僅かに力を入れる。徐倫はどこか諦観したような柔らかな、し かし芯のある眼差しで微笑みながら、DIOの眼を見つめ返す。娘の身に、震えは 無い。沈黙が、落ちた。 ゆっくりと、手をどける。ずるり、と分身を引き抜く。ベッドから身を起こ し、興が冷めた、と立ち上がる。そう、と、徐倫は答える。 「覚えておけ、徐倫。貴様は私の譲歩を蹴ったのだ」 背を向けながらのDIOの言葉に、そう。と短く、徐倫は応えた。この瞬間、お 互い『何か』を手放したことに、言わないまでも、互いが互い、勘付いた。 [6] 今日は私の友人を紹介しようと思う。とDIOが言った。ふいに開いた扉に、 何時もの如く淫らな衣装を恥じ、さっとDIOの方を向かい、開いた扉に背を向 ける。 「誰が入ってくるか分からない『扉』の方に背中を向けるとは……随分、堕 ちたものだな、空条徐倫……」 忘れもしない声に、徐倫は耳を疑った。 「プッチッ!!」 叫び、スタンドを出現させ、『糸』を伸ばし手錠として、互いの手を繋ぎ止 める。 神父は表情も変えず、以前と比べると随分とセクシーな衣装だな。と揶揄す る。黙りな!と恫喝する。 「オメーには聞きたいことが山ほどある……だが、何よりもまずッ!何故 お前が此処にいるッ!?お前が生み出したあのスタンドは、『緑の赤子』か ら生まれた筈だ!そして、あの赤子はDIO自身でもあった筈!つまりッ! この、『DIO』がいる世界と、お前とは同一の空間には居れない筈だ!」 当然の疑問だな。と、プッチは言った。以前と変わらぬ、あの、大胆不敵な 表情で。 「世界とは何十もの糸が結び合い、織られている布だと考えた事は無いか? 君と逢って、幸運にも私はそれを確認出来た。私とDIO、ジョースターの血族。 DIOの息子達と君達、そして、君とDIO。 人と人との出逢いが運命であり、それが『引力』であり、『糸』と喩えられ るのならば、丁度メビウスの環を造るようにッ!定めた所で『引力』を安定 化させれば良い!そこで『世界』は完成するッツ! ……君が居なくては、思いつかない考えだったよ」 喩えて言うのならば、と、プッチは言った。 「君等の『行動』は『糸』だった。そして『緑の赤子』は『織り機』だった。 私は『糸』を集め、『世界』と言う名の『反物』を織った……そう言えば、分か るかね? ああ、ちなみに、君のご両親と仲間たちは、『反物』から抜かせて貰ったよ。 こちらとしては、『反物』を創る為に必要な、ジョースターという『糸』は一 人分あれば、それで良かったからね」 ふざけるなと叫ぼうとした。声が詰まった。ふいに、孤独感が胸を圧した。 徐倫、と声がした。すっと、背後から抱き締められた。 「可哀想に徐倫……君は、独りきりになってしまったね……でも、心配する ことは無い。この『世界』では、私達はもう、争う必要など、無いのだから… …」 そう、囁かれ首筋に顔を埋められる。甘い感覚と、絶望感から力が抜けるの を、どうにか堪える。背後からDIOに抱き締められたまま、神父を睨んだ。 「必要ないですって?父さんが?エルメェスや、皆が……?あたしは ッ!プッチ!!あんたにとって都合の良い『世界』なんて許せないわッ!」 「君が憤るのも分からなくはない。だが、眼前の木が切り倒されたの嘆くあ まり、周りの山々の美しさに気づかない事と同じだ」 「誰がッツ!誰が『この山の形が良い』って決めたのよ!?頼んだのよ! アンタじゃない!?アンタが望む、アンタの形にしただけじゃないッ!!」 「落ち着け、徐倫……。落ち着くんだ……」 すっと、背後から抱き締めていたDIOが、徐倫の顎を引き寄せ、緩急をつけて、 くちづけた。離した後に、唾液がこぼれた。アンタも、と、徐倫は呟く。 「知っていて、黙っていたのね……」 「知ったところでどうする?プッチを倒すとでも言うつもりか?私は彼 を守るぞ。この『世界』なくては、私は生きられないのでね……。 それに、私はこの『世界』気に入っている」 きっつと、顔を上げた。金髪の男の、鳶色の目が見えた。 「大嫌いよ、DIO、アンタなんか」 睨みつけながら、そう告げると、男は口の端を吊り上げて、それで良い、と 笑った。 [7] 三人分の重みに、ベッドが唸りを上げていた。君も来ると良いと、まるで食 事にでも誘うようかの気軽さで、DIOはベッドにプッチを誘った。後学のためだ。 良いだろう?後ろに挿れる分は、数のうちに入らないさ。そう語って。 徐倫は抵抗したものの、あっさりと膝を屈した。舌を噛むなよ、君が死んだ ところで、何も『世界』は変わらない。ジョースターが潰えても良いのなら、 承太郎が残したものを、全てふいにしたいのなら、話は別だが。そう囁いて、 くちづけて、自分のもので徐倫の花を貫きながら、手を伸ばし、上に乗った徐 倫の菊座を広げて、プッチを誘った。 プッチの手が触れた瞬間に、徐倫はびくりと振り返ろうとし、DIOはその顎 を掴んで強引に自分の方を向かせて深く深くくちづけた。全体重を乗せて、プ ッチが徐倫の菊座を割って行った時、徐倫は眼を大きく開き、真っ白い、青ざ めた顔でDIOの身に縋り付いてくるので、DIOは頭を、撫ぜてやった。 そして、二人は、徐倫を嬲った。 前と、後ろとを男達に揺すられて、徐倫は息も絶え絶えに喘いでいた。汗が 迸る。ふるふると、自分の目の上で承太郎の愛娘が嬲られ、乳房を揺らせてい る。 この上も無い愉悦に、唇が自然と歪む。 ――と、そこで、ぽたり、と、DIOの頬に、何かが落ちた。さらさらとした冷 たい感触に娘の顔を眺めると、娘は、はらはらと、眼を閉じる事無く、ただ、 静かにDIOを見つめながら、透明な涙を零していた。表情には、怒りも、悲しみ も、愉悦も、そこからは見出せなかった。 敢えて言うならば、恋慕だろうか、憐れみだろうか、……諦観だろうか。切 々とした眼差しから、澄んだ雫は零れ落ち、下で貫くDIOを濡らす。ふと、徐 倫もDIOが自分を見ていることに気づくと、互いの視線が混じりあった。そう してすっと、腕を伸ばして、がくがくと乱暴に身体を揺すられる中、耳元で、 「DIO……」 と囁き、その紅い唇に、初めて自分の方から、くちづけた。 顔が歪むのが、自分でも分かった。菊座を貫いているプッチが訝るほどさら に激しく、DIOは徐倫を貫いた。窒息させんばかりに自分の胸に徐倫の顔を抱 き寄せた。見せたくなかった。何故かは分からない。分からないが、この娘の この顔を、誰にも見せたくないと、そう思った。だから、そうした。 娘はきっと、泣いているのだろう。引き寄せた胸元から、ぱたぱた、ぱたぱ た、と冷たい雫が触れるのをDIOは感じた。 吸血鬼となって以来、最早DIOから出る事は無い、ものだった。 | | | 君はその娘を随分と気に入っているようだね、とプッチは言った。最高のワ インを提供してくれる娘だからな。と、DIOは返し、自分の膝の上で横になって いる娘の頬を、そっと撫ぜた。 自分は裸体であるのに対し、娘の身体には、まるで「見るな」とでも言わん ばかりに、シーツを被せていた。 「私は、幾ら上等のワインを提供する娘とは言え、君の宿敵の娘だ。側で飼 うことは賛成出来ないね。 『飼う』にしても、せめて『肉の芽』なりなんなりを、植えつけるべきだ。 いつかその娘は、君を裏切るぞ」 フン!と、友の言葉にDIOは嗤った。 「この娘が承太郎のように、時を止めて来るとでも?君は前々から思って いたが、実に警戒心が強いな、プッチ。まぁ、そこが君の良い所でもあるのだ ろうが……。 それに、『裏切る』という言葉は、信用している相手に用いるものだ。この DIOが、こんな小娘風情に心を許すとでも言っているのか?」 「少なくとも、徐倫は随分と君に懐いているように、思ったがね」 「濡れ場を見てそう思ったのなら、プッチ、女なんてものは皆、こんなもの だ。どこの牝犬も交尾の時は腰を振るものさ」 利用すると言うのなら……と、一呼吸置いて、神父は言った。 「徐倫は君の息子……ああ、ジョルノ君と言ったか?あの子にでもくれて やるべきだ。君が他の女達にしているように、手下として徐倫に子を孕ませる よりも、ジョルノ君にやらせるべきだ。彼は歳を取ることに対し、君は不老だ。 直接君があちこちに種を蒔かずとも、優秀なものを育て、世代を越えて血が薄 まったところで補ってやれば良い。 私はそっちの方が効率的だと思うがね」 「『アレ』は、頼りになるが、油断はならん。恐らく、息子達の中でも一番 私の血が濃いのだろう……息子らの中でも、最も寝首を掻いて来るのは恐らく 『アレ』だ。 この部屋の事を、アイツには言うなよ。知ったら、確実にアイツは食いつい てくる」 DIO……と、プッチは呼んだ。聞きたいことがある、と。 「どうして今日は、わざわざ私を呼びつけたんだ?まさか、徐倫を抱かせ るためだけ、じゃあ無いだろう?」 別に、と彼は答えた。何てことは無いさ、と。 「ただ、この娘がどう思うかなと思っただけだ。それだけさ。くだらない事 だ。面倒をかけて済まなかったな、プッチ」 君は……と、言い掛けた言葉を、神父は飲み込んだ。そうして、役に立てた ならそれで良い、と告げ、部屋を後にする。 地上へと登る階段の側で、足元に一匹の蜘蛛がいることに気が付いた。もう 大分弱っているのか、酷く動きが緩慢だった。ふと、この蜘蛛の事を考えた。 これだけ弱っていれば、放っておいてもいずれ死ぬだろう。だとすればいっそ のこと、今、殺してやった方が幸いでは無いかと思った。だが、それと同時に、 蜘蛛の心は蜘蛛にあり、生きるも死ぬも、その幸いは蜘蛛が決めるだろうと思 った。そこまで思って、”誰が”という、娘の叫びが脳裏に響いた。 ”誰がッツ!誰が『この山の形が良い』って決めたのよ!?頼んだのよ! アンタじゃない!?アンタが望む、アンタの形にしただけじゃないッ!!” 違う、と、掠れた声で、叫んだ。 「私の望む『世界』こそ幸いなんだ!私の選んだモノこそ、人々が争い無 く、不幸も無く、生きていられる『世界』なんだッ!!」 ぐっと、足を上げて、蜘蛛を踏み潰す。弱っていた蜘蛛は音も立てずに、神 父の足元で汚らしい体液を撒き散らして、息絶えた。 ”ただ、この娘がどう思うかなと思っただけだ” 「DIO……それを、『執着』と言うんだ……」 憎憎しげに足裏についた、蜘蛛の体液を拭うと、神父は一人、地上に出た。 | | The End ? | | ・ : W h o C u t C o b W e b ? 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