饗宴(DIO×(マライヤ&ミドラー))
第三部 スターダストクルセイダース


大きな扉の前に、二人の女が立っていた。
一人は珈琲色の肌の女。
フードを目深に被っていても、その艶かしい唇が稀な美貌を想像させるが
何よりも目を引くのはタイトスカートから伸びた見事な脚線美だった。
もう一人は象牙の肌の女。
豊かな胸と腰、口元だけを申し訳程度に薄布で隠した扇情的な格好で
むき出しの手足に装飾品を輝かせ、恥ずかしげもなく立っている。

「DIO様、お召しにより参りました」

二人の美女は主を愉しませるためにこの部屋に呼ばれたのだった。
「入れ」との声に従い、重厚な扉を開けると、室内は外の強い陽射しが嘘のような濃い闇で塗り潰されていた。
その闇の一角にランプの灯が小さく点り、傍らの寝台に寝そべる男の姿を照らした。
大理石の彫像のように均整の取れた身体も、鋭く凍りつく眼差しも二つとないほどの美しさを誇っていたが
それは悪徳と冷酷ゆえの美だった。
彼の魂からにじみ出る邪悪な魅力こそが何よりも彼女らを惹き付け、心酔させていた。

部屋に入るや否や、少女のように浮わついた気分で二人は寝台に上がり、あたしが先に可愛がってもらうのとばかりに競い合う。
マライヤが星型の痣に唇を寄せれば、ミドラーは首の生々しい傷痕を愛しそうに舌でなぞる。
ミドラーが胸板に乳房を押し付ければ、マライヤは早くも腹筋のさらに下に指を忍ばせるといった具合の
男なら誰でも骨抜きにされそうな媚態にも、DIOは唇の端をわずかに吊り上げるだけだった。

マライヤの悪戯な指を止めようとしたミドラーだったが、その手をDIOに捕まえられて軽々と膝の上に抱えられてしまう。
ヴェールの下で頬を染めるミドラーにマライヤは文句を言おうとしたが、
DIOが忍び笑いと共に「おまえも可愛がってやれ」と囁くと、心得たように乳房に手を伸ばして
先端だけを覆う小さな胸当てを剥ぎ取った。
いつも澄ましているミドラーがよがる様は、女であってもなかなか嗜虐心をそそられるのだ。

「あっ、嫌ぁ……」
「嫌ですって? もともと裸みたいな格好なのに気取るんじゃないよ」

口元のヴェールと装飾品だけ残して裸にしてしまうと、早くもぷっくり芯を持った乳首に唇を近づけ、ちゅっと吸い付いた。
かつて余興として主の目の前で二人で絡み合った事もあるので、このような事に抵抗はまるでない。

「あぁっ!」

DIOの手がヴェールの下に入り込み、冷たい指が瑞々しい唇をなぞった。
ミドラーは唇を開いてそれを迎え入れ、男のものに奉仕するように舌を使って愛する。
その反応に気を良くしたDIOは褒美として首筋へ口付けを送った。
豊かな金髪が彼女の耳をくすぐり、耳飾が小さく澄んだ音を立てた。
絶え間ない愛撫にうつむいては仰け反るたびに、ミドラーの白いうなじが情欲に染まる。
DIOはそれに唇で触れてはいたが、牙を食い込ませる事はしなかった。
彼女らが『道具』として価値があるうちは食わないようだったが、ミドラーはDIOに血を吸われる事をこそ望んでいた。
館の中に打ち捨てられた『食料』たちの恍惚とした死に顔を見るたびに、彼女らを羨ましいと思った。
悦びのうちに死ねるばかりでなく、この方の一部となって永遠に生きられるのだから。

「わたしの上で踊ってみせろ」

生殺しのようなもどかしい愛撫からようやく開放されたと思う間もなく、淫猥な命令が下される。
ミドラーは言われるままにDIOの腰をまたぎ、準備の出来た自分の入り口にあてがった。
主の体格に見合うだけのものはほとんど抵抗なく奥まで収まり、その感触に思わず身震いする。
どこも血が通っていないように冷たい主の身体で、ここだけは驚くほど熱い。
それが自分のなかを満たしているだけで、ミドラーは子宮が蕩けてしまうほどの恍惚を覚えた。

「DIO様……DIOさまっ」

たっぷり貪って、主も同じだけ悦ばせようと思っていたのに、生娘のようにたどたどしい腰使いしか出来ない。
いつの間にか深紅のガーターで吊ったストッキングだけになったマライヤが、今度は背後から乳房を揉み上げてきた。
彼女の手に収まらないほど豊満な膨らみは、身動きする度にぽよぽよと弾む。
後がつかえているんだから早くイッてしまいなさい、と乳首をつねられ、ミドラーは一際甲高い声を上げた。
DIOも彼女の細い腰を掴み、下から突き上げてくる。
繋がった腰が振り回されるほど力強い動きに、悦い所を容赦なく刺激されてはたまらず
ミドラーは呆気なく陥落し、主を差し置いて一人で勝手に絶頂を迎えてしまった。
その間中DIOは汗ひとつかかず、息も切らさず、淫らな舞いの一部始終を見上げていた。

「DIO様、前座の踊り娘はもういいでしょう? 次はこのあたしを……」

DIOの上で脱力した肢体を押しのけて交代しようとしたが、その瞬間
ミドラーのスタンド『女教皇』が鋼鉄の手錠と化してマライヤの手首を戒めた。
スタンドを使うなんてどういう了見よ、この―― 、と怒鳴ろうとしたが
間違っても美女が口にすべきではない言葉は出てこなかった。
身体の上にのしかかって来たミドラーがいきなり唇を奪ったからだった。
その意外な巧みさにマライヤが眼を白黒させている間に、ミドラーは見事な脚を大きく開かせて
自分の脚と絡ませ、あらわになった女の部分を重ね合うように腰を落とした。
ちょうど上下の唇でキスをする形になったが、お互いすっかり紅が落ちてしまった上の唇とは違い
下の唇はグロスをつけ過ぎたように淫靡に濡れ光っていた。
先ほど好きにされたお返しだとでも言うように、ミドラーは巧みに腰を使い性器同士を擦り合わせる。

「んんっ……!」
「マライヤ、ここ……どうなの? いいでしょ?」

小さな蕾に似た突起を苛められ、マライヤも思わず声を上げてしまう。
中で感じるのとは違う甘い刺激に悩ましく眉を寄せ、いやいやをするように首を振る。
もっとも、ミドラーにも同じだけの快感が伝わっているのだが――
肌の色も美貌も対照的な二つの汗ばむ身体の間で、互いの乳房が押し付け合って柔らかくつぶれていた。

「ふあぁっ……やめ……どきなさいよっ」
「どくもんですかっ、あんたなんてDIO様のを受け入れたあたしのここで充分よっ、……ぁっ!」
「どかなくていい、そのままでいろ」

喘ぎ混じりに繰り広げられる舌戦に苦笑し、DIOは下になっているマライヤの脚を抱え上げてやる。
二人の腰が浮きそうになり、密着した粘膜が秘めやかな音を立てた。
さっき咥え込んだばかりなのにまた欲しくなり、ミドラーは尻を振ってねだったが
すでにDIOの雄はマライヤのなかに半ば埋没しつつあった。

「あっ、……あ……!!」

両腕を頭上に拘束する手錠が耳障りな音を立てる。
自分とDIOの間のミドラーが邪魔だったが、それでもこの何物にも変えがたい感覚は変わらなかった。
ぐっと奥を突かれ、マライヤが息を詰めたのを察してミドラーはゆっくり腰を前後させた。
敏感な蕾同士が擦れ合い、悶える二人を見下ろしながらDIOは徐々に動きを激しくする。
自分からはほとんど動けず、中と外から好き放題に蹂躙される状況はマライヤをいつになく燃えさせた。

「もう……ゆるしてぇっ……!!」

涙交じりの懇願を「もっとして欲しい」という意味で受け取り、DIOとミドラーはますます攻めの手を激しくした。
二人分の蜜が掻き回されて粘ついた音を立て、より官能を高めていく。
ストッキングに包まれたままの脚が何度も空中を蹴り、二人の女の身体に被さるDIOの背筋がうねる度に
それが跳ねるような動作に変わった。
やがてかすかな悲鳴と共につま先がきゅうっと丸まり、断続的に震えが走る。
ほぼ同時にミドラーも蕾で極めていたが、マライヤがどちらでイッたかは分からなかった。
締め付けに抗わず精を吐き出し、DIOははじめて深く息をついた。
一滴もこぼしてはいけないとマライヤは思い、まだ快感に痺れる下腹に力を入れて入り口を引き締めたが
どうせこの後何度も溢れるほどに注がれてしまうのは分かり切っていた。
蜜と精にまみれた雄を二人は自らの口で清め、忠誠を誓うようにそれに口付けた。

饗宴はまだ始まったばかりだった。


DIOの夜伽を務めた翌朝は、寝室のすぐ横にある浴室で体を洗い流すのが習慣となっており
この日の朝も二人分の衣服ときわどい下着が籠に投げ込まれていた。
広い窓からきつい陽射しが差し込み、濡れた白黒のタイルに反射して眩しいほどだ。
豪奢な浴室の中、真っ白な泡で満たされた猫足のバスタブに浸かる二人の女がいる。
湯の中で互い違いに長い脚を伸ばし、向かい合ってくつろいでいた。
身体が湯に溶け出すような事後の気怠さに身を任せながら、マライヤとミドラーは
昨夜の情事の痕跡を洗い流していた。
ふと、マライヤが傍らのテーブルに手を伸ばし、おもむろに煙草の箱から一本取って火を点けた。
副煙流がバスタブの湯気にまぎれてかき消え、紫煙が心地よく彼女の肺を満たす。

「煙たいわ、こんな所で煙草吸わなくてもいいじゃあない」
「昨夜から吸ってないから……ああ、天国みたい、最高」
「あんたDIO様の前では吸わないのよね、カマトトぶって」
「別のモノは吸ってるけどね」

軽いジャブを交わしながらも、マライヤが美味そうに煙を愉しむ様子が気になったのか
ミドラーは彼女の口元とテーブルの上の煙草をちらちらと交互に見ている。
試してみる? と自分の煙草を咥えさせてやると、案の定ミドラーは煙をまともに吸い込んでしまい
涙目になって咳き込んだ。
してやったり、とマライヤがチェシャ猫のように唇を歪めて笑う。

「……こ、このアマ……! 何してくれてるのよッ!!」
「あらぁ? ゴメンなさいね、子供にはまだ早かったかしら?」

毒づきながらもまだ苦しそうにしているミドラーに、お詫び代わりに口付けると
抗議するように下唇を噛まれ、煙草の味を消そうとするように舌を絡ませてきた。
唇を離した後に見たミドラーの顔は、意外にも怒りではなくきょとんとした表情だった。

「どうかしたの?」
「なんでかしら、マライヤの唇、煙草吸ってるのに苦い味がしないわ」
「……じゃあ、どんな味?」
「どんなって言われても……」

いつもは主を巡る憎らしい恋敵のミドラーだが、不思議そうにしている無防備な姿が
今は妙に可愛らしく思える。
泡に隠れていない上半球から鎖骨、首筋に主が刻んだ印がいくつも散らばっていた。
桜色に上気していてもなお白い肌に残された痕が目を引く。
いくら強く吸い付いても痕が目立たない褐色の肌では、こうはいかない。
憎らしい反面、羨ましく思ってマライヤはその上から口付けた。
昨夜愛された箇所に再び触れるその唇に、ミドラーが生娘のように身を固くする。

「ねえ、まだいけるでしょ?」
「……ほんとに淫乱ね、あんたって」

ミドラーの返事とは裏腹に、彼女の吐息はすでに官能の色を帯びていた。


「マライヤのここ、ふわふわで猫みたいね……」

タオルを敷いた床の上に裸のまま寝そべるマライヤの上で、同じ姿のミドラーが四つん這いになっている。
ちょうど互いの目の前に相手の性器が見える体勢だった。
肌とは対照的な薄い色の茂みを指先で梳き、子猫の背のようなそれに頬擦りする。
白い指先をあてがってそっと左右に開くと、褐色の奥に鮮やかな珊瑚の色が見えた。
先程まで十分に愛撫し合っていたので、そこは自分と同じく熟れて蜜を含んでいた。
ミドラーはためらいなく、甘い汁の滴る果実にでもしゃぶりつくように唇を寄せ
雌芯にキスをしてその肉感的な唇で挟み込んだ。

「あっ、ちょっと……やだっ」

気持ち良いけれど好き勝手にされるのもしゃくなので、どうしてやろうかと考えながら
覗き込んだミドラーの性器は、どちらかと言うと小ぢんまりしていて毛もごく薄く
昨夜あれほど荒淫して、後ろの穴までさんざん使われたのが信じられない慎ましさだった。

「もう少し腰下ろしてちょうだい……」
「……ひぁ、ぁっ!」

いきなり剥き出しの粘膜を舐められて、ミドラーは思わず声を上げた。
マライヤは白桃のような尻を掴み、達者な舌で襞を舐め上げ、ぷっくりした雌芯を弄った。
その舌は猫のものと違ってビロードのような滑らかさで敏感な箇所を這い回る。
技巧でも締まりでも負けていないつもりだが、自分が男だったら直接具合を確かめることも出来るのに、と思いながら
マライヤは昨夜ここを堪能した主の名残りまでも舐め取ろうとした。

「あんたのここ、お上品ぶってるけど淫乱の味がするわ…… んっ、はぁんっ」
「ぁあっ、何よっ、マライヤだって後ろもいじめて欲しそうにしてるくせにっ」

舐め合いながらも言葉の剣を交わす器用さに、二人の技巧の程が窺い知れる。
ふやけるほど舐められて唾液と愛液に蕩けた性器だけでなく、尻の谷間の小さな窄まりも
一度刺激されると疼いてどうしようもなくなった。
前も後ろも太いもので埋めてもらえないのがもどかしくてたまらない。
舌と唇のみの生殺しのような愛撫が、マライヤを余計に燃え上がらせる。
途中で止めたら許さない、とでも言うように張りのある腿でミドラーの頭を挟み込んだ。
朝の光に何もかもを晒して、濡れた二つの肢体が絡み合いながら蠢いている。
二人は主に奉仕するのと同じくらいの熱心さで舌を使い、互いを追い上げていった。
やがてどちらのものとも分からない、喘ぐような悲鳴が一際高く浴室に響いた。
情欲の熱が冷めるまで二人は身を寄せ合って荒い息をついていた。



「……口直しにまた煙草が吸いたくなったわ」

冷たい床に寝そべったまま、いつにも増して気怠そうにつぶやいたマライヤだったが
先にあがるわね、とバスローブを羽織るミドラーの声にはっと我に返った。
起き上がってふと見ると、煙草が箱ごとバスタブの泡に浮いていた。
これでは水浸しになってもう吸えないだろう。
マライヤの罵声はドアに遮られてミドラーには届かなかった。






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